映画「テルマエ・ロマエ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は古代ローマの浴場設計技師が現代日本にタイムスリップしてしまう、という突拍子もない設定が目を引く作品である。正直、最初に聞いたときは「なんでローマ人が日本の風呂に興味を持つんだ?」と首をかしげたが、いざ観てみるとそのギャップがクセになるほど面白い。平たい顔族だなんだと軽妙なやり取りが並ぶ一方で、日本のお風呂文化と古代ローマの荘厳さがまさかの化学反応を起こす展開には思わず吹き出してしまった。何気ない銭湯シーンにも、奇妙なまでに渋いローマ人目線のリアクションが入り、それが物語を一層盛り上げてくれる。
本作を語るうえで欠かせないのは、ユニークなキャストたちの顔芸や身体表現だろう。ギョロッとした目で驚きまくる姿や、筋肉隆々の体がドンと構えるだけで笑いを誘うのだから恐ろしい。タイムスリップものの定番を盛り上げる不思議な世界観が魅力の映画であり、日本独特の風呂文化を外側から眺める新鮮さも見どころである。
映画「テルマエ・ロマエ」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「テルマエ・ロマエ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは映画「テルマエ・ロマエ」の感想・レビューをさらにネタバレ込みで述べていく。何せ古代ローマ人がいきなり現代日本に迷い込み、銭湯や温泉で当たり前のように湯船につかる光景は、観客としては異様なほどインパクトが強い。しかも主人公ルシウスは真面目一本槍の性格で、当初は「日本とはなんぞや?」と首を傾げるばかり。そんな彼が徐々に現代日本の風呂文化に魅了され、その知見を古代ローマに持ち帰って新たな浴場を建築していく、という物語の流れが絶妙にコミカルでシュールである。
まず注目したいのは、ルシウスが現代日本の技術を自分なりに解釈してローマ風にアレンジする際の大胆さだ。湯桶を見て「これはなんという精巧な木製の器なのだ!」と目を輝かせ、ペンより細い筆記具を見つければ「どうやってこのような繊細な文字を書いているのか!」と感嘆する。そのたびに我々日本人としては「いや、それ普通に文房具屋に売ってるし」と思わず突っ込みたくなるのだが、そこがまた本作の面白いところである。ルシウスにとっては未知なる世界の宝庫であり、我々にとっては馴染み深いものが異次元のように見えている。このギャップこそが「テルマエ・ロマエ」の最大の魅力といえよう。
さらに、現代パートでルシウスが目にする数々のアイテムや建築技術が、古代ローマパートでは一種の魔法か神の恩恵のように再解釈される点も笑いを誘う。たとえばプラスチック製品やビニール袋一つとっても、彼にとっては神々の力か、はたまた妖精の技術にしか思えないかもしれない。その結果、古代ローマの人々からは「ルシウスはどこからこんな奇跡を持ち帰ってくるのだ」と驚嘆され、皇帝すら感動のあまり新しい浴場の建設を後押しする。その流れでローマの浴場がどんどん日本の銭湯さながらの仕様に近づいていく光景は、大真面目だからこそ余計にギャグとして成立しているのである。
演出面でも、古代ローマの壮大な建築美と、日本の銭湯や温泉の鄙びた風情との対比が視覚的に面白い。CG技術を駆使した大理石の列柱や豪奢な装飾もあれば、今時なじみ深いのれんやスーパーマーケット併設の銭湯などが交互に登場する。これが何とも言えないミスマッチ感を生み出し、観客としては「これ絶対に交わらないはずの世界観がどうしてこんなに自然に混ざっているんだ?」という笑いを誘発するのだ。
また、本作の登場人物たちも味わい深い。ルシウスをはじめとする古代ローマ人たちのリアクション芸が秀逸で、特に主役の彼が驚く演技はもはや様式美といえる。口が開きっぱなし、目が飛び出そうになる。日本人キャストも「平たい顔族」として出演しながら、意外にローマ人との対比を自然に盛り上げているのだから見事である。ヒロイン的存在の日本人女性がルシウスと交流を深めるくだりでは、時空を超えた恋の予感もほのかに漂うが、それすらもコメディタッチで処理されるため、重たくならずにバランスよく仕上がっている。
一方、ストーリー全体としては非常にシンプルだ。タイムスリップものならではの「どうしてタイムスリップしたのか?」という謎が深掘りされるでもなく、理由づけが曖昧なまま進んでいく。しかし、それこそが本作の醍醐味であり、あまり小難しい理屈をこね回すよりも、勢いとビジュアルで突っ走ったほうが楽しめるのだ。「とりあえず日本へ飛ぶ」「何だか知らないがローマへ戻る」という一連のプロセスがほぼスイッチ一つで行われるくらい軽快に描かれ、視聴者としては考える間もなく次の笑いどころに連れていかれる。これは本作のテンポ感を高める要因となっており、あっという間に最後まで観られる作りになっているといえよう。
ネタバレとして触れておきたいのは、終盤のクライマックスの盛り上がりである。ルシウスが皇帝の命を受けて壮大な浴場を完成させるシーンは、本作のなかでも一種のカタルシスがある。日本の銭湯文化にインスパイアされた設計が導入され、ローマ市民が未知の快楽を堪能する姿には「おお、こうして世界が一つに…」なんて大げさに考えてしまうほどの爽快感がある。そして最後には再びルシウスが日本へ飛ばされたり、主人公たちが入り乱れたりと、オチとしてはやや強引な展開も見られるが、そこも含めておおらかに受け止められるのが「テルマエ・ロマエ」の魅力である。
もっとも、笑いどころ満載の一方で、いわゆるメッセージ性や深みのあるドラマを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。古代ローマと現代日本の文化的交流がきちんと掘り下げられるわけでもなく、タイムスリップの謎が解明されるわけでもない。しかし、その物足りなさを超える勢いと笑いがあるのが本作の強みといえよう。映画が進むにつれて、筆者自身も「細かいことは気にしない、面白ければそれでいい」と心の底から思えてくるから不思議だ。
総評としては、気軽に楽しめるエンタメ作品であることは間違いない。とにかくローマ人たちの全力リアクション芸を観たい、温泉や銭湯という身近な文化を外の視点から眺めてクスッとしたい、という人にはピッタリの映画だ。ストーリーの起伏やキャラクターの深みを期待するのではなく、あくまでコメディとして笑いを追求するスタンスで鑑賞すれば、「テルマエ・ロマエ」の感想としては上々の面白さを提供してくれるだろう。
とはいえ、筆者としてはもう少し「古代ローマの世界観」を見たかったとも思う。いくらコミカル路線とはいえ、ローマ帝国ならではの風習や政治背景も少しは盛り込んでくれれば、さらに奥深いギャップが生まれたかもしれない。そこが若干の物足りなさとして残るが、何度も言うように本作はあくまでライトなギャグ映画なので、そこまでヘビーなテーマは不要なのかもしれない。
結局のところ、「テルマエ・ロマエ」のレビューとして総括すると、本作は“温泉大好き”な人間が観ると2倍楽しめる作品である。筆者自身も風呂好きなので、「あー、これはローマ人が見たら確かにビックリだろうな」とニヤニヤしながら鑑賞できた。もしこれを観て、「ちょっと銭湯に行ってみようかな」「温泉旅行したいな」と思う人が増えたのなら、それはもう映画冥利に尽きるというものだ。
作品の大枠は常識破りで突拍子もないが、そこに詰め込まれた要素は意外と日本文化の再発見につながる。温泉卵や露天風呂といった当たり前の存在が、古代ローマの視点ではどれほど不思議なものなのかを実感すると、まるで自分たちが異世界に足を踏み入れたかのような錯覚に陥る。映画そのものがタイムスリップ体験を擬似的に楽しませてくれるわけだ。そういう意味でも、素直に「こんな映画は他にないな」と評価するだけの価値は十分にあるといえよう。
結果として、本作を観終わったあとに頭をよぎるのは「あー、なんか楽しかった!」「ローマ人と温泉って、相性良いんだな!」という単純明快な感想である。これ以上の複雑な理論や思想はないし、映画自体があまりそういう重厚感を持とうともしていない。だからこそ、ちょっと疲れた日常に笑いを注入したいときや、友人と一緒にわいわい楽しみたいときなどに打ってつけだ。難しいことは置いといて、古代ローマ人の爆笑リアクションと日本の誇る銭湯文化のコラボに身を委ねる。そうすれば、きっと満足度の高い“風呂タイム”ならぬ“映画タイム”を過ごせるはずである。
映画「テルマエ・ロマエ」はこんな人にオススメ!
本作は、まず何といっても「風呂好き」「温泉好き」「銭湯好き」な人にオススメである。日常的に湯船につかる喜びを知っている人ならば、古代ローマ人の驚く姿に共感したり、「そうそう、風呂って最高だよな」とうなずいたりしながら観ることができるだろう。また、真面目な主人公が思いもよらぬ現代日本のテクノロジーに触れて右往左往する展開が多いため、ギャップ萌えやドタバタコメディが好きな人にもピッタリだ。タイムスリップものとしてはかなり緩い設定ではあるが、その分、深く考えずに楽しめるお手軽エンタメとして成立している。
さらに、「とにかく笑いたい」「仕事や勉強で脳を酷使しているので、ちょっと気楽に息抜きしたい」という人にはもってこいだ。シリアスなストーリーや高度なサスペンスを求めると拍子抜けしてしまうかもしれないが、逆に「笑って心をほぐしたい」「珍妙な設定で思い切り吹き出したい」というニーズには十分応えてくれる。筆者自身も鑑賞中、思わず吹き出してしまうシーンが何度かあったほどだ。
また、ローマ史や日本史に多少なりとも興味がある人にとっても、本作は面白い発見があるかもしれない。史実的にはツッコミどころ満載だが、「もし古代ローマのエンジニアが日本の銭湯を見たらどう思うか?」という問いの答えは、意外と学びを深めるきっかけになる。文化交流の本質をコメディという形で見せてくれるので、息抜きがてらちょっとした知的探求も楽しめるのだ。
まとめ
総じて「テルマエ・ロマエ」は、古代ローマ人が現代日本の風呂文化を経験するという異色設定で、我々が普段当たり前に使っている銭湯や温泉、さらにはドラッグストアの入浴グッズまでを別視点で楽しめるユニークな映画である。真面目なルシウスと日本の風呂とのギャップが生む笑いに重きが置かれており、ストーリーや設定の細かい辻褄は深く追わないほうがむしろ気楽に観られるだろう。
作品全体が「細かいことは気にしないで、思い切り湯に浸かって楽しもう!」と背中を押してくれるような、温泉のようにリラックスできる仕上がりなのだ。日常にちょっとした笑いを取り入れたいとき、家族や友人とワイワイ盛り上がりたいとき、あるいは風呂好きの魂を揺さぶられたいときにピッタリ。
ローマ人が生み出す浴場と日本の風呂文化の摩訶不思議な組み合わせは、一度観たらクセになること請け合いである。