結論:数字は日本一、脚本は「本庁が悪役」の一本槍(評価★★★☆☆)

シリーズのファンなら見て損はありません。ただし、初めてこの世界に触れる人に「入口としてどうぞ」と勧める映画ではありません。興行収入173.5億円という数字は、中身の完成度というより、前作から5年待たされたファンの期待と、湾岸署の面々に再会する楽しさが生んだものだと私は読みます。劇薬でも駄作でもない、「好きな人が見る同窓会」として平均点を超える一本です。

採点の内訳

  • 脚本:★★★☆☆ 事件を足すが、軸は対立の図式
  • 人物:★★★☆☆ 沖田が記号的で、対立が薄い
  • 独創性:★★★☆☆ 前作の型を拡大した続編
  • 狙いの達成度:★★★★☆ シリーズの看板を大作に拡張
  • 間口の広さ:★★★☆☆ 関係性を知るほど楽しめる

5項目の平均は3.2で、総合は素直に★3つです。

作品情報

  • 日本公開:2003年7月19日
  • 監督:本広克行 脚本:君塚良一
  • 主な出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、ユースケ・サンタマリア、水野美紀
  • 上映時間:138分(国際戦略版は119分)
  • 興行収入:173.5億円。2003年の国内公開映画で1位
  • 日本アカデミー賞で優秀作品賞を含む多数の賞を受賞

見る前に知っておきたいこと

  • 『踊る大捜査線 THE MOVIE』の続編で、物語は前作から5年後の湾岸署が舞台。次作は『交渉人 真下正義』とされている
  • 前作の知識は必須ではないが、青島と室井の関係を知っているほうが、終盤の室井の復帰を楽しめる
  • シリーズの別作品については 踊る大捜査線3の感想 も参考になる
  • 国際戦略版『BAYSIDE SHAKEDOWN 2』は約19分をカットし、青島の視点で再構成した別バージョン
  • 上映時間は138分。長めなので、事件が増える中盤で集中が切れやすい

最小限のあらすじ

お台場は観光地になり、湾岸署の刑事たちは観光客の対応に追われている。3連休の初日、会社役員の他殺体が見つかる。本庁から沖田警視正が捜査本部長として乗り込み、室井が副本部長に就く。湾岸署の青島俊作は、本庁のやり方と現場の間で、事件の解決に動く。

※ここから結末に触れます。

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2時間18分を回す「事件の三重構造」の設計

この映画は、一つの事件を掘り下げる作りではありません。スリ事件、噛みつき魔事件、そして会社役員の連続殺人という複数の事件を並べ、観光地化した湾岸署の日常から本筋へ入っていきます。観光客対応に追われる日常から、役員の他殺体の発見、本庁の到着へと進む流れは、三幕で言えば第一幕を事件の発生と対立の配置に使った設計です。

封鎖という「見せ場」を中盤に置く理由

副題になっているレインボーブリッジの封鎖は、沖田が街の封鎖を命じ、青島が橋の封鎖に奔走するくだりで描かれます。ここで面白いのは、封鎖が「かっこいい作戦」ではなく、許可手続きの多さに青島が苦労する場面として描かれている点です。現場の刑事が手続きに振り回されるという、シリーズが一貫して描いてきた組織の滑稽さが、副題の場面に圧縮されています。Wikipediaによると、封鎖の場面は、工事中で供用前の京滋バイパスで撮影されました。

この発想の出どころも興味深い点です。Wikipediaによれば、監督の本広克行は押井守監督の『機動警察パトレイバー2 the Movie』を繰り返し見返し、同作が横浜ベイブリッジを爆破したのに対し、「こちらは封鎖するだけでいいのか」とスタッフと議論したとされています。爆破という派手な破壊に対し、封鎖という「止める」行為を持ってきたのは、警察組織の内側の話に踏みとどまるシリーズらしい選択です。一方で、発表直後のテレビCMには本編にないレインボーブリッジ爆発のCGカットがあり、イラク情勢を受けて本編から早い段階で外されたとされます。宣伝が見せた派手さと、本編が選んだ地味な封鎖との間には、もともと距離があったわけです。

人物の再配置:真下と室井に役割を持たせた

この映画では、真下が犯人との交渉役になり、室井は本庁の副本部長から監視ルームへ回され、のちに復帰します。真下は帰国したばかりで交渉役に任じられ、犯人像を「30代のリストラされたサラリーマン」と推定しますが、グループのリーダーを特定できず、行動を読めないまま進みます。専門家が万能ではないという描き方は、本庁対現場の図式をここでも補強しています。青島が封鎖に奔走する一方で、交渉は真下、本庁内部の対立は室井と、役割が分かれるので、物語が複数の線で同時に進みます。室井の復帰によって捜査が進展する終盤は、シリーズを追ってきた人ほど手応えを感じる構造だと私は読みます。

世間の高評価と私の見方のずれ

受賞歴と興行収入だけを見ると傑作に見えます。日本アカデミー賞では優秀作品賞を含む多数の賞を受け、深津絵里は日本アカデミー賞と報知映画賞で助演女優賞を受賞しました。ただ、私が見るのは脚本の中身です。受賞と大ヒットは作品の求心力を証明しますが、事件の論理が整っていることまでは保証しません。この差が、私が★3つに留める理由です。なお、実写邦画の歴代興行収入で2003年から長く1位の座にあったという記録も、作品の出来というより、時代の熱量の大きさを示す数字として受け止めています。

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沖田が「間違える役」に固定されている

英語版Wikipediaのあらすじによると、沖田は融通がきかず、技術に頼り、地元の刑事を見下す人物として描かれ、彼女の指揮が失敗を重ねるたびに湾岸署が尻拭いをします。これは、現場対本庁というシリーズの対立を分かりやすく示す一方、沖田に反論の余地を与えない設計でもあります。あらすじを見る限り、彼女の指揮は捜査員の心が離れる原因として働き、最後は室井が復帰して捜査が進みます。私はここに、対立の図式が先にあって人物が後から当てはめられた、脚本の安全運転を見ます。

事件を足しすぎて、どれも深く掘れない

監視カメラシステムの稼働、第2の殺人、柏木の拉致、容疑者5人の絞り込み、恩田すみれの銃撃と、事件の山は次々に来ます。その後、容疑者グループが逮捕され、柏木が保護される流れは、ここまで積んだ出来事を整理して閉じる運びに見えます。たとえば青島とすみれは、殺人犯を目撃した女性の護衛中に会場で噛みつき魔とスリ一家を見つけながら、殺人事件を優先せよという沖田の待機命令で取り逃がします。この場面は沖田の判断ミスを示す役目に使われる一方、噛みつき魔やスリという最初に置いた事件は、ここで本筋と結びつくというより、後日談で逮捕の一行に回収されるだけです。複数の事件を並べる構成は賑やかですが、伏線を張って回収する快感より、出来事を片づける印象が残ります。

終盤が「後日談」で穏やかに閉じすぎる

すみれは手術で一命をとりとめ、真下は柏木にプロポーズして断られ、噛みつき魔も逮捕されます。数か月後、室井は警視総監賞を受け、すみれも復帰します。これだけ人が傷ついたあとで、どの出来事も丁寧に回収されて笑顔で終わるのは、観客を安心させる一方で、事件の重さを軽くします。銃撃で人が倒れた物語としては、後始末が軽快すぎると感じました。

さらに、青島が重傷の仲間のために献血を呼びかける場面や、和久が指導員の腕章を外して青島と室井に将来を託す場面など、感情の山場が終盤に連続します。青島と室井が互いを認め合う流れ自体はシリーズの到達点ですが、解決から後日談までの感動の置き方が重なり、事件の決着そのものの印象が薄れます。この「人間ドラマ優先」の配分が、事件の論理を後回しにしていると私は読みます。

脚本家が自ら認めた、封鎖の「ウソ」

Wikipediaによると、脚本の君塚良一は、警察の権限でレインボーブリッジは簡単に封鎖できると知りながら、その点をあえて無視したと述べています。作り手の割り切りとしては正直ですが、副題の場面が「手続きに苦労する」ことを笑いにしているぶん、その前提が現実と違うと知ると、風刺としての切れ味は鈍ります。

この映画を見るべき人・見なくていい人

  • 見るべき人:テレビシリーズと前作を見てきて、青島・室井・すみれたちの「その後」を確かめたい人。日本の実写映画で一時代を築いた作品を押さえておきたい人
  • 見なくていい人:緻密な謎解きや、犯人側の物語の厚みを求める人。シリーズ未見で、一本だけで完結する刑事映画を探している人

数字が語るとおり、これは「みんなで見た映画」です。ただし私は、事件の面白さより人物への愛着で成立している映画だと考えます。その前提で見れば、138分はきちんと楽しめます。