映画「山田くんとLv999の恋をする」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
作間龍斗が主演を務める本作は、オンラインゲームを通じて出会った若者たちの恋愛模様を描いた青春ラブストーリーである。ふとしたきっかけでゲーム仲間になった見知らぬ人が、実はリアルでも繋がる相手だった……という展開は、今の時代ならではのリアリティを伴いながらも軽快なテンポで進んでいく。
しかも高校生男子と女子大生の組み合わせという点が、絶妙なズレ感やときめき要素を生み出していて面白い。さらに周囲を彩るギルド仲間の存在も見逃せない。飾らない魅力を持つヒロインや、妙に癖のあるキャラクターたちがぶつかり合いながらも心の距離を縮めていく姿は、観ているだけでほほ笑ましくなるのだ。
甘酸っぱい恋の展開と、ゲーム世界を背景としたファンタジックな味わいがほどよく融合し、大人でも楽しめる仕上がりになっていると感じた。ここからは遠慮なくネタバレありで語っていくので、気になる方は覚悟して読み進めてほしい。
映画「山田くんとLv999の恋をする」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「山田くんとLv999の恋をする」の感想・レビュー(ネタバレあり)
オンラインゲームを題材にした恋愛作品は近年増えてきたが、本作の場合は単純な「ゲームの仮想空間だけで盛り上がる物語」には留まらない。むしろゲームをきっかけに人と人とがつながり、そこで生まれるドラマを丁寧に描いている点が印象的である。物語の冒頭は、女子大生・木之下茜(山下美月)がデート中にあっさり彼氏にフラれ、やけになってゲームにログインするところから始まる。いきなりの失恋だが、そこまで深刻に落ち込むわけでもなく「見返してやりたい」という気持ちを明るく前面に出しているところが茜らしさだ。
一方、オンライン上で茜と同じギルドに属する山田秋斗(作間龍斗)は、いかにも無関心そうな口調が特徴。ゲームの中ではアフロヘアーのキャラクターを操り、冷めた言葉を連発している。とはいえ、無愛想とはいっても決して誰かを見下しているわけではなく、本人はただ「興味がない」「余計なことは話したくない」というタイプらしい。実は高校生でありながらプロゲーマーとして注目を集める存在で、現実でも整った容姿とクールな雰囲気で周囲の女子を虜にしている。こうしたシチュエーションが、恋に振り回されている茜との対比を生み出していて面白い。
物語は、ゲームの1周年イベントをきっかけにして動き始める。茜は「元カレを見返すために」気合いを入れてイベント会場に赴くが、慣れないヒールに足を取られて転倒。そこで助けてくれたのが、無愛想な山田だったのだ。茜はその場の勢いで山田を“彼氏”だと偽ってしまい、「これでちょっとは元カレをギャフンと言わせられたはず!」と胸をなでおろす。だが、山田本人にしてみれば「まったく興味ないけど、頼まれたから付き合っただけ」というテンション。たまたまレアアイテムを譲ってもらう代わりに“彼氏のフリをする”ことを引き受けただけであり、茜に対して特別な感情を持ってはいないように見えるのだ。
それでも、茜の底抜けに明るい性格やコミュニケーション能力の高さが、少しずつ山田の心を動かしていくところが本作の醍醐味だと思う。気を使いすぎず、かといって無遠慮でもない茜の言動は、たとえば山田の同級生で内気な椿(茅島みずき)にはないものを持っている。また、ギルド仲間である瑛太(NOA)や妹の瑠奈(月島琉衣)ともすぐに打ち解けていく茜を見ていると、「この子になら何かを任せても大丈夫かも」と安心感を抱かせる。そういった自然な好意が、山田の冷めた表情や言葉からこぼれ落ちるようににじみ出始めるわけだ。
瑠奈は茜の急な参入を快く思わず、さまざまな意地悪を仕掛けるが、そこに対しても茜はあっけらかんと対応する。結果的に、瑠奈は「この人になら心を開いてもいいかもしれない」と気持ちを切り替える。一見ツンケンしている妹キャラが、いつの間にか姉妹のような関係になる流れは微笑ましく、ここでも茜の天真らんまんなパワーが発揮されているのが分かる。そういう周囲の心境変化を、山田は常にそばで見ているのだ。無口だけれども決して鈍感ではなく、むしろ人一倍繊細な青年だからこそ、茜が持つ“人を惹きつける力”を誰よりも感じ取っているように思える。
個人的に印象に残ったのは、山田が茜を家に泊めてしまう場面だ。酔いつぶれた茜を放っておけないという優しさがありつつも、口では「めんどくさい」とか「興味がない」とか言ってしまうあたりに、山田の不器用さが表れている。結局、茜は山田の部屋で一晩過ごすことになるが、とりわけ直接的な恋愛表現があるわけでもないのに、そこには妙なときめきが漂っている。おそらく山田は、過去のある出来事をきっかけに女子を敬遠していたが、茜という存在と触れ合ううちに、否応なく感情を揺さぶられていくのだろう。
その後、学校の文化祭やギルドのオフ会など、現実とゲームをまたいだイベントが次々と描かれる。コミュ力の高い茜の行動力と、まわりを放っておけない山田の優しさが、いろいろな事件を引き起こしていくわけだが、とにかく登場人物が総じて好感度が高いという点が観やすさにつながっている。たとえば瑛太はゲーム内では“瑠璃姫”というキャラを使っているが、リアルではやや中性的な雰囲気を漂わせる男性。茜が知ったら驚きそうなギャップをあえて隠そうとしないところに、仲間同士の気兼ねない空気が感じられるし、意外と細かいところで茜を気づかってくれる鴨田(鈴木もぐら)の存在も癒やし要素になっている。
一方、後半は山田の同級生・椿が真っ向勝負で山田に告白するエピソードが登場し、物語が一気に恋愛モードへと加速する。椿はかなり前から山田を想っていたようだが、高校という狭い世界において絶大な人気を誇る山田を射止めるのは至難の業。それでも最後に自分の気持ちをしっかり伝え、「好きだった」と過去形で語ることで胸に区切りをつける彼女の姿は切なくも清々しい。そんな場面を見守っていた茜は、山田をどう思っているかを改めて痛感するわけだが、ついには自分から告白する勇気がわかず、逆に山田のほうが先に気持ちをぶつけるという展開が熱い。
告白シーンは大仰なセリフがあるわけではないのに、少しだけ声を震わせて「おまえのこと、ちゃんと好きだ」と告げる山田にキュンとさせられる。恋愛に興味がないと公言していた彼が、茜だけは特別だと認める瞬間であり、それまでに積み重ねてきた二人のやりとりを思い返すと感慨深いものがある。茜も「朝起きたら夢だったと思うかもしれないから、電話していい?」と半ばパニックぎみになりながら伝える姿が可愛らしく、観客としては思わず顔がほころんでしまうはずだ。
さらに、エンドロール後にもある場面が用意されている。ここでは本編中にあまり描かれなかった「ふたりが付き合ってからのもう一歩踏み込んだ関係性」を垣間見せる演出があり、最後の最後にもうひと盛り上がり用意してくれたのはうれしいサプライズだった。賛否あるかもしれないが、「どうしてもあのシーンを入れたかった」という製作側のこだわりが感じられる。余韻を楽しみたい人には、しっかりと席を立たずに観てほしいところだ。
本作の総評としては、オンラインゲームを媒介にしたラブコメではあるが、ゲーム世界の描写そのものよりも「ゲームを通して人間関係が拡張していく面白さ」をメインに据えている点が新鮮だった。ファンタジー要素が濃いわけではなく、どこか日常生活に近いリアルな距離感で男女が出会い、絆を深めていく。クールな山田と人懐っこい茜の組み合わせが生む微笑ましさは、本作ならではの魅力だといえる。作間龍斗は初主演ながらしっかりと高校生らしい初々しさを残しつつも、憂いを帯びた瞳で視線を落とす仕草など魅惑的な部分を見せてくれる。山下美月は明るさと繊細さのバランスが絶妙で、観客を強く引き込む存在感を放っていた。
いわゆる青春ラブストーリーは数多くあるが、本作は「恋に臆病な少年」と「ちょっとドジだけれど元気いっぱいな女子大生」という組み合わせが絶妙な化学反応を起こしており、そこにギルドメンバーたちの温かい助力と時折の意地悪がアクセントを加えている。原作漫画ファンの期待を裏切らない仕上がりという声も多く、それも納得の完成度だ。見る人によっては「ゲーム要素が薄い」と感じるかもしれないが、実はゲームに過度な幻想をもたせないリアルな側面があるからこそ、「いつの間にか本気で好きになってしまう」この物語がより説得力を帯びるのだろう。
不器用ながらも真っすぐな山田に翻弄される茜、茜の軽やかな行動力に気づかないうちに惹かれていく山田。そんな二人の道のりは決して奇をてらわず、素朴なやりとりが積み重なることで最終的に「大切な存在」へと変わっていく過程を描き切っている。最初は「興味ない」と言っていた山田が、最後には茜に好意を伝えるまでの一連の流れは心温まるし、観る人それぞれの青春の記憶を呼び起こすのではないだろうか。
甘さもありながら人と人とのあたたかさがしっかりと残るラブコメ作品だと感じた。激辛レビューと銘打ってはいるが、実際には辛口というより「ほどよいスパイス」が効いた作品だといえる。アニメ的な色彩やコミカルな要素もふんだんに詰まっているので、気軽に楽しみたい人にはぴったりだ。余韻に包まれる結末と、思わずにやりとする後日談シーンも用意されているため、エンドロールが流れてもすぐに席を立たないことを推奨しておく。
映画「山田くんとLv999の恋をする」はこんな人にオススメ!
何か気軽にキュンとしたい作品を探している人には相性抜群だと感じる。登場人物が皆それなりに個性豊かで、陰湿な雰囲気がほぼ皆無だから、「観ていてモヤモヤするドラマは苦手」という人でも安心して最後まで楽しめるのではないだろうか。オンラインゲームが題材といっても、リアルにこだわったゲーム描写が長々と続くわけではなく、むしろゲーム外での交流や日常シーンがメインに描かれるため、ゲーム知識のない人でもまったく問題なく入り込めるはずだ。
さらに、普段からアイドル映画を観ない人にもおすすめしたい。作間龍斗が演じる山田は、無愛想キャラという設定だが、その中にあるピュアさや優しさがきちんと映し出されていて、アイドルとしてのイメージに偏らない芝居を見せてくれている。一方、山下美月が演じる茜は元気ハツラツだが、失恋で落ち込む姿や意地を張りすぎて空回りするところも含めて、学生ならずとも共感しやすいキャラクター像になっている。お互いの不足を補い合うような関係性にときめきを感じる人には、ぴったりの作品だ。
また、同世代の恋愛だけでなく、年齢の離れたギルド仲間や家族との関係性などが「いかにもゲーム好きが集まったコミュニティ」らしく描かれているので、ソーシャルゲームやオンライン上のやりとりに多少でも興味がある方なら、ほぼ間違いなく楽しめると思う。一歩踏み出せずに悩んでいる人や、人間関係にちょっと疲れている人にもおすすめしたい温かさが、本作には詰まっている。
まとめ
本作は、オンラインゲームを舞台に描かれる恋愛模様でありながら、人間同士の距離感を丁寧に掘り下げている印象が強い。
高校生と女子大生という年齢差が生む絶妙なすれ違いや、ゲーム内外で魅力を発揮する個性的な仲間たちの活躍が目を引き、とにかく最後まで心地よい空気で満たされている。作間龍斗が放つクールな山田像と、山下美月のキラキラした茜像が合わさることで、「恋に奥手な少年」と「大胆なまでに突っ走る女子大生」という対照的な魅力が際立つのだ。終盤にかけて明らかになる二人の思いは、観る側をじんわり温かい気持ちにしてくれるだろう。
大掛かりな仕掛けより、日常にあるささやかなドラマに焦点を当てているからこそ、リアルな共感と胸のときめきを同時に味わえる作品になっていると思う。可愛らしさと素朴さが同居したラストシーンにも注目してほしい。