映画「逃走中 THE MOVIE」公式サイト

映画「逃走中 THE MOVIE」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は人気テレビ番組を下敷きにした実写映画版として話題を集めたが、実際に観てみると期待と現実のギャップに思わず笑ってしまった。まず、ど派手な演出や豪華なキャストが画面を埋め尽くすのは確かであり、アイドル好きや番組ファンならテンションは上がるかもしれない。だが、ストーリーが始まって数十分で「おや?」と首を傾げる展開が多く、肝心の逃走劇が妙に薄味。さらに途中からいきなり命を懸けたデスゲーム路線へ迷い込むため、番組らしさを楽しみにしていた身としては驚きを通り越して困惑した。

出演者たちの演技は真剣なのだが、真剣さの方向が定まっていないせいか、観ているうちにモヤモヤ感が膨れ上がる。シリアスなはずなのにおかしなギャップを覚える場面もある。大好きな番組だけに残念に思う部分も多いが、一方でネタ作品として眺めるなら違った面白さもあるかもしれない。そんな複雑な感情を抱きながら、本稿では内容を振り返りつつ、その魅力や微妙だったところを切り込んでいく。

映画「逃走中 THE MOVIE」の個人的評価

評価: ★☆☆☆☆

映画「逃走中 THE MOVIE」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここから先は本編の細部に踏み込んだ内容なので、まだ未鑑賞の方は注意されたい。とはいえ、実のところ本作は手に汗握るサバイバル感よりも、あれこれツッコミを入れたくなる強烈なインパクトが上回っていると感じた。以下、あくまで個人的な視点に基づく手厳しい感想である。

まず、冒頭はおなじみの番組風スタートだ。広々としたフィールドに対して数多くの参加者が集い、賞金が掛かった鬼ごっこが始まる。ここまでは「いつもの逃走中がさらに豪華になってスクリーンに!」というワクワク感がある。しかし、ワイルドハンターなる凶悪な追跡者が登場してからは事態が急変。普通のゲームだと油断していた参加者が次々と消滅する展開へ突入し、「あれ、自分はいま何を観ているんだ?」と面食らってしまった。

このワイルドハンターが恐ろしく強いのに加えて、人間を捕らえると容赦なく消してしまう。その瞬間に番組らしいコミカルな演出は吹っ飛び、一転して物騒なデスゲームへ。この時点で「まさかこれが本筋なのか…」と呆然とする。もともとの番組は捕まっても失格になるだけだが、本作では命懸けになってしまうため、笑って見逃せる余裕がなくなる。なのに、そんな緊迫感がありそうでなぜか薄い。このチグハグさこそ本作の大きな問題点だと思う。

登場人物も謎が多い。たとえば高校時代にリレー部だったメンバーがやたら大勢出てきて、以前の因縁や抱えてきた悩みを急に語り合う。借金や失踪や裏切りといったドラマ要素を山盛りにしてはいるものの、それが逃走劇にどうからむのかは曖昧。いきなり過去の因縁を暴露して口論したり、次の瞬間には「やっぱり友情が大事だ」と仲直りしたり、情緒の振れ幅が大きすぎる。脚本としては登場人物をドラマチックに描きたいのだろうが、観客の目線では「いや、今そんな話をしてる場合なのか?」とギャップが激しい。

さらに小学生の男の子まで現れ、無口だったり方言を理由にいじられたりと複雑な背景を持ち込む。途中からは姉が必死に弟を守ろうと奮闘するが、物語の流れに対して彼らの存在がなかなか噛み合わない印象だ。そのうえ終盤では、なぜか大人たちが次々にリタイアしていく中、最後の大役がこの弟に託されるという展開へ。さすがに「どうしてこうなった」と思わず笑いがこみあげてしまう。

そして極めつけは、逃走中がいつの間にか「どちらのボタンを押すか」で世界の運命が左右されるような大ごとに発展していくことだ。押せば大金ゲット、しかし仲間が消えたまま。別のボタンを押せば全員が生き返り、時間も巻き戻される。しかも巻き戻った結果、借金問題までなぜか解決し、キャラクターたちはほとんど円満に元の生活へ戻ってしまう。この強引なハッピーエンド感には、開いた口が塞がらない。あまりに都合が良すぎる展開の連発で、観終わったあとには妙な脱力感だけが残った。

また、バラエティ番組のはずなのに後半になるほど不穏な演出や描写が増えていくため、テレビでの馴染みとはかけ離れた雰囲気である。子どもたちが見てもいいのか悪いのか悩むレベルで、ある意味恐怖映画のような要素が入り混じっている。かといって本格的なホラーでもなく、そこにアイドル映画的な青春シーンも詰め込まれているから、一貫したテーマをつかみにくい。おまけに多くの芸能人が本人役でちらっと顔を出し、お約束のネタを言い残して消えていくというカオスさも相まって、作品全体の方向性が定まらない。

残念ながら俳優陣の魅力がフルに活かされているとも思えない。出演者それぞれが頑張ってはいるのだが、シナリオの都合で急にキャラが変わったり退場したりするため、どの役にも入り込みづらい。川西拓実さんらアイドル勢が走り回っている姿は見応えがあるが、ストーリー自体がうまくまとめられていないので彼らのパフォーマンスも空回りが目立つ。歌やダンスを期待したファンは「もうちょっと見せ場を…」と物足りなく感じるかもしれない。

もちろん見どころが皆無というわけではない。巨大スクリーンならではの迫力や、予算をかけたアクションの映像は派手で見栄えはする。また、もともとのテレビ番組にあるような「周囲をうまく利用してハンターを避ける戦略」などが少しだけ盛り込まれているシーンは、もう少し伸ばせば面白くなったのではないかと惜しく思う。下地には面白くできる要素があったはずだが、まとめ方がちぐはぐで機会を逃してしまった感じだ。

結局、本作は「なんでもかんでも入れすぎて散らかってしまった」感が否めない。逃走中の緊張感、青春ドラマ、デスゲーム、アイドルの要素をすべて混ぜ合わせた結果、味の方向性がわからなくなった料理のような仕上がりになったといえよう。笑いあり涙ありのエンタメを狙ったにしても、どっちつかずでぼんやりしてしまった印象は強い。映画館でポップコーン片手に見始めて、途中で「あれ、これって本当に『逃走中』だったっけ?」と何度も振り返ってしまった。

とはいえ、あまり深刻に考えずに観ればネタとして突っ込み放題なので、妙な楽しさはある。こういう珍作を酒の肴に盛り上がるのも悪くはないかもしれない。視聴後に友人と「あそこはどうなの」「なんでこうなるの」と話し合う時間だけはそこそこ盛り上がる。だが、映画としておすすめしにくいのは事実であり、評価はどうしても辛辣になってしまう。かつてのテレビ番組が好きだったからこそ余計に残念さを感じる作品であった。

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映画「逃走中 THE MOVIE」はこんな人にオススメ!

個人的にこの作品を挙げるとしたら、ある程度「なんでも受け止められる」器の広い方だ。ストーリーの破綻や突飛な展開も含め、勢いだけを楽しめる人には意外な快感があるかもしれない。なにせ前半と後半では世界観が豹変し、逃走中らしさが急激に消えるという珍事が起こる。あまり真面目にツッコミすぎるとストレスを抱えてしまうため、ノリと勢いを愛でられる人向けといえよう。

また、出演しているアイドルを追いかけたい方にも向いている。川西拓実さんや木全翔也さんなど、お気に入りの推しがどんな表情や演技を見せるのか、画面に集中して楽しみたいなら本作をチェックする価値がある。ただし、推しの存在感がどれほど濃厚かといえば意見が分かれるところ。ほんの一瞬でも推しを見られれば満足するというファンには良いが、ストーリー的な見せ場を期待するなら肩透かしを食らうかもしれない。

さらに、ツッコミどころ満載のB級感が好きで「むしろ破天荒な方が楽しい」という方にも合うだろう。妙な展開に興奮しながら「ああ、もう何でもありか!」と笑い飛ばせる人なら、逆にこういう作品はアリだ。後々までネタとして語り継げるインパクトは確かにある。問題だらけなのも事実だが、逆にそのギャップを笑って昇華できる人には刺激的な時間になるかもしれない。

まとめ

映画館に足を運ぶ際は、かつてのテレビ番組のような手に汗握る鬼ごっこをイメージしすぎない方が良い。実際には序盤だけ番組らしさを残しているが、中盤以降は壮大なデスゲームへと化し、脇道で語られる青春ストーリーも急展開の連続だ。観客をどう楽しませたいのかが散漫で、あれもこれも詰め込みすぎた結果、まとまりに欠ける仕上がりになっている。

もっとも、大金をかけたハリボテ感や、おかしな設定の連続を突っ込み倒す楽しさはあるので、心に余裕があるなら一興かもしれない。普通の面白い映画を求めるなら肩透かしを食らうかもしれないが、「ハプニング映画」として茶化しながら観るなら話のタネとして価値はあるだろう。そう割り切れるなら笑いどころは多い。自分としては評価は低めだが、ある意味記憶に残る体験を味わえたともいえる作品であった。