映画「ロングレッグス」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作はマイカ・モンローが捜査官を演じるサスペンスホラーでありながら、どこか不穏な雰囲気をまとった独特の作品である。ニコラス・ケイジのインパクトある怪演も含め、ある種の背筋がゾクッとするような映像体験を味わうことができるのだが、その一方で不思議なくらい魅せ方にクセがあり、好き嫌いがはっきりと分かれそうだ。とはいえ、この手の作品は「ちょっと怖そうだけど面白そう」という好奇心をくすぐる部分があるので、思わず劇場に足を運んでしまう人も少なくないだろう。
最初は「爆音ジャンプスケアが苦手な人でも大丈夫だろうか…」と心配になるところがあるものの、意外にもじわじわと染み出してくる恐怖と、ちょっとした小ネタのような会話がないまぜになっているため、気づけば最後まで集中して見られる不思議な魅力を持っている。ちなみに自分も予備知識なしで鑑賞したが、「あれ?このシーン、いま笑っていいところか? でも次の瞬間には背筋が冷える…」という独特の波が押し寄せる内容だったと感じている。
ここから先は、かなり深いネタバレを含む話に踏み込むため、鑑賞前の方はご注意を。ひとまず本作に興味がある人は、劇場の大きなスクリーンや音響設備でどっぷりと味わうのも悪くないと思う。
映画「ロングレッグス」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「ロングレッグス」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは核心に触れた話をしていくため、結末や重要な仕掛けを知りたくない方はご注意いただきたい。とはいえ、見終わったあとに「なるほど、そういうことだったのか!」と唸らされる部分と、「ん? ここはもっと丁寧に描いてほしかった」と思う部分が混在している、なんとも評価に悩む作品である。そのため、引っかかりを含めつつ洗いざらい語っていこうと思う。
まず、物語の大枠はこうだ。FBI捜査官リー・ハーカー(マイカ・モンロー)が一家惨殺を続ける連続事件の捜査に加わり、自らを「ロングレッグス」と名乗る犯人が残した手紙の謎を追う。この手紙がやたらと不気味な言葉や暗号らしきものに満ちており、しかもそれが事件ごとに置かれている。同僚たちが苦戦する中、リーだけは不可思議なくらい早い段階で「ここに犯人が潜んでいる」などと勘づく力を見せて捜査を進めていく。この能力が後々「自分にとって望まざる秘密」に直結していくという構造だ。
物語が中盤を迎えると、捜査はロングレッグスが人形を使った悪魔崇拝じみた儀式を行っているらしい、という方向へ展開する。ここで「普通のシリアルキラー映画かと思いきや、オカルト要素も入ってくるんだ」とびっくりするわけだが、このあたりからグロテスクな場面と妙に可笑しみが入り混じる演出が散見される。たとえばロングレッグスが車を爆音で走らせながら、まるで何事もないかのような振る舞いを見せるシーンなどは、「この男、ほんとうに常軌を逸しているな」と思わせるのに十分なインパクトがある一方、観客によっては「あれ? これ、ちょっと笑っていいところなのか?」と戸惑うかもしれない。ここが本作の大きな特徴で、怖さと妙な緩さがぶつかり合い続けるのだ。
後半では、リー自身が幼少期にこのロングレッグスと何らかの接触を持ち、しかし命だけは助けられていたという事実が判明する。さらに衝撃的なのは、リーの母親ルースが「娘を守るために悪魔崇拝への協力者になっていた」という点である。すべてはリーを生かすために、ほかの家族を犠牲にしてきたという壮絶な裏事情だ。このあたりの展開は、一気にカルト的なホラーに振り切ったようにも見えるし、一方で母の愛が過剰にゆがんだ形で描かれている点に「なんとも言えない哀しみ」を感じさせられる。親子の共依存の果てに生まれる悲劇という構図は、シンプルにまとめるなら「母の身勝手」と片づけられる話かもしれないが、そこには母としての必死さもあり、いちがいに悪と断じづらいところが、より胸を締めつける。
ところが、この悲しみをしっとりと描くかと思いきや、監督の演出はあくまでダークな不穏さを拭わずにじわじわと迫ってくる。とにかく、画面が冷たい空気をたたえているようで、観ていて居心地が悪い。何が飛び出してくるか分からない暗がりを延々見せられているような感じだ。さらにニコラス・ケイジが演じるロングレッグスが登場するたび、普通ならサスペンスやホラーの定石どおり“怖さを煽る”ほうへ寄せそうなところを、なぜか妙にシュールな見せ方も挟んでくる。ここに「それってアリなの?」と言いたくなる部分もあるが、思い返すと、これがあまりに堂々としているからこそ逆に恐怖が増すようでもある。ロングレッグスという人物は、まぎれもなく正気を逸脱した存在でありながら、何かしらの“焦点”がずれている。そこが異様な怖さを演出しているのだろう。
実際、リーたちがロングレッグスを追い詰める場面では、視聴者も「何でもっと早く犯人が姿を見せなかったのか」「結局ロングレッグスは人間離れした存在なのか、それともただの狂人なのか」といった疑問に悩まされるはずだ。結果的には「悪魔の力を借りた殺人鬼」という、オカルトとリアルが奇妙なバランスで同居した答えになるのだが、そこを納得できるかどうかで評価が二分しそうである。ホラー好きなら「こういう悪魔崇拝もの嫌いじゃない」と思うかもしれないし、「あれ?ただの連続殺人鬼だったほうが怖かったんじゃ?」と不満を感じる人もいるだろう。
そしてクライマックスの衝撃は、リーの母ルースが儀式の完遂を図ろうとしていたこと。しかも自分の娘を守りたかったその母が、結局は最後にリーに撃たれてしまうという展開だ。血まみれの母を撃ち、救えるはずだった人々を守ろうとするリーの姿は、あまりにやりきれない。そこには絶望と悲哀、そして「自分の人生って何だったんだろう」という茫然自失感が詰まっている。かくして物語はエンドロールを迎えるが、決してハッピーエンドでもバッドエンドでもない、一種の虚無感に包まれた余韻を残すのが印象的だ。
このように、本作の見どころは「オカルト的恐怖」「不穏な空気感」「ニコラス・ケイジの怪演」「母と娘の愛情がゆがんだ形で描かれる悲しさ」など、多岐にわたる。ただ、全部を同時に詰め込もうとしているがゆえに、やや散漫に感じる部分もあるかもしれない。それでも「いろんなホラー演出のごった煮感がむしろ面白い」「人形が暗示する悪魔崇拝が気味が悪いのに妙に魅力的」という評価をする人もいるだろうし、「どっちつかずで中途半端だ」という辛口評価を下す人もいそうだ。筆者としては、少なくとも“ただの凡庸なシリアルキラー映画”ではなかったと断言できる。これだけ不穏な世界観を徹底して撮り上げられる監督は少ないと思うし、そこにマイカ・モンローやニコラス・ケイジといった個性的な俳優陣が参戦しているため、どうにも目が離せない作品になっていた。
一方、個人的に気になったのは、リーの描き方である。普段から淡々とした表情で捜査を続けるのは「過去のトラウマが関係している」と後にわかるが、最初は単にキャラクターが無機質に見えすぎてしまい、主人公としての感情移入が起こりにくい点が損だとも感じた。とはいえ、終盤で母が犯行に協力していたことを知り、愛するはずの母を自分の手で撃たざるを得なくなるあの瞬間の表情は、あまりに痛ましく、かえって序盤からの無機質な態度がその悲痛さを際立たせていたとも言える。結果としてリーの「人間味」はラストシーンで一気に噴出することになり、そのインパクトは強い。
本作は「一回観ただけだと細部がよくわからないまま終わるが、かといって説明しすぎられても怖さが半減しそうな不気味映画」という印象だ。特に“悪魔崇拝”という要素は、アメリカの宗教観を背景にしたモラルパニックめいたホラー演出の一つでもあり、日本の観客からすると若干ピンとこない部分もあるかもしれない。だが、社会から見れば異端とされる者たちが秘かに行っている儀式、それに無自覚な形で巻き込まれていた主人公の悲劇、という構図は国や文化を超えて背筋が寒くなるテーマだろう。そこへ母と娘の物語が重なってくることで、「家族とは何なのか?」を考えさせられる深みも生まれている。
この作品はたとえば「観終わってすっきりするような解決編」は用意されていないが、そこにこそ監督の狙いがあると感じる。ロングレッグスという残虐な存在が逮捕されたあとも、母ルースの衝撃的な行動、そして自分の正体や過去の記憶に振り回されるリーの姿は、心の闇や因縁がそう簡単には断ち切れないことを象徴しているかのようだ。ある意味では、純然たるエンタメというより、非常に個人的なトラウマや家族の闇を映像化したアート映画に近いところもあるかもしれない。だからこそ、思わぬ場面でニヤリとさせる妙な展開があったり、悪魔崇拝の狂気が挟まれていたりするのだろう。
評価こそ賛否が分かれやすいが、好きな人にはたまらない一作だと思う。何より、“オカルトの恐怖”と“家族の愛憎”がダークに融合した作品には、映画ならではの引力がある。内容が複雑なだけに一度の鑑賞ですべてを理解するのは難しいが、余韻に飲まれて「ああ、まだ何か残っている…」と感じる作品に出会えるのは貴重だ。単純に脅かすだけのホラーとは一線を画し、じわじわと怖さが広がっていく暗黒ミステリーに興味があるなら、一度体験してみる価値はあるだろう。
映画「ロングレッグス」はこんな人にオススメ!
自分の中に「ちょっと不穏な雰囲気の映画を観たい」という欲求がある人に向いていると思う。目に見える血しぶきやホラー演出以上に、何か底知れない不気味さが漂うような作品が好みの方なら、まず気になるはずだ。加えて、「悪魔崇拝」「連続殺人鬼」「母と娘の歪んだ愛情」といった要素が詰め込まれているため、ホラー好きはもちろん、サイコサスペンスとしても楽しめる面がある。
とはいえ、ただのジャンプスケア連発映画ではなく、じっくりと精神的に追い詰められるような展開が続くので、いわゆる“耐性”がないと少し疲れるかもしれない。あっという間に過激なシーンが連発して刺激を受けるタイプのホラーとは違い、登場人物たちが見せる静かな恐怖や、突然挟まれる異質な演出に身をすくませながら進んでいく点に魅力がある。
また、母子関係の闇や家族の絆に関するテーマも否応なく浮かび上がってくるので、家族愛や親子ドラマに興味のある人にもおすすめできる。もちろん、そこで描かれるのは美談ばかりではなく、むしろ親の深い執着や愛情が暴走するとどうなるか、という暗い側面だ。そういった複雑なテーマに惹かれる方なら、本作の独自性をしっかり味わえると思う。
さらに、ニコラス・ケイジという俳優の狂気的な存在感に惹かれる映画ファンにも好適だろう。彼の演じるシリアルキラーが、怖いのかおかしいのか判別しにくい微妙なラインを突いてくるのが絶妙であり、その怪しげな空気が作品世界を支配している。マイカ・モンローのクールな演技も合わせて、「とにかく一風変わったサスペンスホラーが見たい」という方にぴったりだと思う。
「怖い映画でありながら、ただ驚かされるだけで終わりたくない」という観客にはまさに理想的な作品だ。人間の内面や家族の闇、悪魔崇拝などのオカルト要素を一挙に体感したいなら、この映画を観て損はないだろう。
まとめ
「ロングレッグス」はいわゆる定型的なクライムサスペンスを求めている人にとっては、少々クセが強い作品かもしれない。連続殺人事件の謎解きはあるものの、途中から悪魔崇拝と母子の歪んだ愛情が入り混じり、雰囲気映画として突き進む様相が強いからだ。だが、一度この世界観にハマると、そこから抜け出せないほど強い磁力を放っているのも事実である。
そこにマイカ・モンローとニコラス・ケイジという個性派キャストが加わることで、「ただ怖いだけ」では終わらない妙な味わいが生まれている。思わぬ場面でクスリとさせられる瞬間がありつつも、根底にはどうしようもない悲劇が横たわっているというアンバランスさが印象に残る。母親の抱えた秘密と、その秘密に囚われた娘の物語として見ると、家族を題材にしたダークファンタジーにも思えてくるのだ。
最終的には、ホラー好きやオカルト要素に興味のある方だけでなく、「人間の裏側に潜む深い闇を覗いてみたい」というタイプの鑑賞者にも刺さる内容だと感じる。一筋縄ではいかないが、そのぶん心をぐいっと掴んで離さない。そんな得難い体験を与えてくれる作品として、おすすめしておきたい。