結論:科学の大風呂敷を、父と娘の話に畳んだ野心作(評価★★★★☆)
見るべきです。169分という長さを覚悟できるなら、SF映画の「大きさ」を測る物差しとして一度は通る価値があります。ただし、万人向けの傑作とまでは言いません。終盤の解決は、愛という言葉で説明の穴を埋める危うい橋を渡っています。そこが許せない人には劇薬、許せる人には記憶に残る一本です。
採点は5項目の平均が3.6で、四捨五入すると4です。総合はそのまま★4にしました。脚本には粗がありますが、これだけの規模の構想を最後まで一本の線で結んだ設計は、粗を差し引いても評価に値すると考えるからです。
採点の内訳
- 脚本:★★★☆☆ 伏線の回収は見事だが、中盤に無理が出る
- 人物:★★★☆☆ 父娘の軸は強いが、周囲の動機が薄い
- 独創性:★★★★★ 科学と家族の物語を一つに束ねた発想
- 狙いの達成度:★★★★☆ 科学的な裏付けと情緒の両立を狙い、概ね形に
- 間口の広さ:★★★☆☆ 設定の説明量が多く、置いていかれる人も出る
作品情報
- 日本公開:2014年11月22日(アメリカ公開は2014年11月7日)
- 監督:クリストファー・ノーラン(脚本はジョナサン・ノーランとの共同)
- 主な出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ケイン、マット・デイモン
- 上映時間:169分
- 製作費:1億6500万ドル
- 主な受賞:第87回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞(ほか4部門でノミネート)。第38回日本アカデミー賞で外国映画賞の優秀賞
見る前に知っておきたいこと
- シリーズ作品ではなく、前作や原作の知識は不要。単独で見られます
- 上映時間は169分。前半は地球の場面に時間を割くので、宇宙に出るまで我慢の時間があります
- 物理学者キップ・ソーンが科学コンサルタント兼製作総指揮として参加しており、ブラックホールやワームホールの描写には一般相対性理論が土台にされています
- 「重力」「時間の遅れ」の二つだけ頭に入れておくと、中盤の惑星の場面で迷子になりません。高重力の場所では、時間の進みが遅くなる、という設定です
最小限のあらすじ
近未来の地球は、砂嵐と作物の疫病で食糧危機にあります。元テストパイロットのクーパーは、農場で息子のトム、娘のマーフと暮らしています。ある日、娘の部屋で起きる不思議な現象をきっかけに、彼はNASAの秘密施設にたどり着きます。人類が住める新しい星を探すため、土星付近のワームホールの先へ向かう計画に誘われ、娘に「必ず戻る」と約束して旅立ちます。
※ここから結末に触れます。
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娘の部屋の「幽霊」はクーパー自身だった
この映画の脚本の核は、冒頭の「幽霊」の伏線を最後に自分で回収する輪の構造です。マーフが幽霊だと思っていた現象は、ブラックホールの内側で、クーパーがテサラクトという空間から過去の娘の部屋へ送った信号でした。冒頭で起きた不思議な現象が、物語の最後で自分の行動の結果だったと明かされる。この回収は、三幕構成の第三幕に置かれた最大の仕掛けとして、よく働いています。
秒針のモールス信号が、科学と情緒をつなぐ
クーパーは、TARSが集めたブラックホール内部のデータを、腕時計の秒針の動きによるモールス信号で娘に伝えます。この腕時計は、旅立ちの前に娘に残したものです。冒頭で渡された小道具が、終盤で重力方程式の解答を渡す手段になる。物語上は、感情の象徴と科学的な解決を一つの物に重ねた、巧い設計です。成長したマーフが方程式を解き、人類が宇宙へ移住する道が開かれます。
なぜ世間は高く評価し、私はやや辛くなるのか
Wikipediaによると、Rotten Tomatoesでは支持率72%、Metacriticでは74点で、「概ね好評」という位置づけです。『バラエティ』のスコット・フォウンダスは、ノーランのこれまでの作品の中でも、映像と発想の両面で大胆な一本だと評しました。私もこの大胆さを評価します。ただし、その大胆さが、説明の穴を愛でごまかすことにも使われている点は、割り引いて見ます。同じノーランの作品でも、構成の緻密さを楽しむタイプではなく、構想の大きさを受け止める作品だと考えると、評価の軸が定まります。
科学の裏付けは、どこまで本物か
ソーンは、映画のために光線の進み方を追う計算に携わり、既知の物理法則を破らないこと、推測は脚本家の想像ではなく科学から出すことを方針にしたと、Wikipediaに記されています。一方で、科学者の評価は割れています。ニール・ドグラース・タイソンは過去に干渉することが理論的には可能だと結論づけ、ミチオ・カクは科学的な正確さを評価しました。他方、デビッド・グリンスプーンは作物の疫病の設定や氷の雲の描写に疑問を示しています。科学映画としては、完全に正しいと言い切れないが、ここまで真面目に取り組んだSF大作は少ない、というのが妥当な線でしょう。
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マン博士の場面は、物語の都合が見えすぎる
氷の惑星のマン博士は、人類が住めない星だと知りながら、偽りのデータを送り続けていました。クーパーを襲い、ロミリーを罠で死なせ、着陸船を奪った末に、エンデュランスのドッキングに失敗して死にます。この一連の流れは、残りの乗組員を追い込み、ガルガンチュアへ向かわせるための装置として、あまりに分かりやすく機能しています。選ばれた優秀な人物が極限状況で裏切る、という設定は理解できますが、そこに至る動機の掘り下げが薄く、敵役としての必然性より、脚本の都合が前に出ます。
説明の多さと、人間ドラマの薄さ
『USAトゥデイ』のクラウディア・ピュイグは、台詞が退屈で、宇宙船内に冗長な部分があると批判しました。『ガーディアン』のヘンリー・バーンズは、壮麗な見世物だがドラマとしては軽いと評しています。私もこの指摘には同意する部分があります。ブランド教授が人類は帰還できない前提で計画を進めていた点や、アメリアが恋人のいる惑星を推す点など、人物の事情が台詞で説明される場面が多く、物語の流れの中で見せる形になっていません。説明量と人間ドラマの厚みのバランスは、この映画の最大の弱点です。
終盤の「愛」は、説明を肩代わりしすぎている
アメリアは、恋人のエドマンズの惑星を推しますが、クーパーはこれを私情だと批判しました。ところが終盤では、クーパーと娘を結ぶ感情が、時間と次元を越えて物語を動かします。中盤で私情と切られた感情が、最後は救いの鍵になる。主題としては筋が通っていますが、科学の厳密さを売りにしてきた映画が、肝心のところで情緒に答えを預けるのは、ご都合主義という批判を招く構造です。私は、この主題の一貫性は評価しつつ、科学パートとの温度差は欠点として残ると考えます。
宣伝と中身のずれ
宣伝では「科学的に正しい壮大なSF」の面が強調されがちですが、物語の中心は、父と娘が約束を果たす話です。ノーランは、有人宇宙飛行への関心を高めたいという狙いを語っています(Wikipedia英語版)。この狙いは、娘との約束という軸があって初めて、観客に届く形になっています。科学の正確さを期待して見ると肩透かしを感じ、家族の物語として見ると腑に落ちる。この二重の顔が、評価が割れた理由の一つだと私は見ます。
この映画を見るべき人・見なくていい人
- 見るべき人:ブラックホールや時間の遅れを題材にした、大きなSFを一度は見ておきたい人。伏線が最後に回収される構成が好きな人
- 見るべき人:父と娘の約束という、感情の軸のある物語が好きな人
- 見なくていい人:科学の整合性を最後まで厳密に求める人。ラストの「愛」の扱いで引っかかる可能性が高いです
- 見なくていい人:テンポの速いアクション中心のSFを期待する人。169分のうち、説明と対話に使われる時間は短くありません





