映画「もののけ姫」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
日本を代表するスタジオジブリ作品の中でも、ひときわ異彩を放つのが「もののけ姫」である。もう何度も視聴しているが、そのたびに新たな発見や感情の揺れ動きを体験してしまうから恐ろしい。全体的な雰囲気としては、森や動物神と人間がガチンコでぶつかる骨太ファンタジーという印象でありながら、けっこう社会派テーマもゴリゴリに盛り込んでくるのがニクい。アニメ映画でありながら「戦闘」「差別」「自然破壊」など、お子様向け作品によくある“ご都合主義の薄っぺらさ”を感じさせないのが本作の特長だと感じる。さらに宮崎駿監督お得意の“生きろ”というメッセージもバチッとハートに突き刺さってくるからたまらない。そんな「もののけ姫」、初めて観たときは森の神々や精霊の造形が怖いのなんの。夜中に観たら子どもは泣き出しそうだ。
しかしながら、作品世界に深く入り込むと、その神々の存在や生活圏を維持するための必死さに、いつしかこちらも同情してしまう。登場人物たちが繰り広げる壮絶なバトルは見どころ満載だが、その背景にある社会問題や人間ドラマを考察していくと、映画の骨太さにさらに驚かされる。というわけで、今回のレビューでは、あえて激辛目線(?)を盛りつつも、作品の魅力を存分に語っていきたいと思う。
映画「もののけ姫」の個人的評価
評価:★★★★★
映画「もののけ姫」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは容赦なくネタバレを含むので、未視聴の方は要注意である。もっとも、すでに何度か観ている方が多いと思うので、改めて作品世界にどっぷり浸かっていただきたい。さて、「もののけ姫」は主人公・アシタカが呪いを受けるところから物語が始まる。タタリ神となった猪に腕を負傷させられ、呪いを解くために西へ旅立つという冒頭からして、いきなりダークな雰囲気が漂う。そこにジブリらしいほのぼのしたムードはどこへやら、開始数分でもう重厚感マシマシである。
アシタカはエミシの族長候補という立場ながら、呪いによって死期が迫る不安を抱えつつ旅を続ける。その途中で出会うのが、山犬に育てられた人間の少女・サン。通称“もののけ姫”と呼ばれ、森と共に生き、森と人間を対立軸として捉えながらも、実は自分自身が人間であることに苦悩している。人間社会にどっぷり浸かっていくと、山犬のボスであるモロが「そこにいてはいけない」と警鐘を鳴らすし、かといって森に引きこもっていれば人間社会で何も知らないまま終わってしまう。サンはその狭間で揺れ動く存在として描かれ、これが本作の大きなテーマにもつながっている。「自分は何者なのか」という思春期かよ、と思うくらいのアイデンティティ問題が猛烈にのしかかっているのである。
一方、タタラ場の首領・エボシ御前はというと、女性でありながらカリスマ性とリーダーシップを兼ね備え、さらに表面上はめっちゃクールな人格を見せつつも、実際には病人や社会的弱者を受け入れ、共に生きようとする優しい面も持っている。ここがまた厄介で、エボシ御前は「自然破壊の張本人」「森を侵略する悪役」と単純には片付けられない複雑なキャラクターなのである。タタラ場の繁栄を目指すあまり、山犬や猪など森を守る神々との全面対決を引き起こし、結果として大規模な流血沙汰に発展してしまう。この“人間が生きるための開発”と“森の神々の生存権”のせめぎ合いが、本作の根本的な対立構造であり、大きなテーマだと考えられる。
この対立は、ただ善悪を分ける話ではなく、どちらにも理があるところが本作の面白いところ。タタラ場の人々は生きるために鉄を作り、森を切り拓かざるを得ない。一方の森側は、人間の傲慢さによって生態系を壊され、神としての尊厳を踏みにじられている。世界を広く見渡すアシタカは、いかにして両者を和解させるのか? それが物語の核となるわけだが、その過程がまた血生臭い。剣や弓矢でバッサバッサと人間やら猪やらが倒れていく描写は、もはや子どもが安心して観られるファンタジーとは言い難い。とはいえ、その暴力性こそが「命のやりとり」「人間と神のぶつかり合い」のリアリティを生むのだから、ここで手を抜いていたら名作にはならなかっただろう。いやはや、ジブリ作品というよりちょっと戦記物の壮絶さを感じるレベルである。
物語のクライマックスにおいて、シシ神(夜になるとデイダラボッチに姿を変える森の神)が首を落とされ、大地全体を巻き込んで破壊を始めるシーンは圧巻であると同時にトラウマ級の恐怖をも覚える。緑豊かだった森があっという間に黒い液体に覆われていく描写は、自然や神々の怒りの凄まじさをこれでもかと見せつけてくれる。あそこでアシタカとサンがシシ神の首を戻すために必死に駆け回る姿には、もう手に汗握るどころかハンカチが何枚あっても足りない。最終的にシシ神が大爆発(?)し、大地に新たな生命力をもたらす展開で幕を閉じるが、その後にエボシ御前が「さあ、また人間はやり直すわよ」みたいなセリフを言うシーンがめちゃくちゃ含蓄がある。ここで“めでたしめでたし”では終わらないのが「もののけ姫」のいいところだ。人間が自然を支配しようとすれば、また同じ悲劇を繰り返すのではないか。そんな警告を投げかけつつ、それでも生きていくしかない人間の姿を描ききる。これがこの作品最大のメッセージだと感じる。
本作が★★★★★に値する理由はいくつもあるが、個人的には登場人物の多面的な描き方が一番の肝だと思う。サンの葛藤はもちろん、エボシ御前やジコ坊など、いわゆる“悪い奴”とされる側にも共感できる部分があるし、逆に“正義の味方”っぽい側にも問題点がある。このどっちつかずのグレーゾーンを巧みに表現しているところに、監督の深い洞察力と演出力を感じる。さらに映像面でも文句なし。ジブリならではの美しい自然描写と、荒々しい戦闘シーンのギャップが視覚的にも物語的にもメリハリを与えてくれる。特に、森の木漏れ日や生い茂る草木のリアルさには息を飲む。ポリゴンじゃない手描きアニメの恐ろしいほどのパワーをまざまざと見せつけられるのだ。
また、サンとアシタカの関係性も興味深い。二人は「恋愛」という言葉では表現しきれない深いつながりを見せるが、かといって王道のラブストーリーでもない。アシタカはサンに惹かれながらも、彼女が守る森と人間の争いを止めたいという中立の立場を貫こうとする。その姿にサンは反発しつつも、少しずつ心を開いていく。ラストで二人が別の場所に住むことを選ぶシーンは、正直「えぇー! 一緒に暮らしてほしい!」と思わなくもないが、その距離感がかえってリアル。人間と森の調和は簡単に手に入らないし、互いの世界もそうそう急には変わらない。その事実を認めたうえで、それでも関係を続けようとする二人の姿勢が尊い。
さて、ここまでの長々しいレビューで気づいていただけたと思うが、「もののけ姫」は決してわかりやすいハッピーエンドを提供する作品ではない。むしろ鑑賞後には「いやー、どうすれば正解なの?」とか「人間って業が深いなあ」とか、いろいろ考えさせられる。にもかかわらず、それでも「生きろ」という力強いメッセージが背後からグイッと押してくる。悲しみと怒りと愛が混ざり合った状態で、それでも進まなければならないという、人間の業と希望が入り混じった物語。そこにこそ★★★★★の価値があるのだと思う。
最後に、個人的にツボだったのはコダマ(木霊)の存在である。頭をカタカタ揺らしながら登場する姿が、絶妙なキモかわいさを醸し出している。森の生命力を象徴するかのように、全編にわたって出没する彼らだが、クライマックスで森が枯れていくと姿を消してしまうところが切ない。けれど、ラストには一匹だけ復活して、また森に命が宿ったことを示唆する。あのシーンは思わずほっこりしてしまう反面、「次こそ本気で自然を大事にしないとコダマがいなくなるぞ」という警告にも感じる。まったく、油断も隙もあったもんじゃない。こんな些細な演出にまでメッセージを詰め込んでくるとは、さすが宮崎駿監督といわざるを得ない。
映画「もののけ姫」はこんな人にオススメ!
「もののけ姫」をおすすめしたいのは、まず“ジブリ=子ども向けファンタジー”と思い込んでいる大人たちである。本作を観れば、そのイメージがぶっ壊れること間違いなし。血みどろの戦いや社会問題に言及する内容にド肝を抜かれるかもしれないが、そのぶん作品への没入感はハンパない。中途半端にほのぼのを求めるなら、他のジブリ作品を観たほうが心が穏やかになるだろう。本作は壮絶なストーリーでありながら、観終わったあとには「俺、明日からちょっと自然に気を配ろうかな…」という謎の自己改革モードに入れる魅力がある。
さらに、“自然や環境問題について少しでも考えたい人”にも激推しである。現代においても、開発による自然破壊や人間の欲望が招く環境問題は山積みだ。本作を通じて、それらを自分ごととして捉えるきっかけになるかもしれない。また、“どう生きるか”という哲学的テーマに興味がある方にもオススメだ。アシタカやサンのように、自分の宿命と真正面から向き合いながら、それでも未来を切り開こうとする姿は、現代社会を生きる我々にとって示唆が多い。
本作は単にファンタジーとして消費するだけではもったいない。何かに迷ったときに観返すと、背中を押してくれたり、逆に「おいおい、もっとしっかりしろや」と説教されるような気分にもなるから不思議だ。要は、大人がガチで向き合うエンターテインメントとして楽しめるのだ。肝心のビジュアル面でも、言わずもがなのジブリクオリティなので、映像にうるさい人も安心して没入できるだろう。
まとめ
以上、「もののけ姫」の感想・レビューをネタバレ全開でお届けした。自然を守る神々と、それを破壊してでも発展を望む人間。両者の争いが単純な勧善懲悪では終わらず、見る者に重たい問いを投げかけるのが本作の最大の特徴である。主人公・アシタカは呪いを受けつつも両陣営を行き来し、どうにか和解を図ろうとするが、途中で繰り広げられる戦闘や人間関係はなかなか生々しくて胸が痛い。
しかし、その胸の痛みこそが本作からのメッセージとも言える。命をめぐる争いはいつの時代もなくならないし、自然と人間の対立構造も依然として続く。それでも、生きるしかない我々はどうするか? 「もののけ姫」には、そんな疑問に対するヒントが詰まっている。見どころは壮絶なアクションシーンや登場人物の人間ドラマだけでなく、自然や神々の表情、ちょっとした仕草のひとつひとつまで作り込まれた世界観だ。再視聴するたびに新たな発見があるので、何回見ても飽きない。
もしまだ観ていないなら、ぜひこの機会に挑戦してみてほしい。映画を観終わったあと、きっと“自分はどう生きるのか”という問いが頭をよぎるはずである。