結論:型の遊びは巧い。だが、型の外へは出ない(評価★★★☆☆)

ホラーに耐性があり、1970年代のスラッシャーを知っている人なら、見る価値があります。逆に、血の描写が苦手な人、ホラーの「お約束」に興味がない人には、おすすめしません。批評家の評価は高い作品ですが、私は星3と読みます。理由は、脚本の組み立てが「よくできた模範解答」の域にとどまり、模範解答を超える驚きが少ないからです。資料で確かめられる評価の高さと、私の採点との差は、あとの節で説明します。

採点の内訳

  • 脚本:★★★☆☆ 冒頭の提示と巻き戻しは巧いが、終盤が偶然頼み
  • 人物:★★★☆☆ パールの執着は強いが、若者側は類型的
  • 独創性:★★★☆☆ 古典へのオマージュが中心で新味は限定的
  • 狙いの達成度:★★★★☆ 古典の型を現代に移す狙いは形になっている
  • 間口の広さ:★★☆☆☆ R15+で、ホラー嗜好が前提になる

5項目の平均は3.0なので、総合も星3のままにしました。

作品情報

  • 日本公開:2022年7月8日(アメリカ公開は2022年3月18日)
  • 監督・脚本:タイ・ウェスト
  • 主な出演:ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ、マーティン・ヘンダーソン
  • 上映時間:105分(日本語版Wikipediaの記載)
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ(日本)、A24(アメリカ)
  • 興行収入:世界で約1,510万ドル(製作費は530万ドルとされる)。日本は1億円とされる
  • 主な受賞:ボストン映画批評家協会賞の撮影賞(エリオット・ロケット)、オースティン映画批評家協会賞のブレイクスルー・アーティスト賞(ジェナ・オルテガ)

見る前に知っておきたいこと

  • 『X エックス』『Pearl パール』『MaXXXine マキシーン』の三部作の1作目。『Pearl パール』は前日譚、『MaXXXine マキシーン』は続編なので、公開順に見るのが基本
  • 日本ではR15+。1979年のテキサスの農場が舞台で、殺人の場面が複数ある
  • 2026年11月13日に日本で公開される『クリスマス・キャロル 3人のゴーストたち』は、同じタイ・ウェスト監督の作品。公開前なので中身には触れないが、この監督の作風を知る入口として、この作品が使える
  • 三部作の続きは、『Pearl パール』の感想と『MaXXXine マキシーン』の感想で書いている

最小限のあらすじ

1979年のテキサス。ポルノ映画のスターを夢見るマキシーンは、婚約者のウェインや仲間たちと、撮影のために田舎の農場へ向かいます。借りたのは、老夫婦ハワードとパールが持つ農場のゲストハウスです。ウェインは撮影の本当の目的を、老夫婦に伏せています。マキシーンの目的は、この撮影で成功をつかむことです。

※ここから結末に触れます。

X エックスの結末の意味は? 評価できる点と考察

冒頭で結果を見せ、24時間前へ戻る構成

この映画は、保安官たちが農場で多数の遺体を見つける場面から始まり、そこから事件の24時間前へ戻ります。観客は「全員が無事ではない」と知ったうえで見ることになります。普通のスラッシャーなら、次に誰が死ぬかが焦点です。この作品では、ここで焦点が「いつ、どの順番で」に移ります。三幕で言えば、第一幕で老夫婦への不穏さを積み、中盤で一人ずつ消していく設計です。冒頭の提示が、後半の死の連鎖に必要な緊張を前借りしている点は、巧い仕事です。

パールの視線が物語の核になっている

パールは、若い頃の自分に似たマキシーンに異様な執着を示します。マキシーンを盗み見ながら、自分が彼女の立場になる空想にふける、とWikipediaにあります。つまりこの映画の殺人の原動力は、金でも復讐でもなく、老いた者が若さに向ける欲望と嫉妬です。米国のFangoria誌のネイト・ロスコーは、この作品を老い、若さ、美しさと自己評価の関係を扱った作品と読み、パールに同情できる瞬間もあると見ています。私もこの読みに同意します。殺す側に動機の筋がある点が、ただの殺人鬼ものと分かれる部分です。

ミア・ゴスの二役とラストの重み

ミア・ゴスは、マキシーンと老婆のパールを一人で演じています。パール役の特殊メイクには、本人の言葉で約10時間かかったとされます。若さと老いが同じ顔である、という仕掛けは、先ほどの読みに直結します。マキシーンがパールの頭をトラックで轢いて逃げる結末は、若さが老いを物理的に踏み潰す絵であり、同時に、自分の中の同じ欲望からも逃げ切れない、という含みを持たせています。これは私の読みです。さらに終盤で、劇中で聞こえていたテレビ伝道師の声が、マキシーンの父だと明かされます。劇中で流れていた声の正体が、ここで彼女の出自に結びつく仕掛けです。

批評家が高く評価する理由と私の見方のずれ

Rotten Tomatoesでは229件の批評で支持率94%、平均7.7点です。Metacriticは80点です。ヴァラエティ誌のオーウェン・グレイバーマンは、『悪魔のいけにえ』への愛情に満ちたオマージュと評しました。アトランティック誌のデヴィッド・シムズは、現代の古典とまで呼んでいます。この高評価の中心は、古典の型を丁寧に再現し、現代の作品として成立させた手際にあると私は見ます。批評家は、古い型をここまで丁寧にやってくれた点を喜んでいる。私はそれを認めたうえで、型の外へ出る瞬間が少ない点を、星3の理由にしました。

影響元として挙げられるのは、『悪魔のいけにえ』のほか、『サイコ』『イージー・ライダー』『シャイニング』『ブギーナイツ』などです。複数の批評家が指摘しています。名前が並ぶほど、この映画は引用の網の上に立っていることになります。引用の手つきが丁寧なことは長所です。ただ、引用元を知らない観客には、その楽しみが届きません。間口の評価を星2にした理由はここにあります。

終盤には、警察がRJのカメラを見つけ、保安官が「とんでもなくいかれたホラー映画」が記録されていると吐き捨てる場面もあります。劇中で撮られていたのはポルノ映画でしたが、映ったのは別のものだった、という皮肉です。作中の撮影が、思いもよらない形で映画そのものを指す。この自己言及は小さな仕掛けですが、よく効いています。

X エックスはひどい? つまらないと言われる理由と欠点

終盤の決着が偶然に頼りすぎている

最大の欠点は、終盤の死に方です。ロレインの遺体が痙攣したことに驚いて、ハワードが心臓発作で死ぬ展開があります。老夫婦という脅威の片方が、登場人物の行動ではなく偶然で退場します。さらに、マキシーンは拳銃に弾が入っていなかったと気づき、パールの撃ち返しは外れ、パールは転倒して腰の骨を折ります。ここも、主人公の判断が勝敗を決めたのではなく、相手のミスで流れが決まっています。ここで緊張がしぼむ感覚は、脚本の弱さとして指摘できます。

若者グループの人物が、死ぬための配置に見える

RJは一行を置いて去ろうとして、パールに刺殺されます。ウェインは納屋で釘を踏み、その後に熊手で目を刺されます。ボビー=リンは湖でパールを助けようとして、突き落とされた末にワニに襲われます。どの死も、本人の短い選択から一直線につながっています。観客に納得感はありますが、それぞれの人物が死ぬまでに、動機や変化を見せる時間がほとんどありません。この点は、シカゴ・リーダー誌のドミトリー・サマロフが、この映画は『悪魔のいけにえ』と違って、関係者を残酷な形で罰し、それを笑いにしたいだけだと批判した点に重なります。私はそこまで全否定はしませんが、重なる部分はあると見ます。

RogerEbert.comの「もっとできた」という指摘に同意する

RogerEbert.comのアビー・オルセスは、4点満点の3を付けたうえで、もっとできたはずの軽い作品だと書いています。私も同じ位置にいます。三部作の1作目という位置づけも、点を伸ばしにくい要素です。ラストでマキシーンの出自が示されますが、その意味は、この1本の中では掘り下げ切れません。続編で補う作りは、シリーズとしては正しい一方、1本の映画としては宿題を残す形です。

もう一つ、宣伝と中身のズレも挙げておきます。「ポルノの撮影旅行が惨劇に変わる」という入り口の設定は刺激的ですが、物語が本当に追っているのは、パールの老いへの執着です。ウェインが老夫婦に撮影の目的を伏せている設定も、緊張を生む仕掛けとして使い切れていません。入り口の設定と中盤以降の主題の間に、橋が足りない印象です。

この映画を見るべき人・見なくていい人

  • 見るべき人:1970年代のスラッシャーが好きな人。『悪魔のいけにえ』への目配せを探すのが楽しい人。『Pearl パール』『MaXXXine マキシーン』まで追う予定の人
  • 見るべき人:11月13日公開の『クリスマス・キャロル 3人のゴーストたち』の前に、タイ・ウェスト監督の作風を知りたい人
  • 見なくていい人:血や殺人の描写が苦手な人。R15+の内容に抵抗がある人
  • 見なくていい人:結末までの必然性や、論理の通った決着を求める人。終盤の偶然の多さが気になるはず