映画「シンペイ 歌こそすべて」公式サイト

映画「シンペイ 歌こそすべて」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

2024年1月に公開されたこの作品は、明治から昭和にかけて活躍した作曲家・中山晋平の生涯を描いた伝記映画である。だが、ただの伝記映画と思って油断していると、当時の日本の風景と音楽シーンがしっかりと絡まり合い、意外にもドラマ的要素を盛り込んでくるから油断ならない。とはいえ、観ているこちらとしては「もっとパンチの効いたスキャンダルや愛憎劇でもぶっこんでくれ!」と、つい欲張ってしまう瞬間もあるのが正直なところだ。

音楽映画らしく随所に流れる名曲の数々は、ノスタルジックでほろ苦い昭和の空気を存分に味わわせてくれるが、一部では「ドキュメンタリーとドラマの境目が中途半端だな」と感じる部分もあるかもしれない。そこがまたツッコミどころ満載で、観客にとっては好みが分かれそうなポイントだろう。とはいえ、中山晋平の愛すべきキャラクターや、周囲を取り巻く個性的な人々のやりとりがコミカルに描かれているシーンもあり、肩の力を抜いて楽しむにはちょうどいい。

昔懐かしい歌たちに思いを馳せつつ、波乱万丈な作曲家の人生をなぞる旅路に付き合う感覚で観るのが正解だと思う。さて、ここからはもう少し詳しく、激辛目線もまぶしつつレビューをしていこうではないか。

映画「シンペイ 歌こそすべて」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「シンペイ 歌こそすべて」の感想・レビュー(ネタバレあり)

中山晋平という人物が主人公である以上、どうしても「大衆に愛される曲をたくさん作ったスゴい人」という固定イメージで見てしまいがちだが、本作では彼の意外な苦悩や人間関係のゴタゴタがそこそこ描かれているのが面白い。とくに、古賀政男のような同時代のライバル作曲家との対比や、彼が時代の流れの変化に戸惑いつつも懸命に曲作りに挑む姿は、一流芸術家だからといって悩みがないわけではないことを痛感させられる。もっとも、その苦悩の描写がやや控えめで、もう少しドロッとした葛藤や爆発的な情熱を表現してくれたら「激辛批評家」としては嬉しかったところだ。

さらに、中山晋平が作り出す数々の名曲――「カチューシャの歌」「ゴンドラの唄」「船頭小唄」など――を劇中で頻繁に流してくれるため、曲としては耳なじみがあり、郷愁を誘う。だが、その音楽の魅力を思う存分堪能しようとすると、ストーリーがやや説明的なパートに入ってしまうこともしばしば。ドキュメンタリー的な事実羅列が続くので、「もっと感情移入できる人間ドラマが欲しい」という観客には、そこが物足りなく映るかもしれない。ここは好みの分かれるところだが、激辛視点で言えば「さあ歴史のお勉強ターイム!」といった雰囲気になりがちな部分は少々退屈である。

とはいえ、役者陣の演技力には目を見張るものがある。中村橋之助が演じる中山晋平は、どこか朴訥とした言動の裏に情熱を秘めたキャラクターで、歌へのこだわりは強いのに、時代の変化には対応しきれず悩む姿がとても人間くさい。志田未来演じる妻の敏子は、中山晋平を支えながらも、本人自身の繊細な思いや苦しみを抱えているという複雑な女性を好演している。二人のやりとりの中には、観ているこちらがクスリと笑ってしまうような夫婦漫才的シーンもあり、シリアス一辺倒にならずに済んでいるのは大きな魅力だ。

加えて、本作の時代考証と美術面のこだわりは見逃せない。大正・昭和初期の東京の街並みや人々の服装、さらには長野の山村風景など、どれも丁寧に再現されている。ロケ地の選び方も秀逸で、当時の空気を肌で感じるようなリアルさがある。そうした風景の中で聞こえてくる童謡や歌謡曲は、自然と郷愁をかき立て、観ているこちらも子どもの頃に聞いたあの歌や運動会で歌ったあのメロディをつい思い出してしまう。

しかし激辛な視点を外さずに言わせてもらえば、「もっと尖ったドラマ要素や裏話があれば最高だったのに!」という欲張りな気持ちが湧いてしまうのも事実だ。実話ベースだからこその制約もあるのだろうが、そこをいかに面白く脚色するかがドラマ作品の醍醐味でもある。例えば、ライバル作曲家との確執や音楽業界の内幕をもうちょっと強調してくれれば、観客の興味をがっちり引き寄せられただろう。あるいは、中山晋平自身が抱いていたかもしれないコンプレックスや、成功の裏に潜む挫折感などが描写されれば、さらに深みのある人間ドラマに仕上がったに違いない。

とはいえ、本作は「歌こそすべて」というタイトルの通り、作品を通して音楽の力を再認識させてくれる。たとえ時代が移り変わろうとも、人々の心に残る歌というものが、どんなに素晴らしい存在であるかを実感できるのだ。劇中で子どもたちが歌う「しゃぼん玉」や「てるてる坊主」のシーンなどは、ちょっとした郷愁とともに、「ああ、歌ってやっぱりいいなあ」と思わずしみじみしてしまう。下手なスペクタクルCGよりも、こんな素朴な感動が人の胸を熱くしてくれるのだから、映画という娯楽の多様性を感じずにはいられない。

「シンペイ 歌こそすべて」は、中山晋平の功績を改めてかみしめると同時に、日本の音楽史に思いを馳せられる作品である。激辛的にはもう少しドラマ面で燃え上がりたいところだが、ほっこりとした感動や昔懐かしい雰囲気に浸るには十分楽しめる。子どもの頃に童謡で育った世代はもちろん、今のJ-POP世代でも意外とグッとくる何かがあるはずだ。怒涛のエンタメ要素は多くないが、じんわりと心に残る映画として、一見の価値はあると思う。

映画「シンペイ 歌こそすべて」はこんな人にオススメ!

まずは「昔ながらの童謡や歌謡曲が大好き」という人には問答無用でオススメである。なぜなら、この映画ほど中山晋平の曲をふんだんに流してくれる作品はそうそうないからだ。スクリーンに広がる当時の情景と相まって、懐かしさと新鮮さが同居する音楽体験を味わえるのは大きな魅力だろう。また、歴史モノや大正〜昭和初期の文化に興味がある人なら、当時のファッションや街並みも楽しめるはずだ。特にロケセットの再現度が高く、昭和レトロ好きにはたまらない空間が広がっている。

さらに、「実在の人物を題材とした伝記映画に興味はあるけど、堅苦しいのは苦手だなあ」という人にも推したい。本作はドキュメンタリーの要素がありつつも、キャラクター同士の掛け合いにコミカルなシーンがあったりと、いい感じにドラマ仕立てになっている。笑いを交えつつほろりとさせられる展開もあるので、肩ひじ張らずに観られるはずだ。もちろん、音楽の知識がまったくなくても問題ない。耳に残るメロディと人間模様をさらっと楽しめる作りになっているから、家族や友人と一緒に観て語り合うのも悪くない。

最後に、「もう最近の映画はCGド派手アクションばかりで疲れた」という方にもおすすめしたい。アクション要素皆無だが、その代わりに琴線に触れる歌とドラマが詰まっている。古き良き日本の空気感を肌で味わいながら、じんわりとした郷愁と人間ドラマをゆったり楽しむ──そんな映画体験がしたい人なら、きっとハマるはずだ。

まとめ

「シンペイ 歌こそすべて」は、中山晋平の人生と音楽を通して、日本の文化と人々の心に触れる作品である。ドキュメンタリーのように事実を積み上げる部分もあるが、その分、童謡や歌謡曲の持つ力を存分に味わえるのは間違いない。激辛目線では「もっとドラマや葛藤を濃厚に描いてほしい!」という欲張りな要望も出てくるが、それでも十分に見ごたえがあり、懐かしさと新鮮味の同居する不思議な魅力を放っている。

新しい音楽が次々と生まれる現代だからこそ、昔から歌い継がれる曲の尊さに改めて気づかされる。スクリーンの中で語られるエピソードを追体験するうちに、「あの歌にはこんな背景があったのか」と感じ入り、作曲家という裏方の存在に光が当たる瞬間の尊さに思わず胸を打たれるのだ。激辛的にはもっと波乱万丈な展開を見たかったが、終わってみればじんわりとした感動が残る良作だったと言える。