映画「白雪姫」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
まず最初に、この作品は1937年のアニメ版を知っている人ほど「こうきたか!」と驚かされる場面が多いと感じた。とりわけ、白雪姫が持つ穏やかな雰囲気や周囲への気遣いは原作の魅力そのままだが、行動力や周囲との関係性についてはかなり新しい要素が加わっていた。主演のレイチェル・ゼグラーは伸びやかな歌唱力を見せつけつつ、これまでの白雪姫像とは異なる活発さを表現しており、そこが本作ならではの個性につながっている印象だ。
だが、一方で「愛されるプリンセス像」と「力強いヒロイン像」のバランスが微妙にズレていると感じる部分もあり、そこが好き嫌いを分ける可能性も高い。実写ならではの迫力は存分に味わえるが、1937年版の懐かしさを期待していると拍子抜けするかもしれない。本記事では、そんな現代にアップデートされた白雪姫を、良い点もあまり響かなかった点も含めてざっくり語っていく。
映画「白雪姫」の個人的評価
評価:★★☆☆☆
映画「白雪姫」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作を観た率直な印象は「かなり大胆な再解釈を盛り込みつつ、要所で懐かしさも匂わせる」というものだ。1937年のアニメ版を下敷きにしながらも、ヒロインとしての白雪姫に大きな変化が見られる。ここでは、そのあたりを掘り下げつつ良かった部分や気になった部分をまとめていきたい。
まず、白雪姫の存在感が非常に強い。オリジナルのアニメ版では、白雪姫はとても優しく素直で、森の動物たちや小人たちと穏やかにふれあう様子が印象に残っていた。一方、本作の白雪姫は、そうした優しさを引き継ぎながらも、はっきりと自分の意思を口にし、自らの足で道を切り開こうとする。この方向転換はかなり明確で、たとえば森での生活においても、仲間たちをただ頼るのではなく「自分にできることは何か」を模索し、実際に行動してみせる場面が増えているのだ。これについては、現代的な女性像を反映させた挑戦として好意的に受け止める人が多いだろう。
一方で、こうした主体的な白雪姫が描かれることで「これは本当にあの白雪姫なのか?」と感じる観客も出てくるかもしれない。とくに1937年版をこよなく愛する人にとっては「もっと受け身な白雪姫像」のほうが親しみやすい可能性がある。本作では、プリンセスというより一人の強い若者としての印象が先に立つため、人によっては最初のイメージとのギャップに戸惑うだろう。
王子様の不在も大きな特徴になっている。物語の要となるのは、ジョナサンという山賊一味の若者だ。従来の「白馬に乗った王子が突然現れて白雪姫を救う」という流れではなく、お互い助け合う過程で少しずつ心を通わせる構成になっているのがポイントだ。個人的には「王子様がいないなんて白雪姫らしくない」と最初は違和感を覚えたが、観終わってみると、ジョナサンという存在が白雪姫を引き立てるうえで悪くない役割を果たしていたと感じる。なぜなら「プリンセスが真実の愛のキスで復活」という展開にも、事前のやりとりをしっかり積み重ねることで説得力が増しているからだ。
ただし、そのぶん1937年版の有名曲「いつか王子様が」が流れない寂しさは拭えない。そもそも王子様が存在しないのだから仕方ないのだが、やはりディズニーの白雪姫といえば、あの曲を思い浮かべる人も多いはずだ。本作には新曲が複数用意されており、特に女王が歌うシーンでは鳥肌が立つほどの迫力があった。しかし、どうしても「あの名曲は……」という思いが頭をかすめてしまった。
その女王に関しては、邪悪さがしっかり誇張されていた点は良かった。白雪姫の美しさを恐れ、鏡を使って確認し続ける姿は、原作から受け継いだ醜い執着心を鮮明に描き出している。女王役のガル・ガドットは気高い雰囲気を漂わせつつ、時折見せる狂気じみた表情との落差が印象深い。ただ、物語のクライマックスは「想像以上にあっさりしている」と感じた人もいるのではないだろうか。白雪姫が目覚めた後、民衆を味方にして女王に立ち向かう展開そのものは力強いのだが、女王側の対抗策や狡猾さがあまり丁寧に描かれないため、見ているこちらが拍子抜けしてしまう。
小人たちについてはなかなか悩ましいポイントだろう。原作や過去のディズニー作品が描いてきた小人像は、当事者への配慮という観点から現代では再考が求められている。本作でも、CGで表現された小人たちと人間のキャラクターが混在するかたちで登場するが、どうしても「昔からのイメージをどう扱えばいいか」という制作側の葛藤が垣間見える。作品内での活躍シーン自体は愛嬌があり、ハイ・ホーの楽曲が流れる場面はやはりテンションが上がる。しかし、物語全体のアレンジが大胆なわりに、小人たちは“旧来の要素”と“配慮”を共存させようとして綱渡り状態にも見えたため、人によって評価は分かれそうだ。
実写版らしい大きな見どころとして挙げたいのが、映像の華やかさだ。森を駆け抜ける白雪姫やジョナサン、小人たちが集う鉱山の宝石の輝き、白雪姫が躍動する歌のシーンなど、スクリーンならではの眩い場面がたっぷり詰まっている。衣装の細部も凝っているため、家で配信やソフトで見るより映画館のほうが迫力を楽しめるだろう。
もっとも、豪華さと現代的なアレンジを盛り込みすぎたためか「結局どの方向をメインに見せたいのか」が散漫に思える部分がある点は惜しい。たとえば、白雪姫が民衆を鼓舞する際の熱意は十分に伝わるのだが、その一方で、原作から大幅に離れた新しい童話として徹底しきれていない印象も受ける。古いファン向けにハイ・ホーを筆頭とするクラシックな要素を残した一方、ストーリー面では大胆に変えてしまうため、どうしても「両方に手を出して中途半端」という感覚が拭えない。
さらに、細かなツッコミどころも散見される。城の警備が手薄で白雪姫があっさり抜け出せるとか、ジョナサンが捕まったときの処理が雑だとか、現実的に考えたら少々無理がある演出が所々にあるのだ。ただ、これを突き詰めすぎると童話作品の夢やロマンが損なわれてしまうため、ある程度は目をつぶるべきかもしれない。とはいえ、モヤモヤを抱えずに楽しむには「ファンタジーなんだからいいじゃないか!」と自分自身を説得しておく必要がある。
1937年版をただなぞるだけのリメイクではないし、かといって完全に新しい物語とも言いがたい絶妙な立ち位置にある。主演のレイチェル・ゼグラーが放つ歌唱力と存在感、そして王子様の代わりに登場したジョナサンや映像の美しさなど、見応えのある要素は確実にある。一方で「王子様のいない白雪姫」という思い切った変化によって、あの懐かしい曲が聴けない寂しさが伴うのも事実だ。正直なところ、自分はアニメ版の古風なムードが好きだったため、この現代的な再構築にはやや戸惑ったクチである。とはいえ、新しい童話としての魅力を見いだせる人には、かなり楽しめる作品だと思う。
以上、本作に感じた良かった点・気になった点を取り混ぜた感想をまとめた。激しく好みが分かれそうなリメイクだが、挑戦そのものは評価すべきだろう。1937年版を原作とする実写化をやる以上、現代社会を踏まえた解釈のアップデートは必要不可欠だし、その試みとしては相応の見どころを備えている。ただ、古くからのディズニーファンには「少し違うな」と思わせる部分も多々あるため、そこをどう受け止めるかが鑑賞後の評価を大きく左右するはずだ。
映画「白雪姫」はこんな人にオススメ!
まず、力強く前へ進むヒロイン像に魅力を感じる人には断然オススメできる。白雪姫というと「待ちの姿勢」のプリンセスを想像する人が多いかもしれないが、本作ではとにかく積極性が目立つ。真実の愛を受け身で待つのではなく、自ら運命を切り開こうとするため、そういうアグレッシブさが好きな人にはたまらないだろう。
次に、オリジナル版への深い思い入れをあまり抱いていない、あるいは別物として楽しめるタイプの人にもオススメしたい。「1937年版のあのシーンが変わった……」といった気持ちが強すぎると、かえって違和感が膨らむ可能性が高い。一方で「新たな童話として観よう」という柔軟なスタンスで挑めば、豪華な映像や歌唱シーン、そして大胆なアレンジを受け入れやすくなるはずだ。
さらに、最近のディズニー実写化作品の方向性が好きな人なら、この作品の方向性にも馴染みやすいだろう。「美女と野獣」「アラジン」など、従来のプリンセス物語をアップデートしようとする動きは近年の大きな潮流だが、本作はその動きをさらに一歩進めたような内容になっている。古典の世界観をベースにしつつ、現代的な価値観をストレートに盛り込む姿勢を高く評価できる人にとっては、かなり興味深い映画と言える。
逆に、クラシックで淡いおとぎ話をそのまま実写で観たい人には少々刺激が強いかもしれない。登場人物の役回りや曲の扱いも含めて大胆な改変があるため、「昔ながらの白雪姫」を求める人は戸惑うだろう。しかし、新しい試みに寛容で、ちょっとした違いも楽しめる人にはぜひ一度体験してみてほしい。
まとめ
本作は、1937年版を観て育った人からすると「こんな展開になるなんて!」と驚く部分が多い。王子様がいないことでストーリーの流れや楽曲の構成も一新されており、白雪姫が能動的に動き回る姿が新鮮だ。ただ、その大幅な変化ゆえに「原典が好きだった」という人ほど意外性に戸惑うかもしれない。
とはいえ、現代の視点を踏まえたアップデートとしては面白い要素が詰まっていて、スクリーン越しに感じる鮮やかな映像や迫力の歌唱パフォーマンスは見応えがある。よく知られたハイ・ホーの場面も最新の技術で彩り直されていて、美しさに圧倒される瞬間が確実に存在する。単なる懐古にとどまらない本作は、観る側の期待や先入観をひっくり返す力を持っていると言えるだろう。