映画「ウィキッド ふたりの魔女」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は「オズの魔法使い」の世界観を下敷きにしながら、独自の視点で2人の魔女の友情や葛藤を描き出した話題のミュージカル映画である。アリアナ・グランデが演じる軽快な魔女と、もう一人の魔女が対照的に織り成すドラマは、観る者の胸を揺さぶる出来となっている。学生生活の出会いをきっかけに急接近した2人が、やがて立場を超えて力を合わせる過程が肝だ。何と言っても華やかな音楽シーンが目を奪うが、そこに潜む社会への批判や、人々の偏見との闘いといったテーマも看過できない。自分の力はギフトなのか、それとも疎まれる呪いなのか。そんな問いを抱えながらも光を求める彼女たちの姿には、妙な親近感を覚える人も多いだろう。物語の土台にはファンタジーがある一方で、登場人物の人間くささが前面に立っているため、ただの空想談に終わらない説得力があるのだ。
さらに、はちゃめちゃなアリアナの演技が画面を彩り、笑いを誘いながらもシリアスな側面をきっちり盛り上げる。この映画を通して、仲間を大切にすることや自分の居場所を見つけることの難しさについて、改めて考えさせられた次第である。さて、ここから先はストーリーの深部に踏み込んでいくので、ぜひ本編を観賞済みの方や、ネタバレを気にしない方のみお読みいただきたい。
映画「ウィキッド ふたりの魔女」の個人的評価
評価: ★★★★☆
映画「ウィキッド ふたりの魔女」の感想・レビュー(ネタバレあり)
映画「ウィキッド ふたりの魔女」は、単なるファンタジーを超えた奥行きの深さが魅力だ。まず印象に残るのは、主人公たちが通う学園生活の描写である。魔法の素質を秘めた者たちが集う大学という舞台がワクワクさせる一方、そこには差別や嫉妬、変わった者を排除しようとする空気があり、その環境と戦う姿勢が鮮明だ。序盤で交わされるクラスメイト同士の軽妙なやり取りは、ときに笑いを誘いつつも、じわりとした苦味が後に大きな波となって押し寄せてくる点に注目したい。
緑色の肌を持つ魔女と、周囲から「イケてる」存在として扱われる別の魔女が意外な形で友情を深めていく過程は、いささか現実離れした舞台設定を忘れさせるほど人間味にあふれている。アリアナ・グランデが演じる明るい魔女のほうは、かつては何不自由ない華やかな生活を謳歌してきたが、すべてが順風満帆というわけでもない。実際には承認欲求を満たしたい気持ちや、周囲の評価を意識せずにはいられない複雑さを抱えているからだ。彼女の行動には一見すると軽やかさがあるものの、その裏には傷つきやすさや孤独感が透けて見える。これが作品全体にメリハリをもたらし、単なるお祭り騒ぎでは終わらない要因となっている。
一方で、緑色の肌を持つ魔女は、周囲から疎まれがちな立場にいるためか、誰よりも周りを気遣う性格をしている。仲間や動物への差別に対しては激しく憤り、自分に備わった力を正しい方向に使おうと努力する姿は痛々しいほどにまっすぐだ。だが、その正義感ゆえに権力者から利用されそうになったり、逆に危険人物扱いされてしまう場面もあるのだから報われない。いつだって自分を肯定してくれる相棒がいてこそ、彼女はかろうじて踏みとどまれるように見える。このバランス感が物語の推進力になっているのは間違いない。
映画では、巨大な城や華麗な祭典、派手な舞踏会のシーンなど、見ているだけで心躍るセットや衣装の数々に目を奪われる。特にエメラルドシティの描き方は抜群に美しく、すべてが緑で統一された大都会のイメージはインパクト抜群だ。そこで行われるショー的な音楽シーンは、ミュージカル映画としての醍醐味が満載である。アリアナの歌唱力は言わずもがな、劇中歌を通して彼女のキャラクターがより立体的に浮かび上がるのが良いところだ。単に高音が出せるというレベルではなく、感情の機微を含んだ表現で聴き手を惹きつける。おかげでミュージカルを観に来た満足感と、ドラマを見届けた充実感が同時に押し寄せる。
ストーリー面では、魔法の書の力や、動物たちが人間と同様に社会の一部として共存している設定がユニークだ。大学の教授として登場するヤギや、翼を持った猿などは、単に奇抜な演出で終わるのではなく、差別問題を象徴する存在として描かれている。とりわけ、ヤギ教授への扱いをめぐって物語は大きな分岐点を迎えるわけだが、その過程で表面化する支配者サイドの陰謀が本作の核心ともいえる。親しみやすいファンタジーの裏で、権力者が一部の弱い者を排除する仕組みを作り出す様子は、何やら現実世界の不条理とも重なるところがある。ここが単なるおとぎ話と一線を画す理由だろう。
これほど壮大なドラマを動かしているのは2人の魔女の友情である。お互いに内面の弱さを抱えているからこそ、ぶつかり合いながらも補い合う関係性が生まれているのだろう。あらゆる騒動を経て彼女たちが目指すものは、単なる名誉や名声ではなく、自分らしく生きることの尊さだと感じた。例え世間から誤解されようとも、手放すことのできない正義や優しさを貫こうとする姿勢に、思わず心打たれるのである。特に終盤、飛び立つ魔女が劇的な曲に乗せて舞う場面は胸が熱くなる出来映えだ。スクリーンに映るその姿は、まるで周囲の偏見を飛び越えていくかのような力強さがある。
さりげなく挿入される学園生活の甘酸っぱさや、ライバル同士の軽妙なやり取りも見逃せない。少しばかり傲慢なキャラクターが壁にぶつかり、自分の至らなさに気づいて成長していく流れは青春映画としても楽しめる要素だ。もちろん胸にズシンとくるエピソードもあるので、一筋縄ではいかない痛みが時々襲ってくる。だが、それでもなお作品全体からは希望の光が感じられ、観客の気持ちを前向きにさせてくれるところが、人気の理由の一つだろう。
この映画をより堪能するなら、音楽シーンに注目したい。アリアナの伸びやかな歌声は言うまでもなく、相方となる魔女役を担う俳優の迫力ある歌唱も聴きごたえ十分だ。まるで舞台にいるかのように、スクリーンを超えて観客に直接語りかけてくる。その瞬間に感じる高揚感はミュージカル映画特有のものであり、ライブ感あふれる演出が作品をさらに盛り上げている印象だ。加えて、背景で踊る大勢のエキストラの細やかな動きや、衣装のテーマに合わせた色使いまで含めると、どのシーンもひとつのショーとして完成度が高い。何度も繰り返し見直したくなる映像表現である。
ストーリーの流れ自体は、ある程度想定の範囲内かもしれないが、細かな伏線の回収や設定の緻密さなど、見応えを底上げする工夫が詰まっている。魔法の本がもたらす圧倒的な力と、それを悪用しようとする者の思惑は、ファンタジーならではの醍醐味だ。それだけに、正義を貫こうとする魔女が報われるのかどうかハラハラしてしまう。実際のところ、彼女たちがどのような決断を下し、どんな結末を迎えるのかはぜひ劇場で見届けてほしいところだが、それまでの道のりで描かれる彼女たちの苦悩や成長が見所だと断言できる。
特筆すべきは、アリアナが携わる独特の演技アプローチである。普段はポップスターとしてのイメージが強いが、本作ではコミカルな動きや、ちょっとだけ生意気なセリフ回しを織り交ぜて、人間的な魅力を全開にしている。単なる歌ウマ女優ではなく、一人のキャラクターとしてしっかり映画に馴染んでいる点が見どころだ。しかも、気持ちが高ぶるタイミングではしっかりと大人の色気を感じさせる表情を見せるので、その振り幅に惹かれる観客は多いはずだ。
なお、この作品は前後編に分かれているとも聞く。前編となる本作は、重要な伏線をいくつも張り巡らせて観客に新たな疑問を投げかける構造だが、決して中途半端で終わっているわけではない。むしろラストに向かうにつれて、彼女たちが背負ってきた痛みや喜びが一気に花開くようなクライマックスへとなだれ込み、強い印象を残したまま幕を下ろす印象だ。この終わり方によって、続編への期待が高まるのはもちろんだが、ひとまず作品単体としても見応えは充分にあると言える。
感情をむき出しにした音楽シーンと、巧みに配置された社会批判的なメッセージの融合が大きなポイントである以上、本作を心から楽しむには少し腹をくくって見るのがいいだろう。子どもが楽しめるファンタジーの要素がある一方で、大人が共感できるシリアスな題材もあるので、いろいろな角度から解釈が可能だ。登場人物たちが抱くコンプレックスや、愛されたいという切なる願い、偽りの権威に振り回される苦しさは、どれも現実に通じるものがある。そうした点を踏まえると、華やかであるがゆえに裏側の闇が余計鮮明に浮かび上がる巧妙な作りだと思う。
最後に、観終わった直後の率直な感想としては、「もっと早く観ておけばよかった」と感じた。予告編だけでは想像できなかった奥行きがあり、音楽を堪能しつつも考えさせられる内容になっている。観客それぞれの人生観や価値観によって、まったく異なる捉え方ができる懐の深さがあるのだ。派手な魔法バトルを期待した人もいれば、心温まる友情劇を楽しみたい人もいるだろうし、ミュージカル映画らしいスケール感を求める人もいるだろう。それらすべてが噛み合っている点に、この作品ならではの妙味がある。長編にもかかわらず飽きさせず、エンディングを迎えたときには不思議ともう一度最初から見直したくなる、そんな力を秘めた映画である。まだ見ていない人にぜひ体験してもらいたいと強く感じた次第だ。
さらに触れておきたいのが、王子として登場する人物のキャラクターだ。いわゆる「王子様」的な立場で周囲にチヤホヤされる存在だが、じつは彼自身も内面に割れそうなほどの葛藤を抱えている。華やかな世界に居座りつつも、それが本当に自分の望む暮らしなのかを問い続ける心の揺れがリアルだ。恋愛模様としては、おそらく多くの人が予想するような三角関係が展開されるものの、その結末には意外なひねりが待ち受ける。お決まりパターンと見せかけて、しっかり差別や階級意識、仲間への裏切りといった要素まで書き込まれているから侮れない。
主人公のひとりが披露する圧巻の魔法シーンは、個人的に本作のハイライトの一つだと感じた。どこか手作り感のある仕掛けを懐かしく思い出させる演出もあれば、最先端の映像技術を駆使した描写で魔法のスケールを大きく見せるところもあり、その振り幅に目が離せない。絶妙なのは、CG頼みになりすぎず、あくまで役者の身体表現や表情が中心にある点だ。これによって、壮大な世界観の中にも生々しい感情が伝わってくる。これこそミュージカル映画ならではの醍醐味と言える。
物語のテーマとして見逃せないのが、自分の生まれ持った個性や境遇といかに向き合うかということだ。緑色の肌を持つ魔女は、それが理由で周囲から嫌われたり誤解され続けたりしてきたが、その特殊性こそが大切な鍵を握るという皮肉にも似た展開が胸を打つ。多くの人は何かしらのコンプレックスや、どうにもならない出自を背負って生きているものだろう。本作はそんな現実の苦しさを魔法や音楽によって昇華し、エンターテインメントに昇華している。だからこそ、最後には爽快感すら覚えられるのだ。
作品全体を通して語られるメッセージは決して押し付けがましくないが、どこかで必ず視聴者の心を揺らすものがある。たとえば、権力を得て人々を操ろうとする者が生まれるのはなぜか。弱い存在を犠牲にして成り立つ繁栄とは何か。友人を救いたいと願った結果、逆に敵視される理不尽とはどう向き合えばいいのか。そうした普遍的な問いが、ファンタジーの世界でありながら鮮明に浮き彫りになる。
もちろん息抜きになるシーンも豊富に用意されている。陽気な歌と踊りで学生たちがパーティーを盛り上げる場面などは、劇場で観ているとつい身体が揺れてしまいそうなほど愉快だ。アリアナのアドリブらしきリアクションや、口げんかの応酬が絶妙なタイミングで差し込まれるのも見どころといえる。これらの要素が散りばめられているおかげで、ヘビーになりすぎず最後まで気持ちよく走り抜ける。
今作の最大の魅力はやはり2人の魔女が築く絆に尽きる。両者ともに人生の方向性が対照的で、得意分野も性格も違うからこそ、一度ぶつかったときには修復不能かと思われるほどの衝突を起こす。だが、その対立を乗り越え、相手の痛みを知り、自分の弱さを隠さずにさらけ出す場面には強い感動がある。言葉で説明しすぎるよりも、彼女たちが歌い上げるデュエットのほうが何倍も想いが伝わるのだ。まさしくミュージカルの真骨頂である。
結末に関してはまだまだ語りたいことが山ほどあるが、ぜひ多くの人にその目で確かめてほしいと切に願う。とりわけ、ラストシーンの表情や演出の微妙な変化からは、続編を期待させる要素がにじみ出ているように思えた。前編だけで完結するような大団円ではないが、まだ見ぬ未来を予感させる終わり方は決して後味が悪いわけではない。ここまで丁寧にキャラクターを描いた上で、次なるステージを楽しみにさせる手腕には拍手を送りたい。
この映画は音楽と魔法と友情が三位一体となり、観客を非日常へ連れていってくれる力を持つ作品だと感じた。アリアナ・グランデが出演するというだけでも注目度は高いが、実際に鑑賞してみるとそれだけではない魅力が次々に押し寄せる。華やかな映像と心躍る音楽に加え、ずっしりとした人間ドラマが折り重なっているため、ひとときの娯楽を超えた余韻が残るのだ。観終わった後に、ふと自分自身の大切な何かを再確認したくなる。そんな体験を求めるならば、この映画は最適な選択肢といえよう。
映画「ウィキッド ふたりの魔女」はこんな人にオススメ!
この作品は、ファンタジーやミュージカルが好きな人にもちろん合うが、実は人間関係に悩んだ経験のある人、何かしら自分のコンプレックスを抱えている人にも深く刺さる内容だと思う。華やかな世界を舞台にしているとはいえ、その根幹には「孤立と理解」「差別と受容」といった普遍的なテーマが通底しているからだ。表面上はきらびやかでも、内面では必死に自分の居場所を探している登場人物たちに共感する方は多いのではないだろうか。
迫力ある音楽や派手な演出がある一方で、心の機微を丁寧に描いたシーンも多い。誰かとぶつかることを恐れながらも、自分の正しさや優しさを信じ続けたい人、あるいは仲間との衝突を避けられない場面でどのように振る舞うべきか悩む人などにとって、励ましとなる部分が多々あるだろう。自分らしさを捨ててしまえば楽な道もあるかもしれないが、それでも胸を張って生きたいと思う人にとっては、この物語で描かれる魔女たちの苦悩と奮闘が心を突き動かすはずだ。音楽や踊りを存分に楽しみながら、いつの間にか自分自身を重ね合わせてしまう。そんな作品に出会いたいなら、ぜひ一度体験してみることをおすすめしたい。
それから、本作は大切な人と一緒に観るのも悪くない。友だちや家族、恋人など、それぞれの立場からキャラクターの選択や葛藤を語り合う機会が生まれやすいだろう。共感する魔女が異なることで、感想の相違を発見したり、逆に意外なところで意見が一致したりして盛り上がれるはずだ。劇場のスクリーンで圧巻の映像と音楽に包まれるひとときは特別だが、後から振り返って「自分ならどう動くだろう」と想像する時間もまた楽しい。
さらに、普段はあまりミュージカルに触れないという人でも、敷居の高さを感じずに入り込める構成になっている。歌と踊りは物語の本筋にしっかり組み込まれ、キャラクターたちの心情をストレートに表現してくれるのだ。そのため、歌う理由がないのに急に歌い始める違和感を覚えやすい人でも、この映画なら素直に受け止められるかもしれない。盛大なパフォーマンスの裏には濃厚なドラマが流れているので、音楽やファンタジーという要素を抜きにしても充分に楽しめる内容だと感じる。
まとめ
映画「ウィキッド ふたりの魔女」はエンターテインメントと社会的テーマを高度に融合させた作品であると感じた。明るく豪華な舞台でありながら、キャラクター同士の衝突や、それぞれが抱える傷に真摯に向き合い、観る者に考える余地をしっかり残してくれる。単に華やかな歌と踊りを楽しむだけでなく、「自分の信念」をどう貫き、「仲間との絆」をどのように育むかなど、根源的な問いを投げかけてくる点が大きな魅力だ。
一度観ただけでは見落としてしまいそうな細かな伏線や、登場人物の背景に隠された秘密もあり、リピート鑑賞の価値が十分にある。シンプルにミュージカル映画として楽しんだあと、ふと立ち止まって人間の弱さや強さについて振り返るきっかけにもなるだろう。映画館を出る頃には、華麗な世界に魅了された満足感と、作品が問いかける命題を自分自身で噛み砕こうとする姿勢が芽生えているかもしれない。そんな余韻を味わいたい方は、ぜひ本編を手に取ってもらいたい。
何より「違いを持つ者同士が手を取り合う尊さ」をこれほど鮮やかに描き出した物語は貴重だ。自分には理解できない相手でも、立場を変えれば深く共感できる部分が潜んでいるかもしれない。それを魔女たちの友情が教えてくれるところに、本作の大きな意義を感じる。今後の続編がどう展開されるかも含めて、期待が尽きない一本だといえるだろう。