結論:95分を「始まりの一章」と割り切れる人向けの、画で押す第1部(評価★★★☆☆)

ガンダムの宇宙世紀をある程度知っている人なら、見ていい一本です。逆に、ガンダムを一度も見ていない人が、これ一本で物語として満足できるとは思いません。95分の中で起きる出来事は、旅客機のハイジャック、ホテルでの探り合い、そして降下中の迎撃戦まで。三部作の第1部として、問いを立てるところで幕を閉じます。完結した一本の映画としての手応えより、「続きを見る入口」としての役割のほうが大きい作品です。

評価は、5項目の平均と同じ★3つにしました。弱いのは脚本の運びと、初見の人への門の狭さ。強いのは、作り手が狙った「台詞より画で語る」方向を、形にしている点です。

採点の内訳

  • 脚本:★★★☆☆ 事件の連鎖は整うが、動機の掘り下げは次回送り
  • 人物:★★★☆☆ 主人公と二人の関係は立つが、周辺は紹介止まり
  • 独創性:★★★☆☆ 三角関係を軸にした改変点はあるが、構図は既存の延長
  • 狙いの達成度:★★★★☆ 画で見せる方針が、評価の声からも裏づけられる
  • 間口の広さ:★★☆☆☆ シリーズの前提知識がないと、立場の重みが伝わらない

作品情報

  • 日本公開:2021年6月11日(当初は2020年7月23日の予定が、新型コロナの影響で延期された)
  • 監督:村瀬修功 脚本:むとうやすゆき 音楽:澤野弘之
  • 主な出演:小野賢章(ハサウェイ・ノア)、上田麗奈(ギギ・アンダルシア)、諏訪部順一(ケネス・スレッグ)、斉藤壮馬(レーン・エイム)、古谷徹(アムロ・レイ)
  • 上映時間:95分
  • 原作:富野由悠季・矢立肇による小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(1989〜1990年)
  • 興行収入:22.3億円(日本公開作品の2021年の順位は14位)

見る前に知っておきたいこと

  • 三部作の第1部です。第2部『キルケーの魔女』は2026年1月30日に公開されました。この第1部は、続きを前提に作られています
  • 日本語版 Wikipedia によると、映画は『逆襲のシャア』の続編として制作されています。物語の舞台は宇宙世紀0105年です
  • 原作との違いとして、冒頭のハイジャックの場面で、小説の「ベース・ジャバー」の代わりに『機動戦士Ζガンダム』のガプランが使われています。また、小説では青系だったΞガンダムの配色は、映画では白になりました
  • 2026年11月27日には、劇場版『タコピーの原罪 -ありがとう、また明日-』が公開予定です。アニメ版でしずかを演じた上田麗奈は、本作ではギギ・アンダルシアを演じています。この声を確かめたい人にとって、本作は入口になります
  • ガンダムの劇場版を別の時代から見るなら、劇場版ガンダム00の記事も参考になります。こちらは世界観が別なので、予備知識なしで比べられます

最小限のあらすじ

宇宙世紀0105年。地球連邦政府は腐敗し、地球に不法に住む人々を「マン・ハンター」が取り締まっています。反連邦組織マフティーの指導者ハサウェイ・ノアは、植物の観察官を装って地球へ向かいます。その飛行機がハイジャックされ、居合わせた連邦軍大佐ケネス・スレッグとともに犯人を取り押さえます。ギギ・アンダルシアは、ハサウェイの正体に気づいているような素振りを見せます。

※ここから結末に触れます。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 考察|結末の意味と評価できる点

三幕で見る:事件→探り合い→降下戦の組み立て

Wikipedia のあらすじで確かめられる筋を、三幕で切り直してみます。第1幕は、旅客機のハイジャックから、ダバオ市への着陸、ハサウェイの拘束まで。第2幕は、マフティーによるホテル襲撃と、その失敗。第3幕の入口で、輸送船ピサからΞガンダムを受け取ります。その後の熱圏でのペネロペとの迎撃戦が第3幕です。

この三幕の切り方がうまいのは、各幕の終わりに「次の幕で何が壊れるか」が置かれている点です。第1幕の終わりでハサウェイはギギに怪しまれ、第2幕の終わりでケネスに疑われ、第3幕で疑いが実際の戦闘に変わります。疑いの強さを段階的に上げていく組み立ては、95分という短い尺で緊張を切らさないための、筋の通った設計です。

ホテル襲撃は「自分を守るための暴力」として読む

あらすじで最も引っかかるのは、疑いを逸らすためにハサウェイ自身がホテルへの襲撃を指示する場面です。襲撃は失敗し、パイロットのガウマン・ノビルが捕らえられます。私はここを、本作の主人公像が一番はっきり出た箇所だと読みます。理想のために暴力を使う人物が、その暴力を自分の身を守るためにも使ってしまう。しかも結果は失敗で、仲間の一人が人質になる。主人公の判断が組織の足を引っ張るという因果が、事件として形になっています。

この失敗が、第3幕でガウマンの存在が戦闘の焦点になる理由になっているのも、伏線の張り方として整っています。ホテルでの出来事が、降下戦の「人質」という形で回収されるからです。

結末の降下戦:人質と囮、ミサイルの使い方

結末では、熱圏でレーン・エイムの乗るペネロペが、ハサウェイを迎撃します。ハサウェイはガウマンの存在を見抜いて、レーンに訴えかけます。ガウマンは空中でΞガンダムに移されます。そのあとハサウェイは、捨てたライフルでレーンの注意を引き、ミサイルでペネロペに大きな損傷を与えます。レーンは生き残り、ハサウェイたちは支援艦ヴァリアントで離脱します。エンドロールの後には、オエンペリでの流血の紛争の映像が示されます。

ここで注目したいのは、ハサウェイが「話す」ことと「撃つ」ことを、一つの場面で切り替えている点です。人質を解放させる訴えは、レーンの迷いを引き出すためのもの。その迷いに乗じて撃つ。口の達者な人物が口を武器にして、それでも最終的には殺傷に至る。この一続きの流れが、人物の矛盾を戦闘の中で見せる構造になっています。ただし、これが「活劇として気持ちよく決まるか」と「主人公の罪を重く見せるか」のどちらを狙った場面なのか、第1部の時点では判断が分かれます。続きを見る理由として残してある、とも取れる終わり方です。

評価できる点:「画で語る」という作り手の方針

日本語版・英語版の Wikipedia によると、村瀬修功監督は、テレビシリーズより台詞を減らして、映像を重視する方針を取ったとされています。また、全天周モニターをカメラのレンズの特性に合わせて正確に作ったとも書かれています。映画の脚本は、状況を台詞で説明しすぎると画の力が落ちます。その点、本作が説明の量を絞る方向に舵を切ったこと自体は、正しい判断だと考えます。

批評の側でも、画の出来への評価は共通しています。英語版 Wikipedia によれば、Anime News Network のリチャード・アイゼンバイスは評価Bをつけ、質感の美しさを称賛しました。Asian Movie Pulse のパノス・コッツァサニスは、物語・人物・アクションの点で近年のガンダム映画の中でも最良に近いと評しています。また、中央大学のHiroshi Okajima は、上田麗奈が演じたギギを高く評価したと書かれています。

閃光のハサウェイ つまらない・分かりにくいと言われる理由|忖度なしの欠点

圧縮された物語:理由の提示が足りない

最も大きな欠点は、物語の圧縮です。英語版 Wikipedia には、批判として「小説に比べて、人物の描写と筋が圧縮されている」と書かれています。私も同じ方向の弱さを感じます。あらすじに並ぶ出来事は、ハイジャック、ホテル、迎撃と、どれも「今起きていること」の連続です。ハサウェイがなぜマフティーを率いる立場になったのか、という動機の側は、筋の運びの中心に置かれていません。

これは、第2部以降で回収するつもりの構成だ、と読むことはできます。プロデューサーの小形尚弘も、従来の作り方から離れ、第2部・第3部でその是非を確かめる考えを語ったと書かれています。ただ、三部作の第1部として見ても、ここでの動機の提示が薄いために、主人公への感情移入の入口が細くなっているのは確かです。「次で分かる」を前提にした作りは、その次を見ない人には何も残りません。

暗い画面:戦闘の見づらさ

英語版 Wikipedia の「批判される点」には、色調が暗すぎる、というものも挙がっています。戦闘シーンが暗く、モビルスーツの細部が分かりにくい、という声があったとも書かれています。「画で語る」方針を取った作品にとって、画面の暗さで細部が見えにくいのは、方針と矛盾する弱点です。熱圏の戦いが山場である以上、その山場の見えにくさは、他の欠点より痛いと考えます。

初見に冷たい:シリーズ前提の間口

三つ目は間口の狭さです。マン・ハンター、マフティー、連邦軍大佐という立場の重みは、宇宙世紀の歴史を知っているほど伝わります。作中に登場するアムロ・レイについては、日本語版 Wikipedia が「劇場アニメ版にて登場」と書いています。小説にはアムロが直接出ていないので、この登場は、シリーズを知る人へのサービスの意味が大きいと見ます。知らない人には、その重みが伝わりません。第1部の中で、前提知識なしで人物の立場を伝える工夫は、あまり見えません。

評価のずれ:高評価の中でも、私が★3つにとどめる理由

英語版 Wikipedia によれば、中国の動画サイト Bilibili では9.8、豆瓣では当初9.0(のち8.6)、Rotten Tomatoes の観客の支持率は公開4週間後に93%でした。Bilibili 上では、ハイジャック犯のかぼちゃのマスクをきっかけにした「マフティー熱弁」のミームも広がり、ガジェット通信のアニメ流行語大賞2021で金賞を受けたと書かれています。人気は高い作品です。

それでも私が★3つにとどめるのは、人気の多くが画の出来と話題性に支えられていて、物語として閉じていないからです。評価の高さは、画の力への称賛と受け取ります。そのうえで、脚本の完結度は、第2部・第3部を見てから判断すべき項目だと考えます。

この映画を見るべき人・見なくていい人

  • 見るべき人:宇宙世紀のガンダムを知っていて、台詞で説明されない画作りを楽しめる人。続きを見ることが前提の人
  • 見るべき人:『逆襲のシャア』のあとの時代を、新しい世代のスタッフがどう描くかに関心がある人
  • 見なくていい人:ガンダムの前提知識がなく、一本で完結する物語を求める人。まず宇宙世紀の基本を知ってから戻るほうが、立場の重みが伝わります
  • 見なくていい人:戦闘シーンの細部の見やすさを重視する人。暗い画面への批判は、Wikipedia にも挙がっています