映画「異動辞令は音楽隊!」公式サイト

映画「異動辞令は音楽隊!」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

刑事としてバリバリ働いてきた男が、ある日突然“警察音楽隊”に異動させられる――そんな聞き慣れない状況に放り込まれた主人公が、戸惑いながらも新天地で奮闘する姿を描いた作品である。阿部寛が演じるベテラン刑事の豪快さと、周囲とのギャップから生まれる騒動は見ものだ。実際の警察組織には多種多様な部署があるとわかっていても、「音楽隊」への異動はあまりに意外で、観る者の興味をそそる。コミカルな要素が散りばめられつつも、家族問題や年齢を重ねた主人公の人生観が濃厚に描かれている点も印象的だ。

物語の冒頭で叩きつけられる“異動辞令”が、彼の刑事人生だけでなく、家族関係までも揺るがしていく。そんな混乱を経ながら、音楽の力が生み出す優しい空気に救われていく過程こそが、本作の大きな魅力といえよう。派手な銃撃戦こそないが、じわりと胸に沁みる展開が待っているため、“刑事もの”の固定観念をいい意味で裏切られる一作である。

映画「異動辞令は音楽隊!」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「異動辞令は音楽隊!」の感想・レビュー(ネタバレあり)

警察といえば、華々しい捜査一課や地域住民と近い交番勤務など、多岐にわたる部署があることは知られている。しかし、そこに“音楽隊”という部署があると聞いても、ピンとこない人が多いのではないだろうか。実際、この作品を観ると、音楽隊の意外な実態と苦労がリアルに浮き彫りになる。まさか厳ついベテラン刑事がそこでドラムを叩くことになるとは、想像するだけでおかしみを感じてしまうが、本編ではさらに奥深いドラマが待ち受けている。

物語は、阿部寛演じる成瀬司が長年勤めた捜査一課から人事異動を言い渡されるところから始まる。強面でありながら犯人逮捕のためには手段を選ばず、上層部から厄介者扱いされていた成瀬。しかし、キャリアは豊富で、後輩からの尊敬もある程度は集めていたという設定だ。ところが、ある“投書”が原因で上司と衝突し、その結果、彼は警察音楽隊に送られてしまう。刑事からすれば“左遷”としか思えないこの辞令が、彼のプライドをズタズタにするのだ。

音楽隊は世間的には「イベントで演奏するお飾り」と見なされがちだが、劇中ではそこに所属する警察官たちがいかに奮闘しているかが丁寧に描かれている。練習時間はもちろん、普段は交通課や警ら活動など本来の業務に奔走している者ばかり。成瀬が足を踏み入れたころは、隊員同士の士気がイマイチ上がらず、モチベーションもそれほど高くない。彼らがパフォーマンスを披露するとき、観客から「税金の無駄遣いじゃないか」という心ない声が飛ぶ場面もあり、音楽隊の活動意義自体が疑問視されることもしばしばなのだ。

ドラムの経験なんて皆無に等しい成瀬は、「自分は刑事一筋だから」と音楽練習をなかなか受け入れられない。上司や隊員にも突っかかり、空回りする日々が続く。例えば指揮を務める隊長からの指示を守らず、自分勝手にリズムを叩いてしまうシーンなどは、彼の頑固さがよく表れている。観ている側としては「成瀬、そこはもうちょっと周囲に合わせてくれ…!」と手に汗握るが、その不協和音こそが、彼の内面に溜まったフラストレーションを象徴しているように思える。

その一方で、娘との関係にも葛藤を抱えている成瀬は、母親の介護問題と合わせて頭を悩ませている。刑事としての実績はあるものの、家族を顧みなかったツケが回ってきた形だ。娘からの反発や、母が認知症の症状を見せることへの戸惑いによって、プライベートの面でも行き詰まっている。そんな“行き場のない”男が、音楽隊という異質な場所で自分をどう取り戻していくのかが、この作品の最も見応えのあるポイントといえる。

そして、本編の要となるのが“事件”の存在。劇中には高齢者を狙ったアポ電強盗の闇が横たわっており、被害者が出るたびに成瀬の刑事としての血が騒ぐ。捜査一課の後輩である坂本らが動いているのを横目に、自分も何とか役に立ちたいと画策するが、今は音楽隊員という立場のせいで強制的に蚊帳の外に置かれる。かつての部下たちからも「もう先輩は部外者なんです」と冷たく突き放されるのだ。このシビアな場面は、警察官とはいえ担当部署が変われば、事件捜査に口を出すことは許されないという組織の現実を示している。

しかし成瀬は元来、事件を追わずにはいられないタイプ。捜査権限がないままに情報をかき集めようとする彼の姿は、不器用でありながらも熱意にあふれている。音楽隊のメンバーも最初は「厄介者が来た」と敬遠していたが、彼が抱える“刑事の魂”にほだされ、徐々に協力体制が芽生えていく。ある時などは、ステージ衣装のまま張り込みに近い行動を見せる場面もあり、そのギャップには思わず笑みがこぼれてしまう。

物語の中盤、音楽隊の公演本番で大失敗をやらかした際には、成瀬の焦りと責任感が一気に爆発する。観客や上層部からの厳しい視線が突き刺さり、「こんな部署いらないんじゃないか」という声までも耳に入ってくる。そこに被せるように発生する新たなアポ電強盗事件は、成瀬の運命をさらに揺るがすことになる。挫折した彼を支えるのは、本来なら自分よりずっと若い仲間たちの素直な気持ちや、地道に練習を積み重ねてきた音楽の存在だ。このあたりから成瀬は少しずつ周囲に歩み寄り、ドラムのリズムもだんだん板についてくる。

終盤、悲しい事件が起きる。成瀬と音楽隊を応援してくれていた好意的な人物が、無残にもアポ電強盗の被害に遭ってしまうのだ。これにより物語は一気にシリアスな色合いを帯びる。実際の社会でも増えつつある高齢者狙いの詐欺や強盗の手口が描かれることで、作品のリアリティが増し、観客としては「こんな事件は絶対に許せない」という気持ちが強くなる。音楽の楽しさを取り戻しかけていた音楽隊の面々も、この理不尽な出来事には怒りを隠せない。

クライマックスでは、音楽隊だからこそ可能だった奇策が功を奏し、長いこと捜査一課を翻弄してきた犯人グループを追い詰める。祭りか何かのイベントに紛れ込んだ犯人を捕らえるため、成瀬らが演奏姿に扮して現場に潜入する展開は手に汗を握る。その合間にドラムスティックを握り締める成瀬の姿は、もはや“左遷されたおっさん”ではなく、“刑事としての誇りを失わずに音楽隊を愛する男”になっていると感じられる。彼の眼差しは鋭いが、そこには最初のころには見られなかった仲間への信頼も宿るのだ。

事件解決後、いよいよ音楽隊の存続をかけた演奏会が開催される。賛否渦巻くなか、彼らの真摯な演奏は聴衆を魅了する。知事や上層部の顔色ばかり窺っていた指揮者までもが、「音楽隊が持つ力」を再認識していく。ドラムを叩く成瀬は、最初のころのようにミスばかりしていない。むしろ全員を牽引するリズムの要となっていて、その姿には経験を積んだ大人の男の包容力さえ漂っている。この一連のシーンは映像的にも見応えがあり、キャストたちが地道に練習した楽器演奏がリアルに活きていると感じられる。

物語の結末において、成瀬は刑事の誇りと音楽隊への思い、その両方を大切にできる境地に達したように見える。どちらが上とか下ではなく、自分の生き方を問い直すきっかけになったのが音楽隊での経験だったのだ。もちろん上層部や組織との衝突がゼロになるわけではないが、「自分が変われば周囲も変わる」というメッセージがじんわり伝わってくる。家族との距離も少しずつ縮まり、娘の成長を見守る父親の表情は、最初よりずっと柔らかい。

本作は“熱血刑事の転落と再生”をコミカルなタッチで描きながら、その裏に潜む組織の論理や家族の問題をしっかり浮き彫りにした作品だといえる。阿部寛の存在感ある演技はもちろん、清野菜名や磯村勇斗ら若手俳優のフレッシュな躍動感が物語に彩りを添えている。特に演奏シーンでは、役者たちが実際に楽器を習得して臨んだとされ、彼らの熱量が画面から直接伝わってくるのが大きな魅力だ。楽器経験者なら「こんなに吹けるようになるにはどれだけ練習したんだ?」と感嘆するはずだし、経験がなくても臨場感は十分楽しめるだろう。

また、主題歌を担当したOfficial髭男dismは、メンバーの中に警察音楽隊経験者がおり、それが制作のきっかけにもなったという背景が興味深い。曲そのものの爽快感がラストシーンを盛り上げ、観終わった後の余韻を鮮やかにしてくれる。刑事ドラマと音楽の融合は一見ミスマッチに思えるが、実際に観てみると不思議なほどシンクロしている。事件が解決した時の達成感と演奏の盛り上がりがリンクするため、クライマックスには自然と拍手したくなるはずだ。

一方で、社会的な問題に真正面から向き合っている点も見逃せない。高齢者を狙うアポ電強盗やハラスメントの問題など、笑ってばかりいられないシーンが多い。ただ、そうした苦境に置かれても人は変われるし、仲間と力を合わせれば新たな道が開ける、というポジティブなメッセージが本作の随所にちりばめられている。そこに強烈な説教臭さがないのは、刑事ドラマらしい熱血味と、登場人物たちが見せる不器用な“人間らしさ”が絶妙にバランスしているからだろう。

まとめると、映画「異動辞令は音楽隊!」は、一筋縄ではいかない刑事の“左遷”ストーリーと、音楽を通じた人間関係の再生が同時進行で描かれるエンターテインメント作品である。事件要素もしっかり盛り込みつつ、家族の絆や仲間との信頼感を再構築するドラマとしても見応え十分。硬派な刑事ものを期待している人も意外な一面に驚くだろうし、音楽が好きな人や人間ドラマを好む人にとっては、胸に染み渡る感動が得られるはずだ。阿部寛の熱演をはじめとする出演陣の頑張りを堪能しつつ、もうひとつの警察組織の姿を覗いてみるのも一興だと言える。

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映画「異動辞令は音楽隊!」はこんな人にオススメ!

まず、事件モノのスリルと人情味あるドラマを同時に味わいたい人に強く推したい。重厚感あふれる刑事ドラマを観たいと思ったら、最近はハードボイルドな作品が中心になりがちである。しかし本作は、捜査の緊張感を保ちながらも、どこかあたたかい味わいを感じられる仕上がりになっている。警察音楽隊の舞台裏を活用した独特の設定が、普段の刑事ドラマではお目にかかれないシーンを生み出しているのだ。

次に、家族や仲間とのコミュニケーションに悩みを抱えている人にも向いている。主人公の成瀬は、自分のやり方を押し通す性格のせいで周囲との衝突を繰り返し、結果として異動されてしまった。一方で、音楽隊に配属されると、否応なく周りと足並みをそろえなければ楽曲が成立しない状況に置かれる。そこで学ぶ“他者との協調”や“歩み寄り”といったテーマは、私たちの生活にも通じる大切な要素だと感じる。

さらに、主人公だけでなく、清野菜名や磯村勇斗ら共演陣が演じるキャラクターたちも、それぞれが職務と私生活を両立させるために奮闘している。職業人として社会と向き合う一方で、家族との時間や自分の理想を捨てきれない人物像は多くの人に共感を呼ぶのではないだろうか。どこか抜けたところのある人間たちが、バンドさながらのチームワークで音楽に取り組む様子には、少し背中を押されるような感覚がある。

もちろん、音楽好きなら必見だ。吹奏楽やバンド演奏の魅力がたっぷり詰まっていて、ラストの演奏シーンには感動が待っている。ドラムやトランペットといった楽器の練習風景も印象的で、演者たちの努力が伝わってくるはずだ。真面目に見せながら時折クスッとさせてくれる本作は、日常生活でちょっと疲れを感じる人にも癒しをもたらす力を秘めていると思う。

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まとめ

「異動辞令は音楽隊!」は、刑事から音楽隊への異動という突拍子もない設定が目を引くが、その裏側には“組織の在り方”と“人との向き合い方”を問いかけるメッセージが込められている。豪快な主人公がとまどいながらも新たな環境に馴染み、自分を見直していく過程がなんとも味わい深い。アクションや銃撃戦ばかりが刑事ドラマの醍醐味ではないという証明にもなっているところが興味深い。

本作を観ると、音楽隊の存在意義を自然と再確認できるのではないだろうか。特に組織内での配置転換や、意に沿わない部署異動を経験したことがある人なら、主人公の葛藤に強く共感するはずだ。家族や仲間との関係がこじれてしまった人も、一歩を踏み出せば新しい繋がりや喜びが得られるかもしれないと感じさせられる。最後に待ち受ける演奏シーンは、画面から熱いエネルギーが伝わってくるので、存分に没入して楽しんでほしい。

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