映画「おもひでぽろぽろ」公式サイト

映画「おもひでぽろぽろ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

スタジオジブリといえば魔女やらトトロやら、わかりやすくファンタジックな作品が多いイメージだが、本作「おもひでぽろぽろ」はちょっと毛色が違う。都会暮らしの27歳OL・タエ子が夏休みに田舎へ出かけて、幼少期の自分を思い出しながら“大人ってなんだろう?”と自問自答する物語である。青春ものほどキラキラはしていないし、冒険ものほどワクワクもしないけれど、その“地味さ”が逆にクセになるという声も多い。実際、筆者も初めて見たときは「地味すぎる…」と肩透かしを食らった記憶があるが、二度三度と見返すうちに「ああ、こういうのもアリだな…」と妙にしみじみしてしまったものだ。

とはいえ、ジブリらしい豪華スタッフと丹精な作画はやはり見応えがあるし、当時の昭和の空気感が妙にリアルで、ちょっと郷愁を誘われる。あえて激辛に斬り込みつつ、そんな独特の魅力をもつ映画「おもひでぽろぽろ」のレビューをたっぷり語っていきたい。

映画「おもひでぽろぽろ」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「おもひでぽろぽろ」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは映画「おもひでぽろぽろ」の感想・レビューを、ネタバレ全開でガッツリと掘り下げていく。評価は星3つであるが、これは決して“つまらない”というわけではない。むしろ、味わい深い作品であるにもかかわらず、人を選ぶ要素が多々あるというところがポイントだ。というわけで、以下、本音を大放出していくので覚悟してほしい。あ、もちろんネタバレ満載なので未視聴の方はご注意あれ。

まず主人公のタエ子だが、27歳という微妙なお年頃。東京でOLをしていて、長期休暇を使って山形の親戚(正確には義理の姉の家系)が営む農家へ“お手伝い”という名目でやって来る。普通に考えて、休みをわざわざ田舎に行って土まみれになって手伝おうという時点で、すでに彼女はちょっと変わっている。自分の中のモヤモヤを癒やしたいのか、ただリフレッシュしたいのか、その辺の曖昧さが人間くさくてリアルだ。何より、物語冒頭からタエ子の小学生時代の“ノスタルジー大放出”が始まるのだが、これが不思議とこちらの記憶までえぐってくるのだ。

例えば小学校の給食シーンひとつを取っても、タエ子はパイナップルに出会ったときの衝撃を語る。「こんな酸っぱいんかい…」と舌がビリビリした思い出、筆者も「わかるわ…」とニヤリとした。給食のトマトが嫌いだった話やら、授業でバカみたいに朗読させられたあの時代の空気感、昭和が生んだ独特のコンプレックスやら、それらが“ぽろぽろ”こぼれ落ちるように展開されていく。本作のタイトルが示すように、まさに“思い出”が断片的に溢れ出す構成である。それゆえ物語のテンポは決して早くないし、豪快な展開もない。戦闘シーンがあるわけでもなく、空を飛ぶシーンがあるわけでもない(一応、タエ子の妄想では飛んでいたかもしれないが、そこはご愛嬌)。だからこそ、とんでもなくゆったりとしたノスタルジー空間に浸れる作品だといえる。

しかし、この“ゆったり感”が好きな人にはたまらないが、正直「退屈だ」と感じる人もいると思う。筆者が初めて観たときは、「あれ…ジブリ…だよな…?」と少々困惑した。むしろドキュメンタリーか?というくらいのリアル寄りな描写に、「こりゃ評価が割れても仕方ないな」と感じたものだ。何よりタエ子の子ども時代の回想シーンが、けっこうな割合を占める。せっかく山形に来たのに、現在パートが案外あっさりしているのだ。田舎での農作業シーンは興味深いが、これまた地味といえば地味。草取りをして、紅花を摘んで、夜はスイカを食べながら家族で語らって…って、どこの田舎暮らし番組かとツッコミを入れたくなる。

ところが、そこがまたリアリティを生む要素だし、その中でタエ子が少しずつ自分の人生を見つめ直していくドラマが丁寧に描かれる。例えば、義理の姉の舅さん的存在であるトシオが、農業の魅力を熱く語るシーン。「無農薬農業ってどうやるの?」「天候の影響ってどうなん?」といった、普段気にも留めないテーマが語られ、自然と見ているこちらも“ああ、農業って奥が深いんだなあ”と感心してしまう。同時にタエ子は、都会でのOL生活と田舎暮らしを比べながら、「自分は一体どこに居場所を求めたいのか?」とモヤモヤを深めていくわけだ。このモヤモヤこそが、本作の肝でもあり、共感ポイントでもある。社会人になり、ある程度経験を積んだ頃にふと感じる「あれ、私の人生ってこのままでいいんだっけ?」という疑問。誰しも一度は立ち止まって考えたことがあるはずだ。

ただ、タエ子の悩みはそこまで深刻というわけでもない。恋人がいないわけでもなく(少なくとも縁談やら、周囲の紹介話はある)、職場の人間関係が最悪なわけでもない。むしろ平々凡々とした日常の中で、「なんとなく空虚…」とぼんやり感じているだけなのだ。観る人によっては「そんな深刻でもない悩みをウジウジと…」と感じるかもしれないし、またある人は「わかるわかる、人生の岐路で悩むよなあ」と共感するかもしれない。評価が真っ二つに割れるのも納得である。これが星3つの最大要因だ。ぶっちゃけ、もうちょっと派手なドラマがあっても良かったのでは?と思わなくもない。ラストシーンなんか、まさかの“あの展開”に「え、やっぱりそこに落ち着くのか…」と若干拍子抜けした記憶がある。とはいえ、絶妙にあたたかい後味を残すところがジブリの真骨頂かもしれない。

本作の見どころは、なんといっても昭和の子ども時代パートと、当時の生活風景の描写である。小学生タエ子の家族構成は、昭和の古き良き厳しい父、ちょっと口うるさい母、そして優しいお姉ちゃんたち…という布陣。ちょっとしたお小遣いの使い方から、初めての生理の話まで、実に生々しく描かれる。特に初めての生理エピソードは当時の学校や親のリアクションが妙にリアルすぎて、見ていてこっちが恥ずかしくなるレベルである。しかもそれを男の子たちに知られてしまって…という、もう“黒歴史”以外のなにものでもない展開。ジブリ作品でここまでリアルに描いちゃうんだ?と当時はちょっと衝撃を受けた。

さらに小学生の演劇発表やら、初恋未満の淡い感情やら、あるいはたった一度の不登校モドキの話やら、こうして並べてみると「ありふれているようでいて、実は誰しもがちょっとだけ経験してること」のオンパレードだ。その“ちょっとだけ共感”できるところが、本作の醍醐味といえる。自分の幼少期を振り返って「ああ、そういえばあんなことあったな」と思い出すきっかけをくれる作品でもあるのだ。筆者も思い出した。牛乳嫌いだったのに無理やり飲まされて吐きかけたあの日々…。そんな些細な記憶が、社会人になった今でも案外心に残っているものである。

もうひとつ面白いのが、絵柄の切り替えだ。子ども時代の回想シーンは色彩が淡く、まるで過去の記憶のフィルターがかかったようなタッチで描かれている。一方、現代パートはよりリアルで細密な描き込みがなされ、あたかもドキュメンタリー作品を観ているような写実感がある。そのギャップが“今、私は思い出の世界を覗いてるんだな”という没入感を高めるわけだ。また、タエ子の妄想シーンのちょっと浮遊感のある描写も印象的で、観ているとふわっと過去の記憶に引きずられる感じが心地よい…ような、でも少し切ないような不思議な感覚にとらわれる。

とはいえ、本作に派手な演出や目を見張るようなファンタジー要素を期待するとガッカリするかもしれない。ジブリらしさを求めるなら、正直トトロや魔女宅のほうがよっぽど“ジブリっぽい”と思う。本作は、むしろ時代考証や生活描写に力を入れている“ジブリの異端児”といった感じだ。そういう意味では、好き嫌いが分かれるのは当然である。先述したように筆者の評価は星3つで、「超名作!」と大絶賛するほどではないが、一度は観ておきたい不思議な魅力を持っていることは間違いない。

個人的にツッコミたいのは、タエ子が割と唐突に農家生活に馴染むところである。最初は都会っ子のはずなのに、いつの間にか普通に農作業して、紅花を摘みながら「へえ、こんなふうに染めるのか…」とまったりしている。あれ、あなた都会のOLだよね?とちょっと笑ってしまう。でもそういう適応力の速さがタエ子の魅力であり、彼女が農業青年・トシオと打ち解けていく流れもごく自然に見えてしまうのだ。また、クライマックスでタエ子の決断を後押しするのが“幼い自分たち”というファンタジックな演出は、さすがに「おいおい、そこは実写映画じゃできない展開だな」と苦笑いしつつも、ジブリだからこそ許せる…そんな絶妙な味わいがある。

結局、本作は観る人の年齢や人生経験によって印象がガラリと変わる作品だと思う。10代で観ると「なんだか地味な大人の話」と感じるかもしれないし、30代・40代で観ると「いや、これ本当によくわかる」と共感度が爆上がりするかもしれない。その意味でも、年齢を重ねるごとに味わいが変わる作品として、定期的に見返す価値があると思う。筆者も初見では微妙に思ったが、今見ると「ああ、こういう静かな物語も悪くないな…」と評価が上がった口である。もっとも星3つではあるが、これは“あとひと味”が欲しいというワガママな期待の裏返しだ。もう少し山形の農村の魅力や、タエ子とトシオの恋模様がガッツリ描かれていれば、もっと盛り上がった気もする。しかし、それをやりすぎると“地味な魅力”が台無しになる可能性もあるわけで、なかなか難しいところだ。

映画「おもひでぽろぽろ」は、タイトル通り、思い出が“ぽろぽろ”とこぼれ落ちるようなノスタルジックで牧歌的な世界観を楽しむ作品である。アクション皆無、派手さゼロ、なのに見終わった後に「あー、なんだかじんわり来るな…」と感じさせる魔力がある。スターウォーズ的なSF大作を求める人にはオススメできないが、“思い出に浸りながらしみじみしたい派”にはきっと刺さるはずだ。ネタバレ込みで語ってきたが、まだ未視聴の方は“ネタバレされても観る価値がある”と思うので、ぜひ気が向いたらチェックしてみるといいだろう。激辛っぽくなかったかもしれないが、ここまで熱く語ってしまう時点で、やはりどこか本作の魅力に惹かれているのは事実。そんなわけで、レビューはここらへんで勘弁してほしい。

映画「おもひでぽろぽろ」はこんな人にオススメ!

映画「おもひでぽろぽろ」はズバリ、しっぽりとノスタルジーに浸りたい人にオススメである。例えば昭和生まれの方なら、作中の小学生時代のエピソードに「ああ、懐かしい…」と胸がキュンとするかもしれないし、平成生まれの方でも「昔の日本ってこんな感じだったのか!」と新鮮に感じられるだろう。また、都会生活にちょっと飽き飽きしている人にもいいかもしれない。山形の田舎の風景が丁寧に描かれていて、“自然に囲まれる暮らしっていいなあ…”とほっこり思うはずだ。ただし、ジブリらしい魔女やファンタジー要素を期待している人には不向きかもしれない。ひたすらゆったりとした時間が流れるので、気がつけば自分も映画の世界で昼寝をしてしまう…そんな癒やし系映画ともいえる。

もうひとつ、人生の節目で「これからどうしよう?」と迷っている人にもオススメである。タエ子が過去の思い出と向き合いながら、自分の生き方を見つめ直していく過程は、妙にリアリティがある。べつに世界を救うわけじゃないし、大事な家族が危篤というわけでもない。でも、“なんとなく心がモヤモヤする”って意外と重大なテーマなのだ。そんなモヤモヤを抱えているときに観ると、「ああ、こういう方向転換もアリなのかも」とほんのり勇気をもらえる気がする。あと、農業や自然と触れ合う暮らしに興味がある人にとっては、意外と情報が詰まっていて勉強になるかもしれない。なんやかんやでタエ子やトシオの田舎トークは興味深いし、紅花の描写なんかは特に「そんなふうに染料にするんだ?」と目からウロコだった。何か新しいことに挑戦したい人、あるいは過去の自分との対話を大切にしたい人は、一見の価値があるだろう。

まとめ

映画「おもひでぽろぽろ」は、ジブリ作品の中でもかなり異色の立ち位置にあるといえる。大きな事件もなければ、空を飛ぶようなファンタジー要素もない。でも、その地味さの中にこそ“忘れていた昔の記憶”がふと呼び起こされるような、不思議な力が詰まっている。子どもの頃の些細なエピソードって、大人になってから思い返してみると、意外なほど人生の根っこに影響していたりするものだ。本作を観ると、“いまの自分”は過去の積み重ねでできているんだな、と改めて感じさせられる。

ただし、アクションや冒険要素を期待していると肩透かしは必至である。あくまでも“思い出”と“日常”を味わう映画なので、そこを踏まえて楽しめるかどうかで評価が大きく変わってくるだろう。筆者としては星3つの“好みが分かれる”佳作だが、観るタイミングによっては星4や星5に跳ね上がる可能性を秘めている作品でもある。だからこそ、一度観てピンと来なかった人も、しばらく経ってからもう一度観ると、新しい発見があるかもしれない。そんな懐の深さも「おもひでぽろぽろ」の魅力なのだ。