映画「おとななじみ」公式サイト

映画「おとななじみ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

井上瑞稀が主演を務めるということで、甘酸っぱい恋愛模様を期待して観に行ったが、実際のところは想像以上に一筋縄ではいかない部分も多かったと感じる。キラキラしたラブコメという先入観を抱いていた人ほど、その裏にある“ちょっぴり残念”な人間模様に笑わされるはずだ。とはいえ、序盤の軽快なやりとりやコミカルな演出にはガッと心をつかまれ、あっという間に本作の世界へ引きこまれてしまった。

本作の魅力は、登場人物がみな個性的でありながら、それぞれが抱える葛藤がちゃんと描かれているところにある。井上瑞稀が演じるヘタレ男子の奮闘と、久間田琳加が体現するオカン系女子の苦悩が合わさって、“幼なじみ”という絶妙な関係性がしっかり活きているのだ。それだけに、ときに胸がギュッとなる切ない恋愛模様もあれば、「なんでそうなるんだよ!」と突っ込みたくなる行動もあって、気づけば物語の進行に振り回されてしまう。

ただ、その振り回され具合こそがこの映画の真骨頂でもあると感じた。甘いだけではない、イライラやモヤモヤも混ざった“青春の残り香”のようなものが、観終わったあと奇妙な余韻を残す。本作がただの王道恋愛映画で終わらないのは、この複雑で愛らしいキャラクターたちの関係性がしっかり描かれているからではないだろうか。今回は、そのあたりを踏まえながら“激辛”な視点も混ぜ、感じたことを思うままにまとめてみる。

映画「おとななじみ」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「おとななじみ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

まず最初に言いたいのは、井上瑞稀演じる主人公の“どうしようもなさ”が絶妙であるということだ。恋愛映画の主人公というと、たいていはどこかしら“かっこいい要素”が用意されているものだが、本作の主人公は方向性が少々異なる。家事が苦手で部屋は散らかり放題、気になる相手に素直になれず、就職に躓いたりもするという、いわゆるダメっぷりをさらけ出す姿が妙にリアルなのだ。

実際、井上瑞稀が演じる主人公を見ていると「こいつ、本当に大丈夫か?」と親目線で心配になってしまうほど。しかも、肝心な場面で気持ちを言葉にできないせいでヒロインに勘違いされるし、周囲にも「お前はもっとしっかりしろよ!」と叱られる始末。この設定がきっちりハマり、彼のイメージにない新しい魅力を引き出しているところは評価に値すると感じた。ある意味、“アイドルらしからぬ”泥くささが新鮮で、井上瑞稀のファンはもちろん、そうでない人にも“こんな一面があったのか”と驚きがあるのではないだろうか。

一方、久間田琳加が演じるヒロインは、“オカン系女子”というあだ名がしっくりくるほどに世話好きだ。子どもの頃から主人公の面倒を見すぎてしまったせいで、もはや彼の保護者のようになってしまっている。しかし、それでもなお主人公への恋心を捨てられず、片思いをこじらせ続けているというのが切ない。

ただし本作のヒロインは、ただ単に可愛らしくて健気なだけの人物ではない。自身の人生や仕事、周囲との関係に悩みつつも踏ん張る姿は凛々しく、作品を観ていると彼女の奮闘に心打たれる瞬間が多々ある。むしろ「そんなに頑張らなくてもいいんじゃないか」と声をかけたくなるほどだ。終盤で彼女が自分自身の思いを爆発させるシーンは、片思いをしてきた苦労や我慢が積み重なっていたぶん、見ている側も「よく言った!」とすっきりする場面である。

そして物語をさらに複雑にするのが、萩原利久演じるスマート男子の存在だ。優秀で仕事もデキる彼が登場することで、主人公の頼りなさがより際立ち、ヒロインとの三角関係がどんどん熱を帯びていく。実際、このスマート男子の気持ちを想像するとかなり切なくて、ハルとヒロインが同じ屋根の下で暮らしている事実を知りつつアプローチを仕掛けるとか、冷静ぶっていても内心は苦しいはずだ。

本作では、彼もまたヒロインに長年の思いを抱えてきたという設定があるため、なおさら物語の歯車が熱く回る。彼の視点からすれば「なぜあんなダメ男子を好きになるんだ?」と憤りたくなるだろうが、それでもヒロインを尊重して想いを伝えようとする姿が切なすぎる。さらに、ハルとの友情も決して失わないあたりに“幼なじみ”の絆がにじんでいて、「そう簡単には割り切れないよな」というリアリティを感じる。

もう一人、浅川梨奈演じる女の子も大事な役割を担っている。おしゃれで口が悪くて、男慣れしているように見えるが、人情に厚くて何かと周囲に気配りをしてくれるキャラだ。彼女がいなければ、本作の恋愛模様はとっくに崩壊していたのではないかと思うくらい、物語の調整役になっていると思う。ツンデレ気味の発言で核心をズバッと突くので、登場シーンに“はっとさせられる”瞬間が多いのだ。

物語全体としてはベタなラブコメ要素を含みながらも、細部のディテールにこだわりが見られる。たとえば、友人たちとの何気ない会話シーンでぽろっとこぼれる“本音”や、仕事で失敗したり成功したりする局面が意外とリアルに描かれるあたりが見どころだ。映画としてはいわゆる“夢のある恋愛”をメインテーマにしつつも、実際に社会に出て働く若者たちの苦労が織り込まれているため、“甘いだけじゃないドラマ”としても楽しめるようになっている。

ただ、激辛な視点で指摘するとすれば、やはり主人公の優柔不断さにイライラするシーンは多い。序盤から中盤にかけて、もう少しハキッとしてくれないか…と思うほどウジウジしたり、仕事や恋で「お前そこ間違える!?」という場面が続く。もちろん、それは本作の魅力でもあるわけだが、人によっては「共感よりもストレスが先に来る」という可能性も否定できない。

ストーリー展開がややご都合主義に感じられる部分もある。突然現れた人物が何かしらの奇策を提案して一気に問題が解決したり、主人公が失敗したところに都合よく助け舟が来たりと、現実ではそううまくはいかないだろうと思うケースが続く。もちろん、これはエンタメの醍醐味ともいえるが、真面目に突っ込みを入れながら観る人にとっては「あれ?」と引っかかるかもしれない。

それでも最後まで観終わると、「まあ、これが映画の面白さというやつだよな」と納得してしまう自分がいた。ちょっとしたハプニングが次々と起こり、それをキャラたちが右往左往しながら乗り越えていくテンポ感のおかげで、変にシリアスになりすぎないバランスを保っている。序盤から張り巡らされた伏線を回収しながらのクライマックスも、勢い任せではあるがある種の爽快感がある。

恋愛要素に関しては、いわゆる胸キュンシーンもしっかり盛り込まれている。特に主人公とヒロインの“お互いが好きなのに”すれ違う部分のもどかしさは、王道的でありながらも非常に甘酸っぱく、観ているこちらが思わず「早く言葉にしろよ!」と叫びたくなる。実際に言葉にしてしまえば一気に物語が進展するのに、それができないからこそのドラマが盛り上がるわけで、まさに“青春ラブコメ”の醍醐味が詰まっていると感じた。

対して、萩原利久のキャラクターが見せる大人びた態度や挫折の描写も見応えがある。結局、彼はどうあがいてもヒロインの心を根こそぎ奪い取ることはできないが、そこにもまたひとつのドラマがある。わかっていても諦めきれないその苦しさと、幼なじみとしての友情を両立させようとする誠実さが切なくて、「もし彼がもう少し早く想いを伝えていたら……」などと考えてしまう人も多いのではないかと思う。

さらに、浅川梨奈が演じる友人の存在が実は大きくて、彼女がいなければ登場人物同士の心情がうまく伝わらなかっただろうなと思う場面が目立つ。合コン要員や人生相談役として立ち回ることで、視聴者にとっては物語の状況を客観的に捉えやすくなるし、当人同士が踏み込みづらい話題をズケズケと突っ込んでくれるのが小気味よい。

演出面では、ときに飛び道具的な仕掛けが投入される。唐突に挿入される妄想シーンや、フラッシュモブ風の演出など、まさに“こう来るか!”という意外性が散りばめられているのだ。これを「やりすぎ」と感じる人もいるかもしれないが、元が少女漫画原作ということを考えれば、むしろ“らしさ”があって悪くない。現実の延長線上にあるようなシーンをそのまま映画で描いても地味になりがちなので、多少オーバーに仕立てて笑わせてくれるのはむしろ歓迎である。

そうした派手さの裏で、しんみりとした家族のエピソードや仕事に奮闘する姿を描いているギャップも面白い。本作は“幼なじみ同士の恋愛”が中心ではあるが、その背景にはいろいろな人間模様が詰まっており、ちょっとだけ社会人としての葛藤にも共感しやすい。だからこそ、単なる学園ものでは終わらないドラマ性が感じられるのだろう。

ラストの展開は、予想通りに一応ハッピーエンドを迎えるわけだが、“やっぱりそう来るよね”とわかっていても、主人公とヒロインのやり取りにはニヤニヤしてしまった。ようやく想いが通じ合ったときの空気感は、「お前ら、ここまで引っ張りすぎだろ!」と突っ込みながらも、微笑ましく見届けられるという独特の心地よさがある。

結果的に、たとえ主人公のダメっぷりにイライラし、都合のいい展開に首をかしげることがあっても、最終的には“まあ、これはこれでいいじゃないか”と許容したくなる不思議な魅力が本作にはある。これは出演者の演技のアンサンブルや脚本、監督の方向性がうまく噛み合っているからこそ生まれる味わいではないかと思う。

評価として星3つにしたのは、多少の不満もあるが“十分に楽しめる”作品だったからである。もし“残念男子とオカン系女子の恋愛ドラマ”というコンセプトにピンとくるなら、一度は観て損はないはずだ。

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映画「おとななじみ」はこんな人にオススメ!

まず、本作は甘いだけの恋愛ストーリーを求める人よりも、“ドタバタ劇”や“ちょっとイラっとくるすれ違い”を楽しめる人の方が向いていると思う。主人公が積極的にリードするタイプではないため、いわゆる爽快でかっこいいヒーロー像を期待すると肩透かしを食らう可能性があるからだ。とはいえ、この“残念男子”にツッコミを入れながら観るスタイルが好きな人にとっては最高の娯楽になるだろう。

幼なじみ同士の恋に対して“尊い……”と感じるタイプの観客にも刺さる要素が多い。子どもの頃からの歴史が積み重なっているからこそ、簡単には壊せない関係性や、周囲を交えた友情のバランスがドラマの核となっている点は大きな魅力だ。近しい関係ゆえの甘さだけでなく、言いたいことが言えなくなるもどかしさも含めて楽しむなら、本作はピッタリではないだろうか。

それから、仕事や将来について迷いを抱えている若い社会人にもおすすめできる。登場人物たちが就職やキャリアを意識しつつ、自分のやりたいことと向き合う過程が描かれているため、ただの恋愛映画に終わらず“自分ならどうするか”と考えるきっかけが得られるのだ。恋愛だけに没頭しているようでいて、実は“社会に出るとこんな苦労もあるんだよ”というリアルさがほどよく織り込まれているため、共感しやすい部分が見つかると思う。

さらに、本作はサブキャラがしっかり活躍しているので、恋愛メインでなくても楽しめるシーンが多い。周囲を取り巻く面々が繰り広げるやりとりや、予想外の場面で交わされるアドバイスなど、コメディ色を感じながら親近感も湧く。そういう部分を重視する人にとっては、恋愛映画の“ベタなラブラブ描写”だけでなく、笑いと意外な人間ドラマを楽しめるはずだ。

したがって、「甘ったるい胸キュンもいいけど、ちょっと刺激のある恋模様を見たい」と考えている人にはかなりオススメの作品であると思う。主演の井上瑞稀に興味があるならもちろん、ラブコメに慣れている層が“新鮮なドタバタ感”を味わいたい場合にも、この映画は良い選択になるのではないか。

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まとめ

本作は“幼い頃からの絆があるのになかなか素直になれない”という古典的テーマを扱いながら、社会人になってからの仕事や人間関係を描写することで、王道の恋愛映画に一味違う面白さを与えていると感じた。主人公のダメっぷりが強調されることでヒロインやライバルの存在がより際立ち、観客としては「どっちを応援すればいいんだ?」と複雑な気持ちにさせられるのも良いスパイスになっている。

展開自体はあまり意外性があるわけではないが、登場人物が互いの思いをぶつけ合う瞬間にはしっかり盛り上がりが用意されており、王道の胸キュン要素もしっかり堪能できる。むしろ、すれ違いや誤解が重なることで生まれるもどかしさこそが見どころだと言えるだろう。

終盤まで主人公がグダグダ迷っているため、人によっては「もうちょっとしっかりしろ!」と苛立つかもしれないが、そのイライラがあるからこそラストの解放感がひときわ大きくなる。悔しさも喜びもあってこそ、仲間たちとのドラマが充実し、恋愛要素だけでは語れない妙な余韻を味わえるのが本作の特徴ではないか。

結局のところ、本作に描かれるのは“決して完璧じゃない若者たちの不器用な恋”である。だからこそ共感できるし、彼らの成長を応援したくもなる。そうした青春の残り香を思い切り浴びたい人には、この映画はぴったりのエンタメ作品だと言えるだろう。