映画「さかなのこ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
主人公を演じるのんの魅力が全開で、原作となった“さかなクン”本人の半生をもとにしつつも、大胆な脚色が施された作品である。世間の目なんて気にせず突き進む主人公の姿が痛快で、親子の絆から仲間との不思議な友情まで、いろいろな要素がぎっしり詰め込まれているのが印象的だ。しかも、数あるエピソードの中には「こんなに突き抜けて大丈夫か?」と感じさせる意外な展開も多く、観る者を飽きさせない。そんな本作は一見するとゆるい雰囲気に思えるが、その実、根っこの部分には“自分の好きなものをとことん貫く”という力強いメッセージが宿っているのが面白い。
予想以上にドラマの厚みがあり、観終わってじんわりとした満足感が押し寄せる作品である。だが、その分だけ上映時間が長めに感じるところもあり、人によってはやや冗長に思えるかもしれない。とはいえ、個性的なキャラクターたちとの交流が楽しく、その“おかしみ”によって重苦しさはまったくなく、軽快にラストまで突っ走っていく構成が魅力といえよう。
映画「さかなのこ」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「さかなのこ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
本作は“さかなクン”として知られる人物の半生を大胆にアレンジしたストーリーであり、そこに主演・のんの持ち味が存分に活かされていると感じた。そもそも、この題材を映画にするという時点でかなり挑戦的であり、普通に考えると「魚マニアの少年が大人になり、テレビで有名になるまでを描く」と聞いただけでは地味な印象を受ける人もいるだろう。しかし実際は、主人公が“とにかく魚が好きすぎる”という一点だけでまわりの人々との関係がゴロゴロと転がっていき、意外なほど多彩なドラマが生まれている。
まず魅力的なのが、ミー坊を演じるのんの存在感である。彼女の飄々とした空気は、周囲の空気を読まないミー坊役にぴったりだ。ミー坊は小さい頃から魚に夢中で、授業中もノートに魚の絵ばかり描き、家に帰れば図鑑を眺め、外出すれば釣りや魚の観察に没頭する。普通なら「ちょっと変わった子」で終わってしまいそうなところを、この映画では周囲の人たちが妙に寛容に受け止めるのが面白い。特に母親の存在が大きく、息子の成績や社会適応力などに頓着せず、「あんたは魚が好きなんだから、好きなことやりなさい」と背中を押し続ける姿が印象的だ。これは実際のさかなクンのお母様もかなり自由な方だったと聞くが、それが映画の中ではさらに強調され、ミー坊の成長にとって欠かせない要素となっている。
一方、父親は子どもの将来を心配して、もっと“普通”のレールに乗せようと考えがちだ。高校進学や就職の話題になると、ひたすら魚に没頭する息子を見て「大丈夫か?」という視線を向ける。その対比がまたおかしく、母と父の温度差がミー坊の人生をより面白くかき回していく。また、本作では不良グループとの友情も見逃せないポイントだ。普通なら“危険な人たち”として敬遠されそうな不良たちが、なぜかミー坊の人柄に惹かれていく様子が微笑ましい。ナイフを持ち歩く“青鬼”というキャラクターが出てくるが、彼の刃物が魚を捌く道具として使われるシーンは「え、そんな展開にするのか?」と驚かされつつも、妙な爽快感がある。さらに、網目の荒い服を着た不良も登場し、それをイカの捕獲に利用してしまうくだりには笑ってしまった。ミー坊が魚をさばき、彼らに新鮮な魚介の魅力を教えることで、不良たちは完全にペースを乱される。そうした一連のやりとりは、ともすればシリアスになりそうなエピソードを面白おかしく彩っている。
高校卒業後のミー坊は当然のように魚に関わる仕事を志望するが、世の中そう甘くはない。魚への偏愛はとことん深いものの、社会人としての一般常識や事務能力には疎く、うまくかみ合わずに失敗ばかりしてしまう。その姿が少々痛々しくもあり、周囲から「どうしてもっと普通に働かないの?」と疑問をぶつけられる。現実を考えれば、確かにミー坊のような人間を雇うのはリスクが高いともいえるし、周りの反応ももっともだ。けれど、そこにめげずに自分の得意分野を追求し続けるミー坊の姿に、「他人の評価は気にせず、とにかく好きなことに没頭するのも悪くない」と感じさせる魅力がある。まるで一つの道を突き詰める生き方の大切さを訴えかけているかのようだ。
本作が描くのは、成功物語だけではない。途中で登場する“ギョギョおじさん”(原作者のさかなクン本人が特別出演しているキャラクター)は、いわば“もしも周囲との縁や運に恵まれなかったら、こうなっていたかもしれない”もう一つの姿であるように見える。帽子がトレードマークの変わり者として、ミー坊の幼少期に出会うものの、不審者扱いされてしまう。そこに社会の厳しさや、好きなことだけを突き詰めても報われない場合もあるという現実が垣間見えるのだが、同時にそのおじさんも魚と暮らす毎日にどこか幸せそうでもある。やりたいことをやっている人生に不幸はないのだと、本作は肯定しているように思えてならない。
さらに興味深いのはラストシーンだ。ミー坊が大人になり、ついにテレビへの出演が叶い、周囲からも認められるようになる。ところが、ある撮影現場で不意に海に落ちてしまう場面がある。そして水中の魚たちに誘われるように泳いでいく描写は、リュック・ベッソンの名作「グラン・ブルー」を彷彿とさせる。魚に導かれながら深遠な世界へ進むようにも見えるし、“本当に彼は人間社会になじんでいたのか?”という問いを暗示しているようにも感じられる。不器用なほど純粋に好きなものを追いかける姿は、周囲に受け入れられているようでいて、やはり異端者であり続ける存在なのだろう。そこには温かさと切なさが同居し、観終わったあとに何とも言えない感慨が湧き上がってくる。
とはいえ、作品の基調は終始ポジティブで、どこを切り取っても全体的にゆるい空気が流れている。これは監督・沖田修一の独特のタッチに助けられているところが大きい。「横道世之介」や「南極料理人」などでも感じられる、登場人物たちの“どこか抜けた”感じと温かさがいい塩梅で表現され、悲壮感を薄めている。だからこそ139分という比較的長い上映時間でも重苦しさを感じにくく、最後まで気楽に見通せるのだろう。
一方で、展開が穏やかすぎるぶん、物足りなさを覚える人もいるかもしれない。特に、中盤以降はエピソードが詰め込み気味で、もう少しまとめればテンポよく進んだのではと思う箇所もある。とはいえ、のんの演技が生き生きしており、彼女と周囲のかみ合わないやり取りを追うだけでも楽しい時間が過ごせる。出演陣も柳楽優弥や夏帆、磯村勇斗など実力派が揃っており、キャラクター同士の掛け合いに魅力があるのは確かだ。
結局のところ、この映画の本当のテーマは、“自分が大好きなものに没頭し、それを軸に生きていくことは素晴らしい”というシンプルなメッセージだろう。誰もがミー坊のようにうまくはいかないだろうが、本作を観れば、「自分の好きなことをあきらめずに頑張ってみるのも悪くないな」と思わせてくれる。不良たちが突拍子もない形でミー坊に影響を受けていく様子はちょっとしたファンタジーのようでもあり、そこに救われる気持ちになる観客も多いのではないか。
実際に映し出される魚のシーンはどれも美しく、魚を捌くシーンや釣りの場面などはなかなか迫力がある。魚好きにはたまらない映画でありながら、魚に興味のない人でも主人公が夢中になる姿に惹かれてしまうのではないかと思う。そういう意味では、“何かにめちゃくちゃハマっている人”を見て元気をもらえるタイプの作品である。
本作は“好きこそものの上手なれ”を地で行く人物を、少し大げさに、けれども愛らしく描いた作品だ。観終わってから「あのシーンは一体何だったのだろう」と思い返してクスッと笑える要素も多く、いろんな年齢層が楽しめる懐の深さがある。観客それぞれに“自分もここまで突き抜けられるほど好きなものを持っていただろうか?”と問いかけるような、やや哲学的な味わいもあるだろう。純粋にエンターテインメントとして楽しむのもよし、人生のあり方を考えるきっかけにするのもよし。大きく分けても、この映画には思いのほか厚みのある魅力が詰まっていると感じる。
映画「さかなのこ」はこんな人にオススメ!
何かひとつのことに熱中している人や、周りから「ちょっと変わってるね」と言われがちな人にとって、ものすごく共感しやすい作品だと思う。自分の好きなことをとことん追いかける主人公の姿が、まるで背中を押してくれる存在のように映る。仕事や勉強で「もっと現実を見ろ」と叱られることが多い人もいるだろうが、本作を観れば「自分の情熱を無駄にはしたくない」という気持ちが湧いてくるはずだ。
また、子どもを育てている親にも刺さるポイントが多い。ミー坊の母親のように「好きならやってみなさい」と子どもの個性を伸ばす育て方は理想だと感じる人も多いだろうし、父親のようにどうしても現実面を考えてしまう気持ちもわかる。そうした親子関係の描写から、子どもが好きなことを伸び伸び続けられる環境の大切さを再認識できる。もちろん魚が好きな人は言うまでもなく大喜びだろう。魚にまつわる知識やエピソードがふんだんに盛り込まれており、さかなクンのキャラクターが好きな人ならニヤニヤが止まらなくなるに違いない。
さらに、コメディタッチながらも人生の苦みを垣間見せるエピソードが入っているので、ただのほのぼの映画では物足りない人にもおすすめできる。笑わせながらも「こういう選択肢もアリなのだな」と感じさせてくれるので、モヤモヤを抱えたまま日々を過ごす人には意外と刺激になるかもしれない。結局のところ、“好きなことを中心に生きるって悪くない”という肯定感が得られるのが最大のポイントであり、そこに魅了される人は多いだろう。
まとめ
魚にとことん夢中な主人公の姿を通して、“好きなものを貫き通す素晴らしさ”を声高に叫んでいるのがこの映画の核心だと感じた。普通なら眉をひそめてしまうような場面でも、さらっと押し切ってしまう強引さがあり、その勢いに観客はすっかり巻き込まれる。周囲の人物たちもまた個性的で、普通なら衝突して終わりそうな関係が、なぜかゆるく和んでしまうのが面白い。上映時間はやや長めだが、そのぶん満足感も大きく、観終わった後に「こんな世界があってもいいんだな」と妙にホッとする自分を発見できるかもしれない。
実在のさかなクンが歩んできた道にフィクションを加えた内容であり、現実の厳しさや幸運の要素などがうまく織り交ぜられている点も興味深い。ギョギョおじさんの存在や不良たちとの交流は極端とも思えるが、その極端さが新鮮で、気づくといつの間にか物語の中へ没入してしまう。だが結局は、何かを好きで突き抜けていく人生の熱がスクリーンからビシビシ伝わってくるのがこの映画の最大の魅力だろう。