映画「天間荘の三姉妹」公式サイト

映画「天間荘の三姉妹」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

のんが主演を務め、大島優子や門脇麦、さらに寺島しのぶや永瀬正敏など実力派の俳優陣が集結したことで話題となった作品である。本作は“地上と天界の狭間にある街”という不思議な舞台設定が特徴だが、そこに暮らす人々の人間模様や命へのまっすぐな眼差しが描かれるため、どこか身近なドラマを感じさせる仕上がりになっている。主演ののんが演じる小川たまえは、現世で孤立無援だったはずが、この街で思わぬ家族や仲間と出会い、もう一度“生きる意味”を問われることになるのだ。

加えて、大島優子演じる長女や門脇麦演じる次女それぞれの事情も絡み合い、笑いを誘うような場面と泣ける瞬間がバランス良く混ざっている。あの日常の延長にある“死や再生”のテーマをどう描いたのか? 作品世界の不思議さを堪能しつつ、じんわり心を揺さぶってくれる映画なのは間違いない。

映画「天間荘の三姉妹」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「天間荘の三姉妹」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、のん演じる小川たまえが交通事故で臨死状態になり、地上と天界の間にあるという架空の街・三ツ瀬へ導かれるところから始まる。たまえは幼い頃に母を亡くし、さらに父までもが行方不明という境遇にあった。文字通り「帰る場所」がなかった彼女にとって、この三ツ瀬で出会う人々や体験は、初めての“居場所”を教えてくれるかのようだ。

しかしながら、この三ツ瀬という街自体が謎に満ちている。住民たちは一見、ごく普通の暮らしを送っているように見えるが、実は誰もが“あの日”に何らかの形で命を落とし、時が止まったままの魂のような存在である。三ツ瀬に来た当初、たまえはそこまで深く考えずに「ここはのどかで温かい街」くらいの気持ちで過ごしている。飲み込みきれないことは多いものの、実の姉たちと名乗る人物まで現れて、最初は驚きながらも新鮮さや安心感を覚えるのだ。

特に大女将である天間恵子(寺島しのぶ)は口が悪く、たまえを“働かざる者食うべからず”と突き放すような態度を見せる。しかし、その奥には苦しい過去を抱え、それを背負ってでも街と旅館「天間荘」を守っている母性がある。それを大島優子演じる天間のぞみ、門脇麦演じる天間かなえという娘たちが支える図式なのだが、彼女たちもまた“死者”なのだとわかったときの衝撃は大きい。特にかなえの恋人である一馬(高良健吾)は、彼女のことを深く愛しながらも早々に“次の世界”へ旅立つ決心をする。その場面は実際に観ていると切ないやらなんやらで、思わず言葉を失う。

また、旅館に長逗留している財前玲子(三田佳子)の存在感も見逃せない。気難しく見える彼女だが、たまえの素直さに心を開いていく過程は、いわゆる「世代を越えた友情」のようで温かみを感じる。さらに、のぞみとの確執や大女将との応酬などが挟まることで、天間荘が“普通の宿”ではないことをいっそう強調していると言える。財前は実質、深い絶望を抱えたまま昏睡状態にある現世の身体を持つ人物であり、本作はこうした複数の人生模様を絡め合わせながら進んでいく。

そんな中、自殺未遂でやってきた芦沢優那(山谷花純)が登場するあたりから、物語は不穏さを増す。優那は盗作疑惑によって追い込まれた過去があり、死にたい思いを引きずっている。天間荘という不思議な場所でも新たな居場所を見出せず、自暴自棄になる彼女は、たまえとはまるで正反対の性格だ。しかし、それだからこそ、表裏一体のように感じられ、優那の苦悩がリアルに胸を突いてくる。

そんな2人が友達になっていく過程は、少しほほ笑ましくもある。たまえの屈託のない性格が優那の沈んだ心を溶かすような場面が多々あるのだが、それでも優那は“もう一度生きる”ことを素直に選べない。さらに追い打ちをかけるように、たまえが「やっぱりここに残りたい」と言い始めた時、優那の怒りは爆発する。たまえの言葉で救われそうだった優那にとっては、見捨てられたも同然に感じてしまったのだ。

とはいえ、たまえ自身にはたまえの事情がある。彼女は現世で孤立し、自分を大切に思ってくれる人はいなかった(ように見えていた)。だからこそ、ようやく見つけた“姉たちと同じ屋根の下での暮らし”にしがみつきたいという気持ちは理解できる。けれども、三ツ瀬の真実に近づくほどに、たまえはこの街が“停滞した魂の集まり”であることを痛感させられるのだ。楽しくても成長はない。希望があるようで、その先に行く道がない。無限ループのような世界にいつまでもいることは、たまえの本質に反するのかもしれない。

そこに追い打ちをかけるのが、永瀬正敏演じる父・小川清志の出現である。父を憎む恵子、父を許せないのぞみ、それでも父と再会できたことに喜びを覚えるたまえ。それぞれの心情が錯綜する場面は、この物語の核心を突く。実は清志もまた津波によって命を落としていたという真実が明かされ、さらに彼が三ツ瀬を訪れた理由や、たまえが独りぼっちのままになってしまった経緯がわかると、家族という存在の機微がズシンと胸にくる。

三ツ瀬がかつて大きな震災で壊滅的な被害を受けた町だったという設定は、とても重いテーマだ。しかしながら、本作ではそこをあまり声高に描かず、あくまで「失われた命が時を止めてしまった場所」として静かに提示している。水族館でのイルカのシーンなど、ファンタジックな光景と現実的な悲劇がセットになっているところが妙に説得力を持つのだ。大切な人と生きたかった。けれど叶わなかった。その思いが三ツ瀬をかろうじて支えている……そんなイメージである。

クライマックスでたまえは三ツ瀬に残るのではなく、現世に戻る道を選ぶ。大女将の「ここはすでに死んだ人間の街だ」という宣言は、まさしく停滞からの解放宣言でもある。みんなが昇天し、三ツ瀬という仮初の世界が消えていく場面は、かなえやのぞみとの悲しい別れを意味するが、その一方でたまえにとっては“本当の人生”が始まる瞬間でもある。

最終的に、たまえは生還し、イルカショーの舞台に立つ。もともと現世で孤独を抱えていたはずの彼女が、誰もが笑顔になれるイルカショーで輝く姿は、非常に希望にあふれている。加えて、あの世へ旅立った者の思いが、たまえの中に生き続けることを示唆しているのが本作のポイントだ。死んだからといって終わりではなく、その人の意思は残された人間の中で脈打ち続ける。だからこそ、生きるのを諦めないでほしい……そんな強いメッセージが感じられる。

本作はファンタジー要素を含みながら、人生の再生をストレートに描き出している。重苦しい過去や悲しい事実が横たわっているにもかかわらず、人と人の絆や何気ない場面でのやりとりに自然と笑いがわき、観終わった後には「自分も前向きに生きてみようかな」と思える。あの不思議な街が消えてしまう寂しさはあるが、「それでも進まなければいけないのだ」と背中を押されるような締めくくりは胸に響く。

さらに言えば、俳優陣の演技も見どころ満載だ。のんの天然かつ純粋無垢なたまえはハマり役であり、彼女が大切なものを得ていく過程には説得力がある。大島優子の姉役は、過去の苦い記憶や感情をにじませつつも強い芯を持っていて、一方の門脇麦は切なさと優しさを絶妙に表現している。寺島しのぶの圧倒的な大女将オーラ、永瀬正敏が演じる父親のヘタレっぷりと愛情の深さ、そして柴咲コウ演じるイズコの“神出鬼没な案内役”ぶりも作品を彩る重要なピースだ。

このように、本作は“人の生と死”をテーマに据えながらも、全体のテンポは軽妙で観やすい。重くなりがちな題材だが、独特の雰囲気と登場人物たちの掛け合いによって、むしろ優しい目線で語られている印象を受ける。言うなれば、死を扱っていながら“生の肯定”につながる物語、という感じだろう。残された現世で、どう生きるか。そこに焦点を当てることで、鑑賞後には自然と前を向きたくなる。

結局のところ、本作が描いているのは「命の終わり」よりも「命の連鎖と継承」だ。劇中でのん演じるたまえが、姉や仲間たちの思いを受け取って現世で行動を起こすように、私たちもまた失った誰かの思いを心に留めて生きていく。そう考えると、本作のラストでたまえが成功させたイルカショーは、単なるエンタメではなく“生きる宣言”に等しい。死者に敬意を払いながら、しかし執着しすぎず、新たな人生を歩み始める姿にこそ、本作のメッセージが詰まっているのだと思う。

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映画「天間荘の三姉妹」はこんな人にオススメ!

現実離れした設定だけれど、しみじみとしたドラマを感じられる物語を探している人には、この作品はぴったりだと言える。特に、自分の居場所や家族との関係に悩んだ経験がある人、あるいは「喪失を抱えながら前を向きたい」と願う人には響く部分が多いのではないだろうか。ちょっと不思議な世界観を味わいつつ、しっかりと人間ドラマを見たいという人向けとも言える。

また、キャストが豪華で多彩なので、好きな役者が出ている作品はとりあえず観たいというタイプにもおすすめだ。のんや大島優子、門脇麦など若手実力派に加え、ベテラン陣もそれぞれの魅力を存分に発揮している。寺島しのぶや永瀬正敏、柴咲コウなど、一人ひとりが重要な役割を担っているため「この人の演技が観たい!」というモチベーションだけでも充分に楽しめる。

そして、重いテーマでありながら、ほどよく軽快さもあるので、重苦しさに疲れやすい人でも意外とすんなり入り込めると思う。ファンタジックな設定を許容できるかどうかで好みが分かれるかもしれないが、結末に向けての感動はストレートだ。震災という現実の痛みに触れながらも、ただ悲しいだけで終わらない物語を受け止めたいならば、きっと心に残る作品になるだろう。

まとめ

本作は、地上と天界の間にある三ツ瀬という不思議な街を舞台にしながら、実は私たちが日常で感じる「愛や別れ、迷いや希望」といった感情をストレートに見せてくれる。非現実的な設定ではあるが、そこに登場する人物はどこか身近で、彼らの苦しみや喜びに共感しやすいのが魅力だ。特に、主人公たまえが見つけた“もう一度生きる”という答えは、失ったものが多い時代だからこそ心にしみる。

観終わったあとには「ああ、生きてみるって悪くないかもしれない」と感じられるはずだ。悲しみを振り払うのではなく、受け止めたうえで次に進む。それを優しく後押ししてくれるのが、この映画が持つ大きなパワーだろう。もしもあなたが何かに行き詰まり、前に進むための一歩がほしいと感じているなら、きっとこの作品がヒントを与えてくれるのではないだろうか。