映画「リボルバー・リリー」公式サイト

映画「リボルバー・リリー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は1924年(大正13年)の東京を舞台に、元女スパイの小曽根百合が少年を守るために奔走するガンアクション作品である。綾瀬はるかのキレのある演技はもちろん、長谷川博己ら個性豊かな面々が次々と登場し、全員がとんでもない騒動を巻き起こしていくのだから、観ている側はあっけに取られつつも目が離せなくなる。

とはいえ、この映画をただのアクション大作だと思って観ると肩透かしを食うかもしれない。ストーリーには国家を揺るがす陰謀や、壮大な“裏金”が絡んでいるにもかかわらず、登場人物たちが放つ台詞や行動がいちいちパンチが効いていて、こんな騒乱状態なのにどうしてこうも軽妙に突き進むのかと不思議な魅力を放っているからだ。一方で、リアリティを突き詰めると疑問符が生まれる箇所も多く、そこをどう捉えるかで評価が大きく分かれる作品だと言えよう。

壮絶な銃撃戦や派手な爆破、そして綾瀬はるかの華麗なアクションが好きな人にはたまらないが、真面目な戦争劇を期待すると面食らうかもしれない。本記事では、そうした作風の良し悪しを辛口で掘り下げていきたいと思う。

映画「リボルバー・リリー」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「リボルバー・リリー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は綾瀬はるか演じる小曽根百合が、訳あり少年を守るべく陸軍を相手に大暴れするという筋書きである。舞台は関東大震災から1年後の東京・玉の井。元女スパイという設定上、銃の扱いや格闘術が尋常でないのは納得できるとしても、まるでターミネーターのごとく多数の兵士をバッタバッタと倒す姿は、見ているこっちが「これは現実ではないのだ」と割り切る必要があるレベルだ。舞台が大正時代だという事実をうっかり忘れそうになるほど、カフェの前や駅構内など場所を問わず銃撃戦が展開されるのだから、そりゃあ街中の人々はどう見ても大混乱だろう。それでも本人たちはアクションに集中しているというか、必死なはずなのに不思議なくらい痛快に進んでいくので、こちらは余計なツッコミを入れたくなる。

しかし、この“ごっこ遊びじみた”豪快アクションを嫌うか楽しむかは観客次第であろう。作品としては「その荒唐無稽さこそ醍醐味だ」と居直っているように見える。例えば、陸軍の兵士たちはいくら人数が多くても、どうにも弾が当たらない。百合がバッタバッタと正面突破で駆け抜けようが、相手の照準はいつもズレているかのようだ。こんな現象が最後まで続くのだから、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める。一方で、この作品世界では百合が“最強クラスの女スパイ”として描かれている以上、あの程度では当たらないという設定なのかもしれない。強引な解釈をするなら、幣原機関で特殊訓練を受けたが故に不死身じみた動体視力と精神力を持つ、ということだろう。

物語の鍵を握る少年・慎太(羽村仁成)は、父から託された秘密文書を守るために命を狙われている。その父こそ、豊川悦司演じる細見欣也=かつて百合の恋人だった水野寛蔵という設定だ。すでに死んだはずの男が別の名を名乗っていたという展開は意外性があるようで、実は途中で岩見(長谷川博己)から説明されるので、観客としては「ああ、そういうことね」とあっさり理解できる。もっと劇的に明かされても良かった気はするが、むしろストーリーよりアクションに重きを置いている本作の姿勢を象徴しているようでもある。深くは掘り下げずサラリと流して、先へ進む。ここは好き嫌いがはっきりしそうなところだ。

さらに、チーム百合として活躍するのがシシド・カフカ演じる奈加と、古川琴音演じる琴子である。奈加は馬賊出身ということで、ライフルを両手に地を蹴って豪快に戦うし、琴子は私娼を兼ねつつカフェ店員もこなすという不思議なキャラクターだが、ラストの銃撃戦にまで参戦してくる。おいおい、そんなに素人がバンバン戦場に出て大丈夫かと思うが、なぜか死なずに大活躍してしまう。普通なら「一人くらい仲間が散ってドラマ的に盛り上げるか?」となりそうなものの、本作は仲間たちが意外なほど生き残る。クライマックスでも陸軍と戦いまくった結果、「なぜ誰も死なないんだ」というリアリズム面の疑問は否めない。だが、これはあくまで“漫画的ガンアクション”と心得るしかないだろう。

対する陸軍側は、板尾創路演じる小沢大佐やジェシー演じる津山大尉を中心とした軍人たちが、秘密の大金を再び手中にしようと必死だ。けれども、その作戦があまりにも杜撰に描かれているところに、むしろ突拍子もない魅力を感じる。例えば街中でおおっぴらに銃撃戦を始めたり、普通は軍が警察などを動員して粛々と作戦を進めそうなものだが、本作ではまるで無法者集団のように暴れ回る。これだけ大掛かりにやれば、そりゃあ数々の目撃者が出るだろうし、後処理も大変そうだが、そんな細かいことは気にしないのがこの映画のスタイルだ。正規の軍隊というよりは敵役集団としての記号性を優先し、百合ら味方側に派手なアクションを見せるための“当て馬”になっているようにも見える。

また、清水尋也が演じる南始というキャラクターも謎めいた存在感を放つ。百合と同じ幣原機関の後輩スパイらしく、ちょこちょこ姿を現しては百合を苦しめて去っていく。劇中、南始が白昼堂々と百合を追い詰め、刃を突き立てる場面があるが、そこもやたらと“儀式じみた”雰囲気が漂うだけで、実際のところ何をしたいのか今ひとつはっきりしない。百合との因縁なのか、死神のような立ち位置なのか、観ている人が「結局、南始は何を考えていたんだ?」と首を傾げるまま倒れて退場していく。これも本作の特色であり、良く言えば独特の余韻を残すが、悪く言えば説明不足で消化不良に感じるかもしれない。

物語の後半は海軍の山本五十六(阿部サダヲ)が登場し、さらにややこしい軍内部の対立が浮上する。陸軍と海軍が互いに腹の探り合いをしているなか、実はどちらも大金を手にしようとしているという背景が描かれるのは面白い。が、その思惑が表に出てくるのはほんの一瞬で、結局、クライマックスは百合が少年を連れて海軍省まで突っ走るアクションになだれ込む。ここでは無数の兵士がバリケードを築いて待ち構えており、「さすがに真っ向突破は無理だろう」と誰もが思うのだが、岩見がバイクで爆薬をかっ飛ばして爆破し、百合と慎太は連携して突撃。最後はもう弾丸が足りるかどうか心配になるくらい派手に撃ち合って、結局なんとかゴールにたどり着いてしまうのだから、大正ロマンもへったくれもないド派手さだ。

この大詰めの一連の展開は正に“無双状態”で、血みどろになりながらも百合はほとんど死にかけない。不死身かと思うほど銃弾を回避し、足を撃たれても意識が飛ぶことはない。そもそも現実的には大けがで即ダウンだろうが、ここまで来ると突っ込むだけ野暮というものだろう。最終的には少年が海軍省へ滑り込み、戦争を回避するための資金(もとを正せば陸軍の裏資金)を山本が確保するというオチになる。これまた皮肉であり、「結果的に海軍の言い分が通るのか」と思わなくもないが、本作はそこを深堀りするわけでもなく、百合が「あなたは生きるのよ」と少年を送り出して幕となる。戦後史を知っている我々からすれば、この資金が十年先の戦争回避に本当に役立つのか疑問符がつくが、あくまでここは映画のロマンと割り切るしかない。

総合的に見て、ストーリーの構成やテーマ性よりも“派手さ”を重視している作品だと言わざるを得ない。確かにリアルな戦争ドラマを求める方には物足りないし、明らかに破綻した設定が目につくかもしれない。しかしながら、綾瀬はるかの存在感あるアクションを堪能し、昭和初期のモダン衣装や軍服の美術、そして奇抜なキャラクターたちが次々に繰り広げるドンパチを娯楽として受け止められるなら、存分に楽しめる映画だ。むしろ「突っ込んだら負け」と言わんばかりの開き直りが、本作の魅力になっている部分もあると感じる。

また、台詞回しやキャラクター同士の軽妙なやり取りには、不思議と人を和ませる味わいがある。特に古川琴音が演じる琴子が百合に向ける言葉は、あの銃撃戦まみれの世界観で唯一の“ほっとする会話”を提供してくれる。奈加が馬賊時代をさらりと語るシーンでも、シリアス展開を彩るはずなのにどこか軽快なノリに包まれている。行定勲監督らしい映像美も随所にあり、暗い霧の中や夕暮れ時に映えるシーンは実に絵になる。一方で、バイクが土煙を上げながら敵陣を爆破するといったシーンでは「これは何の映画だっけ?」と一瞬戸惑うほどジャンルが振り切れていて、その落差がまた独特の面白さを生んでいる。

主人公の百合の心理面も決して細やかに描かれているとは言いがたいが、彼女の背負っている過去の重みは台詞の端々からにじむ。奪われた子どもや失われた恋人への思いを抱えながら、それでも諜報員としての生き方を捨てきれない。そこへ少年・慎太が転がり込んできたのだから、百合が動かないわけがない。最後まで百合は強靭な意志を崩さず、少年を背中で守り抜く。このキャラクター像が好きかどうかは、人によって評価が分かれるかもしれないが、“情に厚い最強スパイ”という像としては、綾瀬はるかのイメージと妙にフィットしているのも事実だ。

まとめると、本作は超人的な銃撃戦とやや強引なストーリーをどう受け止めるかがカギになる。突っ込みどころが多いのは否定しづらいが、割り切って“アクション×レトロな衣装×個性派キャラ”の組み合わせを楽しむのが正解だろう。観終わったあとに深刻な社会批判をしたり、歴史考証に思いを巡らせたりするタイプの映画ではない。とにかく派手で痛快、そして主人公がとことんカッコいい。そこを評価するか「こんなのは現実味がなさすぎる」と嫌うかで、賛否両論が起こるのは当然だ。それでも、決して地味には終わらない作品であることだけは言い切れる。個人的には「お祭り騒ぎに参加する気分」で観るのがおすすめだと感じる。

映画「リボルバー・リリー」はこんな人にオススメ!

何よりアクションシーンを存分に楽しみたい人には打ってつけだ。史実に基づいた骨太の戦争ドラマやリアルな軍事描写を求める人は正直肩透かしを食らうかもしれないが、それを承知で“ご都合主義上等”の痛快ガンアクションを堪能したいなら、この作品は相当な爽快感をもたらすだろう。綾瀬はるかがひたすらに突き進む姿が見たい人にもオススメできる。彼女はコメディでもシリアスでも華がある女優だが、本作では華麗な身のこなしに加えて、負傷しながらも意志を曲げない強いヒロイン像を堂々と演じている。

それと同時に、個性的なキャラの掛け合いを「少し脱力しながら」楽しめる人にも向いている。陸軍側の軍人はどこかドタバタ集団に見えるし、仲間の面々もマイペースに騒ぎを繰り広げる。その結果として生まれるちぐはぐ感が気になる人もいるだろうが、それを「味のある混沌」として笑って受け止められるなら、本作の独特な魅力に気づけるはずだ。

あとは、あまり歴史的背景を気にせず「大正浪漫の衣装が素敵だからオールOK!」というタイプにも良いかもしれない。ドレスや軍服、洋装店の装飾など、当時のファッションを大胆なアレンジで映像に落とし込んでいるため、美術や衣装を観るだけでも見応えがある。また、敵役を含め登場人物が多く、それぞれ妙なインパクトを放っているので、大勢のキャラが入り乱れてド派手に暴れ回る群像劇が好きな人にも楽しめるだろう。いずれにせよ、突っ込みどころは気にせず、エンターテインメント作品として視聴するのが望ましい。アクションが苦手でなければ、意外なほど飽きずに見通せる一本だと感じる。

まとめ

本作は、激しい銃撃戦と豪胆な主人公の無双っぷりが全編を覆う、ある意味“振り切った”アクション映画である。時代設定や軍の動きに対するツッコミも多々あるものの、そこを理詰めで追及してしまうと楽しさが半減する。むしろ、綾瀬はるかの壮絶アクションや、個性的すぎる仲間たちの掛け合いに身を委ねて「ああ、派手でいいじゃないか」と素直に乗っかれる人こそが、最大限に楽しめるのではないかと思う。

結局のところ、どんな作品にも“割り切って観る”という姿勢は大なり小なり必要だ。本作の場合は特にその必要度が高いが、割り切った先で味わえる痛快感はなかなか侮れない。最初から肩の力を抜いて「大正時代のぶっ飛んだスパイアクションを観るんだ」と思えば、きっと壮絶な撃ち合いも笑顔で受け止められるはずだ。一度お祭り気分で観てみるといいかもしれない。