映画「鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
大正時代の日本を舞台に、鬼と人間が入り乱れる壮絶な物語を描く「鬼滅の刃」は、TVアニメや劇場版など多彩な展開で世間を熱狂させてきた。今回の作品では「遊郭編」後半の激戦が再び大画面に登場し、さらに新たな章である「刀鍛冶の里編」へと話がつながる流れになっている。アニメのクオリティが映画館のスクリーンでどれほど映えるのか、そもそもTVの総集編的な側面はどうなのか、期待と不安が入り混じる観客も多かったのではないだろうか。かく言う筆者も「もう一度あの決戦を劇場の音響で味わいたい!」という思いで足を運んだクチだ。結果的に、過去のエピソードを改めてじっくり観られたことに加え、次の展開のイントロダクションが楽しめたので、満足と驚きの両方を得られた。
すでにTV版を観ている人も、「上弦集結」と「刀鍛冶の里編」序盤の動きを大画面・大音量で体感できるのは、やはり一味違う。そしてこれまで「鬼滅の刃」に触れてこなかった人でも、ダイジェストやキャラクター描写が随所に盛り込まれているため、大枠をつかみやすい構成だと感じた。とはいえ、映画としての編集部分はやや薄味に思える点もあり、観る人の評価を分けそうだ。だがそこも含めて率直に語っていく。
映画「鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは物語の核心に触れる内容を含むため、未視聴の方は注意されたい。既にTVシリーズや原作を追っている人にはおなじみの展開が多いが、改めて振り返ると「鬼滅の刃」という作品の強みと弱み、そして本編では見落としていた細かい演出などが新鮮に目に飛び込んでくる。
まず冒頭に挿入されるダイジェストでは、炭治郎や禰豆子、そして鬼殺隊の面々がどうやってここまで戦い抜いてきたかがおさらいできる。短い映像にギュッと詰まった過去の戦いの数々を観ていると、うっかり涙腺が刺激されてしまう瞬間もあった。特に「遊郭編」の前半部分の映像が一気にまとめられており、煉獄杏寿郎や音柱・宇随天元の活躍を思い出しては感慨にふける。TV放送時にも「これ劇場クオリティじゃないか?」と言われるほどの作画だったが、改めてスクリーンで観ると色彩の鮮やかさと人物の動きの滑らかさが桁違いだ。エフェクト描写やキャラクターの表情の変化が大画面だとさらに映え、背景の美しさにも圧倒される。
続いてメインディッシュともいえる「遊郭編」最終盤、すなわち第10話と第11話がそのまま上映される形になる。これに対しては「TVアニメの焼き直しでは?」という声もあるが、実際に座席を整えて巨大スクリーンで観ると雰囲気がまるで違う。堕姫と妓夫太郎という敵の双子鬼が繰り出す攻撃のエグさ、炭治郎や天元たちの血まみれの奮闘、そして禰豆子が体を張って助けるシーンの緊張感が倍増だ。音響が迫力を増すことで、血がたぎるような呼吸音や、斬撃がぶつかる時の衝撃など細部まで聞き取れる。そのため、TV放送を知っていても新鮮な体験ができるのは大きな利点だろう。
特に自分が圧倒されたのは、遊郭の楼閣が炎上するシーンの迫力と、妓夫太郎が繰り出す猛攻の禍々しさが完全に映画クオリティであったことだ。彼のトリッキーな血鬼術がスクリーンを埋め尽くすたびに、まるで観客席が揺れるような錯覚を覚える。これまで「鬼滅の刃」はストーリーに注目が集まりがちだったが、アニメーション技術そのものが作品をまるで別次元へ進化させていると再認識した次第である。
そこから迎えるクライマックスは、いうまでもなく炭治郎たちと堕姫・妓夫太郎の死闘だ。満身創痍の炭治郎が最後の力を振り絞り、自分の弱さを呪いつつも鬼を仕留める場面は何度観ても胸を打つ。さらに鬼化している禰豆子や、伊之助の粘り強さと嘴平善逸の電光石火の動きが合わさって、困難極まる局面を切り抜けるチームワークには心が震える。敵対する立場にありながらも、妓夫太郎と堕姫の兄妹愛も悲しく切ない。彼らが散っていく時の回想シーンでは、周囲の観客にも明らかな涙ぐみが見て取れたほどである。
そしてこの映画の目玉でもある「刀鍛冶の里編」第1話が、劇場版として一足早く観られる。無限城に集結する上弦の鬼たちの登場シーンは、視覚的なインパクトがとにかく強烈で、このシークエンスだけでも大スクリーンで観た価値があると言っていい。上下左右がひっくり返るような映像演出は、TVのサイズでも目を見張るものだったが、劇場の巨大映像で没入感が格段に増していた。童磨や猗窩座といった魅力的な鬼たちが渾然一体となって登場し、これから先に彼らがどんな凄惨な戦いを繰り広げるのか想像を掻き立てられる。
一方、霞柱・時透無一郎や恋柱・甘露寺蜜璃が炭治郎の前に姿を現すあたりでは、物語の空気が一変する。恋柱の天真爛漫さには拍子抜けするほど和まされるが、だからこそ次に待つ激闘とのギャップが楽しみなところだ。甘露寺の入浴シーンがいきなり登場するあたり、スタッフのサービス精神がうかがえるが、ここは男性陣だけでなく女性ファンからも「蜜璃ちゃん可愛い!」と評判になる要素だと思う。炭治郎がドギマギしている様子が妙にリアルで、微笑ましいシーンでもある。
とはいえ、この劇場版の構成をどう評価するかは人によって分かれそうだ。実質的にはTVシリーズを繋げたものなので、各話のエンディングがそのまま流れたり、途中で区切りが生じる関係から映画としての一体感は薄い。新作パートにあたる「刀鍛冶の里編」第1話のボリュームはそんなに多くないので、「一気に新展開をがっつり観たかった!」と思う人には物足りないかもしれない。逆に「遊郭編のクライマックスを大画面で楽しみたい」「TVシリーズを観そこねていたから、この機会にまとめて観たい」という人にとっては大満足の構成だろう。
個人的に、映像の合間に挿入されるダイジェスト風のシーンや主題歌が映画館用にアレンジされている点が良かった。新曲に対しては「今までの主題歌に慣れているから違和感がある」という声も聞かれたが、実際に映像と合わせてみると新章へのワクワク感を盛り立てているように感じる。登場キャラクターのボイスも新録があるのか、随所で熱量が以前よりアップしているように思えた。
また、ここが良くも悪くも「鬼滅の刃」の特徴なのだが、劇場公開とタイミングを合わせたグッズや来場者特典が充実している。原作ファンやキャラクター推しの人たちは、スクリーンでの鑑賞とあわせて記念品を集めるという楽しみ方ができるだろう。パンフレットもボリュームたっぷりで、制作陣のインタビューや新規ビジュアルがふんだんに詰まっており、ファン心理をくすぐる仕上がりだった。
ストーリー面だけを見れば、正直「刀鍛冶の里編」の導入部分が短く、ほとんどが「遊郭編」クライマックスの再上映であることに肩透かしを食うかもしれない。とはいえ、無限城の不気味さや上弦の鬼たちの怪演、それに甘露寺の溌剌とした姿が一足先に観られるメリットは大きい。これだけでも、4月からのTV放送に向けて気持ちを高めるには十分な特別体験といえる。
また、鬼滅の刃特有のドラマ性もあらためて強く感じた。鬼たちにもやむにやまれぬ過去や思いがあり、それが彼らの非道な行いを引き起こしている。堕姫と妓夫太郎の最期はもちろん、今後登場する鬼たちにも独自の悲哀があって、そのあたりが単なる勧善懲悪ものではない「鬼滅の刃」の大きな魅力といえる。その要素を大音響と大画面でかみしめると、一層「彼らの選んだ道は他になかったのか?」と考え込んでしまうことがある。
全体を通して感じたのは、あくまでもこれは「映像体験を重視した特別上映」であり、オリジナルの劇場作品として観に行くと戸惑う部分もあるということだ。しかしキャラ描写や背景美術、アクション演出に関しては文句なしの仕上がりであり、まるで目の前で剣戟が行われているような臨場感を味わえるのは確かだ。さらに、完結している「遊郭編」と続編「刀鍛冶の里編」のはざまをつなぐ位置づけとして機能しており、観終わった後に「早く続きを観たい!」という気持ちになる作りでもある。
もし、自宅でTVシリーズを何度も繰り返し観ているというファンであっても、特別編集された映像が巨大スクリーンでどう見えるかは意外と新鮮なので、時間と予算に余裕があるなら足を運んで損はないと思う。逆に、映画として一本のまとまりを期待する人には正直おすすめしづらい。なんだかんだ言って、最初から最後までTVのアニメ放送回が連結されている形なのだ。その点を納得した上で、あの名場面を迫力満点の映画館で追体験する楽しみを受け取れるかどうかがポイントといえるだろう。
いずれにせよ、今後さらに盛り上がっていくであろう「鬼滅の刃」の物語を先取りし、新章のキャラクターや舞台への期待を膨らませられる機会として、今回の作品は十分な価値がある。とりわけ、蜜璃や無一郎の見せ場をいち早く観られるだけでファンはテンションが上がるだろうし、無限城の異様な世界観を劇場版クオリティで体感できるのは貴重だ。これまでに登場した鬼たちとの決別を劇場の音響や画面で再確認し、新たに顔を出す強大な敵や柱の活躍にわくわくしながら終了を迎える。ある意味で、ファン向けに最高の“応援上映”的な位置づけとも言えるのではないか。
まとめとしては、絢爛豪華かつ迫力満点の「遊郭編」終盤を再鑑賞し、これからの激戦の序章をチラ見せされるという贅沢な体験ができる、そんな特殊な構成が好きなら楽しめるはずだ。劇場版というよりも“特別イベント”に近い感覚であり、映像のクオリティとキャラクター愛を存分に味わえるものとなっている。少々編集の粗さは感じるものの、やはり「鬼滅の刃」のパワーは桁違いで、一度でもハマった人間にはたまらない魅力を持ち合わせていると感じた。
映画「鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」はこんな人にオススメ!
まずは何と言っても「遊郭編のあの盛り上がりを、劇場のスケールでもう一度堪能したい」という人に強く勧めたい。TVで観て感動した人なら、この作品をスクリーンで体験する価値は十分あるはずだ。鬼たちの攻撃が画面いっぱいに迫ってくる感じや、炭治郎の必死の呼吸音が劇場ならではの迫力で全身に響く。自分の家では再現しきれない振動や余韻は、一度味わうとクセになるかもしれない。
また、先行して「刀鍛冶の里編」の始まりを押さえたい人も見逃せない。この作品を観れば、霞柱・時透無一郎や恋柱・甘露寺蜜璃のキャラクター性を大画面で一足先に堪能できるため、4月からの新TVシリーズをより楽しむ下地となるだろう。劇中に登場する上弦の鬼たちのキャラクターや声優陣の演技に興味がある人も、ぜひ大スクリーンで体感してほしい。特に無限城の浮遊感や禍々しい空間演出は映画館ならではの見応えがあるので、原作を読んでいて展開が分かる人でも、アニメーション表現ならではの迫力を実感できるはずだ。
さらに、グッズ収集や来場者特典を楽しみたいコレクター気質の人や、イベントごとに参加するのが好きな人にもおすすめだ。周囲に集うファンの熱量を感じながら、みんなで作品世界を楽しむのも醍醐味だろう。一人で静かに観るのも悪くないが、ファン同士でああでもないこうでもないと語り合いたい、そんなタイプにもしっくり来るはずだ。
まとめ
総じて言うと、今回の上映は“TVシリーズの再編集+新作パートの先行お披露目”という性質が強い。一本の映画作品として楽しみたい人にはやや中途半端な印象があるかもしれない。
しかし、超人気シリーズだからこそ味わえるスケールの大きさや作画の美しさ、そして演者たちの熱のこもった演技を大迫力で浴びたいなら、足を運んで損はないと感じた。とりわけ「遊郭編」の後半戦をど迫力で観たい人、柱や上弦の鬼たちの濃いキャラクター描写をじっくり堪能したい人にとっては、ちょっとした贅沢体験だろう。やはり「鬼滅の刃」はキャラクター同士の関係や過去の悲劇などをしっかり描きつつ、映像面と音響面で突き抜けたインパクトを与えてくれる。
今後もまだまだ盛り上がりそうな要素が詰まっており、ここで一度気持ちを高めるのも悪くない。原作の先を知っていても、映像ならではの表現が楽しいので、ファンなら観ておいて損はないだろう。