映画「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」公式サイト
映画「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
近未来の管理社会を描く人気シリーズの新作として登場した「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」。これまでの作品群とのつながりを意識しつつ、新キャラや謎めいた組織が入り乱れ、観終わったあとに頭の中を整理するのがなかなか骨の折れる一作である。しかし、シリーズを支えてきたキャラクターたちの新たな局面に胸を打たれ、思わぬ因縁が結実する瞬間に震える。視聴者を容赦なく追い詰める展開が続く一方で、かつての因縁が徐々に浮き彫りになる様子は目が離せない。
さらに、本作では「法」という存在の是非や、シビュラシステムと人間の在り方といった大テーマに正面から切り込んでいく。観る者によっては強烈な刺激を受けるだろうし、同時にシリーズ未体験の人にも興味を抱かせる設定だ。どんな行動にも苦い代償がつきまとい、信念を貫くことの難しさを、派手なアクションとともに突きつける内容であったと思う。
ネタバレありなので、未鑑賞の人は要注意だが、自らの正しさを見つめ直したいという人にはうってつけの映画といえる。社会における“正義”のあり方を突き詰めたいなら、ぜひ体感してほしいタイトルだ。
映画「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」の個人的評価
評価: ★★★★☆
映画「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここから先は物語の核心に触れるため、すでに観賞した方に向けて詳しく書いていく。まず、長きにわたって続いてきたシリーズだが、本作では「2期と3期をつなぐ空白」が重要なエッセンスとして描かれている。この隙間を埋めるために、常守朱をはじめとした既存キャラと、外務省海外調整局の面々が本格的に絡む展開に仕上がっているのがポイントだ。
シビュラシステムという絶対的な存在を中心に、今回も人間の弱さや欲望が浮き彫りになる。世間では法の必要性が叫ばれながらも、実はその影で「法律を廃止するか否か」という議論が進んでいるのだから穏やかではない。しかも、その議論を左右しかねない「ストロンスカヤ文書」というデータが焦点となり、思わぬ国際的な波紋まで引き起こすストーリーには驚かされた。
冒頭の襲撃シーンでは、海外での潜入捜査や不穏な武装集団の暗躍が示唆され、ただでさえ複雑な世界観にさらなる緊張感を与えている。いきなり死が目の前に現れるため、シリーズを追ってきた人ほど「またこんなに容赦ないのか」と息をのむ場面だ。そこからの捜査パートで、外務省と厚生省の政治的駆け引きがあわさり、既に荒廃した海外事情と、国内の安定を維持するシビュラの論理が拮抗していく。この対立軸が全編を貫いているといっていい。
肝心の公安局メンバーだが、やはり常守朱が要になる。彼女はシビュラ社会を正面から見続けてきた一方で、到底受け入れられない現実をいくつも踏み越えてきた。そんな朱が、強力な権限を持つ役職と絡む過程でどんな決断を下すのかが最大の見どころである。シリーズ当初は新人だった彼女も、今では組織の中枢にまで食い込む存在となり、しかし現実はさらに苛烈さを増すばかり。自分が守るべきものと戦わねばならないジレンマに苦悩する様子は、観る側としては切なくも目が離せない。
本作の中心を担う事件には、慎導篤志が深く絡んでいる。彼が外務省で果たしてきた役割は想像以上に重く、さらに子どもである慎導灼や、事件の当事者となったイグナトフ兄弟の運命も左右する形になる。この点は「3期を観ていて、どうしてあのキャラがあんな立場に?」という疑問を解消してくれるわけだが、その解消の仕方が一筋縄ではいかない。正義の名のもとに命を賭けた者が、結局は歯車として使われていたり、仲間を売る結果を生むことが続出するあたりが本作らしい苦さだ。
そして、本作では「犠牲と代償」の連鎖が加速度的に増している。潜入捜査という名目で洗脳まがいの仕打ちを受ける者、失われていく研究者や元教授といったキーパーソンたちの姿は、「平和な社会」を維持するための影の部分をいやでも突きつける。死を軽々しく扱うわけではないが、それでも無惨な別れが多く、背景を知れば知るほどやりきれない思いが募るだろう。「この人は助かってほしい」と願っても、その期待をサラリと裏切るのがこのシリーズの洗礼である。
狡噛慎也と常守朱の関係性は、1期当時からの大きなテーマだが、本作でも決定的な局面を迎える。ふたりの正義は根本で重なり合いつつも、手段が真逆に振り切れている。その溝は埋まるのか、あるいはさらに深まってしまうのか。とにかく、物語の終盤における狡噛の行動は「やっぱりそうきたか…」と苦笑しつつ、朱の反応に胸が痛む。監督がインタビューで語っていたように、本作は1期での事件を思い出させる要素が散りばめられているように感じる。
終盤では“法律”を巡る大きな事件が勃発する。法律がそもそも不要になるかもしれない世界で、常守朱が最後に下した行動はインパクト抜群だ。シビュラシステムが万能のようでいて、人間の行動までは完全には管理できない脆さをあらためて突きつける展開。藤間幸三郎を思わせる行為にも見え、シビュラと人間の境界のあやうさを再認識させられる。さらに、この事件が世論に与える影響も凄まじく、結果的に「シビュラシステムの真意」と「人間が紡いできた法律」という対比がしっかり浮き彫りになった印象だ。
一方で過激なバトル描写は、シリーズ最高峰といえるほど力が入っている。あちこちで飛び交う銃弾、サイボーグじみた強敵の登場、ドローンを駆使した戦いなど、SFアクションとしての醍醐味もしっかり抑えられている。ドミネーターが効かない相手にどう立ち向かうかという新しい工夫もあって、見応えは十分。このあたりは単なる頭脳戦では終わらず、肉体を張った対決が続くため、劇中の緊迫感が途切れない。
シリーズを追っていればこその醍醐味も多いが、たとえ3期まで通しで観ていなくとも、ある程度は理解できる作りになっている。ただ、より深く味わうなら1期~3期の流れや劇場版の過去作、特にSinners of the Systemを押さえておくのがおすすめだ。世界観やキャラ背景が立体的になり、物語の繊細な部分にじわじわ効いてくるはずである。
とはいえ、本作は独特の重たさもある。冗談抜きで観終わったあとの気力を削ってくる仕掛けが随所にあるからだ。「これほどまでに悲惨な運命を用意しなくても…」と嘆きたくなる局面も多々あるが、そこがPSYCHO-PASSらしさでもある。綺麗ごとでは解決しない現実をまざまざと見せられ、人の尊厳や正しさがいとも簡単に踏みにじられる。それでもなお誰かが立ち向かわなければ何も変わらない――本作はそんな思いを焼き付けてくれる作品だと感じた。
ラストでは、常守朱と狡噛慎也の間に大きな決定打が落とされる。しかも、この結末が「3期につながっていくのか」とわかると、自然と次の展開が気になってくるはず。映像特典やインタビューでも語られているように、この映画はいわば「シリーズ10周年の集大成」らしいが、まだ物語は終わりではないと期待を抱かせる。彼らがいつかもう一度肩を並べる日は来るのか。それとも別の形で世界が揺らいでいくのか。その続きが早く観たいと強く思わせる締めくくりだった。
シリーズを愛してきた人には重くも胸を熱くする力作といえる。とにかく先が読めず、終盤まで誰が生き残るかハラハラしっぱなしで、何度観返しても新たな発見がありそうだ。問いかけられるテーマは決して軽くないが、その痛みと向き合う覚悟があるなら、ぜひ劇場版の新たな地平をその目に焼きつけてほしい。
映画「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」はこんな人にオススメ!
近未来を舞台にしたSF刑事ドラマが好きな人には、強く推したい作品である。特に、社会の矛盾や正義の問題を深く掘り下げたストーリーを求める方にはピッタリだと思う。
シビュラシステムという巨大な管理装置と人間の欲望や思惑が激しくぶつかり合う光景は、観る者の心に強烈な刺激を与えるだろう。さらに、本作はダークかつシリアスな展開に加え、キャラクター同士の関係性も複雑なので、ヒューマンドラマとしての濃厚さを味わいたい人にもうってつけだ。もし、前作やアニメシリーズを未視聴でも、重厚な人間模様と派手なアクションを同時に楽しめるつくりなので、思い切って飛び込んでみるのもありだろう。
なお、世の中における秩序や法の意義を考えさせられるため、何気なくルールに従っている自分の日常がいかに脆いかを痛感する場面もあるかもしれない。そういった刺激を求める人や、頭をフル回転させながら「もし自分がこの世界にいたら」と思いを馳せたい人には文句なしにハマるはずである。変則的なSF刑事ドラマを好むなら、きっとハラハラしながらも、その深みにはまり込むだろう。
まとめ
「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」は、シリーズ10年の積み重ねを感じさせる大作でありながら、新規要素をふんだんに盛り込み、独自の盛り上がりを見せた。過去作で積まれた人間ドラマや伏線を絶妙に回収しつつ、新たな悲劇と希望がスパークする構成は圧巻である。特に、常守朱をめぐる運命の歯車が回り出す終盤は、胸に突き刺さる衝撃が大きい。キャラクター同士の思惑が絶えず衝突し、血のにおいが漂う展開でも、“正義”や“法”の意味を考え続ける姿が印象的だ。
本来、人が築いてきたはずのルールがどう綻び、どう生まれ変わるのか。そこにシビュラシステムという人智を超えた管理体制がどのように干渉してくるのか。ぜひ本作を通して、壮大な人間模様と社会への問いを堪能してほしい。観終わったあとに湧き上がる感慨と衝撃を味わいたいなら、この作品は避けて通れないだろう。