本作は、ゆるやかなキャンプの魅力が詰まった人気アニメシリーズの劇場版である。今回、大人になった登場キャラクターたちが故郷で新しいキャンプ場を作り上げていく物語が描かれるのだが、舞台が広がったぶん、これまでのアニメシリーズとはひと味違う見応えがあると感じた。テレビ版を追いかけてきた人はもちろん、初めて触れる人でも十分楽しめるが、過去シリーズで培われた「キャンプの空気感」を知っているファンならば、なおさらニヤリとする場面が多いはずだ。
主人公たちの懐かしい掛け合いに加え、これまでになかったスケール感や、成長した彼女たちならではの悩みが丁寧に盛り込まれているので、「これが大人になった彼女たちか」としみじみ思わせてくれる。加えて、山梨の自然風景がこれまで以上にダイナミックに描かれ、観ているだけで心が洗われるような爽快さを得られるのが本作の持ち味でもある。
さりげないギャグや懐かしいネタがちょこちょこ顔を出すため、思わず吹き出しそうになるポイントもあって肩の力を抜いて楽しめるが、一方ではほろりとするドラマ性もあり、笑いと切なさが同居する展開が魅力だ。そんな“ちょうどいい塩梅”を堪能しつつ、キャンプシーンの奥深さに改めて触れられるのが嬉しい。ここからはネタバレを含むが、作品世界にどっぷり浸ってもらうためにも、最後まで読んでいただけるとありがたい。
映画「映画 ゆるキャン△」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「映画 ゆるキャン△」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は、大人になった志摩リンや各務原なでしこ、大垣千明、犬山あおい、斉藤恵那の5人が再び集い、新しいキャンプ場を作るという意外な展開から物語が動き出す。青春真っ盛りの高校時代から社会人へと成長した彼女たちは、それぞれに環境や生活リズムが変わり、キャンプからは少し距離を置いていた。しかし、たまたま再会した千明を中心に話が転がり始め、「また一緒にワイワイやりたい」という気持ちが少しずつ再燃していく流れが実に自然だ。かつての思い出が彼女たちの背中を押し、離れ離れだったはずの仲間が再び手を取り合う姿を見ると、こちらまで懐かしい空気に包まれる。
物語の冒頭で描かれるのは、リンが勤める雑誌編集の仕事や、なでしこのアウトドアショップでの接客風景など。「ああ、大人になったなあ」という雰囲気がひしひしと伝わる。特にリンは満員電車で通勤し、日々の締め切りに追われる生活を送っているが、アニメシリーズの頃とどこか変わらない芯の強さは健在。なでしこは山や川の自然を感じながら自転車で通勤している。対照的な環境にいながらも、キャンプを愛する心は2人とも変わっていないのだとわかる描写がファンにはたまらないはずだ。
そこに千明が山梨県の観光推進機構へ転職したという話題が絡む。彼女が偶然リンと再会し、山梨のとある広大な敷地を「こんな場所があるんだが、面白い使い道はないか」とリンに問いかける。リンは酔っ払い気味の千明の勢いに押され気味で、正直めんどうくさそうな反応をするのだが、昔からのキャンプ仲間としての絆があるからか、最終的には「考えとく」の一言。あのリンらしい気のないような、それでいて可能性を匂わせる返事が妙に懐かしく、ファンとしては嬉しくなってしまう。
その後、なでしこや犬子(犬山あおい)、斉藤さん(斉藤恵那)も集結し、山梨の山奥にある廃墟同然の広い敷地をキャンプ場にしようという企画が具体化していく。テレビシリーズでは、野外調理や小物をそろえるだけでもワクワクしていた彼女たちが、今度は「自前のキャンプ場」を作ろうと奮闘するわけで、やることが大きくスケールアップしているのだ。あまりに広い敷地を相手に、草刈りから整地まで全部手作業でやるなんて大丈夫なのか、と最初は心配になる。しかし彼女たちは地域の協力者を募ったり、ちゃんと重機を入れたりして、現実的なやり方で一歩ずつ夢をカタチにしていく。このプロセスが地味だが面白く、キャンプの延長線上に「キャンプ場づくり」という新たな楽しみを見いだす姿が微笑ましい。
その中でたびたび描かれるのが、リンとなでしこの対照的なアプローチ。リンは編集者として培った情報収集力を武器に各地のキャンプ場を見て回り、コンセプトづくりを考える。なでしこはショップ店員として、実践的かつ初心者目線の「こんな設備があると便利」というアイデアを積極的に出す。千明は山梨の自治体事情を把握しているので役所との交渉役に回り、犬子は地元でのつながりを活かして要所要所で協力者を探す。斉藤さんは動物のトリマーとして働いているが、デザインセンスや柔軟な発想を発揮してプロジェクトをサポートする。テレビシリーズの頃には見られなかった「社会人としての成長した姿」が新鮮だ。
ただし、作業は順風満帆に進むわけではない。廃墟の敷地を片付けている最中、ちくわ(斉藤さんの愛犬)が古い土器を掘り当てたことがきっかけで、縄文時代の遺跡があるのではないかと大騒ぎになってしまう。これによって文化財保護のための調査が入り、計画が一時的にストップする展開は意外だった。過疎化や観光振興といった社会的なテーマにもリンクするエピソードで、いつものほんわかムードばかりではなく、厳しい現実と向き合う姿が描かれる。その中で仲間同士の絆が再確認されるのが泣きどころであり、同時に大人になった彼女たちだからこそクリアできる試練だと感じさせる。
もう一つ印象的なのは、犬子の勤務先である小学校が閉校になってしまうエピソード。過疎問題に直面する地方の現実がストレートに描かれ、犬子自身も複雑な思いを胸に抱えつつ、新たな場所での再スタートを模索する。映画の中盤あたりはこうした寂しさやもどかしさがにじみ出て、作品としてはかなり感傷的になりそうなところだが、そこを思い切り泣かせるわけでもない。昔から変わらない彼女たちの関係がクッションとなり、再び前へ進む力へと変えていく流れが絶妙だ。
そして肝心のキャンプ場づくりは、新しくできた遺跡を活かす方向に舵を切ることになる。千明が企画した「縄文遺跡の発掘体験を要素に入れたキャンプ場」というアイデアは突飛に見えるが、「子どもも大人も興味をそそられる体験型」によって地域活性化を狙うという戦略は、まさに観光推進機構で働く千明ならでは。ここで「いつものメンバーが面白がりそうなキャンプ場」に留まらず、「いろんな人が訪れたくなるキャンプ場」を目指すという視点が加わるのが大きい。大人になった彼女たちは、自分たちの楽しみだけでなく、周囲を巻き込みながら何かを作り上げることにやりがいを感じているのだ。
クライマックスでは、いよいよ完成したキャンプ場のグランドオープンを迎える。なんだかんだ言って、全員が再び笑顔でキャンプをする姿は素直に胸が熱くなる。テレビ版でおなじみの顔ぶれだけでなく、各キャラクターの同僚や家族まで集まって、みんなでお祭り騒ぎのように盛り上がるシーンは最高だ。そんな華やかな場面に、リンの祖父が現れてひとこと放つシークエンスには思わずホロリとさせられる。リンがキャンプを始めるきっかけを作った人物だからこそ、彼女たちの大人の姿を見た感慨もひとしおなのだろう。
全体を通して、本作は決して大事件が起こるわけでもなく、世界の危機が迫るわけでもない。しかし、それこそが「ゆるキャン△」らしさである。自然や人とのふれあいの中で、小さなトラブルや意外な発見が積み重なり、じんわりと心が温かくなる。その醍醐味を2時間以上の枠にまとめ、しかも登場人物の未来像をしっかり描いた点で、本作にはシリーズの集大成ともいえる満足感がある。もちろん、かつての高校生姿を愛しているファンの中には「大人になっちゃったんだな」と一抹の寂しさを感じる人もいるかもしれない。それでも、時が経っても色あせないキャンプへの情熱を再認識させてくれる作品として、十分に価値があるといえるのではないだろうか。
キャンプ映画といえば、雄大な自然の映像美やレシピ、焚き火シーンなどが見どころだが、本作ではそれらはもちろん、友情の形が大きなテーマとして強調されている。ともに過ごした青春が大きく影響し、社会人になってもお互いを支え合う姿は、鑑賞後に心地よい余韻を残す。特にネタバレになるが、終盤でリンのバイクが故障したことをきっかけに「原付はどうした?」というお約束の流れに戻るシーンは、最初期の「しまりんと原付」の記憶を呼び起こしてニヤリとしてしまう。こういう細やかな仕掛けがあるからこそ、本作は長年シリーズを追いかけている人にも新鮮な感動を与えるのだ。
映画「映画 ゆるキャン△」は、子どもの頃の楽しみを忘れず、仲間と一緒に少しずつ前に進んできた5人の、その後が詰め込まれた素敵な作品である。過去シリーズのエピソードが好きな人はもちろん、新しく入りたい人にとっても充分に魅力を感じられるだろう。ほのぼのとした空気だけに頼らず、地方の抱える問題や、社会人としての現実を取り入れているあたりがより深みを生んでいる。最終的にキャンプ場が完成し、メンバーそれぞれが自分なりの“今”を楽しむ姿は、観る者に「自分も何か始めてみたい」と思わせる力がある。笑いあり、小さな困難あり、でも最後には「ああ、いい時間を過ごしたな」と満たされるのがゆるキャン△の魅力。そうしたエッセンスがギュッと凝縮された劇場版といえる。
映画「映画 ゆるキャン△」はこんな人にオススメ!
まずは、テレビアニメ版を楽しんでいた人なら観て損はないだろう。知り合い同士のゆるいつながりや、ちょっとしたアドリブにこそ面白さを感じるタイプなら、きっと本作の心地よい空気感にどっぷり浸かれると思う。
また、自分の暮らしが変化してキャンプから離れていた人も、彼女たちが再び集まって新しい挑戦をする姿を目にして、「今からでもやりたいことに戻れるんだ」と勇気をもらえるはずだ。加えて、キャンプ初心者やアウトドア経験の少ない人にも向いている。
本作ではキャンプ場をゼロから作るという壮大な試みにもかかわらず、実際の生活感や予算、地方自治体とのやり取りなど、かなりリアリティのある描写が多い。何かをやり遂げる上でのアイデアや仲間との協力体制が参考になる部分もあるだろう。さらに、人間関係のドラマを重視する人にもおすすめだ。大人になり、それぞれの道を歩む5人が集まることで起こる笑いや葛藤に共感できるし、会話の端々に見える成長や変化が興味深い。ファン向けの小ネタも多いが、それだけに頼らない物語構成なので、シリーズ未視聴の人でもある程度理解しやすいだろう。
美しい背景や自然の音の心地よさを求めている人にはもちろん、ゆったりとしたテンポで人の絆を感じたい人にもしっくりくる作品だと思う。
まとめ
本作は、テレビシリーズで描かれてきたキャラクターたちの“その後”をじっくり堪能できる一作である。大人になってからの仲間同士のやり取りや、地方を舞台にした新たなプロジェクトなど、変化を遂げつつも本質的な魅力を失わない内容が印象的だ。もちろん、さりげない場面に散りばめられた懐かしのネタに、ファンとしては「あ、あのときのやつだ」と思わずうれしくなる。
反面、初めて触れる人でも「自然の中で何かをやりたい」という気持ちにさせてくれるパワーがあるので、アウトドアや仲間との交流に興味を持っているならぜひ一度試してほしい。過去のシリーズを知る人には、さらに「あのキャラ、あの道具」といった楽しみが盛りだくさん。鑑賞後はきっと、自分もどこかでキャンプしたくなるだろう。朝日を浴びながら、熱い飲み物をすするあの時間を思い出させてくれる、本作ならではの穏やかな余韻を味わってみてほしい。