映画「すずめの戸締まり」公式サイト

映画「すずめの戸締まり」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は、新海誠監督によるファンタジックなロードムービーでありながら、震災や喪失の痛みと向き合う重厚なテーマも内包しているため、一筋縄ではいかない作品である。とはいえ「キラキラ背景」や「胸キュン要素」もきっちり詰め込まれ、要所要所で笑いどころすらあるのだから侮れない。

筆者のような“激辛評論家”としては、「さて、この最新作は本当にスゴいのか?」という思いで劇場に足を運んだのだが、蓋を開けてみれば映像美と独特の世界観にまずノックダウンされる始末。しかも廃墟に潜む不気味な扉や、そこから飛び出す巨大なミミズといった奇天烈な設定が意外にも整合性を保ちつつ進行していくので、観ているうちに「やっぱり新海節は伊達じゃないな…」と妙に納得させられる。

もっとも、キャラ同士の掛け合いにはちょっと強引な部分もあって、「そうはならんやろ!」とツッコみたくなる場面も数知れず。だが、それも含めて本作の楽しみ方の一つといえるだろう。

結果として、圧倒的なビジュアルと情感豊かな音楽に後押しされながら、喪失と再生、そして人と人の絆をポジティブに描いた物語として仕上がっている点は秀逸。次から次へと開閉する扉のごとく、見る者の心も忙しく揺さぶられるため、良くも悪くも感情がエンドロール時にはへとへとになるほどだ。

ここでは、そんな本作の魅力とツッコミどころを余すところなく掘り下げていくので、まだ観ていない方は十分にご注意を。ネタバレ上等で突き進むので、あしからずご容赦いただきたい。

映画「すずめの戸締まり」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「すずめの戸締まり」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、表面的には主人公・岩戸鈴芽が日本各地に点在する廃墟の扉を閉めて回るというファンタジー・アドベンチャーである。しかし、その背後には東日本大震災の記憶が色濃く刻まれており、観客にとっては「ただの冒険活劇」として気軽に消費することが難しい奥行きを伴う。実際に鈴芽は幼少期に震災で母を亡くし、そのトラウマを抱えつつ平穏な日常を過ごしている。そこへ突然現れる扉、謎の青年・宗像草太、そして巨大なミミズ――ツッコミどころ満載の展開だが、これらが物語全体の軸としてしっかり機能しているのだから恐れ入る。

まず目を惹かれるのは、やはり圧倒的な背景美術のクオリティである。新海監督作品おなじみの光の表現や空の描写は、今回もバッチリ健在。雨や霞などの微妙なアニメーションの質感まで精緻に作り込まれており、「実写より美しい」と感じるほどだ。さらに、廃墟の描写がどこか物悲しく、しかしロマンチックでもあるという絶妙なバランスに仕上がっているのが秀逸。朽ちた遊園地や廃校といったシチュエーションは、ひたすらに寂寥感が漂うかと思いきや、キャラクターたちの明るいやり取りが混ざることで重苦しさを和らげる。「日本にもこんな神秘的な場所があったのか…」と気づかされ、旅情をそそる要素がふんだんに詰め込まれている。

一方で、物語のテンポはめまぐるしく、観ているこちらとしては「えっ、もう次の県に行っちゃうの?」とツッコみたくなる。途中で出会う人々との交流シーンも短めで、もっと掘り下げたドラマがあってもいいのにな、と感じる部分は少なくない。それでも、鈴芽が草太を助けるために奔走する真っ直ぐさや、旅先で彼女を手助けしてくれる人々の温かみが丁寧に描かれているおかげで、全体的には筋道が通ったロードムービーとして楽しめる。そもそも、この作品ではリアリティよりも「想いの流れ」や「喪失と再生」のテーマが主題となっているように思われる。だからこそ、多少強引なシーンがあっても「まあ、勢いで押し切ってくれればOK!」と思える余地があるのだ。

とはいえ、本作を観ていて感じるのは、新海監督がこれまで手掛けてきた「君の名は。」「天気の子」といった作品との類似点である。例えば、少年少女が何かしらの使命や超常的な力に巻き込まれ、奔走するという王道パターン。そして映像美や音楽の融合で圧倒的な没入感を演出する手法も変わらない。良く言えば「新海節が全開」、悪く言えば「さすがにマンネリか」というあたりだろう。実際、筆者は序盤で「ああ、またこういう感じね」と思わず苦笑したが、それを分かっていても見入ってしまうだけの勢いと魅力があるのも事実。特に今回の主題歌「すずめ feat.十明」をはじめ、RADWIMPSの劇伴は本作の雰囲気にぴったりで、感情の起伏を存分に煽ってくれる。

ネタバレ要素としては、やはりクライマックスの“扉”をめぐるドラマが見どころだ。巨大なミミズが日本を震撼させる危機に対し、鈴芽と草太がどのように立ち向かうのか…その過程で明かされる鈴芽の過去、そして母との想い出が強く胸を打つ。何といっても、鈴芽が“あの場所”で母親と再会するシーンは、観ていて思わず涙腺が緩んだ。そこには単なるお涙頂戴ではなく、「過去を受け止めた先に進む」という物語のメッセージがしっかりと込められている。だからこそ、単純に「感動したー!」で終わらず、観終わったあとに自分の中でもう一度咀嚼したくなる余韻が生まれるのだ。

とはいえ、批判的な視点を挙げるならば、やはり震災をファンタジー要素の一部として扱っていることに対する賛否は分かれるところだろう。震災を背景にしたからこそ物語に厚みが増した面も大いにあるが、一方で「本当にそこまでフィクションと絡めてよかったのか?」という声も存在する。筆者自身、これまであまり震災を直接的に描いたアニメ映画を観たことがなかったため、多少の違和感は否めなかった。ただ、その「違和感」こそが、本作が投げかける問題提起とも言えるかもしれない。震災の記憶を風化させないアプローチの一つとして、こういうエンターテイメントの形があってもよいのでは、と最終的には感じた。

総じて、本作は「激辛」というよりは「ピリ辛」くらいの批判ポイントはあるものの、映像・音楽・キャラ描写の相乗効果で多くの観客の心をつかむだけのパワーを持った作品である。特に、廃墟めぐりや少女の成長物語が好きな人にはたまらないはず。かくいう筆者も、観終わった後には「また新海監督にやられたな…!」という悔しさ半分、満足感半分の妙な気持ちに包まれた。おそらく、観る人によって受け取る印象は変わるだろうが、作品が問いかけるテーマは決して軽くはない。未来へ進む力、失われたものへの向き合い方、人とのつながり――そうした普遍的なモチーフを、新海ワールドらしい幻想美で味わいたいなら、本作はぜひ押さえておくべき一本である。とはいえ、筆者的にはいろいろ言いたいこともあるため、星三つという辛口評価を下させてもらった次第だ。物語に徹底した整合性や独創性を求める人には、やや引っかかる部分もあるかもしれない。しかし、映像を眺めているだけでも十分に価値のある時間が過ごせるのは間違いない。

映画「すずめの戸締まり」はこんな人にオススメ!

まず、本作はいわゆる“映像美命”タイプのアニメファンにはどストライクだろう。新海監督ならではのキラキラ背景が見たい人や、廃墟のノスタルジックな雰囲気を思う存分楽しみたい人には文句なしにオススメできる。さらに、震災という重いテーマを含みつつも前向きなメッセージを感じ取りたい方にもピッタリだ。失われた過去を引きずりながらも、未来に向かって扉を開け続ける主人公の姿勢には、なんだか応援せずにはいられない不思議な魅力がある。

また、ロードムービー的なストーリーを好む人にも合っていると思う。日本各地を旅しながら次々に廃墟を訪れる展開は、観光気分で楽しめる要素を持っている。作中で遭遇する人々との短い交流シーンにはもう少し尺が欲しいところだが、サクッと次の目的地へ移動するスピード感がむしろ心地よいという声もあるだろう。さらには、少々ベタな“少年少女の冒険と恋”といった王道展開も含んでいるため、青春アニメが好きな方や胸キュン要素を期待する人にとっても悪くないチョイスとなる。加えて、RADWIMPSの音楽に惚れ込んでいる音楽ファンや、新海監督作品をコンプリートしておきたいというコアなファン層にも外せない一本だろう。とりわけクライマックスのテーマ曲が流れる瞬間には鳥肌が立つこと請け合いだ。

逆に言えば、震災を題材にすることに抵抗を感じる方や、ファンタジー要素と社会問題が混ざる展開に違和感を覚えやすい人には少々しんどい部分があるかもしれない。しかし、そうした賛否も含めて本作が持つメッセージ性や議論を喚起する力は侮れない。つまり、気軽なエンタメとしても鑑賞できる一方、そこに深読みをしたい人には社会派の要素も備わっているため、幅広い層にオススメできる。もちろん、何よりも美麗な映像を堪能したい人には文句なしに「ぜひどうぞ!」と背中を押したくなる作品といえよう。

まとめ

総括すると、映画「すずめの戸締まり」は、震災や喪失といった重たいテーマを扱いながらも、新海誠監督らしい映像美とファンタジックな冒険譚を融合させることで、多くの観客を惹きつける力を持つ作品である。ただし、そのぶんストーリー展開にやや突飛な要素があったり、説明不足と感じる部分も否めない。ロードムービーを通じて主人公・鈴芽の成長をじっくりと観察しつつ、時にツッコミを入れたくなる描写も含めて楽しむのがオススメのスタンスだ。「震災を扱っているのにエンタメ的でいいの?」という葛藤もあるかもしれないが、むしろそうした複雑な意見や疑問を呼び起こすことこそ、本作の狙いなのだろう。

結果として、映像・音楽・テーマの相乗効果で、観終わった後にはどこか心に残るメッセージがあるのは確かである。決して完璧な作品とは言えないが、それでもなお多くの人に刺さる何かがある。もしあなたが映像美やファンタジー、そしてちょっとした社会的メッセージを含んだ物語を求めているなら、ぜひ劇場や配信で本作に触れてみてほしい。ついでに廃墟めぐりの魅力も再発見できるかもしれないし、なにより鈴芽の素直な行動力と笑顔に癒やされるはずだ。そして観終わったあと、あなた自身の心にある「閉じ忘れた扉」がもし見つかったら、どう戸締まりをするか考えてみるといいだろう。