映画「舟を編む」公式サイト

映画「舟を編む」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は、辞書編集という地味ともいえる作業の世界を描いた異色の人間ドラマである。タイトルだけ見ると「舟を作る話かな?」と思いきや、実際には言葉の海を渡るための“舟”を編み上げるという比喩表現が使われているわけで、言葉フェチにはたまらないワクワク感がある。そのうえ、恋あり、友情あり、仕事の苦労や達成感ありと、人間模様をたっぷり堪能できるのが魅力だ。

正直、最初は「辞書づくりって何がおもしろいの?」と思うかもしれない。しかし、いざ鑑賞してみると、言葉というものの奥深さや、地道な努力が実を結ぶときの感動に気づかされる。しかもユーモラスな場面が意外と多い。登場人物それぞれの癖が強く、ドタバタ感を交えつつも、観終わったあとにふと自分の使う言葉を見直すような余韻を残してくれるのだ。

そんな映画「舟を編む」の魅力を、ここでは多少の辛口スパイスを加えながらじっくり語っていきたい。

映画「舟を編む」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「舟を編む」の感想・レビュー(ネタバレあり)

映画「舟を編む レビュー」をここから始めるわけだが、まず最初に強調しておきたいのは、本作が辞書づくりというユニークな題材を扱っている点である。普通に生活していると、辞書編集の現場なんてものはまずお目にかかれない。小学生の頃に国語辞典を開いて意味を調べたことはあっても、その背後でどんなドラマが繰り広げられているかは想像すらしなかった人が多いのではないだろうか。実際、自分もそうだった。しかし本作を観たあとに感じるのは、辞書がいかに膨大な情報を厳密かつ丁寧にまとめあげた“知の結晶”であり、その裏側には類いまれな根気と情熱が注ぎ込まれているということだ。

物語は、言葉マニアの変わり者・馬締が新しい辞書「大渡海」の編纂に携わることから始まる。彼は人付き合いが苦手なタイプでありながら、言葉への愛情だけは人一倍強い。それを見抜いたベテラン編集者・西岡が、馬締を辞書編集部にスカウトするわけである。ところが、この西岡自身も相当に癖のある人物で、彼の口癖や行動がときに笑いを誘いつつ、ときに「おいおい、大丈夫か?」とハラハラさせる。さらに、馬締が下宿する家の大家であるおばあちゃんのキャラクターがまた濃い。時折出てくる昔ばなしのような人生経験が、辞書の言葉の定義にユーモアを加えるスパイスになっているのだ。

ネタバレ覚悟でさらに話を進めると、やはり見どころは馬締のラブストーリーである。恋のお相手は林香具矢という板前修行中の女性。料理の世界と辞書編集という一見まったく別の世界に生きる二人だが、実は共通している部分がある。それは“こつこつと続ける地道な努力”だ。職人の道を突き進む林と、言葉を拾い集める馬締。お互いの仕事を尊重し合う姿が微笑ましく、また自分の世界に没頭するがゆえに生じるすれ違いがリアリティを伴っている。言葉が得意な馬締だが、いざ自分の気持ちを伝えるとなると意外にも不器用だったりして、そこがまた人間らしい愛嬌となっているのがニクい演出である。

この映画「舟を編む 感想」を語るうえで外せないのは、やはり“言葉”そのものだ。日本語は単語数が多く、同音異義語も多彩で、辞書を編むには骨の折れる作業が山のようにある。例えば「きく」という言葉ひとつをとっても、「聞く」「聴く」「訊く」「利く」など多種多様な意味合いが存在する。映画内でもそうした言葉のニュアンスや定義を探るシーンが多く描かれ、観ている側も「なるほど、そういう違いがあったのか」とハッとさせられる。そして、その些細な違いに対するこだわりや熱意が、辞書作りの真髄として浮かび上がってくるのだ。

また、本作ではキャラクター間の掛け合いも楽しめる。西岡と馬締の凸凹コンビ、ベテラン女性編集者の佐々木、さらに出版社の上層部との予算交渉やスケジュール調整など、現実的な苦労がリアルに描かれているところが興味深い。単純に主人公の成長物語だけではなく、チームとして一冊の辞書を完成させるまでのプロセスを丁寧に追っているため、まるで自分も編集部の一員になったかのような没入感がある。サクサク進むようでいて、実は何年にもわたる作業が淡々と描かれ、途中でメンバーが入れ替わったり、出版社の方針が変わったりと、人生さながらの波乱が襲ってくる。その長い年月の流れを映像で表現することによって、完成した辞書「大渡海」に込められた情熱と苦労がより一層感じられるのだ。

さらに個人的に印象的だったのは、馬締が自分の部屋の本棚やノートに、膨大なメモや付箋を貼り付けているシーンである。言葉の意味や用例を地道に蓄積し、それをひとつひとつ辞書に落とし込んでいくプロセスは、紙とペンが主流だった時代ならではの味わい深さがある。もちろん、現代ではデジタル編集が当たり前かもしれないが、本作の世界観にはアナログ作業の泥臭さと温かみがよくマッチしている。そうした地道さが積み重なってこそ生み出される価値がある、というメッセージは、デジタル全盛の今こそ心に響くものがあるのではないだろうか。

ユーモアの面でも侮れない。馬締の朴念仁っぷりや西岡の軽妙なおしゃべり、さらにはベテラン編集者の小言や、林のさりげないツッコミなどが散りばめられ、地味に見える辞書編集の世界を軽快に彩っている。「こんな辞書編集部があったら、毎日楽しそうだな…でも締め切り前は相当キツそうだな…」と、ある意味ブラック企業的な現場を想像してしまうところもあるが、それもまたリアリティなのだろう。仕事やプロジェクトに没頭する人々の、悲喜こもごもが詰まった作品といえる。

ストーリー中盤では、馬締と林の恋愛だけでなく、辞書作り自体がいくつものハードルに直面する。資金不足、校正のやり直し、そして時代による言葉の変化への対応など、目の前に立ちはだかる壁は多い。だがそれを乗り越えようと奮闘する姿が感動的であり、同時に笑いも誘う。誰だって仕事で苦戦したり、周囲から理解されなかったりする経験はあるだろう。だからこそ、映画を観ていて自然と「がんばれ!」と応援したくなるのだ。

一方で、映画後半では年数の経過とともに登場人物たちも変化し、離れていく人、残る人、新しく加わる人など、多様なドラマが展開される。中には「そうきたか!」と意表を突く展開もあるが、それらがすべて“辞書完成”というゴールに向けて集束していく様が見事である。ネタバレを避けるために詳細は伏せるが、最後に馬締たちが成し遂げる瞬間には、まるで自分も長い旅を終えたかのような達成感があるはずだ。

総合的に見て、この映画「舟を編む」は、地味な題材を派手に見せようという演出ではなく、あくまで言葉の世界を大切に扱いながら、そこに生きる人々の人生模様を真面目かつコミカルに描いた作品だといえる。静かなシーンが多いわりに飽きさせず、笑いと涙のバランスが絶妙。辞書という“ことばの海を航海する舟”を編み上げるというテーマが、決して小難しいだけで終わっていない点が素晴らしい。むしろ自分たちの言葉に対する認識が広がり、ひょっとすると鑑賞後に「これってどういう意味なんだろう?」と辞書を開きたくなるかもしれない。そういう後引き感がある作品なので、普段映画を観たらすぐに次へ行ってしまう人でも、ちょっとの間は本作の余韻を味わいたくなるはずだ。

ちなみに“激辛”とタイトルに書いたが、実際にはそこまで辛辣に文句を言うような箇所は見当たらない。強いて挙げるならば、地味な作業工程が続くため、アクションや派手なサスペンスを求めている人には向かないかもしれない。ただ、こうした淡々とした世界観こそが本作の醍醐味でもある。一歩間違えば退屈になりそうな題材を、役者陣の丁寧な演技と演出でここまで引きつけるのはなかなかの離れ業だ。終わってみれば「辞書って、もはやライフワークだな…」としみじみ思うし、自分も何かコツコツ続けられる趣味を探してみようかと考えさせられた。

結論として、映画「舟を編む レビュー」を総評するならば、“静かなる熱狂”という言葉がぴったりくる。大きな声で騒ぎ立てるわけではないが、作品全体に流れる情熱はじわじわと胸を熱くする。辞書編集というテーマが持つ知的好奇心と、そこに集うキャラクターたちの人間味が心地よくミックスされた、本当に貴重な一本である。地味さと派手さが絶妙に同居する、不思議な魅力をもった映画といえよう。

映画「舟を編む」はこんな人にオススメ!

まず、言葉や文学、文章を書くことに興味がある人にはドンピシャでハマるはずだ。自分がふだん何気なく使っている単語の意味や由来に目を向けるきっかけになるので、「ああ、自分たちはこんなふうに日本語を使っていたのか」と再認識できるだろう。また、地道な作業が苦にならない、あるいはコツコツ積み上げる作業にやりがいを感じるタイプの人にもオススメである。辞書編纂はまさしく“積み上げ”の極致ともいえる作業であり、その大変さと喜びがひしひしと伝わってくるのだ。

さらに、ほのぼのとした人間ドラマを好む人にも適している。恋愛要素はあるものの、いわゆる恋愛映画ほど激しい感情のぶつかり合いは少なく、全体的に“じんわり”系の温かさが漂っている。派手なアクションや謎解きのスリルを求める人には物足りないかもしれないが、日々の忙しさで疲れた心をそっと癒してくれるような優しさがこの映画にはある。

また、職場や学校などでチームプロジェクトを進める機会が多い人にも観てほしい。辞書編集部という小さな社会のなかで起こる衝突や和解、退場と新たな参加などの人間模様は、どこか身近なものがある。プロジェクトを成功させるためにはいろいろな人の力が必要だし、時には理解されないことや妥協を迫られることもある。それでも目標に向かって一歩ずつ進んでいく姿を見れば、自分も「もうちょっと頑張ってみるか」と思えるかもしれない。

言葉好き、地道作業好き、ほのぼの人間ドラマ好き、そしてチームワークの大切さを感じたい人にオススメだ。とりわけ「何かに熱中してみたいけど、一歩踏み出せない…」という人には、言葉という海に漕ぎ出す勇気を与えてくれる作品かもしれない。

まとめ

映画「舟を編む」は、辞書という地味な題材にもかかわらず、その奥深さと登場人物の個性を活かして飽きさせない構成となっている。観終わってみれば、言葉の世界が広がる不思議な感覚があり、自分の使う単語の一つひとつにもう少し注目してみようかという気分になる。

アクションやド派手な展開を求めると肩透かしかもしれないが、その代わりに丁寧な人間模様と静かながら熱い情熱が詰まっているのが魅力だ。しかも笑えるシーンも多く、固すぎず緩すぎずのバランスが絶妙。仕事やプロジェクトに打ち込む人、言葉好きの人、そしてほのぼのとした映画を求める人にとって、心地よい刺激と癒しを同時に味わえるだろう。

まとめると、映画「舟を編む」は“静かに燃えるタイプ”の秀作であり、地味だからこそ味わい深い一本といえる。