映画「映画刀剣乱舞 黎明」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
鈴木拡樹が主演を務め、刀剣男士たちがスクリーンで活躍する本作は、前作とはまた違う方向に舵を切っていると感じた。前作を好きだった者からは厳しい声も聞こえるが、新しい時代に挑む姿勢を評価する声もある。とはいえ、歴史を守る刀剣男士と仮の主の関係がどう描かれているか、アクションはどのような変化を遂げたのか、気になる点は山ほどある。
本稿では、物語全体を振り返りながら、いい所も惜しい所も包み隠さずに述べていく。あえて辛口の視点も取り入れるので、熱烈なファンには刺激が強いかもしれない。しかし、やはり刀剣乱舞という作品は多彩な解釈が可能で、その柔軟性こそが魅力だと思う。現代の東京を舞台とした奇想天外な物語展開は好みが分かれる部分だが、逆に斬新な楽しさを感じる人もいるはず。さあ、一緒にこの映画の世界を掘り下げていこうと思う。
映画「映画刀剣乱舞 黎明」の個人的評価
評価: ★★☆☆☆
映画「映画刀剣乱舞 黎明」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作を鑑賞して感じた最初の印象は、「やりたいことを詰め込みまくった結果、観る側が混乱しがちな作品になった」というものだ。刀剣男士のビジュアルやアクションは豪華で、鈴木拡樹をはじめとする出演者の力量も高い。しかし、平安時代の導入から現代に飛び込む流れ、そしてスクランブル交差点の最終決戦に至るまで、要素が多すぎるためか全体的に散らかった印象を受けた。
もっとも、刀剣乱舞という題材自体、さまざまな時代を巡るという設定であり、もともと何でもアリな柔軟さを備えている。ただし、2時間ほどの尺に詰め込むには荷が重かったのか、歴史上人物や仮の審神者たちが次々登場するわりに、それぞれの背景が充分に描き切れていない部分が目についた。とくに酒呑童子と伊吹の設定や、山姥切国広と酒呑童子がどこでどう交錯したのかなど、説明が追いつかない箇所は少なくなかったと思う。
しかも本作では、刀剣男士だけでなく現代側にも複数の“仮の主”が設定されている。琴音という女子高生はまだメインヒロインとして描写が多めだったが、ほかの神主や内閣官房の役人、ギャル風の若者など、面白そうなキャラクターがそろっているにもかかわらず、見せ場が少ないのがもったいない。せっかく個性が立っていそうなのに、日常のドラマや出会いの経緯がもう少し深堀りされていれば、物語により厚みが出たのではないかと思う。
とはいえ、現代を舞台にすることで得られる良さもある。刀剣男士が渋谷の街やスカイツリー周辺で戦う姿は、それだけで視覚的なインパクトが強い。前作「継承」では時代劇要素が中心だったが、今回は特撮的なアクションやVFXが盛んに取り入れられており、“非日常×現代”をダイナミックに魅せる工夫は伝わってきた。子どもやアクション好きの観客は、スクランブル交差点の大乱闘にワクワクするかもしれない。
ただ、本作のテーマを一言でまとめるのは難しい。冒頭で平安時代の酒呑童子討伐をチラリと見せたあと、核心を担うべき酒呑童子や伊吹のドラマがやや駆け足で進み、刀剣男士と仮の主たちの関係も十分に掘り下げられないままクライマックスに突入する。結果として、「大勢の刀剣男士が現代に集結して敵を倒す映画」という印象が強くなり、人物同士のつながりが浅く映るのは惜しい。ストーリー重視の人にとっては、もどかしい点が多いだろう。
また、「仮の主」として出てくる現代人たちに深みを持たせようとした意図は感じるが、描写が追いつかなかった印象だ。琴音は古い物の声を聞ける能力を持ち、それが三日月宗近にとっての助けになる。けれど、琴音がこの力によってどう苦悩し、どう成長していったのかは断片的にしか伝わってこない。ほかの仮の主たちにも個別のドラマを感じさせる要素があるが、「見ている側に想像してほしい」というレベルを超えて、情報不足ゆえに何を思えばいいか掴みづらいのだ。
もっとも、刀剣男士の描き方そのものは悪くない。山姥切国広の苦悩や、三日月宗近の大らかな魅力、それぞれの戦闘スタイルの違いなど、目で楽しめる要素は満載である。三日月宗近が現代に馴染んでカフェで写真を撮られまくるシーンや、「抹茶ラテマキアート」にはまる様子などは、妙にインパクトがあって笑ってしまった。鈴木拡樹が主役を担う以上、このキャラクターをどう味付けするかは大事だったと思うが、自由奔放さをキープしつつ、最終的には刀剣としての矜持を見せる落差が面白い。
さらに中盤以降、山姥切長義やへし切長谷部ら、別の本丸の刀剣男士が合流する展開は、いわゆる“お祭り映画”的な盛り上がりがある。ただ、彼らが現代に降り立つ経緯があまり語られず、結果として「とにかく増援キャラが来てくれた!」という印象にとどまりやすい。複数の本丸から出張してきたという設定自体はワクワクするが、見せ場は大騒ぎのスクランブル交差点に集中しているので、個々のドラマをじっくり楽しむ余裕がないのが残念だ。
終盤の山姥切国広が酒呑童子を討ち取る場面は、作品全体のクライマックスになっている。血塗れの因縁があるがゆえに、彼をメインの討伐役に持ってきた意図は分かるが、「そもそもなぜ山姥切国広と酒呑童子が結びつくのか?」という説明はやや弱い。童子切安綱の名前は登場せず、酒呑童子を象徴するアイテムの扱いも簡略化されているため、歴史ロマンを深く味わいたいファンには肩透かしを食うかもしれない。
ストーリー面で引っかかるところは少なくないが、役者たちの熱演や映像の迫力は間違いなくパワーアップしている。前作では割とシンプルだった時代劇アクションが、今回は現代を舞台にしたアクロバットな殺陣やVFXへと発展。飛び交うエフェクトや超人的な動きが連発するため、刺激的な画を楽しみたい人にはうってつけだと思う。仮に内容が雑だと感じても、「派手な見せ場を大音響で体感する」というエンターテインメントの味わい方は大いにアリだ。
逆に言えば、脚本や設定の整合性を厳密に気にする人には、やや不満が残るだろう。ワイヤーアクションや派手な合戦シーンは見ていて痛快だが、その背景にある必然性や登場人物の心情描写に厚みが足りない。大味な盛り上げかたが好きなら楽しいが、「もっと映画的な完成度を高めてほしい」という視点からだと、中盤でのストーリー説明不足や終盤での一気に片づける展開が物足りなく感じるのではないか。
それでも本作が提示した「現代×刀剣男士」というテーマは、今後さらに広がりを見せる余地もある。日本各地に刀剣が眠り、その刀を崇めてきた人々がいる以上、その念いが新しい物語を生む可能性は無限大だ。この映画で披露されたような“仮の主が市井の人々”という設定は、刀剣乱舞の新たな解釈にもなり得る。現に、ほんの少し触れられただけの神主やギャルなどの存在は、本来ならば独自の掘り下げに耐えうるだけのポテンシャルを感じた。
鈴木拡樹の力強い演技を中心に、刀剣男士たちが現代で騒ぎを起こす派手な映画としては楽しめる。だが、一方で物語のまとまりや人物描写の深さを求める観客にとっては、「惜しい!」と言わざるを得ない部分が多い。歴史ロマンや人間ドラマを濃厚に味わいたい人には物足りなく映るだろうし、「もっと刀剣男士それぞれの背景を丁寧に描いて!」という声が出るのも当然だ。
とはいえ、どんな作品も一長一短がある。合わない部分は思い切って見なかったことにし、華麗な殺陣や熱量あふれる演者の姿に集中して楽しむ方法もある。「映像に力を入れた一大アクション祭り!」くらいの気持ちで観ると、意外と充実感を得られるのではないか。激辛な意見が多めになってしまったが、派手さと勢いだけは確かに前作を上回っており、刀剣乱舞というコンテンツの広がりを感じるポイントも多い。
結局のところ、本作は「雑でも勢いのあるエンタメを楽しみたい人」か「推し刀剣男士がスクリーンで躍動する姿を堪能したい人」向けの映画だと思う。深く考えずに“祭り”として味わえば、「お祭り騒ぎの大集合映画だったな」と割り切れる。逆に、歴史考証や論理的な展開を重視したい人にはつらい部分がありそうだ。そこをどう折り合いをつけるかが、本作との付き合い方のカギかもしれない。
映画「映画刀剣乱舞 黎明」はこんな人にオススメ!
まず、一番に挙げたいのは「刀剣男士が大好きで、とにかく動く姿を見たい人」だ。アニメや舞台・ミュージカルでは見られなかったようなワイヤーアクションや大掛かりなVFXが入った戦闘シーンが本作の見どころ。都市のど真ん中で刀を振るうなんて、そうそう拝めるものではない。
次に「派手なエンタメ作品を気軽に楽しみたい人」もおすすめだ。本作は筋が複雑だと感じるところもあるが、それよりもアクションやビジュアル面の刺激が勝っている。華やかな映像体験が好きなら、多少のストーリーの荒さは気にせず楽しめるだろう。
鈴木拡樹をはじめとする出演者のファンにも嬉しいポイントが多い。現代の東京で振るわれる刀や、思いがけないコメディタッチのやり取りが随所に盛り込まれていて、「こういう姿もアリかもしれない」と新鮮に感じるかもしれない。普段は時代劇テイストが強いイメージの刀剣乱舞に、特撮風のテイストが加わるとこうなるのか、と驚く場面もあるはずだ。
いろいろと突っ込みどころを見つけたい人にも向いている。あれこれ気になるシーンを仲間うちで語り合うと、意外な解釈が飛び出して盛り上がるかもしれない。むしろ真剣に考察してみると、設定に隠された面白さを発見できるタイプの映画でもある。
要するに、「にぎやかで派手なアクションを堪能したい」「推し刀剣男士の新たな魅力に出会いたい」「多少のご都合展開もお祭り気分で楽しめる」そんな人ならば、本作を満喫できる可能性が高いと思う。
まとめ
本作は、前作よりさらにスケールアップした映像表現や、現代を舞台にした奔放な物語が特徴だ。しかしながら、多数の新要素を取り入れたためにストーリーや人物描写のバランスが崩れてしまい、散漫な印象も否めない。大勢の刀剣男士が集結する豪華なお祭り感はあるものの、「もっと深いドラマを期待していた」という声が上がるのは当然だろう。
とはいえ、鈴木拡樹らキャストの気迫と、VFXで彩られた斬新なアクションは見応えがある。とくにスクリーンで繰り広げられる殺陣の迫力は圧巻で、派手な映像を浴びるように体感したいなら悪くない選択だ。結局のところ、現代ドラマの要素が加わった刀剣乱舞という新テイストを楽しめるかどうかがカギになる。合わない部分も割り切って見るなら、それなりに盛り上がるアクション作品として成立していると思う。