映画「マッチング」公式アカウント

映画「マッチング」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

土屋太鳳が主演を務める本作は、いわゆる恋愛作品の華やかさを装いつつ、その内側にかなりダークな展開を秘めているサスペンスである。ウェディングプランナーとして活躍する主人公・輪花が、出会いを求めて始めたマッチングアプリに端を発し、家族の秘密や連続殺人事件へ巻き込まれていく姿が描かれるのだが、意外や意外、どこを切り取っても血の匂いが漂うという恐ろしさ。とにかく、表向きの“恋愛ムード”に乗っかろうとしたら地面が崩落した…というような衝撃を与えてくれるのが本作の魅力である。

とはいえ、ただひたすら重いだけの作品かといえばそうでもない。要所で登場人物のやり取りに軽妙な味わいが見え隠れして、観客を飽きさせない工夫が感じられる。土屋太鳳の純真な演技や、佐久間大介が演じる吐夢の何とも不気味で奇妙な佇まいが入り混じることで、画面に張り詰める緊張感はなかなかのもの。加えて、家族のドロドロした因縁や、マッチングアプリ婚をめぐる社会的視点などが重層的に折り重なり、先の読めなさで最後まで観る者を翻弄する。

そんなわけで、ここからは本作の真相や核心的な部分にも踏み込みつつ、率直な感想を語っていきたい。かなりヘビーな内容ではあるが、ちょっと先の読めない刺激を求めている人にはピッタリな作品だといえるのではないだろうか。

映画「マッチング」の個人的評価

評価:★★★☆☆

映画「マッチング」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は、一言でいえば“表と裏”が全編に仕掛けられた作品である。冒頭こそ、仕事は順調だけれど恋愛面で煮え切らない輪花が、親友に背中を押されるようにマッチングアプリへ登録するというライトな幕開けだ。しかし、この手の作品によくある「実は運命の相手が見つかってハッピー!」というのとは正反対の道をたどる。

まず目を引くのが、暗い雰囲気をまとって登場する吐夢という男だ。プロフィール写真と実物がまるで別人のような落差があるせいで、観客としては「なんだか危険な香りがするぞ」と最初から身構えてしまう。しかしながら、輪花はそこまで警戒心を抱けないほど、どこか気弱でネガティブな吐夢につい情を向けてしまう部分もあるように見える。その“微妙にハズれた好意”が、結果として最悪の方向へ導いてしまうのが恐ろしい。

本作に漂うのは、“理想的な恋”と“歪んだ執着”が表裏一体だという皮肉である。輪花は仕事柄「人を祝福する場」に慣れているが、自分の幸せは後回し。そこへ近づいてくるのが吐夢や影山といった男性たちだ。いずれも善人と悪人が明快に分かれているわけではなく、みんな何かしら事情を抱えている。この“全員が裏を隠し持っている”という構造が、物語の緊張感を最後まで保つ大きな要素となっている。

さて、この物語の肝は、マッチングアプリ婚で結ばれた夫婦が次々と惨殺されるという連続殺人事件だ。いくらなんでもウェディングプランナーにとっては悪夢のような話である。しかも輪花が担当したカップルまで犠牲になってしまい、失意のどん底に陥っていく。警察は当初から吐夢を疑い、観客としても「こいつがやってるのか?」という視点にならざるを得ないのだが、どうにも証拠が見つからず、話はどんどん深みへはまり込んでいくのだ。

物語が後半へ進むにつれ、輪花の家族の秘密が一気に表に飛び出す。最も驚かされるのは、輪花の父・芳樹がかつてインターネットのチャットを通じてある女性と不倫し、そこから生まれた隠し子がいるという点である。輪花自身はそんな事情をまったく知らず、「自分の父がそんな裏を抱えていたとは!」とショックを受ける。さらに、この不倫相手が芳樹への執着をこじらせていることも発覚し、連続殺人事件とのつながりをほのめかしてくる。

同時に、輪花を取り巻く人間関係も激変していく。親友の尚美ですら、事件に巻き込まれて命を落としてしまうなど、輪花の身辺が恐ろしい速度で荒廃していくのだ。仕事の繁忙を支えてくれた上司や同僚たちも次々と離れ、さらには母の失踪や父の死まで重なって、観ているだけでも気が滅入るほどの救いのなさ。

そうした逆境の中、輪花が頼ったのがマッチングアプリ運営会社のプログラマー・影山である。最初は相談相手として優しく寄り添ってくれる影山だが、どこか妙に冷酷そうな雰囲気がある。案の定、彼は芳樹の不倫相手の息子だったことが判明する。つまり、芳樹への復讐心を内に秘め、輪花に近づいていたのだ。これが発覚した時点で、大抵の観客は「こいつが全部やったんだ!」と直感するが、物語はさらなるどんでん返しを用意している。

影山が逮捕されたあと、輪花は父を苦しめた女こそが不倫相手に違いないと思い込み、彼女の元へ向かう。しかしそこには、車椅子の女性と、それを世話する節子という女が待ち構えていた。いかにも介護者と被介護者というセットだが、実はこの節子こそが不倫相手本人。そして車椅子の女性は輪花の母親であり、長年にわたって節子に監禁されてきたという真実が露わになる。

輪花が心をえぐられるほどの衝撃を受けた矢先、物語はさらにグロテスクな真相を突きつける。なんと吐夢は、この節子と芳樹の間に生まれ捨てられた子供だった。捨て子として生きてきた吐夢は、節子の執念なども見越した上で独自の行動を取り、結局は連続殺人に関わっていたことまで明かされる。表向きはストーカー被害者のように見えて、実際はさらなる犯行を続けていたかもしれない……という怖さがラストシーンで焼き付くのだ。

ストーリー全体としては、つぎつぎに爆弾が投下される形で、観る者は常に「誰が犯人なのか?」「どこまでが偶然でどこからが計画的犯行なのか?」と疑いながら進めていくことになる。結末にかけて情報量が一気に増え、特に血縁関係や過去の誘拐事件の事実が明るみに出るあたりは狂気すれすれ。輪花が泣き崩れるのも無理はなく、作品としては相当ダークな後味を残す。

しかしながら不思議なことに、土屋太鳳が演じる輪花の存在感は澄んでいる。あの純粋そうで健気な姿があるからこそ、観客は最後までギリギリのところで物語を追っていける。もしこれを別のタイプの主人公が演じたら、あまりにも重苦しくて誰も救われない話になってしまっただろう。輪花の必死さが、いくらかでも救いの要素を持ち込んでいるようにも映る。

加えて、佐久間大介演じる吐夢の異様な怖さも特筆ものだ。最初はただのストーカー男かと思わせて、その後は「いや、意外と気の毒なのか?」と同情を誘い、最後に「やっぱり一番ヤバいやつだった…」と落とすあたりの構成は見事である。捨て子として生きてきた過去や、怪しい発言の数々に目を向ければ、最初から伏線がバッチリ貼られていたと気づいて背筋が寒くなる。

ストーリー展開こそハードだが、画面上は血の飛び散るゴア描写が過剰というわけではない。それより人間の恨みや妄執がむき出しになる瞬間のほうが生々しい。特に節子の過去の犯行には言葉を失うし、彼女の狂気に付き合わされてきた輪花の父・芳樹の苦しみも相当なものだろう。恋人や家族の秘密があぶり出される物語で、ここまで重いテーマを突き詰めるのは珍しい。

本作は、マッチングアプリが普及した現代を舞台にしている点で、一種の社会派要素も盛り込まれている。しかし、そこに家族のねじれた愛憎や、執念深い復讐劇が絡むことで、いわゆる“リアルな恋愛ドラマ”を期待する観客にはショックが大きいかもしれない。むしろ、どろどろの愛憎に興奮を覚える人向けの強烈なエンターテインメントだ。

物語の終盤で、吐夢が血に染まった道具を洗い流すシーンは意味深だ。何事もなかったようにふるまいながら、実は狂気の片鱗を隠し持っている人間が世界のどこかにいるかもしれない、という不気味なメッセージを残して幕を閉じる。観賞後、じわじわと恐怖がこみ上げる作品といえる。

結局、本当に恐ろしいのは「人を愛する」とは何か、そして「家族」とは何かを履き違えた人間の思い込みだ。本来なら祝福されるはずの結婚が、誰かの歪んだ感情によって破壊される、その悲劇の極北を描いたのが映画「マッチング」である。好みは分かれそうだが、一度観れば確実に心に刺さることだろう。

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映画「マッチング」はこんな人にオススメ!

この映画は、明るい恋物語を想定している人にはあまり推奨しない。むしろ人間の闇や復讐心、家族間の複雑な感情に興味を持つ人にとっては、かなり刺激的な体験となるはずだ。マッチングアプリが当たり前のように普及している今の時代を舞台にしていながら、“便利さ”の裏に潜む危険や、手軽な出会いが生む不運の連鎖など、現実にも起こり得る問題を鋭くえぐっているところに見応えがある。

家族をテーマにしたサスペンスや、心をえぐるどろどろの愛憎劇を好む人なら、この作品の濃密さに満足できるだろう。土屋太鳳演じるヒロインの、痛々しいまでに真っ直ぐな心情を追体験しながら、“愛すること”が実はどれほど危ういのかを思い知る。さらに、登場人物たちが持つ“表向きの顔”と“裏の目的”のギャップに興味がある人にも打ってつけだ。

スリラーやホラーが好きな人にとっては、“めでたいはずの結婚が破滅を呼ぶ”という展開が新鮮に映るかもしれない。連続殺人事件の犯人探しをしつつ、その裏で細かく仕掛けられた伏線を見つけるのも醍醐味の一つである。誰が真犯人か、途中までは吐夢なのか影山なのかと混乱させられ、最終的には「まさかここまでの悪夢だったとは…」と苦笑いするような結末が待っている。そういう衝撃が欲しい人には最高だろう。

人間ドラマとしての深みを堪能したい人にもおすすめできる。節子という女性の狂気、影山の歪んだ復讐心、吐夢の壮絶な過去…。これらが複雑に絡み合っていく展開には、単なるホラーとは違う重々しい説得力がある。みんなそれぞれの目的のために行動し、その結果として、まるで巨大な歯車が噛み合ってしまったかのように事件が起こる。その様子をじっくりと追えば、人間の欲望や孤独が生む悲劇を痛感するだろう。

どこか独特な衝撃を求める人には刺さる映画だといえる。ホラー好きから、サスペンス好き、家族の愛憎を描いた重めのドラマを好む層にまで幅広く届く内容である。一方で、軽いラブストーリーを求めている人には刺激が強すぎる可能性があるので、その点だけは注意してほしい。

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まとめ

映画「マッチング」は、マッチングアプリで運命の相手を探す話かと思いきや、蓋を開けてみれば血縁や恨みが幾重にも絡まり合う激辛のサスペンスドラマであった。特に、捨てられた子として生きてきた吐夢と、彼を生んだ母・節子の狂気には背筋が凍るし、主人公・輪花が次々に巻き込まれていく不幸の連鎖は観ているだけで息苦しくなる。それでも最後まで飽きさせないのは、登場人物全員が何らかの秘め事を抱えており、一人ひとりの思惑が複雑に交差していくからだろう。

加えて、土屋太鳳演じる輪花の存在感が物語をぎりぎりのところで支えている。もしこの主人公に一切の素直さやまっすぐさがなかったら、作品そのものが暗黒へ沈んでしまいかねない。輪花が一途に幸せを求め続ける姿勢があったからこそ、観客はギリギリのラインで希望を探しながら物語を追えるのだ。

結末を知ったあとに振り返ると、実に多くの伏線やヒントが散りばめられていたことに気づき、その構成の巧みさに思わず唸ってしまう。深読みすればするほど、登場人物それぞれの行動原理や隠された事情が浮かび上がり、もう一度観直したくなる作品だといえる。とにかく衝撃的な体験を味わいたいなら、ぜひ一度チェックしてみる価値があるだろう。