映画「心が叫びたがってるんだ。」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(通称「あの花」)のスタッフが再集結し、2015年に公開された青春アニメ映画だ。「叫びたいのに叫べない」——そんなもどかしい感情を抱えた主人公・成瀬順(なるせ・じゅん)が、クラスメイトと共にミュージカルを通じて自分を解放していく物語である。
本作の特徴は、現実的な青春ドラマとファンタジー要素が絶妙に組み合わさっている点だ。順は幼少期のある出来事がきっかけで「おしゃべり禁止の呪い」を受け、言葉を話すことができなくなる。この設定はリアリズムとは一線を画しているが、トラウマの象徴として機能し、物語全体のテーマ性を深めている。
一方で、ミュージカルという形式を採用したことで、心の叫びを直接的に表現する場面が生まれ、観客にも強い感情移入を促す仕掛けが施されている。恋愛・友情・自己表現といった青春映画の王道要素に、音楽が加わることで、シンプルながらもエモーショナルな作品に仕上がっている。
ただし、「心が叫びたがってるんだ。」は、あくまでキャラクターの内面に焦点を当てた作品であり、恋愛要素やミュージカル部分に対する評価は賛否が分かれるかもしれない。それでは、映画の見どころや気になるポイントを辛口視点で徹底レビューしていこう。
映画「心が叫びたがってるんだ。」の個人的評価
評価: ★★★★☆
映画「心が叫びたがってるんだ。」の感想・レビュー(ネタバレあり)
1. 物語の核となる「言葉を失った少女の再生」
主人公・成瀬順は幼い頃、何気なく発した言葉がきっかけで家族を傷つけてしまった。この経験から強い罪悪感を抱き、「喋ると人を不幸にする」と思い込むようになる。そこへ現れた“卵の妖精”が「君はもう話しちゃダメ」と告げたことで、順は本当に話せなくなってしまう。このファンタジー要素があることで、単なる心理的トラウマではなく、物語的な比喩として機能している。
彼女が高校生になったある日、担任教師から「地域ふれあい交流会」の実行委員に選ばれる。この時点で「順が人前で話せない」という問題が浮き彫りになるが、クラスメイトの坂上拓実(さかがみ・たくみ)の提案で、演劇ではなくミュージカルをやることに。歌ならば話せる——このアイデアが順にとっての転機となる。
2. キャラクター同士の関係性
本作の魅力の一つは、クラスメイトたちが抱えるそれぞれの問題が交錯しながら、成長していく点にある。
- 坂上拓実:ピアノが得意だが、過去の家庭の事情から音楽に距離を置いていた。順との交流を通じて、再び音楽への情熱を取り戻す。
- 仁藤菜月(にとう・なつき):拓実の元カノであり、過去の関係を引きずっている。順の成長を見守る立場にあるが、複雑な感情を抱えている。
- 田崎大樹(たざき・だいき):野球部のエースだったが、怪我で挫折。最初はミュージカルに否定的だったが、次第に協力するようになる。
それぞれのキャラクターが順と関わることで、自分自身の問題に向き合う姿が描かれている。
3. ミュージカルの演出
本作の大きな特徴は、劇中劇としてミュージカルが展開される点だ。特にクライマックスで順が涙ながらに歌いながら自分の想いを伝えるシーンは、圧巻の出来栄えとなっている。この演出は、観客にも「言葉では言えない感情」をダイレクトに伝える強い力を持つ。
ただし、ミュージカル要素が苦手な人にとってはやや抵抗があるかもしれない。また、演出としては感動的だが、もう少し尺を長くとって、順の変化を丁寧に描いてほしかったという声もある。
4. 作品のテーマとメッセージ
本作は「本音を言えない苦しみ」と「自己解放の大切さ」が根底にある。誰しもが心の中に言いたくても言えない思いを抱えているが、何かのきっかけで解放されることがある。それが順にとってはミュージカルであり、歌だった。
ただし、物語の展開はやや王道的で、驚きのあるプロットではない。そのため、「青春映画としては予想通りの展開」と感じる人もいるかもしれない。しかし、王道だからこそ、シンプルに共感しやすい作品ともいえる。
映画「心が叫びたがってるんだ。」はこんな人にオススメ!
1. 青春映画が好きな人
本作は、友情・恋愛・成長といった青春映画の要素が詰まっている。高校生活を舞台にした王道ストーリーが好きな人にはぴったりの作品だ。
2. ミュージカルが好きな人
映画のクライマックスでは、音楽が感情を爆発させる手段として使われている。ミュージカル映画のような演出が楽しめる人にはオススメ。
3. 言いたいことが言えずに悩んでいる人
順の「言いたくても言えない」葛藤に共感する人は多いだろう。本作はそんな人に向けたメッセージ性の強い作品だ。
まとめ
映画「心が叫びたがってるんだ。」は、言葉を失った少女がミュージカルを通じて自己を解放していく物語だ。ファンタジー要素(卵の妖精)があることで、一見すると非現実的に見えるが、その根底には誰もが抱える「言いたいことを言えない苦しみ」という普遍的なテーマがある。クライマックスのミュージカルシーンは感動的で、観る者の心を揺さぶるだろう。
一方で、物語の展開は王道的であり、ミュージカル演出に好みが分かれる点もある。しかし、青春映画としては非常に完成度が高く、キャラクターの成長や人間ドラマがしっかり描かれている。