映画「おそ松さん」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
実写化の企画が持ち上がったと聞いたとき、「アニメのあの無茶苦茶さを人間が演じるのか?」と疑問に思った人は多いだろう。ところが、スクリーンで繰り広げられるのは想像以上に自由奔放な展開であり、独特の脱力感が存分に発揮されていて驚かされる。向井康二をはじめとする出演陣が振り切った演技を披露しており、いわゆる“マンガ原作実写化”の定型に収まらない仕上がりになっている点が見どころだ。
序盤からメタ発言が飛び出したり、キャラクター同士のテンポ感がやたらに良かったりと、何も考えずに観て笑うにはもってこいの作品ではないかと思う。もちろんストーリー自体も破天荒で、気づけば「あれ、これどうやって終わるんだ?」とワクワクしながら巻き込まれていく。ここから先は内容をしっかり触れるので、まだ観ていない人は注意して読んでほしい。
映画「おそ松さん」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「おそ松さん」の感想・レビュー(ネタバレあり)
実写版としてスクリーンに登場した「おそ松さん」は、アニメ版のおなじみの六つ子たちをそのまま人間が演じるという大胆さが話題になった。しかし、単なるギャグ路線のまま突き進むのかと思いきや、意外にも各キャラクターが別々の方向に暴走していく“群像劇”っぽい味わいも見せている点が面白い。そもそも「おそ松さん」自体が原作やアニメでもあちこちへ自由に飛ぶ作風であり、そのカオスを実写でどう映すのか、最初は多くの人が半信半疑だったのではないかと思う。だが、結果的にはスタッフやキャストの振り切り方が徹底しており、むしろ「このくらいやってくれないと物足りない」と感じるくらいの振れ幅で笑わせてくれる。
まず冒頭部分の切り口からして異様だ。アニメの導入を踏襲しつつ、実際のパチンコ店や街並みが映し出されると、そのリアルさとの落差が妙に刺激的なのである。六つ子の中でも中心的ポジションとなるおそ松役の向井康二が、派手というよりは脱力系のテンションで画面に登場するところが妙に新鮮だ。テレビアニメ版でもおそ松は“大雑把でいい加減な長男”という立ち位置だったが、実写でもしっかりと“無気力だけどなぜか憎めない”雰囲気を出している。加えて、ほかの五つ子(カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松)それぞれの俳優陣が微妙にビジュアルをずらしながらも、髪型や衣装で「なんとなく同じ顔」を表現しているのが笑いどころだ。そもそも人間が六つ子を演じる時点で無理があるはずなのに、「うん、たしかに似てるかも」と思わせるあたりは絶妙である。
ストーリー面では、“金持ちの老紳士が亡き息子にそっくりなおそ松を養子に迎えたいと言い出す”という、あまりにも都合が良すぎる展開で話が転がり始める。ここで「じゃあ、同じ顔をした兄弟たちもみんな養子候補にすればいいんじゃないか?」という発想にすぐ飛びつくあたりもおそ松らしさ全開だ。そこから六つ子たちが互いを出し抜こうとしたり、要領よく立ち回ろうとしたり、誰かがとんでもない方向に走りだしたりと、原作アニメを知っている人なら「やっぱりこいつらは裏切らないな」と思わずニヤリとする場面が連続していく。
具体的には、チョロ松がなぜかホストとしてスカウトされてしまい、思わぬ才能を開花させて“その道”で頂点を目指すエピソードや、十四松が唐突に時代劇風の世界へ飛ばされてしまう展開など、一見するとまとまりがないように見えて、後半ではこれらが一気に絡み合うようになっている。しかも、その過程でカラ松が記憶を失くしたり、一松が怪しい組織に誘われたり、トド松が実業家として突拍子もない勝負に出たりと、もう「どこまで本気でやるんだ」と突っ込まずにはいられない。
さらにメタ的な仕掛けとして、イヤミやトト子、チビ太といったおなじみのサブキャラたちが「このままだと物語が収拾つかないのでは」と焦り始める描写も笑いを誘う。見ている側ですら「これ、どう畳むんだろう?」と若干心配してしまうところで、さらなる新キャラクターが「俺たちが終わらせてやる」などと言いながら乱入してくる。この“終わらせ屋”ともいうべき連中は一見シリアスな雰囲気だが、やはり対峙する相手が六つ子なので、彼らの思惑通りに話が進むわけもなく、かえってますます混沌としていくのが面白い。
アクション描写も意外と力が入っており、カラ松役の人物が派手な身体能力を見せつつ、本来なら大ピンチの場面なのに突拍子もない勘違いをしている、というギャップが痛快だ。チョロ松を取り巻くホストの世界も、ちょっとダークな空気が混ざりつつ、なぜか不思議とコミカルに仕上がっている。十四松の時空越えアドベンチャーは、いったい何の映画を観ているのか一瞬忘れそうになるほど浮いているのだが、それも「おそ松さんだから」で通ってしまうのが不思議だ。視聴者としては、訳のわからないままにいくつもの展開が押し寄せ、そのたびに爆笑のネタを提供してくれるので、飽きている暇がない。
とはいえ、あまりにも荒唐無稽すぎて、映画としてまとまっているのかどうかは意見が割れるかもしれない。いわゆる“しっかりした起承転結の物語”を求める人にとっては、やや騒がしすぎる印象があるだろう。一方で、「原作が好きだし、とにかく笑えればいい」と思っている人や、「向井康二を含む出演陣が全力でふざけてくれるなら、それだけでも観る価値がある」と考える人にとっては最高の時間になる可能性が高い。個人的には、この脱力感こそが「おそ松さん」らしさの本質だと感じるので、「もうちょっと真面目に作れよ」と突っ込みつつニヤニヤしてしまうくらいがちょうど良いのではないかと思う。
また、今回のキャラクター同士の掛け合いには、ドラマやバラエティでも活躍するSnow Manの個性がかなり活かされているように見える。それぞれのメンバーが強みを発揮し、歌やダンスとはまた違った魅力を披露しているのもファンにはたまらないところだ。特に向井康二のおそ松は、兄弟の中で妙に人懐っこい雰囲気を出しながらも、要所要所で“やる気のなさ”をうまく表現しており、アニメ版のおそ松を実写に落とし込む際のハードルを軽快に飛び越えているように感じた。
中盤以降、六つ子たちがそれぞれバラバラの道を進んだはずなのに、なんだかんだで一堂に集まってしまうあたりも見どころだ。普通なら「どうやって合流するんだ?」という強引さは気になるところだが、この作品の場合はむしろ「こんな奇妙な流れ、むしろ待っていた」という感想になるから不思議である。最終的には「いや、そこはそうなるんだ?」と驚くような落としどころを見せるが、何でもアリの展開に慣れたころには「まあそうだよね」と納得させられてしまうのだから、観ている側も相当振り回されているといえる。
一方、コメディ的要素だけでなく、ちょっとシュールな視点や登場人物の意外な内面が垣間見えるシーンも盛り込まれていて、ただふざけているだけではないのだと感じる瞬間がある。とはいえ、すぐに誰かがボケをかましたりツッコミを入れたりして空気が一変するため、あくまで本筋は笑い重視という姿勢が揺らがないのが好印象だ。やや雑とも思えるほどの詰め込み具合だが、その雑さが「おそ松さん」の持ち味を損なわずに活かしているともいえる。
全体を通して感じるのは、原作アニメへのリスペクトをあちこちに散りばめながらも、実写ならではのノリと勢いで一気に突き抜けようとしている制作者の意気込みである。アニメだから笑って許されていたギャグや展開を、そのまま現実世界でやってしまうという大胆さ。そこに出演者たちのサービス精神が融合することで生まれるエネルギーが、本編のあちこちから伝わってくる。カラフルな衣装から、突然入るアクションや歌舞伎じみた動きまで、見どころは多岐にわたる。
まとめると、「おそ松さん」を知らない人がいきなり本作を観ると、そのハチャメチャさに面食らうかもしれない。しかし、予備知識ゼロでも“とことん自由に遊ぶ”空気感を素直に楽しめるなら、この映画は存分に笑える作品となるだろう。逆に原作を知っている人は、「そこを実写でやっちゃうんだ!」という驚きと、「本家とまた違った味付けをしている」という発見で何倍も楽しめるはずだ。いずれにしても、鑑賞後には「こんな映画、そうそう他にないぞ」と言いたくなる一本である。
映画「おそ松さん」はこんな人にオススメ!
この映画をすすめたいのは、とにかく肩の力を抜いて笑いたい人だ。あまりにも真面目すぎる作品や難解なストーリーに疲れているなら、ここまで大胆にふざけてくれる映画はむしろ貴重ではないかと思う。ストレス解消や気分転換をしたいときにうってつけの作品である。
さらに、Snow Manや向井康二が好きな人にとっては一見の価値がある。普段からバラエティで見せる彼らのやり取りが大きく反映されており、どこか舞台裏をのぞき見しているかのような感覚が味わえるからだ。グループとしてのチームワークやキャラクターの濃さを存分に活かし、アイドルという枠を飛び越えたコメディセンスを披露している姿はなかなか貴重だろう。
また、アニメ版「おそ松さん」の独特な世界観が好きだった人にもオススメできる。基本的に原作のノリがそのまま実写に落ちてきたような仕上がりなので、「アニメだったら大丈夫でも実写だと寒いんじゃないか」と心配する必要はあまりない。むしろ、「そこまで再現するのか!」という驚きと、「こんなところを実写化するなんて」という衝撃が同時にやってきて、不思議な高揚感を味わわせてくれる。
一方、細かい設定の辻褄やストーリーの連続性を重視する人、あるいは淡々とシリアスな展開を期待する人には向かないかもしれない。いちいちツッコんでしまうタイプの人には、「いや、こんなのアリかよ!」とひたすら疑問が止まらないかもしれないが、それこそがこの作品の本懐でもある。「作品内で好き勝手に暴れる六つ子たちを大らかな目で見守れる」そんな度量のある人には、ぜひとも手に取ってもらいたい映画である。
まとめ
実写版「おそ松さん」は、アニメ的なギャグやメタ要素を現実世界で堂々と繰り広げる、ある意味では非常に挑戦的な作品だ。笑いのためなら何でもやってしまえという勢いと、Snow Manメンバーを中心にした出演陣の振り切った姿勢が融合して、独特の世界観を作り上げている。結果として、一つの物語として見ると破綻しているように映る部分も多いが、それすらも持ち味として楽しんでしまう懐の深さがある人には、最高の一本になるだろう。
アニメ版からのファンであれば、各キャラクターの再現度にクスッとさせられるシーンが盛りだくさんで、それだけでも満足度は高い。初見でも、お祭り騒ぎのようなノリについていけるなら十分に楽しめるはずだ。観終わった後に「なんだったんだ、これは」と呆れ半分、妙な爽快感半分で笑顔になる人も多いのではないかと思う。「まともな映画」を期待していると肩透かしかもしれないが、破天荒な面白さを求めるなら気軽に手を伸ばしてみるとよいだろう。