映画「劇場版『オーバーロード』聖王国編」公式サイト

シリーズのテレビアニメをずっと追いかけてきた人なら、待望の新作として心が躍るだろう。

一方で、劇場作品から初めて触れる人も少なくないはずだ。本作は、アンデッドの王アインズと、その配下が支配する魔導国を舞台にしつつ、ローブル聖王国との攻防を中心に描いている。もともと異世界系作品の中でも強烈な個性を放っているのが「オーバーロード」シリーズであり、今回はタイトルにある「聖王国編」が大画面に登場するというのが大きな目玉である。前知識がなくても映像のインパクトや独特な会話劇に引き込まれる可能性は高いが、やはりテレビシリーズを踏まえておくと各キャラクターの背景や思惑がより面白く感じられるだろう。

なお、本記事では物語の核心部分にも触れる。ネタバレを避けたい方は、まず本編を観てから読むことをおすすめしたい。世界観の濃さと登場人物の濃厚なやりとりは、まさしく劇場版ならではの迫力と空気感を体験できる一本である。

映画「劇場版『オーバーロード』聖王国編」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「劇場版『オーバーロード』聖王国編」の感想・レビュー(ネタバレあり)

テレビアニメで積み重ねたキャラクターの魅力と、原作小説由来の濃密な設定がしっかりと詰まっているのが本作である。今回の焦点となるローブル聖王国は、巨大な城壁に守られた国土を持ち、聖王女カルカを頂点とする国として描かれてきた。だが、魔皇ヤルダバオト率いる亜人連合軍の侵攻によって、そもそも平和だった国の秩序が一気に崩れ去ってしまう。ここに至る流れはアニメ第4期までの流れと密接に繋がっているため、既にシリーズを追っている人は「ついにこの章が動き始めたか」と胸が高鳴る展開だ。

一方、アインズ側から見れば、いつも通り自身の配下が事前に綿密な準備を進めており、それを本人が深く知らずに「結果オーライ」で事が運んでしまうという構図が相変わらず面白い。今回の舞台では、聖王国側が「モモン」という冒険者の力を借りようとするが、あいにく本物のモモンは不在。代わりに“アンデッドの王”であるアインズ本人が手を貸すという提案がなされる。普通なら「アンデッドだと…?」と逃げ出しそうなところだが、背に腹は代えられない状況であるため、聖王国は渋々ながらアインズの支援を受けるわけだ。ところが、アインズと部下たちの真の狙いは別にある可能性が高い。いわゆる“マッチポンプ”めいた構造が、このシリーズの醍醐味として今回も健在である。

登場人物の中でも今回特に印象的なのは、従者ネイア・バラハである。彼女は聖王国の兵士たちから正当な評価を得られず、目付きが悪いと揶揄されるなど、どこか報われない立場に立たされる。しかし、アインズとの出会いを契機にして、自分の信じるものを見つけ、やがて“生死を超越した”絶対的存在に心酔していくことになる。この流れが劇中の重要な柱になっており、いつしかネイアが周囲に対してアインズの偉大さを説き始める姿は、観ていてなかなか衝撃的だ。王であるアインズ自身はどこか「そんなつもりじゃなかったのに…」という雰囲気だが、結果としてネイアの献身が彼の勢力拡大に寄与してしまうあたりが本作らしい。

また、聖騎士団長レメディオス・カストディオとの対比も魅力的だ。彼女は聖王女カルカへの絶対的な忠誠と、亜人やアンデッドを憎む価値観を曲げようとしない。ある意味では信念を貫いているのだが、状況が極限まで悪化するなか、彼女の頑固さと正義感がかえって周囲を追い詰める場面も多い。理想を捨てきれずにあがくレメディオスと、アインズという現実的な“強者”に賭けるネイアが互いにぶつかり合う構図は本作の大きな見どころであり、聖王国という場が崩壊へと向かう過程を際立たせている。

物語のカギを握るのは、かつてテレビシリーズにも登場したヤルダバオト(=デミウルゴス)である。既にファンにはおなじみの手腕だが、今回も相手国に混乱を引き起こし、それをアインズ陣営の利益に変えていく仕掛けを張り巡らせている。劇中では、ヤルダバオトがあえて残酷な手段を取る場面もあり、聖王国側の被害が視覚的にも重く描かれる。ここが原作ファンの間で「映像化するときにどう見せるのか」と注目されていた部分であり、そのインパクトはなかなか激しい。聖王女カルカが無残な運命をたどる展開も含め、いわゆる“王道ファンタジー”ではあまり見られない容赦のなさがあり、それが「オーバーロード」というシリーズの異質さを際立たせている。

さらに言及すべきは、ネイアやレメディオスの苦悩と同時進行で進む「カスポンド王」の行動だ。血筋を理由にローブル聖王国の新たな指導者となっていくかに見えるが、どうにもその素性や目的が怪しい。アインズ陣営からすれば、王族を利用できるならそれでよし、というしたたかな思惑がうかがえる。国を守ろうとする者たちが必死になればなるほど、アインズやヤルダバオトたちの思惑通りに事態が進んでしまう構造は、もはや哀愁すら漂う。いわゆる“主人公最強”系の物語でありながら、真正面から正義感を叫ぶ者は報われないという歪さこそが、「オーバーロード」シリーズの根幹なのだと改めて感じさせられる。

作画面については、テレビシリーズ時点で時折作画崩れが指摘されたこともあったが、本作では劇場版としてスクリーンに堪えうる迫力が意識されている印象だ。亜人連合軍の大軍勢や、都市奪還の場面など、さすがにテレビ版よりはスケール感が増している。ただ、アインズとヤルダバオトの対決にしても「派手にやってくれ!」と期待してしまう部分はあり、まだ映像的には欲張りたくなるところだ。もっとも、本作はネイア視点のドラマが核になっているため、大仰なバトル演出よりは物語の流れに重点を置いた構成になっているのだろう。

また、劇場だからといって初心者にも分かりやすくまとめられているかというと、正直それほど親切ではない。すでにテレビシリーズを通して積み上げられてきた設定が多く、なおかつキャラクターの関係性も複雑であるため、少なくとも直近のエピソードを把握してから観たほうが楽しめるはずだ。その分、本作で展開される“狂気的な信仰”や“政治的な駆け引き”などは、シリーズのファンにはたまらない要素となっているのも事実である。

長らく続くこのシリーズの要ともいえるアインズの“自覚ない恐ろしさ”もきっちり健在だ。彼は元々ゲームプレイヤーだったという経緯を持ち、圧倒的な強さとともに配下から盲目的に崇められている。にもかかわらず、自分では「皆がどう動いているかイマイチ分からない」という状況に置かれており、その“勘違い”がときに物語を大きく進めてしまう。これにネイアの猛信が重なることで、さらにややこしい事態へと発展していくのが面白いところだ。とくに終盤では、ネイアの信念が一種のカルトのように広まっていき、結果として聖王国の内部がかき乱される展開はインパクト抜群。アインズ本人が「まさかこんなことに…」と頭を抱えている姿を想像すると、思わず頬が緩んでしまう。

そしてレメディオスの立ち位置もまた、本作の奥深さを引き出す大きな要素だ。彼女はあくまでも聖王女や民衆を守ろうとするが、悲劇的なまでに理想主義から抜け出せない。作戦上、多少の犠牲は避けられないという現実に対しても、真っ向から反発してしまう。仲間たちから疎まれるのはもちろん、ネイアたちとの溝も決定的になっていく。レメディオスの立場で見れば、国を想う気持ちは誰よりも強いのだが、結果として何も守れないという皮肉が本作の物語をよりダークに彩っている。

冒頭で提示される聖王国の崩壊危機から、アインズの“支援”を経て、最後にはカスポンドの暗躍やネイアの狂信といった数々の要素が重なっていき、結末に向かって突き進む流れは、ファンにはたまらない緊張感に満ちている。しかも、その結末自体も「本当にこれで終わりなのか?」と疑問を残す形になっているため、今後の展開を期待させる作りだ。テレビアニメ第5期があるのかどうか、原作がどう完結していくのか、いずれにしても観る側の興味はさらに膨らむばかりだ。

劇場版という形で「聖王国編」にスポットが当たったことはファンにとって歓迎すべき出来事である。テレビシリーズでは時間の都合で省略されたエピソードや心理描写が、スクリーンならではのボリュームで表現されており、血生臭くも惹きつけられる世界観がしっかり息づいていると感じる。一方で、独特な残酷描写やダークな要素も多いため、明るい雰囲気を求める人にはハードルが高いかもしれない。とはいえ、そこが「オーバーロード」の最大の魅力でもあり、シリーズの中でも非常に印象的な章になっている点は間違いない。

以上を踏まえると、本作は“アンデッドの王”が繰り広げる壮大な策略劇を、劇場という舞台でたっぷり堪能できる作品であると言える。聖王女カルカの無念さやネイアの狂信、そしてレメディオスの正義感など、複数のキャラクターが織り成すドラマがダークファンタジーとして大いに盛り上がる。普段のファンタジー作品とは一線を画すシビアな世界観が好きな人ならば、劇場版「劇場版『オーバーロード』聖王国編」はきっと心に残る体験になるだろう。

映画「劇場版『オーバーロード』聖王国編」はこんな人にオススメ!

まずシリーズのアニメを観てきた人はもちろん必見である。テレビシリーズを経てきた方なら、あのアンデッドの王アインズや個性豊かな配下たちがどんな策略を見せるかを知りたくてたまらないだろう。本作は彼らが手のひらで世界を転がす様子をより大きなスケールで堪能できるため、観ておいて損はない。

そしてダークな世界観に魅力を感じる人にもおすすめだ。ローブル聖王国が落ちていく様子は、ある意味で悲壮感を伴うが、そこにこそ物語としての強い衝撃がある。主人公側が手加減なしで国や相手を翻弄していくため、いわゆるハッピーエンドを期待する人には厳しい内容かもしれないが、“えぐみ”のあるファンタジーを求めるなら十分に楽しめる。

また、原作小説を途中まで読んでいるけれどアニメは未視聴という人も、本作をきっかけに視聴欲が湧くかもしれない。劇場版を観てからテレビアニメにさかのぼると「ここがこう繋がっていたのか」と気づくポイントが多々あるはずだ。アインズやデミウルゴスの不気味な二面性、ネイアやレメディオスの葛藤など、原作で拾えなかった細かい描写を映像で補完できる点も見どころといえる。

ただし、描写としては決して軽妙なだけではなく、残酷なシーンや陰謀めいた展開が多い。そのため、可愛らしいキャラクターたちが仲良く冒険するような作品を求めている人には合わないかもしれない。しかし、謀略や力の差による支配、そして狂信へと走る心の動きをじっくり味わいたい人なら、大いに満足できるだろう。だからこそ、「オーバーロード」シリーズの核心ともいえる恐ろしくも妙に笑いを誘う空気感がやみつきになるはずである。

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まとめ

劇場版「劇場版『オーバーロード』聖王国編」は、テレビアニメで描ききれなかった聖王国編に大きくスポットを当て、スクリーンならではの迫力で物語を楽しませてくれる作品である。

なまじ“主人公最強”という枠組みだけで語れない深みがあるのが特徴で、アインズを慕うネイアの急激な信仰ぶりや、レメディオスの不器用な正義感がまざり合う展開は見応えたっぷりだ。テレビシリーズを知っている人にとっては「待ってました!」と膝を叩きたくなる瞬間が続出するし、原作ファンにとっても重要なエピソードが丁寧に扱われているため、観て損はないと言える。

もちろん、初めて触れる人にはやや敷居が高いかもしれないが、逆に「ここまでダークに振り切った異世界物があるのか」と驚くこと請け合いだ。劇中の残酷描写や人間ドラマの裏に潜む駆け引きがハマれば、シリーズをイッキ見したくなる可能性も高い。いずれにせよ、カリスマを持つアンデッドの王がもたらす支配と、その裏側で翻弄される人々の姿は、これから先もファンの心を離さないだろう。