映画「からかい上手の高木さん」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は永野芽郁が主演を務める青春ラブストーリーであると同時に、“からかい”を軸にした独特のやりとりが見どころの作品だ。もともとアニメや原作マンガで大人気のタイトルなので、その実写映画化には期待と不安が入り混じっていた人も多いだろう。筆者は正直、「子どもの頃のほほえましい関係を大人になっても維持できるのか?」と疑問に思っていた。だが実際に観てみると、確かに“からかい”は健在でありながらも、大人だからこそ味わえる甘酸っぱさや、若干の苦味が同居する展開になっていて意外に楽しめた。
その一方で、一部キャラクターの言動や展開の強引さにはツッコミたくなる点もあり、“激辛”な気持ちを抑えきれなかったのも事実である。そんな良い意味でも悪い意味でも刺激的な映画に仕上がった「からかい上手の高木さん」について、ここからじっくり語っていこうと思う。
映画「からかい上手の高木さん」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「からかい上手の高木さん」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は、中学生時代の“からかい合い”をそのまま大人に引き延ばしたらどうなるのか? というコンセプトが軸になっていると感じた。まず結論としては、からかいを受け流す側と仕掛ける側の関係が10年経ってもガラリと変わらない。そのほほえましさが魅力である一方で、“いい年した大人が手をつなぐか否かで照れている”という展開には賛否が分かれるのではないだろうか。
筆者は中学時代のピュアな関係を懐かしむ気持ちもあれば、大人ならもう少し現実的であってほしいという思いもあった。ゆえに前半は「せっかく再会したのに、一体いつまでラブコメじみた距離感でいくのだろう?」とやきもきさせられる。一方で、映画の中盤以降、高木さん(永野芽郁)と西片(高橋文哉)が教育実習生と体育教師という立場になって“生徒たちの恋愛相談に乗る”場面が増えると、からかい合いだけではないテーマに踏み込んでいることがわかる。そのテーマとは、“自分の本当の気持ちをどう伝えるか”という普遍的な問題だ。
本作では中学生の町田というキャラクターが不登校になった原因や、同級生の大関への対応に迷う姿を通じて、誰かを好きになる行為が単純に甘酸っぱいだけのものではなく、人の心をざわつかせたり勇気を試すものであることを描いている。その裏で、西片自身も彼らに助言する立場になりながら実は自分こそ踏ん切りがつかない。見ていて「教師が生徒に向けて偉そうに語っているけれど、お前はどうなんだ?」とツッコミたくなるところがある。こういう“説得力のなさ”を含めて、西片という人物の人間らしさが際立っているのが面白い点である。
一方、高木さんは以前のようにいたずらっぽく微笑みながら、西片を追いかけ回す。だが中学生のころとは違って、彼女自身も“島を離れていた10年の間に何を考えていたか”がセリフや表情ににじんでいる。パリにいた頃の話や、再び島に戻るまでのプロセスは劇中で詳細に語られるわけではないが、少なくとも「何も考えずに昔のままの高木さん」というわけではないのだ。ただ、そのあたりの心情をあまり深掘りしていないので、観客としてはやや物足りなさを感じるかもしれない。
もっと言えば、10年もの間まともに連絡を取らなかった二人が、再会した途端に急接近する展開には若干のファンタジーさが漂う。高木さんの視点で見れば、「本当に西片のことをずっと想い続けていたのか?」「なぜ今のタイミングで帰ってきたのか?」といった部分は、確固たる説明があるわけではない。そこを“ドラマチックな再会は理屈抜きに美しい”と受け止めるか、“ご都合主義的で強引だ”と感じるかで評価が分かれそうだ。筆者としては、もう少し高木さんの孤独や遠回りの背景を見せてほしかった。そこの物語性が深まるほど、後半のプロポーズシーンがさらに感動的になったと思うからだ。
もっとも、後半の長尺ワンカットで描かれる告白シーンは、今作の中でもっとも見応えがあった。正直言えば“長い”のだが、その長さゆえに二人が不器用に言葉を探り合うやり取りに妙なリアリティが生まれている。だらだらと会話が続くように見えるが、微妙な空気や間によって「これが二人にとっては人生を左右する最大の山場なのだ」ということが強く伝わってきた。ここで本気の気持ちをさらけ出す西片は、まるで小学生のような照れを引きずっている。その姿が滑稽でありながら、一周回って切実に感じられるのが不思議だ。
そして高木さんの返答は、ある意味では当たり前の“好きだよ”なのだが、その先に用意されている少し意外な展開も含め、筆者のようなひねくれ者でも少し胸が熱くなった。言いたいことをはっきり言わず、じわじわ焦らすような表現が多かった本編だけに、ここで一気に扉をこじ開けるような告白合戦を見せられると「やっと全部を出し切ったな」というカタルシスがある。ただ、その前にあれだけ高木さんがからかいを続けてきたのだから、もう一つくらい“仕掛け”があってもよかったのでは?と思わなくもない。
“からかい”といえば、中学時代の定番だった“勝負”や“意地悪めの質問”があまり描かれなかったのは少々残念だ。大人になることでピュアさを失わないという大前提ならば、むしろ今こそ子どもっぽいやり取りをもうひと押し見せてほしかった。ほんの少しだけ懐かしい場面を差し込む程度に留まっていたので、そこをもっと突き詰めると「こんな大人いるかよ!」というリアリティの壁を飛び越えられたのではないか。
とはいえ、映画としては全体的に爽やかな仕上がりであり、島の風景や潮の香りが感じられる映像が心地いい。特に海辺のシーンでは、遠くに広がる景色と二人のやりとりが素朴にマッチしていて、観ているだけでほんのり気分が安らぐ。のどかな景観のなかに“過去の名残”が漂い、大人になっても変わらない二人の距離感が鮮明に映し出されるのは本作ならではの魅力だろう。
とはいえ激辛視点でツッコむなら、やはり周囲の大人たちが二人のイチャイチャを温かく見守りすぎているのではないか。教頭先生(江口洋介)の包容力ある言葉や、同級生だった仲間たちのさわやかな助言は確かに気持ちがいい。しかし、現実的に考えると、教育実習生と若手教師が職員室でウキウキしていたら「大丈夫か?」と誰かが指摘してもおかしくない。そこを一切責める人がいないのは、ファンタジー要素が強めの世界観と割り切るしかないだろう。
さらに言えば、クライマックス直前の結婚式関連シーンも急ぎ足な印象は否めない。せっかくウェディングドレス姿が映るのだから、もう少し当人たちや周囲のリアクションを練り込んでもよかった気がする。そこまで「大人の恋愛のもどかしさ」を描いてきたわりに、一瞬でゴールインしてしまうので、もうひと波乱あってもいいのではないかと感じた。
それでも高木さんと西片が並んで海辺を歩くラストシーンは、途方もない青春を味わってきた末の大団円として納得させられる。子どもみたいな二人の空気感が最後にカチッとはまる瞬間は、観ていてホッとする締めくくりだ。ちなみにエンドロールで垣間見える将来像も嬉しいサプライズになっており、長年のファンにはたまらないご褒美だろう。
本作は、10年ぶりの“からかい”というオリジナルの設定を軸に、“大人になっても変わらない二人の関係”をほのぼのと描いた作品である。ゆるい雰囲気や穏やかな展開を求める人にとっては楽しく観られる一方、ある程度の現実味やエッジの効いたドラマを求める人には物足りないかもしれない。だが、原作やアニメシリーズで培われた“からかいの空気感”を存分に味わいつつ、最終的にしっかり大人の区切りをつけた恋物語になっている点は評価に値する。
個人的には星三つというほどだが、永野芽郁と高橋文哉の組み合わせは想像していたよりも相性が良いと感じた。フレッシュな演技と可愛らしい掛け合いが映画全体を明るくしており、大きな破綻を起こさずに最後まで見せてくれるのはさすがだ。満点ではないが、青春映画やほのかな恋物語が好きな人には十分に楽しめるはずなので、気になる方は劇場で確かめてみるとよいだろう。
映画「からかい上手の高木さん」はこんな人にオススメ!
本作は、学生時代に“あと一歩踏み込めなかった恋”を経験した人に特にオススメしたい。10年ぶりに再会して一気に距離が縮まるというシチュエーションは、現実だとそうそう起こるものではないが、だからこそ観ている側が理想の追体験を味わえる。昔好きだった人との再会にときめく気持ちを思い出したい人にはピッタリだろう。
また、どこかのんびりしていて前向きに生きたい人にも本作は刺さるかもしれない。からかわれても笑って返す高木さんと西片のゆるい空気感は、忙しさに追われる日常をいったんリセットさせてくれる。狭い島のコミュニティが生む温かさや、学校行事にみんなで取り組むシーンにホッとさせられる瞬間は多い。
一方、ジメジメした恋愛模様やドロドロの人間関係を期待する人には不向きだろう。大人になってもイチャイチャしている二人に「そんなバカな」とツッコミたい人もいるかもしれない。ただそこには、“楽観的だからこその愛らしさ”や“照れくさい気持ちをあえて最後まで引っ張る”魅力がある。そういう軽妙さを楽しめる人なら、本作の穏やかな世界観にスッと入り込めるはずだ。
さらに、アニメや原作マンガを知っていて「やっぱり実写化はどうなの?」と疑問を抱いている人にも、ぜひ一度観てほしい。キャラの再現度はもちろん、物語を10年後に設定することで原作とは別の体験を提供しているからだ。原作へのリスペクトも感じられ、実写映画ならではの映像美や俳優のケミストリーが楽しめる点で、一味違う「からかい上手の高木さん」を味わうことができるだろう。
まとめ
本作は“からかい”をベースにした青春ラブストーリーの延長線上に、大人ならではの現実味をちょっぴりスパイスとして加えたような仕上がりになっている。だが、その現実味もいわゆる社会の厳しさという方向には振り切らず、あくまで懐かしさや甘酸っぱさを前面に押し出すのが特徴だ。10年という時の隔たりがありながらも、二人のぎこちなさや、照れくさい言葉のやり取りが最後まで心地よく続く点は、原作ファンにも大きな魅力だろう。
一方で、大人の視点から見ると若干物足りない展開や、人物設定の甘さが目につく場面は否定できない。とはいえ、この作品に深刻な波乱や陰鬱なドラマを求めるのは野暮というものだ。大切なのは、大人になっても子どもの頃の自分を忘れず、素朴な感情に身を任せてみること。そこを受け入れられれば、「こんな恋愛もありかもしれない」と感じさせてくれる、爽やかな一本になっていると思う。