映画「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」公式サイト

映画「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

いやはや、タイトルからしてスパイアクションと家族コメディがガッチリ融合した作品なのかと期待してしまうが、実際のところどんな内容になっているのか気になる人も多いだろう。原作から飛び出す“あの家族”が、ついに映画の大画面で活躍するとなれば、ファンならずともワクワクせざるを得ない。スパイ要素満載の諜報戦? はたまた家族間のほっこりエピソード? アーニャの可愛さに萌え転がるのか、それともヨルの華麗な武術アクションに衝撃を受けるのか、どんな見どころが詰まっているのか期待が膨らむばかりだ。

とはいえ「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」は単に楽しいだけではない。原作が持つ皮肉や社会風刺、スパイアクション作品としての緊張感をどう描ききるのかも注目ポイントである。そんな期待値高めの本作だが、あえて激辛視点でぶった斬るならばどうなるのか。ここから先は筆者が深掘りした感想やレビューを包み隠さず書いていくので、ネタバレ覚悟で読み進めてほしい。

映画「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」の個人的評価

評価:★★☆☆☆

映画「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、人気漫画・アニメ「SPY×FAMILY」を原作とした初の劇場版であり、タイトルに“CODE: White”と冠するだけあって、どうやら雪や冬の季節感をテーマにしたストーリーが展開される。原作の基本設定を踏襲しつつ、映画オリジナルの要素が盛り込まれているのが特徴だ。ストーリー自体は、フォージャー家が新たなミッションのために雪国へ向かうところから始まる。ここまではなかなかワクワクする導入であるが、ふたを開けてみると意外にもスパイ要素よりもコメディ要素が前面に出た構成になっていると感じた。

まず、良いところから語ろう。やはりアーニャの存在感は抜群だ。大スクリーンで繰り広げられるアーニャの“ほえほえ”な表情や天真爛漫な発言の数々は、それだけでファンなら十分楽しめるはずである。さらにヨルのアクションシーンは、アニメ同様にキレキレで迫力満点。雪の中で繰り広げられる体術や暗殺技の描写は、冬の白い世界に鮮やかなコントラストを与えていた。ロイドは相変わらず有能なスパイぶりを発揮しながらも、家族を守る父親としての苦労や葛藤も見せてくれる。こうしたキャラクターのバランスは、原作に忠実でファンを裏切らない安定感があると言える。

一方で、脚本面に目を向けると若干の物足りなさを感じざるを得ない。雪国で巻き起こる陰謀や新キャラクターの登場など、確かに劇場版ならではのスケールアップは感じるのだが、肝心のスパイアクションやミステリー要素がかなり薄味になっている印象だ。せっかく雪山を舞台に緊迫感のあるミッションが展開されるのかと思いきや、意外にもコメディパートに多くの尺を割いており、肝心のスリルやドキドキ感がやや不足している。アーニャの可愛さをたっぷり見られるのは嬉しいが、それがメインディッシュになりすぎて、スパイ映画としての旨味が半減している感は否めない。

さらに、予告編や前情報では「雪山を舞台にしたフォージャー家の新たな試練」などと煽られていたが、実際の難局はそこまで深刻なものではなかった。事件の規模もやや小ぶりで、ロイドが得意の諜報テクを発揮する場面も少なめ。ヨルの“殺し屋”としてのシリアスな側面も、コメディに押されがちで存分に引き出されているとは言い難い。結果として、全体のバランスがどうにも中途半端に感じられるのである。アーニャの超能力(テレパシー)が活かされる展開もそこそこあるが、映画ならではの大きな仕掛けがあったかと言われると、「うーん、まあ、そこそこかな」という微妙なラインだ。

もうひとつ気になったのは、テーマ性の曖昧さである。本作の原作漫画やTVアニメシリーズは、家族の絆や互いの秘密を抱えつつも支え合うというメッセージがしっかりと描かれていた。しかし「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」では、雪山という新舞台やオリジナルキャラクターの投入に手を広げた結果、いろいろ詰め込んだ割には焦点がぼやけてしまった印象だ。メインで扱いたいテーマが「家族愛」なのか「雪山ミッションのスリル」なのか「アーニャの成長」なのかが、いまひとつ明確に伝わってこない。そもそもスパイ映画として期待している人からすると、「あれ、家族コメディばっかり?」という肩すかしを食らいかねないし、コメディを楽しみにしている人からすると、「もっとアーニャのギャグやヨルのぶっ飛んだ天然ぶりを見たかったのに…」と感じる部分もあるかもしれない。

キャラクターの描写に関しても、ロイドとヨルの内面に踏み込むエピソードは少ないように思える。特にヨルは暗殺者としての苦悩を描かれると面白いキャラなのだが、本作ではどちらかというとギャグ要員に振られていて、原作ファンとしてはちょっと物足りない。とはいえ、アーニャとの絡みで思わず笑ってしまうシーンも多く、コミカルな面を強調したかったのだろうという意図は伝わる。監督の方針か脚本の意向かはわからないが、やはり劇場版ならもう少しダークな要素やシリアスな場面も盛り込み、作品全体にメリハリをつけてほしかったところである。

作画や映像面ではさすがに劇場版だけあって、背景の美術やアクションシーンの動きは高水準だ。雪の質感や寒さの演出なども、TVアニメに比べれば確実にパワーアップしている。アーニャの細かな表情変化やヨルの鋭い体の動きも迫力が増し、見応えは十分にある。特にクライマックスのシーンは、雪山の崖を舞台にド派手なアクションが展開され、スクリーンで観る価値は大いにあると感じた。ただ、作画のクオリティに頼るばかりで脚本が追いついていない印象もあり、絵とストーリーが噛み合わずに終わってしまった部分は惜しい。

また、本作は音楽にもこだわっているらしく、挿入歌やBGMも雪景色に合った荘厳なものが多い。特にヨルの戦闘シーンで流れる重厚なオーケストラは耳に残る。しかしながら、肝心の感動シーンでいきなりポップな楽曲が流れてきたりと、選曲のバランスに疑問を感じる場面があったのも事実だ。これは筆者の好みの問題かもしれないが、もう少しシーンごとの音楽の“空気感”を大切にしてほしかった。

ストーリー終盤で一応の大団円を迎えるものの、結局は「雪山に行って、ちょっとドタバタして帰ってきました」的な印象が強い。家族の絆も、もちろん描かれてはいるが新鮮味は薄く、いわゆるお約束の場面をなぞった感じだ。やはり観客としては、劇場版ならではの特別なストーリー展開や感動的なクライマックスを期待してしまう。例えばアーニャの超能力がバレる・バレそうになるとか、ヨルの暗殺者としての秘密がロイドやアーニャに影響を及ぼすとか、そういうヒヤッとする展開があれば盛り上がるのだが、本作ではあまり突っ込んで描かれていない。

ジョークやパロディなどのコメディ要素は充実しており、アーニャが新キャラクターと繰り広げる掛け合いは「SPY×FAMILY」らしい笑いを生んでいる。新キャラが登場した瞬間は「お、こいつが今回の悪役か?」と身構えたが、結果としてそこまで驚くような活躍はなく、むしろアーニャのボケに翻弄されてしまう展開が多かった。ファンにとっては嬉しい新キャラ投入ではあるが、そのポジションが中途半端で、作品の印象を大きく変えるほどの存在感は示さなかったと感じる。

こうして総合的に見ると、「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」はキャラクターの魅力や作画のハイクオリティといった基本的な楽しさはあるものの、ストーリーやテーマがやや散漫で、期待値をグッと上回るような感動や興奮は薄めだと感じた。正直言って劇場版らしい特別感に欠けるので、TVスペシャル的な延長線上と言われれば納得してしまう部分も多い。もちろん、原作やアニメファンにとってはアーニャたちの新しいエピソードを観られるだけでも嬉しいだろうが、「劇場版としてこの内容でいいのか?」という疑問は拭いきれない。

ファンの方は細部の小ネタに楽しみを見いだしたり、キャラの動く姿を大画面で観られるだけでも満足できるかもしれないが、厳しい目線で見るならば★2程度の評価になってしまう。とはいえ、全くつまらないわけではなく、笑いどころもしっかり用意されているし、作画は素晴らしい。どうしても期待値が高い分、ちょっとした不満が目立ってしまうというのが正直なところである。激辛と銘打ちながらも、原作ファンにとっては観て損はない…かもしれない、という微妙な落としどころでまとめざるを得ないのがもどかしいところだ。

個人的には、もし続編があるならば、家族の秘密とスパイミッションがもっと密接に絡むようなシリアス展開を見てみたいと思う。コメディ要素を保ちつつも、もう少し観客の心を揺さぶるようなストーリーに仕上がっていれば、劇場版ならではの重厚感を楽しむことができたのではないか。そういった意味で「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」は、“悪くはないけど期待値には届かなかった”作品と言える。もちろん、この評価はあくまで個人的な激辛視点であり、コメディ重視のファンやキャラクター愛で満足できる人にとっては高評価になる可能性もあるだろう。だが、筆者はあえて辛めに★2を付けたい。なにせ“激辛!”がウリの記事だから許してほしい。

映画「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」はこんな人にオススメ!

本作をあえてオススメしたいのは、やはり「SPY×FAMILY」という作品自体のコメディやキャラクターにどっぷりハマっている人だ。アーニャのゆるいボケやロイドの超人的なスパイ技術、ヨルの対人破壊力満点のアクションをスクリーンいっぱいに楽しめるので、推しキャラが動いてしゃべるだけでも満足!という人にはうってつけである。さらに、新キャラの登場や雪山といういつもと違った環境でのフォージャー家の活躍が観られるので、原作やアニメの繰り返し視聴に飽きた方でもそこそこ新鮮味を感じられるはずだ。

一方、スパイ映画としての本格的なアクションやサスペンスを求めている人には、正直そこまで刺さらないかもしれない。アーニャの可愛らしさと家族のドタバタコメディがメインディッシュになっているので、息をのむような諜報戦やシビアな心理戦は少なめだ。とはいえ、まったく見どころがないわけではなく、ヨルのアクションや雪山のクライマックスシーンにはしっかり迫力があるので、気軽なエンタメ作品として観たい人には程よいテンポ感で楽しめるだろう。

さらに、原作を読まずにアニメだけ視聴しているライト層にも、そこそこ楽しめる内容になっていると思う。あまり複雑な設定や裏設定を気にせずに、あのファミリーの新作エピソードを素直に楽しめるので、「とにかくアーニャを愛でたい」「ヨルとロイドの夫婦漫才を大画面で見たい」という人にはちょうどいい。家族や友達とワイワイ笑いながらポップコーンでも頬張って観るには最適と言える。逆に、「真剣なスパイドラマを求む!」というガチ勢には、やや物足りないかもしれないが、その分コメディを活かした軽快な雰囲気を楽しんでほしいと思う。

結論として、本作は“SPY×FAMILY”というブランドを愛するファン向けのお祭り映画に近いので、そういう意味ではファンなら一見の価値はあると言えよう。

まとめ

以上、「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」の感想・レビューを激辛視点でお送りした。まとめると、“アーニャの魅力全開、作画もハイクオリティだけど、ストーリーの緊張感やテーマ性はいまひとつ盛り上がりに欠ける”という印象だ。劇場版ならではの大きな仕掛けやスパイ要素の深化を期待していた身からすると、ちょっぴり肩すかしを食らった感が否めない。

とはいえ、原作ファンやアニメファンにとっては、あのフォージャー家が雪山を舞台に新たなハプニングに巻き込まれる様子を楽しめるだけでも嬉しいだろうし、アーニャの可愛さは大画面でこそ真骨頂を発揮する。激辛レビューではあるが、決して全否定というわけではなく、“もう一歩踏み込んでほしかった”という期待の裏返しでもある。興味がある人はぜひ自分の目で確かめ、アーニャの尊さを堪能していただきたい。