映画「青春18×2 君へと続く道」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
この作品は、清原果耶が主演を務める日台共同制作の青春ドラマである。台湾で大きな人気を誇る俳優との共演が話題となり、公開直後からSNSでも盛り上がりを見せている。ひとり旅がテーマかと思えば、切ない初恋と成長が交錯する恋愛物語でもあるため、意外な二面性にドキリとさせられる。さらに、ロケ先の風景描写や、若さゆえの情熱がほとばしる展開に心を動かされるのだ。むろん、台湾パートのにぎやかさと、日本パートの淡々とした情緒が互いを引き立てるため、観るほどに異文化交流の魅力を味わえる。
あえて厳しめに突っ込みたくなる点も少なくはないが、それでも胸を打つシーンが多数あり、観終わった後に不思議な余韻が残るのが特徴だ。ここでは、作品全体の流れからキャスト陣の演技まで、遠慮なしに語っていこうと思う。
映画「青春18×2 君へと続く道」の個人的評価
評価:★★★★☆
映画「青春18×2 君へと続く道」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は、清原果耶演じるアミと、台湾の若手俳優として知名度を高めているシュー・グァンハン演じるジミーの二人を軸に展開される。舞台は台南の街から始まり、やがて日本の各地へと移ろっていくロードムービー風の流れが特徴だ。表向きは「日本へ来た台湾人青年が、過去の自分と決着をつけるために旅に出る」物語でありながら、じつは18年前に交わされたある“約束”が物語全体を貫いている。
ジミーはかつての仲間に裏切られ、心身ともにクタクタになった状態で実家へ戻ってくる。そこから回想シーンとして描かれるのが、18年前の台南だ。まだ高校を卒業したばかりのジミーがカラオケ店でアルバイトをしていた時、バックパックを担いだ清原果耶演じるアミと出会う。財布を失くしたせいで、やむを得ずアルバイトさせてもらおうとするアミの行動力はなかなかパワフルで、そこに引っ張られるようにジミーの生活リズムも少しずつ変化していく。
アミの存在は、当時のジミーにとって“日常の外”を象徴していたように感じる。何しろ、日本から単身で渡台してきた元気あふれる先輩だ。ジミーは「4歳上の日本人女性なんてちょっと遠い存在だな…」と感じながらも、なんとなく彼女を世話しつつ、一緒に街を回りはじめる。店長が元神戸出身という設定も面白い。台湾の街中に急に関西弁じみた言葉が飛び交うのは、違和感というよりむしろ和気あいあいとした雰囲気を生み出している。
当時のジミーはバスケットボールに挫折したばかりで、「次に何を目指せばいいのか分からない」状態にあった。アミは「目標がないなら、いっそ自由に旅をしてみれば?」と、ある種の生き方を体現しているようにも見える。旅先でアルバイトしながら日常を味わうやり方は、ジミーにはとびきり新鮮だったのだろう。
だが、アミは「4歳上の恋人がいる」とか、「実はもうすぐ日本に帰る予定」など、さらっと衝撃の情報を口にするため、ジミーは戸惑ってばかり。ここで注目したいのは、アミも心の奥底では「本当に好きな人がいるのかどうか」すら曖昧な雰囲気を漂わせている点だ。年上の恋人という話が事実なのか、あるいはただの冗談なのか。はっきり言わないあたりに、一筋縄ではいかない女の子の複雑な心情が見え隠れする。
アミの帰国が迫ってきた頃、ジミーは「どうしても見せたいものがある」と彼女を連れ出す。それが、台湾北部で盛大に行われるランタン祭りだ。作品中では夜空を埋め尽くすように無数のランタンが飛び立つ様子が幻想的に描かれていて、二人の関係が一歩進みそうな期待感を高める。実際、アミも「いつかまた、夢を叶えたら会おうね」という言葉を残して去っていくため、ジミーはずっとその約束を支えに生きていくことになる。
ところが、大人になったジミーは自分の立ち上げた会社を取締役会で追われ、全てを失う。そのシーンがなかなか生々しく、怒りと無力感がリアルだ。ネット上に動画が拡散され、イメージも墜落。どこか「自分だけの力でやってきた」と思い込んでいたジミーが、実はチームのメンバーの助けなくしては立ちいかなくなるという厳しい現実を思い知らされる。そんな状況に陥ったからこそ、ふと実家の自室でアミからの絵はがきを見つけ、「そういえば日本に行きそびれていた」と思い立つ展開が自然だ。
ジミーが訪れるのは鎌倉や長野、新潟、そして福島といった場所である。ここに、アミとかつて観た映画『Love Letter』を連想させる演出や、雪国の絶景トンネル、地元の居酒屋で偶然出会う台湾出身者との絡みなど、随所に異文化体験的な描写が散りばめられている。日本人から見れば当たり前の風景も、ジミーの視点を通すと新鮮だし、逆に台湾人からすると日本でしか味わえないカルチャーショックが興味深い。
いく先々でジミーが出会う人々は、それぞれ少しずつ助言をくれる。道枝駿佑が演じる青年はトンネルを抜ける瞬間の雪景色を「心の目で見ろ」と語り、ネットカフェ店員は「これ、お客さんのゲームですよね?」と驚き、同時に「一緒に攻略しよう」と誘う。こういう何気ないやりとりこそ、ジミーに「世の中、まだまだ捨てたもんじゃない」と思わせるキッカケになるわけだ。
やがてジミーは、アミの生まれ故郷にたどり着く。そこで対面するのは、アミの母親。そして、そこには悲しい現実が待ち受けていた。実はアミが帰国してからそう時間が経たないうちに、病によって亡くなっていたのだ。ジミーは「本当は知っていたが、正面から向き合う勇気がなかった」という複雑な心情を抱えている。ランタン祭りで交わした「夢を叶えたら再会しよう」という約束が果たされることなく終わっていた事実を、現場ではっきりと受け止めるわけである。
アミの母がジミーに渡す手帳には、アミが旅の最中に描きためていた思い出がぎっしり収められている。そこには台湾で出会ったジミーやカラオケ店の仲間たち、ランタン祭りの光景などのイラスト、そして遠くからジミーを想う気持ちが秘められているようだ。言葉で全部は伝えきれなかったかもしれないが、アミはアミなりにジミーを大切にしていたことが、見る者にもはっきり伝わる。清原果耶ならではの静かな表現力が、そこに切なさを添えている。
最終的にジミーは、かつての自分が約束を果たせなかった現実をしっかり受け止める。そのうえで「もう一度、ゼロから始めてみよう」という気持ちになれたようだ。これまで気力だけで走り続け、仲間との協調をうまく築けなかった自分を改めて振り返ることで、大切なものを取り戻したのかもしれない。アミの死は取り返しがつかない事実だが、その分「彼女のためにも、これから前に進んでいこう」という決意が感じられる。
それでも突っ込みたくなる点はある。たとえば旅先での出会いがあまりにも都合よく心温まる方向に進むシーンも多いし、主人公が挫折から立ち直る過程がやや強引に感じる瞬間もある。また、清原果耶が演じるアミの言動がふんわりしていて、「結局彼女はどこまでジミーを想っていたのか?」とモヤモヤする面も否めない。ただ、それらを差し引いても、青春の甘酸っぱさと喪失感、そして再生への希望がギュッと詰まった作品だと思う。
4つ星をつけた理由は、なんだかんだでラストシーンが心にしみたからである。「もう会えない人への想いを抱えて、それでも生きていく」というテーマが、観終わった後にじんわり胸に残る。台南と日本の各地をめぐる映像美や、登場人物たちのあたたかな人間模様にも魅力がある。清原果耶の楚々とした表情と、シュー・グァンハンのナイーブな演技の組み合わせは味わい深く、すべてを失った男が再び歩き出すプロセスには共感が生まれるはずだ。
映画「青春18×2 君へと続く道」はこんな人にオススメ!
1つめは、旅好きな人。劇中に登場する鎌倉や長野、新潟、福島などを実際に回りたくなる映像の魅力が光っている。次に、人生の転機にさしかかっている人。仕事で挫折したり、将来の目標を見失ったりしたタイミングで主人公の姿が重なれば、彼がたどる再生の軌跡に励まされること請け合いだ。さらに、初恋の記憶にどこか未練を抱えている人にもぴったりだと思う。好きだった人に想いを伝えきれなかった悔しさや、別れ際に交わした約束がずっと胸に残っている感覚は、多くの人が共有できるものではないか。
本作では、ジミーが大人になりきれずに抱え込んできた「言えなかった想い」を、日本の風景とともに少しずつ浄化させていくプロセスが描かれる。その一部始終を客観的に見つめるうちに「過去に戻れないなら、今からでも前を向くしかない」という気持ちがわいてくるはずだ。全体として青春の爽快感もあるので、日台のカルチャーを味わいながら切なくも美しい物語を堪能したい人には是非おすすめしたい。心機一転、新しい一歩を踏み出す勇気がほしい人には、とりわけ刺さるだろう。
まとめ
本作のポイントは、旅をすることで見えてくる自分自身の姿と、過去の約束に縛られながらも未来へ踏み出す勇気である。清原果耶演じるアミは、なかなか言葉では本心を語ろうとしないが、日常のちょっとした場面でジミーへの気持ちをのぞかせている。ジミーが社会での挫折を味わいながらなお前に進もうと決断できたのは、アミの存在があったからだろう。初めて出会った時から引きずってきた後悔や憧れが、彼の人生を大きく動かしていく様子はとてもリアルに映る。
台南のにぎやかな雰囲気と、日本の落ち着いた風景の対比も大きな見どころだ。台湾と日本、それぞれの国を行き来しながら描かれるストーリーは、ただの恋愛映画では終わらず、主人公が自分を見つめ直すロードムービー的な奥深さを持っている。涙なしには観られないほどの号泣シーンこそ少ないが、しんみりと切なくなる場面は多々ある。観終わったあとに、自分の大切な思い出をそっと確認したくなるような不思議な余韻を残す作品である。