映画「この子は邪悪」公式サイト

映画「この子は邪悪」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は南沙良が主演を務め、玉木宏や大西流星、桜井ユキといった面々が顔を揃える怪作である。表向きはサスペンスとホラーを掛け合わせたような物語だが、蓋を開けてみると色々な意味で想定外の展開が待ち受けているのが特徴だ。何やら普通とは言いがたい要素が次から次へと出てきて、観客をあちらこちらへ振り回す。途中で思わず吹き出したくなる状況もあるが、一方で真面目なテーマを押し出している部分もわずかに見受けられるため、鑑賞後は不思議な読後感ならぬ“観後感”を抱く人もいるのではないだろうか。

本記事では、この作品の内容を遠慮なく掘り下げる。いわくありげな母の振る舞い、仮面を付けた妹の目的不明な行動、そして父の怪しさ満点な振る舞い。全員そろってやたらと暗い影を背負っているあたり、普通の家族ドラマとは違った空気が漂う。だが作品を最後まで観賞すると、予想を超えた斜め上の結末に驚かされること請け合いである。とにかくツッコミどころを数え上げたらキリがないため、むしろ開き直って楽しんだほうが得策かもしれない。

さて、この作品の魅力(と呼ぶべきか困惑すべきか)は、何と言っても妙な説得力を伴った“ねじれた設定”にある。とはいえ雑とも取れる描写が目につくため、通常の感覚では納得しがたい場面も出てくるだろう。しかし、それらを含めて一本の娯楽作として楽しむ精神があるならば、むしろ強烈な印象を刻む作品になるはずだ。ここからは内容をさらに掘り下げつつ、どんなところにド肝を抜かれるかを伝えていこうと思う。覚悟はいいだろうか。

映画「この子は邪悪」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「この子は邪悪」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは相当突っ込んだ解説になるので、閲覧の際はくれぐれも注意してほしい。と言っても、この映画を語るうえで避けて通れないのが“設定の荒唐無稽さ”と“それを堂々と見せ切る度胸”である。まずは物語の大筋を振り返りながら、その奇妙さについてあれこれ述べていこうと思う。

主人公は南沙良演じる女子高生・花。父は心理療法室を営む玉木宏演じる司朗、妹は謎めいた仮面を付けており、母親は以前の事故で長い間意識不明だったが、ある日突然目を覚まし、退院して戻ってくる。ここだけを聞くと、わずかながら心温まる家族再生の物語を想像する人もいるかもしれない。しかし実態は真逆に近い。母の顔がどこか以前と違うように思えたり、妹の行動が何やらおかしかったり、花はあちこちに引っかかりを覚えるのだ。

とりわけ父親の司朗は、終始どこか怪しげだ。表向きは「家族を守りたい」という献身的な姿勢を見せてはいるが、その“守り方”があまりに非常識。実は司朗は退行催眠を極めた結果、ある種の“魂の入れ替え”を可能にしてしまったという設定が明らかになる。しかも彼は「虐待する親は許せないから、動物と魂を入れ替えて懲らしめる」という暴走じみた行動に手を染めているのだ。ここを真顔で演じ切る玉木宏の役どころは、もはやかつての爽やかなイメージを完全にぶち壊すような怪演といえるだろう。

花が感じる違和感は、母親が目を覚ました時点からどんどん加速していく。五年も植物状態だったのに突然スタスタ歩く母、左目の下にあったはずのほくろが取れる母、そして意味不明なほど鋭い視線を向けてくる母。加えて妹は謎の仮面を付けてタロットカードをいじるなど、どうにも不気味な行動を繰り返す。そうした要素が積み重なるに従い、これは単なるホラーというより“異様なホームドラマ”に近い空気を帯びてくる。花を助けようと接近してくる大西流星演じる男子生徒・純も、その家族をめぐる背景がかなり複雑で、司朗と奇妙な繋がりがあることが判明していくのだ。

中盤から後半にかけては、催眠術による人格や魂の書き換えという、理屈を超えた展開が一気に噴出する。司朗は善人の皮を被ってはいるが、実質的には自分の基準で「不要」とみなした人間を動物へと置き換えるというハチャメチャな所業を繰り返してきた。しかもそこに、事故で半ば壊れかけていた家族を無理やり繋ぎ止めようとする姿勢が加わるものだから、もはや救いようがない。本人としては「大切な家族を守っている」という大義名分を掲げているが、やっていることは恐ろしい実験さながらだ。何より、そのめちゃくちゃな行為を思いついた脚本自体に相当な度胸を感じる。

また、撮り方や演出も独特で、突如として大音量の効果音が鳴り響いたり、キャストの反応が遅れていたり、とにかくツッコミたくなる要素が目白押しだ。誰かが動くまで誰も動かない静止状態など、「え、いま手を出すならここじゃないの?」と思わず突っ込む場面が頻発する。家族や周囲の人々が繰り広げる“待機時間”が長いせいで、まるで小学校の劇を見ているような気分になる瞬間もある。だがそうした粗さが逆に強烈なインパクトをもたらしているのも事実で、一度この世界に足を踏み入れたら、最後まで見届けないと気が済まない妙な魔力がある。

後半になるといよいよ司朗が本性をむき出しにし、母や妹の正体が暴かれ、純の運命にもとんでもない展開が訪れる。なんと純まで動物に魂を移されてしまい、それを平然と見せつける司朗の姿は狂気そのものだ。花はそれでも懸命に状況を変えようとするが、父親の凶行を阻止しきれるかどうかは大いに怪しい。そもそも司朗は自分自身にまで退行催眠をかけるような男であり、最後の最後まで何を仕掛けるかわかったものではない。

そして最大の衝撃はラストシーンだ。司朗の魂が赤ちゃんに入れ替わったかのような描写で幕を下ろすため、「あれ、結局はこの家族どうなるんだ?」と大混乱に陥る。あまりにも荒唐無稽だが、このぶっ飛んだ結末こそが本作の真骨頂である。通常のホラー映画ならもう少し合理的に畳むのかもしれないが、本作は一切容赦なくトンデモ設定を最後まで突き通す。そこに賛否両論が起きるのは当然だが、忘れがたいインパクトを残しているのは確かだろう。

主演の南沙良は、常に複雑な境遇に置かれた少女として演技を続けている。ただ、終始冷静すぎるところもあり、「もうちょっと表情豊かでもいいのでは?」と思う場面が多々あるのも正直なところだ。とはいえ監督の演出意図なのかもしれず、あえてあの雰囲気で突き進むことで、観客に違和感を覚えさせる作りなのだろう。一方の玉木宏は、この映画を観た多くの人にとって“新境地”を感じさせる怪演を披露している。誠実そうに見せかけながら、実はとんでもない仕掛けを裏で画策している姿は怖いが、その突拍子もない行動はどこか舞台劇を彷彿とさせる。

桜井ユキ演じる母親の目がグルグル動くシーンや、妹が仮面を外す瞬間など、いわゆるホラーらしい“ぞわぞわ”としたビジュアル面の演出も盛り込まれてはいる。ただ全体としては、そのホラー要素すらも不思議な空気感に飲み込まれていて、ジャンルの境界が曖昧になる印象だ。ホラーなのかサスペンスなのか、あるいは家族愛を描くドラマなのか、観終わっても判別がつかない。だが、その“どっちつかず”感こそがこの作品の魅力でもあり、どうにも変な余韻を残す要因になっているように思う。

おそらく、「荒唐無稽」「ツッコミどころ満載」という評価は免れないが、好きになる人はとことん好きになるタイプの作品だともいえる。脚本や演出に論理的な破綻が多いので、緻密さを求める人には合わないかもしれない。しかし、意外性を重視して楽しむ人や、奇抜な試みを好む人にとっては、ちょっとした“当たり”に化ける可能性がある。なにより“退行催眠で魂が入れ替わる”というアイデアを堂々と通し切った点で、他に類を見ないインパクトを誇る映画になっているのは間違いない。

ちなみにストーリーの大枠には「家族を守る」という一本筋が通っているように思われるが、その実態はほぼ自己満足に近い。司朗が「虐待する親は許せない」というポリシーを持っているあたりは、一見すると社会的正義を意識しているようにも見える。だが、よく考えると魂の入れ替えなんてものは完全に倫理違反であり、もはやダークヒーローという言葉では片づけられないレベルで狂っている。ここまで突き抜けると、リアルな問題提起として受け止めるというより、「そこまでやるか!」と驚嘆しながら眺めるほかないだろう。

本作は“ホラー風の奇天烈作品”と形容しても差し支えない。ツッコミどころは無数にあるが、むしろそこを徹底的に楽しむのが正解とも言えそうだ。思わず「こんなのアリかよ!」と笑いながら観る人もいるだろうし、逆に「ちょっとこれはムリだ…」と引いてしまう人もいるだろう。どちらにせよ、一度観たら忘れられない不思議な味わいを持っているのは確かで、カルト的な人気を獲得する可能性すら感じる怪作である。

映画「この子は邪悪」はこんな人にオススメ!

ここでは、本作をどんな人に勧めたいかを素直に述べていく。まずは通常のホラーやサスペンスに飽きてしまい、新たな刺激を求める人にはうってつけである。展開や設定に破綻が見られるかもしれないが、その破綻こそが作品全体の異色感を際立たせている。よくあるホラーだと先読みができてしまって冷める人でも、この作品のあまりに無茶苦茶な展開には翻弄されるはずだ。

次に、いわゆるB級作品が好きな人にも向いている。整合性よりもインパクト重視、リアリティよりも面白さ重視で突っ走る映画が好みなら、本作ほど格好の材料はないだろう。作り手の暴走気味な情熱を感じる部分も多く、普通の映画では味わえない混乱をたっぷり堪能できる。玉木宏の意外な演技が見たい人も要注目だ。

また、奇妙な家族愛を描く映画に興味がある人や、後からじわじわと「あれはどういうことだったんだ」と考察を巡らせるタイプの映画を好む人にもおすすめできる。実際、本作は物語の筋道を深く考えすぎると矛盾だらけで頭がこんがらがるが、そこを含めて味わい深い。この“ほとんど投げっぱなし”ともいえる作風を楽しめるなら、後々まで語り草になりそうだ。

とにかく刺激を求める映画通、あるいはちょっと変わった作品を仲間と一緒に突っ込みながら観たい人には最適な一本。内容の賛否は大きく分かれそうだが、だからこそ誰かと感想を共有すると盛り上がるに違いない。強烈な体験を求めるなら、思い切って手を出してみてはいかがだろうか。

まとめ

結局のところ、映画「この子は邪悪」は常識や合理性を優先する人には厳しいかもしれないが、ひとたびその無茶苦茶さを受け入れられるなら、ある種の快感を伴った不思議な魅力を感じる作品だといえる。表面的にはホラーとサスペンスを組み合わせたような雰囲気をまといつつ、実際にはファンタジックともいえる魂の入れ替え設定で突っ走る大胆さを持ち合わせている。

さらに、玉木宏をはじめとするキャスト陣の演技が妙に真面目だからこそ、一段と衝撃的なシーンが際立つ。しっかりとした撮り方をしようとしているのに、脚本や演出が破天荒すぎて収拾がつかなくなる瞬間が多々あるのも見どころだ。大西流星の動物化シーンや桜井ユキの怪演ぶりなど、後から思い出すと「何だったんだろう」と言いたくなるほど印象深い。

荒削りではあるが、だからこそハマる人には強烈に刺さる映画だといえる。家族愛というテーマのはずが、ふたを開ければ“異形の家族ごっこ”に近い惨状が広がっているあたりも相当挑戦的だ。普通の映画には飽き足りない、あるいは衝撃的な展開を見たいという向きには試してほしい一本である。