アンダーニンジャ

映画「アンダーニンジャ」公式サイト

映画「アンダーニンジャ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は花沢健吾の人気漫画を福田雄一監督が実写化したアクションコメディである。主人公の雲隠九郎を演じるのは山﨑賢人で、ヒロイン役の浜辺美波やムロツヨシ、佐藤二朗といった個性的なキャストが脇を固めている。太平洋戦争後、GHQによって解体されたはずの忍者組織がひそかに現代まで存続し、20万人もの忍者が社会の暗部で活動しているという大胆な設定は、観る者の興味を一気に引き寄せる力がある。

一方で、福田監督お得意のギャグ演出が連発されるため、原作の持つ独特のシュール感やダークな雰囲気が薄まっていると感じる向きもあるようだ。実際のところアクションシーンは迫力十分な一方で、場面の切り替えが激しくテンポが良いとは言い難い部分も散見される。本稿では、そうしたメリットとデメリットを含めて、激辛目線で本作の魅力や問題点を語っていきたい。

原作ファンやコメディ好きの方がどのように受け取るべきかを、筆者なりの視点で解説するので、ぜひ最後まで読み進めてほしい。

映画「アンダーニンジャ」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「アンダーニンジャ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作「アンダーニンジャ」は、一見すると現代日本に溶け込んだ忍者たちが暗躍する様子をコミカルに描いた娯楽作に思える。しかし、幕を開けてみれば、そのベースにあるテーマは意外と硬派である。太平洋戦争後、表向きは解体されたとされる忍者組織が今なお存続し、社会の裏側で諜報活動を続けるという設定自体が、社会の「見えない部分」への興味を大いに刺激するからだ。特に、主人公である雲隠九郎の行動や思考を通して描かれる「自分が何者であるのか」というアイデンティティの揺れや、周囲と折り合いをつけながら自分の本分を全うしていく姿は、想像以上にシリアスなメッセージを伴っていると感じた。

もっとも、本作の監督が福田雄一という点は、大きな特徴であり、同時に論点にもなっている。彼の作品では常套手段とも言える“笑い”の演出が多用されており、忍者アクションの緊張感が高まるかと思えば、次の瞬間にはギャグシーンが挿入されるという緩急が激しい。コメディ要素が好きな観客には心地よいテンポかもしれないが、原作の持つシュールでややダークなムードを重視していたファンにとっては、テンションの落差がしっくりこない可能性がある。筆者自身も、アクションシーンの剣戟や体術に集中したいのに、ギャグが割り込んで流れを断ち切られるように感じる場面があったため、そこは評価を下げざるを得ないポイントである。

一方で、アクションの面においては、山﨑賢人やアクション女優として実績のある共演者たちの身体能力が存分に発揮されている。原作の“現代忍者”という着想をどこまでリアルに再現できるのか疑問もあったが、実際には派手なワイヤーアクションやCGだけに頼るのではなく、生身の動きを活かした戦闘シーンも見ごたえがある。また、戦闘における仕掛けや小道具の使い方もバラエティに富んでおり、刀や手裏剣に限らない“忍術”の表現が施されている点は非常に興味深い。ただし、クライマックスシーンでの大立ち回りに至るまでの展開がやや冗長で、「これから盛り上がるのか?」と思うタイミングでコメディ色が再び強まってしまうのは惜しいところである。

物語そのものは、雲隠九郎が上司の大野から極秘任務を言い渡され、謎の組織「アンダーニンジャ」を調査するというところから始まる。高校に潜入し、クラスメイトの野口彩花と接触する展開は、学園もののドタバタ劇のようでもあり、忍者としての素性がバレないようにする軽妙なやり取りが笑いを誘う。しかし、物語が進むにつれ、忍者組織の複雑な人間関係や、世界各国の諜報機関が絡んでくる要素などが顔を出し、徐々に緊張感が高まっていく構成になっている。その段階で福田監督お得意のギャグが入ると、笑いがある意味“逃げ道”のようにも作用して、シリアスさを相殺してしまう場面もあるのが難点だ。

キャスト陣に目を向けると、山﨑賢人はコミカルな役柄から本格的なアクションまで柔軟に演じており、忍者としての“軽やかさ”はしっかり表現できていると感じた。むしろ意外性があったのは浜辺美波で、普段のイメージとは異なる役どころを引き受けながら、軽快な演技で作品の雰囲気になじんでいた。また、ムロツヨシや佐藤二朗といった福田組の常連とも言える俳優が放つ絶妙なアドリブ感は、好き嫌いこそ分かれやすいが、その掛け合い自体は面白く、観客を笑わせる力があるのは確かだ。こうしたキャスト陣の相乗効果によって、映画全体に活気が宿っている点は評価に値する。

ただ、原作ファンとしては、物語から大幅にカットされたエピソードやキャラクターの取捨選択に不満を覚えるかもしれない。本来であれば活躍するはずの外国人忍者や、九郎の兄弟たちにまつわる物語がバッサリと省かれており、原作の持つシュールな奥深さや、キャラクター同士の複雑な関係性が十分に描き切れていない印象を受けた。「映画には時間的制約がある」という事情はわかるものの、もう少し原作をリスペクトした構成ができなかったのかと思ってしまう。特に福田監督のコメディ色が作品を大きく塗り替えてしまった結果、原作を好んでいた観客ほど違和感を拭えないかもしれない。

映像面では、福田作品としては挑戦的なカメラワークやCG合成が随所に見られ、それなりに迫力を出している。特に、忍者が建物を跳躍するシーンや、夜闇に紛れて接近戦を繰り広げるシーンでは、ライティングとカメラの動きが巧みに組み合わされており、視覚的にも楽しませようという意図が伝わってくる。また、音楽面ではCreepy Nutsの楽曲が使用され、主人公の葛藤や作品のスピード感に合うリズミカルなサウンドが良いアクセントとなっていた。その一方で、肝心なアクション最中のBGMが軽妙すぎて、せっかくのシリアスムードを薄めてしまっている場面もあり、福田監督らしい“笑いに寄せた”路線が全面的に押し出されている印象だ。

ストーリー全体を総括すれば、コメディパートとシリアスパートの落差が激しく、そこを面白いと捉えるか、ちぐはぐだと感じるかで評価が分かれそうだ。個人的には、「原作の世界観をどこまで再現しているか」「福田監督の笑いのテイストに馴染めるか」が鍵になると思う。忍者同士の対決や現代社会に忍び込むという題材は魅力的だが、肝心のストーリーや演出がギャグを中心に進んでいくため、期待していたほどの緊張感や重厚感は得られなかった。逆に言えば、コメディ作品として観れば細かい所は気にならず、豪華キャストのかけ合いや勢いのあるアクションを素直に楽しめる映画とも言える。

観終わった後には、「面白かったけれど、もう少し原作を活かしてほしかった」という物足りなさも否めない。特に原作ファンにとっては、あれもこれも削られていると感じる場面があり、エンディングに至るまでの構成にも唐突感がある。とはいえ、山﨑賢人や浜辺美波の演技、さらに強烈なギャグを次々と繰り出す常連キャストたちの存在感は大きく、退屈するほど単調な作品ではないのは確かだ。映画としてのクオリティを期待しすぎず、“福田流コメディ”を堪能する心構えで臨むのであれば、一見の価値はあるだろう。笑いどころとアクションの融合を楽しむ人にとっては当たりだが、原作の世界観を大事にしたい人にとっては辛辣な部分が多い、そんな一本である。

総じて言えば、本作は「原作重視派」と「コメディ重視派」で大きく評価が変わる作品だ。エンターテインメントとしての勢いはあるが、その勢いに乗れないと空回りが気になってしまう。本編に登場しないエピソードが多い点や、ストーリー展開が散漫になりがちな点を踏まえると、激辛評価を下さざるを得ない部分もあるものの、「忍者アクション×福田コメディ」という異色の組み合わせは、逆に言えば本作でしか味わえないユニークさでもある。ぜひ劇場や配信で鑑賞して、自分なりの評価を下してみてほしい。

映画「アンダーニンジャ」はこんな人にオススメ!

本作をおすすめしたいタイプは、まず何と言ってもコメディが好きな人だ。福田監督お得意の軽妙なボケとツッコミがテンポよく繰り返されるため、その笑いの空気感に乗れれば楽しい時間を過ごせるだろう。さらに、山﨑賢人や浜辺美波など、若手からベテランまで幅広いキャストの個性が前面に出ており、キャラクター同士の掛け合いを楽しめるタイプの観客にも向いていると思う。忍者アクションに関しても、ハリウッド映画ほど重厚感はないが、ワイヤーやCGを組み合わせた派手な動きや、生身を生かした格闘シーンなど多彩な演出が盛り込まれており、アクションを軽快に楽しみたい層にも適している。

一方、原作漫画を深く愛しているファンや、シリアスな作風を好む人にはやや注意が必要だ。原作のストーリーを網羅的に描いているわけではなく、要所要所で大胆な改変やカットが行われているため、思い入れの強いエピソードが削られている可能性も高い。また、福田流のギャグが苦手な人にとっては、アクションやストーリーに浸りたいタイミングで突然ギャグシーンが挿入されるので、思わず白けてしまうかもしれない。したがって、本作を最大限に楽しむには、「シリアスな忍者映画」というよりは「コミカルなアクション映画」と割り切って観る姿勢が望ましいだろう。そうした柔軟な見方ができる人には、十分に楽しめる映画である。

まとめ

映画「アンダーニンジャ」は、現代に溶け込む忍者という独特の題材を扱いながらも、福田雄一監督の手腕によるコメディ要素が全編を通じて強く打ち出されている。アクションの魅力もあるものの、原作特有のシュールさやシリアスな緊張感が薄まりやすい点は、原作ファンにとっては微妙な評価に直結するかもしれない。

一方で、豪華キャストが繰り広げる笑いの応酬は、観客を引き込む力を確かに持っており、映画館で楽しむエンターテインメントとしては十分な盛り上がりを見せている。ここまで賛否両論の声が上がる作品だからこそ、自分がどこに重きを置いて鑑賞するかが重要になるだろう。

原作の再現度やシリアスさを求めると肩透かしを食らうかもしれないが、福田監督らしいコメディを味わいたいのであれば、充実した笑いとライトなアクションが楽しめるはずだ。最終的には、そのギャグテイストと忍者要素のミックスをどう評価するかで、本作に対する感想が大きく変わってくる作品である。