映画「ザ・マジックアワー」公式サイト

映画「ザ・マジックアワー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は三谷幸喜監督が手がけた作品として有名であるが、その笑いのテンポと独特の間、そして豪華キャストが織り成す絶妙な化学反応が見どころである。とはいえ、筆者はとにかく斜に構えて見るタイプなので、「そんなにホメられているなら粗探しでもしてやろう」と身構えて鑑賞したのだが、気づけばスクリーンに釘付けになり、あっという間にエンドロールへ突入していた。特に主人公の間の悪さと、要所で振りかざされる勘違いコメディが妙にクセになる。こういう作品は、終盤に向けてどう盛り上がるのかが肝心なのだが、三谷節らしいドタバタと独特のオチが実に軽妙。笑いだけでなく、人情や思わぬサスペンス要素まで詰め込まれており、「タイトルからしてコメディだろう」と思っていたら意外にドラマチックな部分で驚かされる。

結果として、二度、三度と繰り返し見たくなる“クセ強”映画に仕上がっている。さて、ここからは本作の注目ポイントや深堀りレビューを紹介していくので、気になる方はぜひ心して読んでほしい。ネタバレ厳禁の方は、今すぐスクロールを止めてほしいところであるが、そう言われると読みたくなるのが人間の性というもの。ならば遠慮なく、一緒に本作の魅力へ飛び込んでみようではないか。

映画「ザ・マジックアワー」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「ザ・マジックアワー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからはネタバレを含んだ「ザ・マジックアワー 感想」「ザ・マジックアワー レビュー」の本編突入である。まず最初に言いたいのは、「こんなハチャメチャな状況に陥るなら、普通もうちょっと早めに気づくだろう」というツッコミ満載の展開だ。だが、その“気づかなさ”こそが三谷幸喜作品の妙味であり、どう考えても気づけるはずなのに、なぜかキャラクターたちは見事に騙され、結果としてドタバタをエスカレートさせてしまう。まるでコントの延長線上を2時間弱にわたって観ているかのようであり、テンポ感は軽やか。ときにはギャグを挟みながら、観客を自然にストーリーに巻き込んでいくのがうまいところである。

ストーリーの大枠を振り返れば、佐藤浩市演じる伝説の殺し屋“デラ富樫”がなかなか見つからず、仕方なく売れない俳優を殺し屋に仕立て上げるという荒唐無稽な作戦が発端となる。そもそも最初から「無理があるのでは?」と感じるが、この「無理がある計画」をど真面目に遂行するキャラクターの真顔が最高におかしい。さらに、本来は映画の撮影だと信じ込む売れない俳優側も、まったく疑わないところが笑える。そこがクライマックスまで地続きで繋がっていくため、終始「ちょっと待てよ!」と叫びたくなる。それでも矛盾や疑問点を吹き飛ばすほどのスピード感で物語は進み、気づけば観る側は「これ、本当にバレずに乗り切れるのか?」とヒヤヒヤしながら、同時にニヤニヤが止まらない不思議な感情を抱く。

中盤では、殺し屋の噂や裏社会の暗い話なんかも絡んでくるため、「コメディかと思ったら結構ハードなのでは?」とこちらの不安を煽るシーンもある。しかし、その不安すら次の場面で一瞬にして解消されるので、結局は気楽に観られるのが「ザ・マジックアワー」の魅力だ。要所要所で散りばめられる小ネタも、実に監督らしい。例えば、登場人物のちょっとしたセリフ回しに過去作品とのオマージュが含まれていたり、みんなが大真面目に話しているのに背景で起きている出来事が地味に面白かったり、映像の隅に笑いを取りこむ工夫が散りばめられている。こういった細かい芸が、三谷作品ファンにはたまらないポイントだろう。

また、本作のキャスト陣が実に豪華。主演の佐藤浩市はもちろん、脇を固める妻夫木聡、深津絵里、西田敏行、小日向文世といった面々が、普段のシリアスな演技やコメディ演技とは違う角度で魅せてくれる。それも多くの場合、普段ならそこまでコメディに振り切らない俳優たちが、キレッキレのギャグを披露するのだから驚きだ。特に小日向文世の愛嬌あるキャラと、西田敏行のしたたかかつお茶目な佇まいが印象的である。メインキャラクター同士の掛け合いが多い分、俳優たちが本当に楽しそうに演じているように見えてしまい、「あれ?これ、撮影現場でも笑いが絶えなかったんじゃないの?」と勝手に想像してしまうほどだ。

これだけコメディ要素満載でも、意外とストーリー自体はしっかりしている。途中で「これはあの伏線につながっていたのか!」という小さな発見がいくつもあり、観る側としては「このまま全員ハッピーエンドなのか、それともとんでもないどんでん返しが待っているのか?」と興味を引き続けられる。もちろん、三谷幸喜らしく観客を裏切る形での大仕掛けがある……と思いきや、実は予想の斜め上を行くオチが用意されており、「なるほど、そう来たか」と爽快感すら覚えるラストになっている。これには賛否が分かれるかもしれないが、筆者的には「コメディ映画としては十分アリだろう」という感想だ。

さて、笑いの部分ばかり語ってきたが、本作にはどこか人情味があるのも注目ポイントだ。人を疑うより信じちゃった方が面白い世界がある、というメッセージを感じるし、それは実生活でも時々必要だと気づかされる。作中のキャラクターたちは騙し騙されと大騒ぎしながらも、最終的には意外な形で救われる部分があり、「ああ、やっぱり世界は捨てたもんじゃないな」としみじみ思う。そこが三谷監督の作品らしい温かさだろう。

ただし、もし本作に物足りなさを感じる人がいるとすれば、それは「意外とマジックアワーの意味が薄くない?」といった点かもしれない。確かにタイトルの『ザ・マジックアワー』は、映画や写真の撮影で使われる夕暮れや夜明け前の“特別な光”を指しているが、劇中でそのロマンチックな時間帯が大々的にフィーチャーされるわけではない。そこは「なんでこのタイトルなんだろう?」という疑問を抱くかもしれないが、むしろシーンの合間にさりげなく取り込むくらいのバランスが三谷監督流なのかとも思える。実際に、ほんの短い時間で世界が変わったり、人間関係が変わったりする“マジック”な瞬間を、あえて直接的には語らないところが粋である。あるいは、劇中の人物たちが「マジックアワー」そのものになっているのかもしれない……なんて深読みも可能だ。

コメディ映画としては、文句なしに笑わせてくれる本作だが、やはり劇場公開時に大いに話題になっただけあって、時代を超えて楽しめるエンターテインメント性がある。一度観てしまうと、まるで中毒のように「あのシーンももう一度観たいな」と思わせる力があり、何度も繰り返し鑑賞しているファンも多いはずだ。特に、佐藤浩市の“勘違いしながらバシッとキメる”演技は何度見ても面白く、彼自身も「こんなにコメディに振り切るのか」と驚いたと想像する。笑いをとるためには俳優陣のサービス精神が欠かせないが、本作に登場するどの俳優も惜しみなく振り切っているのが印象的である。

ただし、筆者としては「盛り上がりすぎて最後ちょっとダレるかも?」という部分を感じなくもない。あまりにも畳みかけるように笑いのネタを盛り込んでいるため、エンディングに近づくにつれ笑いに慣れてしまい、一番インパクトのあるシーンが中盤で終わっちゃったように思える瞬間がある。これは監督作品の持ち味でもあるが、もう少しラストに向けた一発大きな山場を作ってくれてもよかったのではないかと感じた。しかし、それでも全体としての完成度は高く、コメディ映画として観るには十分以上に楽しめる。むしろ、細部における豪華セットや役者陣の掛け合い、台本の緻密さなどを見ると、「一度さらっと観ただけで満足するのはもったいない」という気持ちになる。

総評としては、「ザ・マジックアワー レビュー」として三谷幸喜作品が好きな人はもちろん、普段コメディをあまり観ない人にもオススメできる内容である。ほの暗い裏社会に足を踏み入れてしまうスリルがあるかと思いきや、そんなものは軽々と吹き飛ばされ、何でもアリの爆笑劇に突入してしまう。そのギャップこそが最大の魅力だ。騙す側も騙される側も、どこか抜けていて憎めないところがあり、まるで子どもが遊んでいる姿を見ているような微笑ましさすら感じられる。そんなわけで、筆者は「わざわざ重箱の隅をつついていちゃもんをつけようと思っていたのに、結局はストレートに笑わされてしまった」という素直な敗北感すら味わったのであった。

映画「ザ・マジックアワー」はこんな人にオススメ!

ズバリ言うと、コメディ映画を観て一瞬でも嫌なことを忘れたい人にはドハマりする作品だ。日常生活でストレスまみれになっているときでも、この映画を再生すればテンポ良い会話劇に引き込まれ、気づけばゲラゲラ笑っていること請け合いである。さらに、ちょっぴり裏社会的な要素が入っているので、「単なるコメディじゃ物足りない」という人にもおすすめできる。登場人物の誰もが一生懸命に“芝居”を続けているので、どこかしらで「いや、そんなに真剣にウソを突き通すのかい?」とツッコミつつも、その頑張りに意外と胸を打たれる。

また、三谷幸喜ファンならば“お約束ネタ”や、過去作品とのつながりを感じさせる演出を発見してニヤリとできるのもポイントだ。キャストが多彩なので、推し俳優の意外な一面を見られる作品を探している人にもハマるだろう。コメディは好きだけどクスッと笑う程度で十分という方には、ややオーバーな演出が多いかもしれないが、むしろそのオーバーさこそが三谷作品の真骨頂。むずかしいこと抜きにして、大笑いしながら肩の力を抜きたい人にはぴったりだ。家族で観ても楽しめるが、友人と一緒に観れば「ここでこう来るか!」と爆笑のツボを共有できるため、より一層盛り上がるはず。

とにかく笑いながら、最後にはなんとなく温かい気持ちになりたい人にはうってつけのエンタメ作品だと言える。

まとめ

以上、「ザ・マジックアワー」の感想を兼ねたネタバレ込みの紹介をしてきたが、結論としては「何も考えずに笑いたい人、集まれ!」という一言に尽きる作品だ。

三谷幸喜監督の独特な言語センスと、豪華俳優陣が魅せるテンポ良い演技が融合し、あっという間にエンディングまで観終わってしまう。ストーリーの根幹は荒唐無稽な勘違いコメディでありながら、どこか人間味あるキャラクター同士のやり取りにホロリとする瞬間もあるため、「笑い」だけでなく「ドラマ」の要素も堪能できる。多少のツッコミどころはあるが、それすら気にならなくなるスピード感が本作の強みだろう。

観終わったあとに、「いや~、こんなに笑ったの久しぶりかも」と思えるほどの破壊力がある一方で、上品さもどこか残してくれる。気軽に繰り返し楽しめるコメディ映画を探している人には、ぜひ一度は観てほしい。もちろん重厚な人間ドラマを期待している方には肩透かしかもしれないが、とりあえず観てみれば「笑う門には福来たる」という言葉の意味を噛みしめられるに違いない。