映画「マイホームヒーロー」公式サイト

映画「マイホームヒーロー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は佐々木蔵之介が、平凡そうに見える父親を演じながらも危機的状況に挑む姿を描いたサスペンス作品である。娘を守るために罪を犯してしまった父が、巨悪な組織と対峙するストーリーは、家族への愛情や信念、そして人間の脆さと強さを同時に突きつけてくる。予想外の展開が次々と押し寄せるため、観客は少しも気を抜けない。時に肩の力が抜けるやり取りもありながら、常に張り詰めた空気が流れているのが見どころだ。監督は青山貴洋であり、2024年公開ということで、かなり気合いが入ったキャスティングと映像表現が特徴的だ。特に佐々木蔵之介と木村多江の夫婦役は、静かに燃えるような緊張感を絶妙に醸し出している。

家族を守るために立ち上がる父の姿と、半グレ組織「間野会」の激烈な攻防が展開される今作。おとなしく見えていた父・哲雄がどんな行動に打って出るのか、その決断に注目してほしい。作品の結末を知ったあとでも、もう一度初めから見返したくなる要素に満ちているのだ。

映画「マイホームヒーロー」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「マイホームヒーロー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは核心部分に触れていくので、未見の方は注意してほしい。まず、主人公である鳥栖哲雄(佐々木蔵之介)は一見すると、どこにでもいる真面目な営業マンである。ところが7年前、娘の零花(齋藤飛鳥)の身に降りかかった危機を前に、やむなく彼女の交際相手だった麻取延人を手にかけてしまう。その後、妻・歌仙(木村多江)とともに証拠を隠滅し、なんとか日常を取り戻したかに見えた。しかし、半グレ組織「間野会」の動きや、警察の捜査の目が再び哲雄に向けられた瞬間、穏やかだった家族の暮らしは一変していく。

本作の魅力は、父親としての“普通”を装いながらも、その裏で一線を越えてしまった哲雄の内面を丁寧に追っているところである。平和な家庭を守るためなら、どんな手段も使う――そんな狂気をはらんだ覚悟が、表面上は優しい笑顔の裏に隠されている。佐々木蔵之介の演技は、最初こそ“頼りになるお父さん”のイメージを崩さないが、物語が進むにつれ徐々に焦りや怖さをにじませ、最終的には「そこまでやるのか」と思わせる踏み込みを見せる。

一方、妻の歌仙を演じる木村多江もまた重要な存在だ。夫の行為を知り、さらに組織からの脅迫が家族に及ぶなか、パニックに陥るだけでなく、自らも隠蔽工作に踏み込んでいく姿が強烈である。木村多江特有の静かながら芯の強い表情は、恐怖と決意を同居させており、観客をハラハラさせる。娘の零花は警察官という立場であり、犯罪を許さない強い正義感を持ち合わせているというのが最大の皮肉だ。自分の父が本当に過去に殺人を犯していたら……という疑念と、警察としての使命感がせめぎ合う彼女の苦悩が大きな見どころといえよう。齋藤飛鳥が瑞々しい雰囲気を漂わせながらも、捜査の場面では厳しい表情を見せるギャップが効いている。

さらに注目したいのが間野会の面々だ。トップの志野寛治(津田健次郎)は冷酷非道かつカリスマ性を持つ人物であり、部下を容赦なく制裁する場面には背筋がぞくりとする。彼の手足として暗躍する窪(音尾琢真)は、人を殺すことを楽しんでいるという危うさを漂わせるキャラクター。眼光の鋭さや淡々とした言動が怖さを倍増させる。そして、かつて哲雄に罪を着せられたとされる間島恭一(高橋恭平)も見逃せない存在だ。彼は7年前の事件で行方をくらましていたが、哲雄への復讐を狙うのか、それとも別の目的があるのか、物語の終盤まで読めないミステリアスさを持っている。

ストーリーのポイントとなるのは、哲雄が一度血に手を染めたことによる“取り返しのつかなさ”が、家族の生活にどう影響を及ぼしていくかという部分だ。家が放火で焼かれ、さらに会社に組織のメンバーが押しかけるなど、日常が音を立てて崩壊していくさまは見応えがある。哲雄は追いつめられながらも、持ち前の頭脳と行動力を駆使して打開策を探る。7年前にも見せた推理小説好きならではの戦略を再び発揮するのだが、そこには警察内部の腐敗や裏切りも絡んできて、どこまで誰を信用していいのか分からなくなる。

物語後半は怒涛の展開で、もはや一線を越えた人たちばかりが入り乱れる大混戦となる。放火、殺し、10億円を巡る駆け引き、警察内部の裏切りと、情報量が雪崩のように押し寄せるが、そこにこそ本作のスリルがある。個人的には、窪と哲雄が対峙する場面が最も強烈だ。純粋な狂気を楽しんでいるように見える窪の「手段を選ばない」恐ろしさと、娘と妻、そして長男までも守らなければならない哲雄の「負けられない」切迫感がぶつかり合う。その応酬がハラハラを通り越して、こちらまで心が締め付けられるような感覚になった。

演出面では、夜の雨のシーンや、焼け落ちた家の残骸など、暗さのなかにある悲壮感を丁寧に切り取っている。監督の青山貴洋が目指したのは、家族を守ろうとする父の必死さだけでなく、その父が犯した大きな罪によって拭えない罪悪感をビジュアル的にも表現することだったのだろう。とりわけ、雨や水辺のシーンで見せる哲雄の表情は心に残る。破滅寸前の状況でも家族に明るい顔を見せようとする彼の葛藤が、自然の厳しさと重なるように映されていた。

役者の演技も全体的に素晴らしい。佐々木蔵之介は、普段はソフトな語り口であるがゆえに、激しさを見せるシーンとの落差がすさまじい。一方の木村多江は“静と動”のバランスを巧みに使い分ける。息子役の石塚錬演じる明はまだ幼い設定だが、子どもだからこそ状況を全く理解していない風に見えながら、不穏な空気を察する繊細さを感じさせる。さらに、斎藤飛鳥の“まっすぐな瞳”が、作品に揺るがぬ正義の存在を与えているのも大きい。

本作を通じて描かれるテーマは、究極の“家族愛”だ。普通の父が家族のために踏み越えてはいけない境界を越え、そこから逃げ出せなくなる。それを必死で支える母、真実に気づいて翻弄される娘、無垢な長男。彼らが本当に守りたかったものは何か、最後には何を失い何を得たのか。結末を見届けたときに、単なる善悪の二分法では測れない複雑な感情を抱くはずだ。どんなに美しく思えても、罪は罪だ。それを突きつけられながらも「なぜか理解したくなってしまう」父の執念が、本作の見どころである。

一方、気になる点を挙げるとすれば、後半の展開がやや詰め込みすぎに感じるところだ。10億円の所在、警察の内通者問題、間野会の内部抗争など、すべてが一気に爆発するあたりで情報処理が追いつかず、少々ごちゃついた印象もある。ただ、その混沌こそが本作の“逃げ場のない追い詰められ感”を増幅させていると考えれば、やりすぎというほどでもないかもしれない。

クライマックスにかけては、家族への愛と大切な人を守ろうとする思いが渦巻き、父と娘の立場の逆転にも似た状況が涙を誘う。警察官である娘が犯罪を犯した父をどう迎えるのか、親子はそれぞれがどんな道を選ぶのか。作品を観ながら「本当に守るとはどういうことなのか」を考えさせられる。一緒にいることだけが家族の証ではない、というメッセージが切なくも力強く胸に響くのだ。

最終的には間野会の命運がどうなるのか、そして鳥栖家がどんな結末を迎えるのかが大きな注目ポイントである。やはり罪は罪として償わなければならない一方、そこに至るまでの経緯を知ると、簡単に白黒つけられない気持ちにもなる。これはスリリングなサスペンスという枠を超えて、人間ドラマとしての深い味わいを持っている。まさに“家族を守る”とは何か、息詰まる問いが突きつけられる作品だと言えよう。

同名漫画やドラマを知っている人にとっては、俳優陣のキャスティングや演出の違いを楽しむことができるだろう。特に原作ファンは、映画ならではのスケール感や演者の迫力を味わうことで、新たな発見があるはずだ。逆に初見の人は、この一作だけでも十分に物語世界を堪能できるだろう。登場人物が各々濃いキャラクター性を持っており、観終わった後にはその名前をしっかりと覚えてしまうほどインパクトがある。

映画「マイホームヒーロー」は追い詰められた父が繰り広げる深刻な家族ドラマでありながら、意外な場面で一息つけるやり取りも描かれている。まさに悲壮と安堵が同居し、一度観始めると最後まで目が離せない。結末が悲しいのか救いがあるのかは、実際に観た人の価値観による部分も大きいだろうが、少なくとも「家族の形」について強い印象を残してくれる作品であることは間違いない。3つ星の評価にしているのは、いわゆる“名作”と断言するには踏み込み不足の点もあるためだ。しかし、その分だけ視聴後には「もう一度しっかり考えてみたい」という余韻を与えてくれる点が見事だと言える。

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映画「マイホームヒーロー」はこんな人にオススメ!

まず、家族をテーマにした作品が好きな人には絶対に刺さるはずだ。一歩間違えると崩れてしまう日常と、そこに生きる人たちの必死な姿を味わいたいなら、本作を外す手はない。特に「自分の家族を守るためなら、どこまでやれるだろう?」と考えることがある人は、心に響くシーンがきっと多いはずだ。

血生臭い抗争劇やサスペンス要素が好きな人にも推奨できる。半グレ組織のトップや殺し屋といった危険度MAXの連中が、平凡だったはずの父親と正面からぶつかる展開は手に汗握る。ドラマ版や原作漫画を知っている人にとっても、新鮮な刺激が得られるだろう。

さらに、俳優陣の演技力を堪能したい人にも合っている。佐々木蔵之介や木村多江、齋藤飛鳥といった主要キャストはもちろん、高橋恭平や津田健次郎、音尾琢真ら、個性の強い役者がそろっている。特に津田健次郎の低く響く声が織りなす恐怖感は、画面越しでも伝わってくるはずだ。

一方で、どこか後味の悪いサスペンスを好む人なら、哲雄の苦悩と家族愛の葛藤に興味をそそられるだろう。完全ハッピーエンドとは言い切れないラストが待ち受けているが、だからこそ説得力のある人間ドラマに仕上がっている。物語を観終わったあと、自分ならどうするかと深く考えさせられるはずだ。

まとめると、家族をめぐる重厚なドラマを好み、なおかつ容赦ない犯罪描写や手に汗握る攻防戦に惹かれる人には、全力でおすすめしたい。シリアスな展開の中にある俳優たちの“ぎりぎりの演技”を見逃したくない人は、ぜひ劇場へ足を運んでほしい。

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まとめ

映画「マイホームヒーロー」は、一歩間違えたら普通の家庭が引き裂かれてしまう恐怖と、それでも家族を守りたいという切実な願いが交差する物語である。7年前に犯した罪を抱えた父が、半グレ組織の魔手にさらされながらも必死に足掻く姿は、生々しく息苦しいほどの臨場感を伴っている。とはいえ、ただ暗いだけではなく、家族同士の微妙なやり取りや思い出が、作品に深みを与えているのも大きなポイントだ。

個人的には「家族を守るためにどこまで自分が犠牲になれるのか」という問いを突きつけられたように感じた。答えは人それぞれだろうが、その問いを突き詰めることで本作の魅力がより一層引き立つのではないだろうか。作品を見終わったあとには、家族というものがいかに尊く、同時に危ういものかを痛感させられる。じっくり味わいたい人にこそおすすめしたい作品である。