映画「旅猫リポート」公式サイト

映画「旅猫リポート」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は一見すると“泣かせにかかる動物映画”のように見えるが、その実、悲しみと優しさを同時に詰め込んだロードムービーでもある。主人公と猫の旅を通じて、家族や友人とのかけがえのない思い出を炙り出していく構成が特徴的だ。正直、不幸エピソードをてんこ盛りにし過ぎでは?とツッコミたくなる場面もあるが、それでもラストまで見届けると「まあ、これでいいのかもなあ」と思える不思議な後味が残る作品でもある。

物語では猫がしれっと人間と心を通わせる設定があるため、そこに違和感を覚える観客も多いかもしれない。しかし、その“猫がしゃべる”要素をいったん受け入れると、一気に泣き笑いのドラマへ突入するから不思議だ。というわけで今回は、ちょい辛口ながらも愛を込めて本作の魅力と微妙な点をネタバレありで語っていく。猫好きはもちろん、人生の機微をちょっとだけ味わいたい人にも注目してもらいたい。

映画「旅猫リポート」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「旅猫リポート」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからはネタバレ上等の方のみ読み進めてほしい。まず本作を一言でまとめると、「不幸てんこ盛りの主人公が、猫と一緒に人生の総まとめをする映画」である。原作は有川浩氏のベストセラー小説で、小説ファンはもちろん、猫好きの観客にもある程度アピールしやすい内容になっている。ただ、映画版ではある種の“説得力不足”が否めないシーンがちらほら顔を出す。どういうことか、順を追って見ていこう。

主人公・宮脇悟(演:福士蒼汰)は幼少期に両親を亡くし、さらに自分が養子だったことまで知らされるというハードな生い立ちを背負っている。しかも飼っていた猫(ハチ)とも離別する羽目になるという、いわゆる“少年漫画的レベルの不幸ラッシュ”を子どもの頃から経験。普通ならこじらせまくって性格がひん曲がりそうなところだが、悟は妙にさわやかイケメン青年に成長しているのだから、正直「本当にそんな困難があったの?」と首を傾げる人もいるだろう。原作ではそのあたりの心理描写にページを割いているのかもしれないが、映画版だと回想シーンがポンポンっと出てくるだけで、しかも猫がしゃべるわで、観客は若干「猫と話す設定なんだ…え、もう余命宣告かよ…!」と情報量の多さにうろたえる恐れがある。

だが、本作はある意味、その“うろたえ”こそが醍醐味なのかもしれない。ナナ(高畑充希の声)が人間の言葉をペラペラと理解しているのか、あるいは悟の心をどこまで見透かしているのか、曖昧なラインで物語が進むからこそ、不思議なコミカル感が生まれる。これは最初から最後まで貫かれるテイストで、「猫が勝手に悟の気持ちを代弁してくれるお陰で、彼は心の強さを保てているのかもしれない」と思わせるような不思議な魅力を放っている。

加えて、悟が自分の死期を悟ったうえで「ナナを誰かに引き取ってもらおう」と旅に出る展開は、ロードムービーの体裁を取っているが、実際にはナナを置いていく先を見つけられそうで見つけられないというジレンマを繰り返すだけ。しかも「里親になってくれ」と押し付ける割に、悟自身の猫への思い入れが強すぎるのか、最後まで「ほんとに譲る気ある?」と疑ってしまうほどだ。さらに幼なじみの幸介や学生時代にほのかに思いを寄せた千佳子(と、その夫である杉)などに会うために、全国行脚とまではいかないまでも、思い出スポットを巡っていく。一応“旅”という名目ではあるものの、「もっと遠くに行こうよ」と心の中で突っ込んでしまう部分も少々ある。タイトルの“リポート”というわりには、観光地をガッツリ描写しているわけでもないのだ。

しかしながら、ナナを連れて親しい友人のもとを訪ね歩くことで、悟がこれまで背負ってきた不幸や孤独を実はポジティブに昇華してきたことが少しずつ明かされていく。ここに関しては、回想シーンを挟んだり、友人たちと触れ合ったりすることで、悟の“すれ違ってきた哀しみ”が徐々に浮き彫りになるのが見どころではある。「不幸こそが人を強くする」というテーマは割とベタだが、映画のトーンが全般的に暗くなり過ぎないよう、ナナのコミカルな語りがクッション材の役目を果たしている。とはいえ、「猫がしゃべるの、ちょっとくどいな…」と思うシーンもなきにしもあらず。実写映画で猫が声を当てられると、どうしてもアニメチックになりがちだが、本作はそのギリギリのラインを攻めている印象だ。

そして後半、悟の余命がすぐそこまで迫るにあたって、いよいよ親類の叔母さん(演:竹内結子)の存在が大きくクローズアップされる。子どもの頃から何かと悟を支えてきた叔母が、ナナを引き取ると申し出てくれるのだが、悟はやはり「あのときの友達はどうしてる?」と気になって仕方ないのか、あちこちに“お別れを言いに”行く。正直、観客目線で言えば「最初から叔母さんに預ければいいじゃん!」と思うが、彼の心残りがどこにあるのかを映し出すエピソードとして、ある程度は理解できる筋書きだろう。ただ、その道中がややタイトであるため、主人公の内面描写がうわっつらになっていると感じる人もいるだろうし、「また回想シーンか…」とちょっと食傷気味になってしまう人もいるかもしれない。

クライマックスでは、悟とナナの絆が最終的に“霊界通信”じみた領域に突入する(少なくとも、ナナには人間界のルールは通用しないという設定が暗に示されている)わけだが、そこはもう“ファンタジー枠”として割り切ったほうがいいだろう。悟の遺影撮影シーンや、最後にあれこれカミングアウトしながら車を発進させる姿などは、演者の演技力でどうにか泣かせにかかる感が否めない。涙腺が緩い観客なら間違いなく泣くだろうし、「こんなに詰め込まなくても…」と冷静に思う人はそこまで感動しないという、かなり評価が割れるタイプの演出だ。

猫のかわいさや竹内結子の安定感ある演技、福士蒼汰の爽やかさといったビジュアル面は文句なし。高畑充希の声もハマっているが、いかんせん“しゃべる猫”という設定自体に馴染めない人には「ちょっとくどい」と感じるかもしれない。一方で猫好きや原作ファンにとっては感情移入しやすい要素が多く、思わず号泣してしまう人もいるだろう。実際、ネット上のレビューを見ても“泣けた派”と“泣けなかった派”にきっぱり分かれているようだ。

個人的には、不幸を山ほど詰め込んだわりに、作品全体がどこか明るく、最後にほっこりしてしまうところが妙に印象的であった。たぶんこれは、猫の存在が絶妙に緩衝材になっているからこそ成り立つ構図だろう。もし悟がひとりで「うわあ、もうダメだ…」と沈んでいたら重苦しい映画になっていたに違いない。そこにナナの「にゃにゃっ!」とか「なんでそうなるんだよ!」という猫視点ツッコミが入ることで、悲壮感が笑いに変わる瞬間がポンポン生まれるのが本作の特色である。もっとも、そのギャップを“シュールすぎる”と感じる人もいるかもしれないが、ここは嗜好の分かれ目だろう。

「旅猫リポート」の感想としては、“すべての要素が濃いようで薄い”という変わった印象を受けた映画である。ロードムービーというよりは“友達に顔を出すミニ旅行”に近いし、猫の可愛さを全面に押し出しながらも、命や家族の形をかなり深刻に扱うため、メインがどこにあるのかイマイチつかみきれない。だが、その曖昧さこそが「人生って案外そういうもんだよね」というテーマに通じている気もする。自分の飼い猫に愛着を持つのはもちろんだけど、実際に人生の中で大切な友人や家族の存在は、ずっと会わなくてもどこかで繋がっている。そういった人間関係の奇跡をしみじみ感じつつ、悟が“最後の選択”に向かってゆっくり進んでいく様子を追体験する映画なのだと捉えると、急に胸がジンと温まる部分もある。

「旅猫リポート」レビューとして辛口視点で言えば、やはりテンポのムラや設定詰め込みすぎ問題は否定できない。だが、猫のかわいさと人間関係のあたたかさ、そしてファンタジックな旅路の要素が醸し出す独特の空気感はほかにない味わいでもある。終盤で泣くか泣かないかは人それぞれだが、「猫と一緒に歩む人生っていいよね」と感じられたら、この映画が伝えたかったことはおおむね成功なのかもしれない。

どこかシュールで突っ込みどころもあるが、最終的には「まあ、悪くはないかも」と思わせてくれる、不思議な魅力を持った作品である。特に愛猫家にとっては“泣く準備”と“ツッコミスタンバイ”の両方が必要な一本といえるだろう。

映画「旅猫リポート」はこんな人にオススメ!

本作をおすすめしたいのは、まず第一に「猫好き、あるいは動物好き」の人々である。猫がスクリーンを縦横無尽に歩き回るだけで「ああ癒される…」と顔がほころんでしまう人なら、ナナのツンデレっぷりや、ちょいとおせっかいな“猫口上”を楽しめるだろう。加えて、「いろいろな形の家族や友情を見つめ直したい」という人にも悪くない一本だ。血の繋がりよりも、いかに相手を想って生きていくかという命題がそこかしこで描かれるため、自分の過去や大切な人との思い出を重ね合わせて、ちょっと切なくも温かい気持ちに浸れるはずだ。

また、「泣きたいのか笑いたいのかわからない」という感情に陥っている人にも、ある意味ピッタリだろう。シリアスな場面なのに猫があれこれしゃべるせいで思わず吹き出したり、かと思えば悟の過酷な人生が明らかになるたびに胸が締めつけられて涙が出そうになったりと、感情の振れ幅が大きい。そういうジェットコースター感を味わいながら、“人生って辛いけど、捨てたもんじゃないよね”というメッセージを受け取りたい人に向いていると思う。

逆に「動物がしゃべる映画にどうにも馴染めない」人や、「過剰な不幸展開はちょっと…」という人には、やや苦手ジャンルかもしれない。それでも、あえて観てみれば猫のかわいさと登場人物の優しさに気づいて、いい意味で期待を裏切られる可能性もある。

要するに、悲しい話なのに笑えるし、笑っていたらいつの間にか泣いてしまうような複雑な感情を楽しみたい人にうってつけ。人生の酸いも甘いも乗り越えてきた大人はもちろん、これから大切な人やペットを守っていこうとする若い世代まで幅広くおすすめできる作品だ。

まとめ

映画「旅猫リポート」は、“不幸の詰め合わせセット”のような展開を見せながら、最後は不思議とほっこりする後味が残る作品である。猫がしゃべるリアリティ問題や、回想シーンに頼りがちな構成など、ツッコミどころは多々ある。だが、悟の生い立ちとナナとの旅によって浮かび上がる人間関係の優しさが、派手さはないものの観る者の心を温める。

旅といいながらさほど遠くへ行かない点や、もうちょっと猫といろんな場所へ行って冒険してくれればなあ…と残念に思うところもあるが、それでも作品内にある“生きる喜びと死との向き合い方”は十分に伝わってくるし、実際に泣かされた観客も多い。結局のところ、「猫と一緒にいる時間こそ幸せ」というテーマを素直に受け取れる人ほど、この映画に深い感動を覚えるだろう。泣けるかどうかはあなた次第だが、涙を拭くためのハンカチと、猫への愛を忘れずに準備してから観るのがおすすめである。