映画「ラストマイル」公式サイト

映画「ラストマイル」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は満島ひかりが主演を務める社会派エンターテインメントである。序盤から炸裂するサスペンス要素は、爆弾騒動と物流の闇ががっちりと噛み合い、緊張感を最後まで維持していた。しかも単なる事件モノで終わらず、労働環境の過酷さや企業のブラックな仕組みをえぐってくるあたりが一筋縄ではいかない。加えて、監督・塚原あゆ子、脚本家・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子が手掛けてきた過去作品とのつながりをにおわせるポイントもあり、ファンにはたまらない見応えになっている。

主人公の舟渡エレナ(満島ひかり)と梨本孔(岡田将生)が、次々に起こる爆発事件を追っていく流れはテンポがよく、思わず手に汗を握る場面が続出だ。配送現場のリアルと、各人物のドラマが絶妙に絡み合うため、どこから見ても飽きさせない。騒動の裏で何が起きているのか、ラストまでしっかり見届けてほしい。

映画「ラストマイル」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「ラストマイル」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作は「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界観を共有する作品として登場したが、ただの“スピンオフ”にとどまらず、単品でもがっちり見応えを保証してくれる一作だ。冒頭で爆弾が入った荷物が届けられ、あっという間に爆発事件へ発展する流れは強烈である。客が荷物を受け取るだけでひやりとする絵面は、普段何気なく利用している配送サービスの裏側にいかに危険や重圧が潜んでいるかを突きつけてくる。

しかも、その爆発の“仕込み”がじわじわと明らかになる過程で、現代社会が抱える問題がゴロゴロと顔を出すから油断できない。安さと速さを追い求めるうちに、働く人たちが消耗し、人としての尊厳さえ脅かされる。作中では大手ECサイト「DAILY FAST」や配送業者「羊急便」などを通じて、雇用の不安定さや中間管理職の苦悩、物流倉庫で働く派遣スタッフの待遇などを大胆に描き切る。映画を見ながら「あるある、こんな話聞いたことがあるぞ」と思わず苦笑いしそうな箇所も多い。だがそこへ痛快な展開をかぶせ、観客をある種の興奮状態に引き込んでくるのが面白いところだ。

主人公の舟渡エレナはアメリカ本社から送り込まれた凄腕社員として登場する。こいつが一筋縄ではいかない。満島ひかりの演技が抜群で、アグレッシブなかと思えばどこか繊細な表情も垣間見せる。彼女は「荷物は絶対に止めるな」という会社の方針を守りつつも、異様な爆発事件を解明しようと必死だ。それとタッグを組むチームマネージャーの梨本孔は、仕事にそこまで熱を注げないタイプながら、いつの間にか事件の渦中で頭を抱える羽目になる。岡田将生のぼんやりとした雰囲気がうまくマッチしており、彼がただの“やる気なし男”ではなく、秘めたる正義感を引っ張り出されていく過程は見応えたっぷりだ。

爆弾騒動の裏側には、かつてこの物流センターで起きた転落事故が関わっている。その事故で大けがを負った社員が、いつしか記録上“存在しない者”として扱われているのだ。いわば、「稼働率を下げたくない会社」と「声なき声をかき消されてきた当事者」の壮大な対立構造が見えてくる。事件の真犯人が誰で、何を狙っているのか。劇中の刑事たちも捜査するが、流通のプロであるエレナたち倉庫側の人間でなければ見抜けない仕掛けが張り巡らされているのが興味深い。商品に貼られたバーコードや代行サービスの仕組みなど、物流の専門知識が謎解きに必要とされる展開はなかなか新鮮だ。

また「アンナチュラル」からはUDIラボの面々が登場し、「MIU404」からは第4機捜のメンバーがしっかり関わってくるのも大きな見どころである。伊吹&志摩の絶妙なコンビ感や、UDIラボのわいわいした雰囲気に再会した時はニヤリとさせられた。だが、そんな華やかなクロスオーバーを楽しむだけで終わらせないのが、この映画のこわいところ。シリーズを追ってきた観客なら思わず目頭が熱くなる要素と同時に、「事件が起こっても日常がすぐ動き出してしまう」という厳しい現実が提示される。誰かが命を落としても、巨大な倉庫は数時間後には平然と稼働を続ける。その瞬間、作中の人物も観客も、倫理とは何かを問われるのだ。

終盤、エレナはある決断を下す。損害総額を承知のうえで「一度ぜんぶ止める」ことに踏み切る姿はある種のカタルシスに満ちていた。配達のラストマイルを担うドライバーたちだって、ただ愚痴を言って終わるだけじゃない。みんな疲弊しながらも、どこかで“これではいけない”と思い続けていたからこそ、勇気あるストライキにつながるわけだ。そこに向かうまでの過程が短いようで長い。いや、実生活でも何かを“止める”のは大変だし、一度完全に回転を止めようとすると途方もない力が要る。だからこそ、あのストライキのシーンは見ていて胸がすく思いがあった。

一方、ブラックフライデー前夜に起きた爆弾テロの最終的な“真犯人”は、恋人を失った悲しみと復讐心を抱えていた人物だとわかるが、その末路はなんとも言えない切なさがある。復讐に命を賭けたところで、社会の歯車はあっさり動き続けてしまう。その虚無感がひしひしと伝わってくる。劇中でいくらサスペンスを楽しんでも、最後には「それでも明日の荷物は届く」という現実を突きつけられるのだ。しかも、その仕組みを支えるのは疲弊しきった社員やドライバーである。どこか世知辛い。

ラストでエレナが「爆弾はまだある」と言い放つ場面は痛烈だ。ここでいう“爆弾”とは、企業の隠蔽体質や劣悪な労働環境そのものを指すようにも思える。倒れた人間を簡単に抹消してしまう仕組みを残している限り、また同じ悲劇が繰り返されるだろう。劇中では「一日止めたぐらいでは何も変わらない」という声も出るが、あの日があるからこそ、次に変わるきっかけが生まれる――そう信じたくなる結末である。少なくとも、チームマネージャーとして新たな局面に挑む梨本孔は、かすかな変化の可能性を背負い始めている。

全体を通して、筆致は重たいテーマを扱いながらもスピード感があり、どこかエネルギッシュだ。ドラマのキャラを絡ませる“お祭り要素”も、むやみにやりすぎず物語の軸をしっかり締めてくる。このバランスの取り方はさすがの技といえる。本編内では、目を伏せたくなるような社会問題を次々に並べたうえで、「それでも意思を持って声を上げる者がいれば、ほんの少しでも流れは変わるかもしれない」と希望を残す。まさに激辛な題材をぶつけつつも、後味は不思議と爽快なのだ。

爆破の謎を追いながら、同時に物流業界の根深い構造問題を学べるという稀有なエンターテインメント。満島ひかりの熱演もあいまって、一気に駆け抜けるような作品になっている。観賞後、「通販するたび、ちょっとだけ周りの人に思いやりを持つかもな…」と気づかされる人は少なくないはず。ドラマ好きも社会派映画好きも巻き込んで、かなり話題を集めるであろう完成度だと感じた次第である。

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映画「ラストマイル」はこんな人にオススメ!

まず、サスペンスに刺激を求める人にはうってつけだ。冒頭から爆弾事件が立て続けに起こる展開は派手さ十分で、一瞬も退屈させない。そして、社会問題にも興味があるならなおさら楽しめる。ネット通販の便利さの裏側で、配達員や倉庫スタッフがどれほど追いつめられているかを赤裸々に描いているため、“身近なテーマ”としてリアルに考えさせられるはずだ。

「アンナチュラル」や「MIU404」を視聴済みの人には、おなじみの顔ぶれがスクリーンに登場する興奮が待っている。どちらの作品も好きな人なら、ちょっとしたファンサービスの連発にニヤニヤが止まらないかもしれない。逆に、前作をまったく知らなくても問題はない。純粋に映画単体として完成度が高いので、予備知識ゼロでもきちんと入り込める物語になっている。

さらに、“運送ドライバー”や“大手ECサイト社員”など、物流にかかわる人が観れば刺さること間違いなし。自分の職場でも似たような状況が起こっていないか、思い当たる節があるかもしれない。ラストの展開を見て、「これ、自分なら同じ行動を取れるだろうか?」と考えると、妙に胸を突かれる作品である。ある意味、多くの人にとって他人事ではないテーマを扱っているので、興味を持ったらぜひ挑戦してほしい。

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まとめ

「ラストマイル」は、配達と労働問題を軸に、ノンストップな事件捜査を重ね合わせた作品である。テンポの良いストーリー進行と、キャラクター同士の絡みの妙で一気に観客を引き込む力を持っている。何より、企業や社会全体が抱える“働き方”への疑問をつきつけるため、観た後に考えさせられる部分が非常に大きい。

それでも説教くさいわけではなく、ひと息で駆け抜ける娯楽性をしっかり確保している点がすばらしい。ドラマ版で活躍した面々が要所要所で顔を出すお祭り感と、爆発事件の緊迫感が絶妙に噛み合い、唯一無二の面白さを生み出しているのだ。これは物流やネット通販を日常的に使うすべての人に関わりがあり、誰でも観終わった後に何かしらの気づきを得られるのではないかと思う。ちょっと攻めた刺激を味わいたいなら、ぜひ手に取ってほしい作品である。