映画「カラオケ行こ!」公式サイト

映画「カラオケ行こ!」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

突然ヤクザに「カラオケ行こ」と声をかけられた中学生合唱部員――こんな衝撃的な導入だけでも、いきなり別世界に連れていかれそうでワクワクさせられる。しかも歌わないと刺青を彫られるかもしれないという絶体絶命の設定まで飛び出し、最初から最後まで一瞬たりとも気を抜けない展開だ。原作は和山やまのコミックで、あのシュールな味わいを実写でどう再現するのかと身構えていたところ、見事な仕上がりで驚かされた。

主役の綾野剛はシリアスから軽妙な役までこなす万能型で、今回の“歌に命かける男”も妙に説得力があり、まるで関西の街に昔から存在していたかのような自然さだった。合唱部員役の齋藤潤も真っすぐな瞳で全力疾走する姿に惹きこまれ、声変わりの苦悩を抱えた学生のもどかしさを全身で表現している。

本作は観客を笑わせながらも、いつの間にか胸を打つ物語へと引きずり込んでくる。というわけで、ここからは本作の核心に触れるため、ネタバレに注意して読み進めてほしい。

映画「カラオケ行こ!」の個人的評価

評価:★★★★☆

映画「カラオケ行こ!」の感想・レビュー(ネタバレあり)

はじめに断っておくが、本作はいわゆる“青春もの”とか“任侠もの”とひとくくりにできない不思議なテイストを持っている。中学生の部活とヤクザのカラオケ大会が交差するなど、普通なら絶対に接点がないはずの世界同士がむりやり融合する。しかしその“むりやり感”が強烈な魅力に転じていて、観る側としては終始「次は何が起こるんだ?」とハラハラさせられるのだ。

まず主役であるヤクザの狂児(成田狂児)を演じる綾野剛だが、彼のこれまでのフィルモグラフィを振り返ると重厚な役柄や鋭い目つきの人物などを想像しがちだ。ところが、今回ばかりはカラオケ下手を克服するために必死で中学生に教えを乞う姿があまりに切実で、まるで異次元のギャップが生まれている。裏声バリバリでX JAPANの「紅」を絶叫する姿は、笑いを誘うと同時に妙な哀愁もただよわせる絶妙な演技だ。とりわけ“声のデカい大人=こわい”だけでなく、“裏声がどうにも改善されない大人=哀れで放っておけない”という図式に変わるあたりが面白い。こうした狂児のキャラクターが愛おしく見えてくるまでが本作の仕掛けであり、同時に大きな見どころでもある。

一方、もうひとりの主役ともいえる合唱部の部長・岡聡実を演じた齋藤潤については、まさに“等身大の中学生”という言葉がぴったりだ。彼は合唱部でソプラノパートを担当していたが、変声期が訪れて思うように高音が出せなくなってしまう。その苦悩を部員や先生に言い出せずに悶々としているのが、観ているこちらとしてはむずがゆい。合唱祭では金賞を狙えるほどの実力派なのに、声が変わり始めたことで歌への情熱が萎えてしまう。この中学3年生特有の“もやもや”をそのまま詰め込んだような演技力には驚かされた。しかも狂児と知り合ってしまったがゆえに、部活よりもカラオケの方が気になっていくという可笑しさが最高である。

さらに映画オリジナルの要素として、中学生活や仲間との関係がより濃厚に描かれている点も見逃せない。原作では描ききれなかった背景がしっかりと肉付けされ、聡実が変声期や部内の空気に悩む理由がしっかり伝わってくる。合唱部の後輩たちが食い下がる感じや、幽霊部員でもある「映画を見る部」に入り浸る様子など、中学生らしい煮え切らない日常が丁寧に描かれている。だからこそ彼が狂児と出会った瞬間の衝撃がより強烈になるし、大人に振り回されながらもどこかスリルを味わう展開にスッと納得できるわけだ。

そして肝心のカラオケ大会。組長が主催し、下手だと罰ゲームで組長直々の刺青を彫られてしまうというとんでもない設定なのだが、これがまた笑わせてくれる。懸命に歌を練習するヤクザ衆の必死さと、部活の練習をサボってでもレッスンに付き合う聡実。どう考えてもバランスがおかしいのだが、本作ではそのおかしさこそが最大の魅力だ。なかでも「下手くそ」呼ばわりされるハイエナの兄貴がめちゃくちゃ焦ってボイトレに通い始めるシーンなど、細部の描写がいちいち笑える。どこまでも真顔で突き抜ける役者陣の演技力のおかげで、“ヤクザがカラオケの採点に怯える”という超ファンタジックな構図がリアルに見えてしまうのだから恐ろしい。

聡実の声変わりと狂児の裏声“克服”が同時並行で描かれているあたりは、本作の大きなテーマといえる。変わりゆく身体に戸惑う中学生と、変わりたいけれどなかなか変われないヤクザ。この対比は意外と奥深く、見た目と中身がすれ違うもどかしさが2人を共鳴させる。狂児が「どうしても『紅』で勝負したい」と言い張るのも、もしかしたら彼自身のかたくなさを象徴しているのかもしれない。理由は明確に語られないが、“失敗を恐れずに挑む”という姿勢が少年の心に火をつける。お互いに背中を押し合いながら、本番の日を迎える流れは一気に盛り上がるところだ。

終盤の合唱祭とカラオケ大会が重なる場面では、怒涛の展開に飲み込まれる。聡実は声が出なくて焦るし、狂児は刺青彫られるかもしれない危機だし、一方で2人の間には妙な絆が育まれている。ついに聡実が逃げ出して「紅」を熱唱するくだりは、本作屈指の胸アツポイントだ。歌声が裏返ろうが何だろうが、そこに詰まった思いがこちらにビシビシ伝わってくる。まさかX JAPANの名曲がこんな形で青春ドラマになるとは誰が想像しただろうか。これを観てしまうと、もう「紅」を聴くたびにこの映画のラストが脳裏にちらついてしまいそうだ。

ラストシーンでは、まるで嵐が過ぎ去った後の静けさのような余韻が漂う。卒業を迎える聡実の未来、ミナミ銀座から姿を消すかもしれない狂児たちの行方、巻き戻せないVHSデッキで象徴される「過去に戻れない」切なさ。そこに一抹の寂しさと希望が同居している点が印象深い。お祭り騒ぎのようでいて、実はしっかり“人生”を感じさせる後味が残るのだ。原作ファンとしても嬉しいポイントが多々盛り込まれており、一方で映画ならではのオリジナル展開もしっかりハマっている。重い題材かと思いきや、気づけば笑って泣いて元気をもらえる作品に仕上がっているのだから、恐るべし山下敦弘監督と脚本の野木亜紀子である。

まとめると、この映画は“異色の組み合わせ”を堪能するエンターテインメントとして唯一無二の完成度を誇る。合唱部とヤクザの奇妙な友情は意外としっくり馴染み、観る人をあっと驚かせながらも最後には爽快な感動をプレゼントしてくれる。誰かに「面白い映画ない?」と尋ねられたら、真っ先に挙げたくなる作品といえそうだ。

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映画「カラオケ行こ!」はこんな人にオススメ!

本作は“おかしな熱気”に満ちている。それを一言でいえば、予測不能な組み合わせによる化学反応を楽しみたい人にピッタリだ。合唱部の中学生が声変わりに苦悩し、ヤクザはカラオケ下手から脱却しようと必死になる。そのとっぴょうしもない設定を受けとめて、「え、それ本当にあり?」と半笑いしながら鑑賞できる人ほど本作の真髄を味わえるだろう。

さらに、中学時代の合唱コンクールや文化祭などで熱くなった経験を持つ人にも刺さると思う。部活の先輩や後輩とのすれ違い、変わりゆく声や体、そして大人になるまでの限られた時間。そのすべてがリアルでありながら、ちょっとだけ夢のようでもある。こうした思春期の淡い部分に心をくすぐられる人なら、聡実と同じ視点で物語を追いかけられるはずだ。

そして関西弁のノリや下町の空気感が好きなら、なおさらハマること請け合い。ボケとツッコミに満ちた会話劇は心地よく、絶妙な間で展開されるため、いつの間にかスクリーンに引き寄せられている。さらに、ヤクザの世界観とはいえ血なまぐさいシーンは少なく、“人情味あふれる兄貴たち”として描かれているので、怖そうな映画が苦手な人でも安心して楽しめるだろう。要するに、肩の力を抜いて笑いと熱情を味わいたい人、意外な友情に心を打たれたい人、そんなすべての観客に勧められる作品だ。

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まとめ

最後に本作を振り返ると、中学生とヤクザというマッチングがもたらす驚きと痛快さ、そして切なさが絶妙なバランスを生み出していると感じる。

笑い転げるような場面が続くかと思えば、急に胸がジーンと熱くなる瞬間が訪れるから油断ができない。しかも、最初は無茶だと感じた設定が、物語を追ううちに「これこそが人生の機微を象徴しているんじゃないか」とさえ思えてくるから不思議だ。お互い立場は違えど、それぞれが声を張り上げ、必死に生きている姿に共感を覚えてしまうのだろう。

終わってみれば「ああ、楽しかった」の一言に尽きる。新しいものを求める人や、気分を一新したい人にとって最高の刺激になること間違いなしだ。

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