結論:技術は満点、物語は「複写」止まり(評価★★★☆☆)

見て損はありません。ただし、1994年のアニメ版を知っている人が「新しい発見」を求めるなら、はっきり期待外れです。この映画の価値は、よく知られた物語を最新の映像技術でやり直した、その規模と精度にあります。物語そのものに新しい驚きはほぼありません。向いているのは、アニメ版を見たことがない人、家族で安心して楽しめる一本を探している人です。劇薬になるのは、オリジナルを深く愛している人。比べるほど、削られた部分が目につきます。

採点は5項目の平均が3.2なので、そのまま★3としました。動かしてはいません。

採点の内訳

  • 脚本:★★★☆☆ 土台は堅牢だが、足した部分が効いていない
  • 人物:★★★☆☆ 悪役の動機の芯が浅く、描写は旧作頼み
  • 独創性:★★☆☆☆ ほぼ旧作の再現で、新しさは映像技術に集中
  • 狙いの達成度:★★★☆☆ 技術面の狙いは達成、感情面は評価が割れた
  • 間口の広さ:★★★★★ 前知識不要で、誰でも入れる

作品情報

  • 日本公開:2019年8月9日(米国は2019年7月19日)
  • 監督:ジョン・ファヴロー 脚本:ジェフ・ネイサンソン
  • 主な声の出演(原語版):ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ、ジェームズ・アール・ジョーンズ、キウェテル・イジョフォー、セス・ローゲン
  • 日本語吹替:賀来賢人(シンバ)、江口洋介(スカー)、大和田伸也(ムファサ)、佐藤二朗(プンバァ)ほか
  • 上映時間:119分
  • 製作費:英語版 Wikipedia によると2億5,000万〜2億6,000万ドル
  • 興行収入:全世界で16億ドル台(当時のディズニー作品で歴代1位とされる)、日本で66.7億円
  • 主な受賞:アカデミー賞視覚効果賞ノミネート(受賞ではない)。視覚効果協会賞では3部門を受賞

見る前に知っておきたいこと

  • 1994年のディズニー長編アニメ『ライオン・キング』を、フルCGでリメイクした作品。ディズニーは「超実写版」と呼んでいるが、ほぼ全編がCGで作られている
  • 2026年11月6日(金)21:00〜、日本テレビ「金曜ロードショー」で『ライオン・キング:ムファサ』が放送される。本作と同じシリーズの作品で、ムファサは本作にも登場する。放送前に本作を見ておくと、シリーズの入口として分かりやすい
  • 前作を知らなくても楽しめる単独の物語。アニメ版を見ておく必要もない
  • 『ムファサ』の感想は、映画『ムファサ』感想|つまらない?金曜ロードショー前にに書いた
  • 日本のテレビでは、2022年12月30日と2025年1月3日に「金曜ロードショー」で放送された実績がある

最小限のあらすじ

アフリカの王国プライド・ランドで、王ムファサの息子シンバが生まれる。王位を狙う弟スカーは、ハイエナと組んで父子の排除を企てる。シンバは父を失い、濡れ衣を着せられて王国を追われる。やがて成長したシンバは、荒れ果てた故郷を取り戻すために戻ることを決意する。

※ここから結末に触れます。

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設計図の強さは今も揺るがない

この映画の物語は、「父を失った息子が、逃げた先で別の暮らしを得て、責任と向き合うために戻る」という骨格でできています。これは三幕構成として無駄がありません。第一幕で父の教えと弟の陰謀を置き、第二幕の入り口で父の死を迎える。第二幕の前半は逃避の時期で、ここで主人公は「責任から逃げる」ことを選びます。第二幕の後半で幼なじみのナラが現れ、父の幻が帰還を促し、第三幕の対決に入ります。主人公の欠落(逃げ)が、最後の行動(戻る)で埋まる設計です。

この骨格は1994年版の成果であり、本作はそれをほとんどそのまま引き継いでいます。だから、脚本としては「壊れていない」。再現に徹したことが、一番の安全策として機能しています。

技術面での達成は、受賞が裏付けている

本作の映像は、1,490ショットのうち冒頭の日の出の1ショットを除いて、すべてCGで作られています。ファヴロー監督は『ジャングル・ブック』で使ったバーチャル撮影の技術を、さらに多く使ったと述べています。英語版 Wikipedia によると、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされ、視覚効果協会賞では写実的な長編、環境、バーチャル撮影の3部門を受賞しました。批評家が映像の出来を高く評価したことは、この記事の読者に伝えておく価値があります。私はこの映像を見た印象としては語りません。ただ、受賞歴と批評家の評が、技術面の水準を示しています。

ティモンとプンバァが、笑いの面で支えた

英語版 Wikipedia によると、批評家はビリー・アイクナーとセス・ローゲンが声を当てたティモンとプンバァを特に称賛しました。ロサンゼルス・タイムズのケネス・トゥランは、この映画を「洗練された、満足できる娯楽」と評しています。日本語吹替では、亜生(ミキ)と佐藤二朗が担当しました。重い話の途中に置かれた、ふたりの「ハクナ・マタタ」の暮らしは、物語のテンポを整える役割を持っています。

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旧作とほぼ同じ物語で、独創性が出せていない

最大の弱点はここです。英語版 Wikipedia によると、多くの批評家が、本作は独創性に欠け、1994年版とほぼ同じだと指摘しました。ファヴロー監督自身は、旧作の象徴的なショットは変えられないと述べつつ、「同じ映画をもう一度作ったわけではない」と語り、旧作より約30分長く、構成や一部の場面も変わると説明していました。

では、足した部分が厚みになったか。日本語版 Wikipedia が挙げる変更点を見ると、ナラが王国を出て助けを求める場面の追加、ハイエナのリーダー・シェンジの描写の強化とナラとの対決、ティモンが「サークル・オブ・ライフ」にやや否定的な態度を取ることなどです。どれも、物語の骨格を変えるものではありません。骨格を変えずに足した場面は、旧作を知る人にとっては「見覚えのある物語に、細部が増えた」程度にしか映りません。監督が掲げた「厚み」と、実際に増えた中身の間には、ずれがあります。

悪役スカーの動機が、掘り下げられないまま

スカーは、王位を望みながら儀式を欠席して恨みを募らせた弟として描かれます。ところが、なぜ兄に取って代わりたいのか、その根っこの部分は、この脚本では最後まで見えません。ヌーの暴走を使った殺害、シンバへの濡れ衣、ハイエナとの取引と、行動は計画的です。それでも、行動の理由が「王位がほしい」の一点に留まっているので、悪役の存在感は行動の派手さに頼ることになります。

終盤の対決でも同じです。スカーは助命を乞い、追放を条件に許されたあと、不意打ちを仕掛けます。シンバに崖から投げられても生き延びますが、彼の裏切りを聞いていたハイエナに倒されます。この結末は旧作から受け継いだ構造で、悪役が自分の味方に討たれる皮肉は効いています。ただ、そこまでの積み上げが薄い分、結末の手応えも弱くなります。

「リアルな動物」という選択が、感情の描写と衝突した

本作が最も強く批判されたのは、感情の面です。英語版 Wikipedia によると、批評家は写実的な動物の顔の表情が限られていて、感情的な場面が弱まったと指摘しました。日本語版 Wikipedia も、批判点として、ライオンの写実的な造形による感情移入の難しさや、映像は優れるものの感動が不足していることを挙げています。インディワイアのデヴィッド・アーリックは、この作品を魂のない「技術デモ」と呼び、ハリウッド・リポーターのトッド・マッカーシーは旧作より劣ると評しました。

私はここに、企画の根本的な矛盾があると読みます。旧作が感動を生んだのは、手描きのアニメーションが、動物に人間的な表情を与えられたからです。リアルを目指せば目指すほど、その自由は失われます。つまり、技術的な達成が、そのまま感情面の損失につながる構造です。ファヴロー監督が選んだ方向では、この矛盾を避けにくかったはずです。

世間の評価と、私の評価のずれ

興行収入は、全世界で16億ドルを超えました。一方、英語版 Wikipedia によると、ロッテン・トマトの支持率は52%、メタクリティックは55点で、「賛否両論」の域です。ロッテン・トマトで「腐った」評価を受けた作品としては、最高の興行収入だとされています。観客の評価を示すシネマスコアは「A」でした。

この落差の理由は、観客が求めたものと批評家が求めたものが違った、という点にあると私は見ます。観客は「あの物語を、いまの映像で見る」体験を買い、批評家は「なぜ今、作り直すのか」という問いの答えを求めた。本作が前者には応えたものの、後者には応えなかったのは、評価の割れ方からも読み取れます。私の★3は、その中間にあたります。物語の骨格と技術には敬意を払い、新しさと感情の面では厳しく見る、という採点です。

なお、音楽の面でも評価は一枚岩ではありません。英語版 Wikipedia によると、旧作の楽曲を手がけたエルトン・ジョンは、本作について「魔法と喜びが失われた」と語りました。

この映画を見るべき人・見なくていい人

見るべき人

  • アニメ版を見たことがなく、シリーズの入口を探している人
  • 『ムファサ』の放送前に、シンバとスカーの関係を押さえておきたい人
  • 物語の新しさより、最新の映像技術による「定番の再現」を楽しみたい人

見なくていい人

  • 1994年版を何度も見ていて、新しい解釈や驚きを期待する人
  • 動物キャラクターの表情で感情を読み取るタイプの映画が好みの人

結局のところ、この映画は「見るな」とも「必見」とも言えない、真ん中の一本です。ただ、真ん中だからこそ、基準をはっきりさせて見ることが大事です。旧作の複写と割り切れば楽しめ、旧作を超えるものを求めれば裏切られます。金曜ロードショーで『ムファサ』を見る前の予習としては、間違いなく役に立ちます。