結論:数字は歴史的、物語は前作の骨組みに家族を足しただけ(評価★★★☆☆)

前作を見ているなら、見ていい。ただし「192分の大作」という看板から期待する物語の厚みは、そこにはありません。批評家の評価を集めたRotten Tomatoesの総意は、物語は標準的だが視覚的には驚くほど没入感がある、というもの。私も同じ見立てです。映像の出来は批評家の評に委ねるとして、脚本だけを切り出すと、評価は「前作の骨組みの使い回し」に落ち着きます。

劇薬になるのは、「キャメロンなら脚本も圧倒的なはず」と信じて入る人です。この映画の核は物語の新しさではなく、家族を守る父親という一本の軸です。そこに共感できるかどうかで、3時間強の長さが苦痛にもなり、必要な時間にもなります。総合は5項目の平均(3.2)どおり、★3つにしました。

採点の内訳

  • 脚本:★★☆☆☆ 192分に対して筋が単純で、追跡の反復が多い
  • 人物:★★★☆☆ 父の葛藤は通るが、子どもたちは役割が先行する
  • 独創性:★★★☆☆ 海の民という舞台は新しいが、構造は前作の型
  • 狙いの達成度:★★★★☆ 「親になる」という狙いは形になっている
  • 間口の広さ:★★★★☆ 前作を見ていなくても追えるが、予習はあった方がいい

作品情報

  • 日本公開:2022年12月16日(日米同時公開)
  • 監督:ジェームズ・キャメロン(脚本はリック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァーとの共作)
  • 主な出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、スティーヴン・ラング、ケイト・ウィンスレット
  • 上映時間:192分
  • 興行収入:世界で約23億3,448万ドル、日本で43.1億円
  • 主な受賞:第95回アカデミー賞 視覚効果賞を受賞。作品賞・音響賞・美術賞にノミネート

見る前に知っておきたいこと

  • 2009年の『アバター』の続編で、全5作とされるシリーズの2作目。物語は前作の16年後から始まる
  • 前作を見ておいた方がいい。ジェイクとネイティリの関係、前作の敵だったクオリッチの復活は、前作の出来事が前提になっている
  • 上映時間は192分。途中で席を立ちにくい長さなので、時間に余裕がある日に
  • 作中の海の民メトカイナ族は、ニュージーランドの先住民マオリをモデルにしている
  • 次作は『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』。この映画だけでは物語は完結しない

最小限のあらすじ

前作から16年後。ジェイク・サリーは妻ネイティリと子どもたちとともに、森の民オマティカヤ族の長として暮らしています。そこに、人間の記憶を移植されて蘇ったクオリッチを含む人間たちが再び現れます。追われる身となったジェイクは、家族を守るため森を離れ、海の民のもとへ身を寄せます。

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世界興収23億ドルと「物語は単純」という評のズレ

世界興行収入は約23億3,448万ドル。公開当時、パンデミック後の作品として初めて20億ドルを超えたと英語版Wikipediaにあります。観客調査のCinemaScoreはA評価でした。一方、批評家の側には厳しい声も多い。Varietyのオーウェン・グレイバーマンは、物語は単純すぎて台詞も最低限だと指摘し、ガーディアンのピーター・ブラッドショーは筋を「ひどく退屈」と評しました。テレグラフのロビー・コリンは、筋も緊張感もなく台詞が酷いとまで書いています。

観客は満足し、批評家は脚本に不満を持つ。このズレは、この映画の性格を端的に示しています。観客が買ったのは物語ではなく体験で、批評家が採点したのは物語だった、ということです。私は脚本を採点する立場なので、後者に寄ります。

「親になる」というテーマは、構造として通っている

キャメロンはこの映画のテーマを、親になることだと語っています。かつて向こう見ずだったジェイクが、息子たちを守ることと、戦わせることの間で迷う。この軸は、確かに脚本全体を貫いています。

家族が森を離れて海へ逃げる、というのが第一幕の決断です。逃げた先でも追手が来て、また逃げるか戦うかを迫られる。この「逃げる/戦う」の反復が、結末でジェイクが「逃げ続けるのではなく立ち向かう」と結論するところに収束します。主人公の葛藤が、設定、中盤、結末まで同じ方向を向いている点は、評価に値します。

海へ移る設定が、子どもたちの物語を作った

舞台を海の民のもとへ移したことで、ジェイク以外の家族に独自の出番が生まれました。ロアクは、仲間の仕打ちで取り残されたところを、群れを追われたトゥルクンのパヤカンに助けられます。パヤカンは、母を殺した人間を襲って平和の誓いを破り、追放された個体です。群れの「掟」を破った者と、家の「掟」に馴染めない次男。この組み合わせは、物語の副筋としてよく考えられています。

脚本づくりの経緯から見えるキャメロンの狙い

英語版Wikipediaによると、キャメロンは4人の脚本家と作業しました。前作が成功した理由を研究していないとして、解雇をほのめかしたとも伝えられています。さらに、約1年かけて130ページの脚本『Avatar: The High Ground』を書き上げながら、精神的な要素と驚きが足りないとしてこれを破棄しました。

ここから分かるのは、キャメロン自身が求めていた物差しが「精神性」と「驚き」だったことです。完成した映画では、精神性はキリとエイワのつながり、トゥルクンの掟として形になっています。一方の「驚き」は、物語の展開というより、舞台の新しさに寄っています。作り手の狙いが映像の驚きに向かい、筋の驚きまでは届かなかった、というのが私の読みです。

また、キャメロンは約10分の銃撃アクションを削ったとされ、その理由に銃乱射事件を挙げています。

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※ここから結末に触れます。

192分に対して、筋が単純すぎる

多くの批評家が、薄い脚本に対して長すぎると指摘したのは、的を射ています。構造を分解すると、筋はこうなります。クオリッチが来る、逃げる、海の民に受け入れられる、居場所を突き止められる、戦う。これだけです。

中盤の長い滞在部分は、世界を見せる時間として使われています。それは映像体験として価値があるのでしょうが、物語の推進力はここで止まります。第二幕の長さと、第三幕の決戦の長さが、筋の量に見合っていません。批評家が「脚本が薄い」と書いた根拠は、ここにあると私は読みます。

クオリッチと「息子」スパイダーの線が回収しきれていない

クオリッチは、息子のスパイダーからナヴィの文化を教わりながら信頼を得ていきます。この設定は、悪役に人間味を与える、狙いのいい仕掛けです。ところが、クオリッチの行動の動機は、あらすじで見る限りジェイクへの報復という一点に寄っており、息子への感情が行動を変える場面は、終盤の救助まで見当たりません。

終盤、スパイダーは溺れかけたクオリッチを救いますが、一緒に残ることは拒みます。ここは、積み上げてきた父子の関係の決着として置かれた場面です。ただ、筋の運びを追うと、父子の関係の決着が終盤の一場面に集中しており、そこへ至る積み上げが薄く見えます。私は、伏線は張ったのに回収が1シーンに寄った構成の弱さと読みます。

ネテヤムの死が、物語の重さに見合っているか

長男ネテヤムは、囚われた子どもたちを救おうとして撃たれ、命を落とします。パヤカンがRDAの船を襲った戦闘の中での出来事です。子を失う父親という、この映画でいちばん重い展開です。

問題は、その死が物語の仕掛けとして機能しているかどうかです。ネテヤムは、弟たちを導く兄という役割以上の描写が少なく、死んだ時点で観客が負う喪失感は、設定の力に頼る部分が大きい。死が先にあり、人物が後から追いつく順序です。葬儀を経てジェイクが戦う決意を固める流れは筋として通っていますが、感情の積み上げが足りない分、決意に至る説得力が弱くなります。

終わらせずに終わる:続編頼みの結末

結末では、ジェイクが海の民のもとに留まって戦うと決めます。つまり、物語は「戦う決意」で終わり、決着は次作に持ち越されます。シリーズ5作を前提にした作りとはいえ、この映画の中で解決されるのは、ネテヤムの死とスパイダーの選択くらいです。1本の映画として見たときの満足度は、その分削られます。

この映画を見るべき人・見なくていい人

見るべき人

  • 前作を見ていて、シリーズを追うつもりの人。次作を見る前提としても外せない
  • 視覚的な体験を目的にしている人。アカデミー賞の視覚効果賞を取った作品だ
  • 家族を守る父親の物語に反応しやすい人

見なくていい人

  • 脚本の緻密さや意外性を一番に求める人。批評家の評も、そこで割れている
  • 前作を見ておらず、3時間強を割く余裕もない人
  • 1本で完結する物語を求める人。続編に預けられた部分が多い

キャメロンの別の大作が見たいなら、『タイタニック』の記事も合わせて読むと、同じ監督でも物語の組み立て方がどれだけ違うかが分かります。