映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
まず、本作は小栗旬が文豪・太宰治を演じ、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみといった豪華キャスト陣が彼を取り巻く3人の女たちに扮するという触れ込みで話題になった作品である。ミーハーな自分としては「太宰を演じる小栗旬ってどうなの?」と当初はちょっとした疑いを抱いていたのだが、ふたを開けてみれば蜷川実花監督らしい華やかで耽美的な世界観と、役者たちの濃厚な演技合戦が炸裂する、ある意味では目の保養になる映画であったとも言える。
しかし、評価が高いかと問われれば正直なところ微妙な面もある。映像やキャストは豪華で目を引くが、肝心の太宰治という人物の内面や文学的魅力がどこまで描かれているのか…というと、かなり際どいバランス感覚を強いられる作品でもあるのだ。
とはいえ、「人間失格 太宰治と3人の女たち」は恋愛映画や豪華俳優を目当てに観るには十分過激で見応えがある。豪華衣装に独特な色彩感覚、さらに太宰治の放蕩っぷりを堂々と映し出すその大胆さは、他の純文学原作映画とは一線を画す派手さを持っているのも事実。そこで今回は、この作品を激辛テイストで全体像を振り返る。さあ、ここからはネタバレも躊躇なく飛び出すので、まだ観ていない方は要注意だ。
映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」の個人的評価
評価: ★★★☆☆
映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは約5000文字(たぶん読むのにそこそこ時間がかかる量)で、この作品のあれやこれやをぶった斬っていく。激辛と言いつつも、本当に激辛なら口の中ヒリヒリで途中離脱しかねないので、ほどほどに辛口トークを交えつつ、作品の魅力やツッコミどころ、そして太宰ファンとしての視点も少し盛り込みながら語っていきたい。
まずは、なぜ蜷川実花監督が太宰治を題材にしたのか。これは公開当時、結構な話題になったポイントだ。派手な色彩感覚で知られる蜷川監督と、陰鬱な内面を抱えた文豪・太宰治の組み合わせは、一見すると水と油のようにも感じられる。しかし、蜷川ワールド全開のビビッドな映像美が「人間失格 太宰治と3人の女たち」では一種の倒錯的な魅力を生んでいたのも事実である。夜のシーンでも彩度高めのライトが当たり、どこを切り取ってもポスター映えしそうな映像はさすが。まるで写真集をめくっているかのような感覚に陥るシーンも多く、いっそ映画館でなくアートギャラリーで上映してもサマになりそうだとさえ思った。
しかし、この映像美が作品全体の印象を大きく支配してしまい、肝心の「太宰治とは何者であったのか?」という点がやや希薄に感じる場面があるのもまた事実だ。たとえば、小栗旬が演じる太宰治は酒と女と執筆に溺れる放蕩ぶりを余すところなく体現している。原稿の締め切りに追われようが女との逢瀬に明け暮れようが、彼なりの優雅な世界に浸り続ける姿は、太宰像の「破滅的な天才肌」というイメージをよく伝えてくれているとも言える。ただ、純文学好きの視点からすると、太宰治の作品群が持つ言いようのないペシミズムや、社会に対する鋭い諦観といった要素がいまひとつ見えづらい。あくまで映像で表現される「華麗なる壊れっぷり」ばかりが強調され、観る人によっては「うーん、これってただのドラマチックな不倫騒動映画なんじゃ?」と感じてしまうかもしれない。もっとも、ある意味それこそが狙いなのだろう。あえて難解さや文学的深みを削ぎ落とし、太宰という男の“スキャンダラス”な部分だけにスポットライトを当て、フィクションたっぷりに彩り直すことで、豪華キャストが織り成す華やかなエンタメ作品として仕上げている。その方向性を良しとするかどうかで、この映画の評価は大きく変わるはずだ。
次に、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみの存在感について触れたい。まず宮沢りえは太宰の正妻・美知子を演じているが、けなげながらも激情を内に秘める女性像が見事にハマっていた。控えめな表情の奥にある不満や苦悩が、シーンの端々でにじみ出てくるあたりはさすがの一言である。一方、沢尻エリカは愛人でありながら太宰の人生を大きく翻弄した山崎富栄という役どころ。こちらは沢尻エリカの持つ華やかで少し危うい雰囲気が、キャラクターの“危険な女”感を強調していた。ただし、その危うさが行き過ぎて「この人本気でヤバいんじゃ…」と突っ込みたくなるほどの迫力があり、観客の側も画面に引き込まれやすい。二階堂ふみ演じる太宰の愛人・静子(作家・太田静子がモデル)は、いわゆる世間的には“純朴な少女”のイメージをたたえたキャラクターで、太宰に言い寄られたらコロっと落ちてしまいそうなあどけなさを醸し出す。これもまたハマり役である。
とはいえ、3人それぞれの個性が強すぎて、むしろ太宰がかすんでしまう瞬間すらあるのが面白い。小栗旬が演じる太宰ももちろん強烈なのだが、その相手役がいずれも手強すぎる女性ということで、彼女たちの内面をもっと深く掘り下げたドラマにしてしまっても良かったのではないか、とさえ思うくらいだ。「人間失格 太宰治と3人の女たち」というタイトルから、太宰自身の“人間失格”状態をフィーチャーするのかと思いきや、実際には“3人の女たち”のキャラクター性やドラマの方に重心があったようにも感じられる。要するに、「太宰治が主役なのか、女たちが主役なのか、はたまた蜷川実花の世界観が主役なのか…?」という三つ巴の構図であり、観ているとその境界が曖昧になってくるのだ。これは長所でもあり短所でもある。
また、蜷川実花監督作品といえば、人物の心理を突き詰めるよりも、場面場面での“映像的なインパクト”を重視するスタイルが際立つことが多い。本作に関しても例外ではなく、一つひとつのシーンは鮮烈な色彩と大胆な構図で攻めてくるので、スクリーンに映し出される映像を眺めているだけでも飽きない。しかし、作品全体のストーリーラインやテーマがぼやけてしまいがちなのも事実だ。「太宰治」という大文豪の名前を借りながらも、実際にはドロドロの恋愛ドラマを絢爛豪華に撮りました、という印象が強くなってしまう。もちろん、太宰という男の破滅願望や、女たちと一緒に無理心中を試みた史実、そして死の間際まで執筆にとり憑かれていた姿など、見どころは多い。だが、観終わったあとに「これが太宰治だ!」と強く訴えかけてくるかといえば、やや疑問は残るだろう。
ただ、こうした感想を抱く一方で、蜷川実花監督の作品はそもそも“アートとしての映像表現”を大きな柱にしている。史実を忠実になぞるよりも、むしろ大胆にアレンジし、それぞれの登場人物の狂気や魅力をビビッドに描くことに重点が置かれているのだとすれば、「人間失格 太宰治と3人の女たち」はその狙い通りの仕上がりだとも言える。映像美で満足させつつ、俳優陣が体当たりの演技を披露し、“破滅”や“耽美”というキーワードにふさわしい世界観を丸ごと提示する映画としては、なかなか刺激的な一本になっているのではないだろうか。
さて、肝心の“ネタバレ”部分にしっかり触れていくなら、クライマックスはやはり太宰が愛人の富栄とともに入水自殺を図るところだ。これは太宰治の有名な最期としてよく知られているが、このシーンを蜷川監督がどう彩るのかは興味深かった。実際には、幻想的な映像と水のシーンが融合し、さらにそこに富栄の狂気ともいえる愛情がぶつかり合うという、なかなかに生々しくも美しい場面が展開される。宮沢りえ演じる正妻の姿や、他の愛人の思いなどは、あくまで遠景に追いやられ、“死”によって結ばれるかに見えた2人の運命が一気に収束していく。このあたりは「美しくも儚い最期」というよりも、“美しさの中に潜む破滅の衝動”をダイレクトに表現していて、さすが蜷川実花監督と感じさせる華やかな終幕である。一方で、「太宰が心中に至った理由や心情が丁寧に描かれたか?」と問われると、そこはやはり割り切って映像美に振り切った感が強い。そのため、太宰好きの文芸ファンからすると、もう少し深い精神世界を見せてほしかったという物足りなさは残るかもしれない。
総括して言えば、映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」は、“蜷川実花版・太宰治の世界”と割り切って観ると十分楽しめる作品だと感じる。華やかな俳優陣の共演と、心中に至るまでの情念渦巻くドラマ、そして蜷川監督らしいド派手な映像美が混ざり合い、観る者を独自の耽美空間へと引きずり込む力を持っている。ただし、原作小説『人間失格』の深遠さや太宰治の文学的価値を存分に味わいたいと期待して行くと、少々肩透かしを食らう可能性が高い。言わば、太宰治を題材にしたキラキラ系のエンタメドラマと割り切れば、「こんなにビジュアル重視で攻めた太宰映画もアリなんじゃないの?」と納得できるだろうし、逆に太宰のファンであればあるほど「うーん、これでいいのか?」とモヤモヤするかもしれない。どちらにせよ、強烈な印象を残す映画であることには間違いない。
というわけで、個人的には星3つ、つまり「評価:★★★☆☆」とさせていただいた。豪華キャストや蜷川監督の色彩マジックに惹かれて観てみる価値は十分あるが、太宰の文学世界を追体験したいという人にはやや物足りないかもしれない。また、ストーリーよりも“画のインパクト”に魅了されたい映画ファンなら、きっと美術館感覚で楽しめるのではないだろうか。“人間失格”のタイトルに縛られず、あえて先入観を捨てて観ることをおすすめする。特に最後の入水シーンのビジュアルは、脳裏に焼きつくような不思議な美しさと悲哀が詰まっていて、「ああ、これは蜷川実花流の太宰なんだな」と妙に納得させられたのが印象的だった。
長くなったが、これが激辛要素をちょいちょい交えた本作の感想である。もちろん“激辛”といっても舌が燃えるほどではないが、かなり個人的な視点をぶっちゃけているので、ファンによっては「いや、それは違うんじゃない?」と思う点もあるかもしれない。そこも含めて、この映画の評価が割れるところだと思う。ともあれ、映像作品としてのパワーは強烈なので、一度観たら忘れられない世界観を味わえるのは間違いない。その意味で、いろいろ賛否が噴出する映画であるからこそ、“語りがい”は十分にあるのだ。
映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」はこんな人にオススメ!
ここからは800文字前後で、本作をお薦めしたい人のタイプを書いていく。
まず、何と言っても蜷川実花監督のビジュアル演出が好きな人ならマストバイならぬマストビューである。あの独特のカラーコントラストが織り成す映像美は、まるで極彩色の絵画を観ているかのような感覚に浸れる。ストーリーよりも映像体験を重視する人や、映画そのものを“アート”として楽しみたい人にはドストライクだろう。また、小栗旬や宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみといった豪華キャストをただただ鑑賞していたい人にとっても、彼らの華やかな競演を存分に味わえるのが大きな魅力である。
さらに、太宰治の人生や文学をガチガチに掘り下げたいというよりは、「スキャンダラスな恋愛模様」に興味がある人にもおすすめだ。愛と破滅が背中合わせになった人間ドラマが好きな人にとっては、太宰と3人の女たちが織り成す危うい関係性をワクワクしながら見届けられるはずだ。恋愛映画として観るのもアリかもしれない。
ただし、原作『人間失格』の世界観や太宰治の文学的価値を深掘りしたい人には正直なところ肩透かしかもしれない。そこは思い切って割り切るか、あるいは「これは映像による太宰治の“再解釈”なんだ」と自分に言い聞かせる必要があるかもしれない。いずれにせよ、カラフルな映像にこだわりがあり、かつ俳優たちの美演技を楽しみたいという向きには大いに刺さる作品だと断言できる。
まとめ
最後に、この映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」をまとめてみると、一言で言えば「蜷川実花流・破滅と耽美のエンタメ大作」である。映像はとにかく華やかで、そこに小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみといったタレント性抜群の役者陣が加わり、目を奪われるシーンが連続する。一方で、太宰治の人物像や文学的深みを期待すると、やや薄味に感じるのも事実。激辛といいつつも、結局はビジュアルと豪華キャストによる華やかさが印象に残る、いわば“辛さ控えめで甘美な後味”の作品とも言えなくはない。
とはいえ、インパクト重視の映像表現と、愛憎渦巻く人間模様は一度観たらなかなか忘れられない。カップ麺でいうなら「パッケージがものすごく派手で、中身を食べてみると意外と普通…でも後からじわじわクセになってくる」みたいな感覚だろうか。この独特な作品をどう受け取るかは観る人次第だが、間違いなく“刺激的な映画体験”には違いないので、気になる方はぜひ一度観てみてほしい。