映画「犬王」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作はアヴちゃん(女王蜂)の主演というだけで異彩を放っているが、実際に観てみると予想以上にクセの強い作品であった。湯浅政明監督らしい独特の映像表現と、史実をベースにした要素が組み合わさっているのだが、アニメーションの美しさに目を奪われつつも、どうにもひっかかる部分が多々ある。古典芸能と現代的なパフォーマンスを融合した大胆な演出には度肝を抜かれた一方で、物語の構成やキャラクターの心理描写に「もうちょっと工夫がほしかった…」と思わされる瞬間が少なくなかったのである。
歴史ロマンの余韻を求める人にとっては刺激が強めであり、逆にロックな音楽アニメを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。そのギャップがむしろ面白いのか、それともテンションが空回りしているのか。評価が大きく分かれそうだが、ここではあえて厳しめに突っ込みつつ、本作の魅力やクセを存分に語っていきたいと思う。
映画「犬王」の個人的評価
評価: ★★☆☆☆
映画「犬王」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは、先ほどの評価を踏まえた上でじっくりと感想を述べていきたい。まず率直に感じたのは「舞台設定が面白いのに、どうにも不完全燃焼な部分がある」ということだ。室町期に実在した能楽師・犬王をモデルとし、そこに古川日出男の原作要素や平家物語のエッセンスをかけ合わせ、さらにはロックコンサートばりのライブ演出をぶつけてくるというのだから、設定としては刺激的だし新鮮である。しかも主演がアヴちゃんで相棒役が森山未來なら、その歌声とダンスを存分に活かした派手な音楽シーンが期待されるのは当然だろう。実際に、そのステージパフォーマンスはアニメ作品とは思えないほどアグレッシブで、画面から飛び出さんばかりの熱量を感じたのだ。
しかし「熱量が高い=心が震える」とは限らないのが難しいところだ。映画を観ている最中、確かにビジュアル面の迫力には惹かれたし、一部の踊りや琵琶の音色にグッと引き込まれた瞬間もあった。だが一方で、どうにも乗り切れないもどかしさがあったのである。たとえば物語の展開が急ぎ足というか、二人の主人公が友情を深める過程や、犬王が能楽のスターになるまでの苦労がスキップされた印象を受けたのだ。もちろん映像的には「一気にブレイクしていく爽快感」を演出しようとする意図が伝わるが、人物関係の積み重ねが足りないと、観客としては「いつの間にそんなに有名になったんだ?」と置いてきぼりを食らってしまう。
さらに、犬王が抱える“呪い”や、彼をめぐる因縁話ももう少し踏み込んでほしかった。平家の亡霊たちの無念を晴らすためにライブを行う、という設定そのものは面白いし、古典芸能と音楽フェスの融合は「こうきたか!」と膝を打つ驚きがあった。だが盛り上がるべき音楽シーンが繰り返されるうちに、似たようなテンションのライブパフォーマンスが連続する印象になり、逆にテンポが平板になってしまう瞬間があったのだ。「もうちょっと劇的な起伏があれば、最後までワクワクできたのに…」と思うくらいには、ライブ演出に重きが置かれすぎてストーリー面が若干薄かったと感じる。
加えて、物語の後半で急激に暗い展開へ転じるところも賛否が分かれそうだ。ここぞという山場で、友魚(ともな)や琵琶法師たちが厳しい運命に巻き込まれるあたり、非常に衝撃的ではあるのだが、そこのテンションに行き着くまでの流れがやや不自然に感じた。室町期の権力闘争や歴史的背景をしっかりと描けば「なるほど、だからこうなるのか」と納得できたかもしれない。だが映画の尺の都合か、あるいは意図的に描写を省いたのか、駆け足で暗転する展開に「え、急にそんなことになるの?」と戸惑う気持ちが拭えなかったのである。散りばめられた設定は悪くないのに、じっくり活かしきれていない印象だ。
そういった不満や戸惑いを抱えつつも、印象に残るシーンは確かにあった。特に犬王が大勢の観客を前に、いわゆる現代のロックスターのような立ち振る舞いで舞台を盛り上げるパートは、アニメならではの表現力が炸裂していたと思う。盲目の琵琶法師である友魚との掛け合いも悪くなく、ストリート感漂うエネルギッシュな音楽が時代劇の空気を突き破ってくる迫力は相当なものだ。現代のライブ演出を室町期にぶつけるという、いわば“アナーキー”な発想がここまで絵になるのは、湯浅監督の腕前ゆえだろう。
さらに、キャラクターの造形は魅力的である。犬王の奇怪な外見が次第に変化していく様子や、彼が本来持っていた“美”を取り戻していく過程は、映像表現と相まって大きなインパクトを与えてくれた。アヴちゃんの歌声や表現力が「犬王」というキャラクターそのものとシンクロしている点も素晴らしい。声の抜群の存在感が、そのまま犬王のスター性を形作っているのは間違いないだろう。相棒の友魚を演じる森山未來のダンス要素と合わさることで、単なるミュージカルアニメとはまた違う、どこか前衛的なパフォーマンス芸術のようにも感じられた。
ただ、そうした表面的な良さと物語全体のバランスがうまく噛み合っていないように思えるのが惜しいところだ。音楽シーンのかっこよさやアニメーションの躍動感を楽しむ分には最高だが、その合間に挟まれるドラマ部分がどうにも弱い。犬王や友魚の生い立ち、彼らの抱えるトラウマ、そして権力との戦い…そうした要素の一つひとつが悪くないだけに、もう一手、何か突き詰めたエモーショナルな演出や脚本上の工夫が欲しかった。「才能を発揮して世間に認められ、やがて権力に抑圧されていく」という構図自体は王道なのだが、その道筋があまりにも急で、キャラクターの心情に共感する前にストーリーが転がっていってしまう。
また、本作では“平家物語の知られざるエピソード”が重要な鍵を握っているわけだが、それがあくまで舞台演出としての派手さに重きを置いているため、歴史好きな観客にはやや物足りないかもしれない。もちろん、史実考証よりもファンタジックな表現を優先した演出自体は否定しない。むしろ湯浅監督の魅力はそこにあると言ってもいいくらいだ。しかし、あれだけ豪快に物語を飛躍させるのなら、もう少し徹底的に“ぶっ飛んだ”構成にしてしまうか、逆にキャラクターの感情線を濃密に描くか、どちらかに振り切った方がさらに面白かったのではないかと感じる。
加えて、クライマックスにおける悲劇の結末もインパクトはあるが、後味がいまひとつという印象を受けた。友魚の最期があまりにあっさりしているし、犬王が最終的にどう心を整理したのかが曖昧なまま終わってしまう。余韻を残す演出とも言えるが、感動を喚起するわりには、登場人物たちの心情描写が不十分なため、観客としては「え、もう終わり?」という気持ちが強く残る。そこに「惜しいなあ…」という感想がどうしてもついて回るのだ。
本作は「パワフルなビジュアルと斬新な音楽表現で圧倒しよう」という意欲作であり、そこはかなりの見応えがある。特にライブシーンの作画は圧巻で、アヴちゃんと森山未來の表現力がぶつかり合う瞬間は刺激的だ。その反面、人物描写や脚本の詰めが甘いため、ドラマとしての盛り上がりに欠ける部分がある。「惜しい」という言葉がどうしても先に出てくるので、評価を厳しめにせざるを得なかった。ただ、観る人によっては「こんなに攻めたミュージカルアニメ、なかなかない!」と絶賛するかもしれないし、実際に映像体験としては面白いシーンが多々あるのは事実である。
自分としては、もうひと押しあってほしかったと感じるが、他の作品では味わえない独特の空気感があるのもまた事実だ。好き嫌いがはっきり分かれるタイプの映画だろうが、挑戦的なアニメーションや前衛的な音楽表現に興味があるなら、観て損はないかもしれない。ただし、こちらの期待値が高すぎると、音楽シーン以外でちょっと肩透かしを食う可能性があるので注意してほしい。言い換えれば、“とにかく奇抜な表現に身を委ねたい”“史実にとらわれず荒唐無稽なライブ演出を受け止めたい”という人には、刺さるだろう。逆に“きっちり物語の筋やキャラの掘り下げを見せてくれ”という人には、不満が残るかもしれない。
個人的には、「あと一歩エモーションに振り切ってほしかった…」というのが正直な感想である。派手なライブと歴史要素が合体した意義深い作品なのに、深く入り込む前にバタバタと進んでしまい、じっくり胸を打たれる場面が少ない印象だった。実力派のスタッフやキャストが集結しているだけに、その能力をもっと最大限に活かす構成であれば、記憶に残る大傑作になり得たはずだ。
とはいえ、映画界の中でもこの手の異色作はそうそう生まれないし、湯浅政明監督が好きなら一度は観る価値があるだろう。アヴちゃんと森山未來のタッグが放つパフォーマンスは唯一無二で、その強烈なエネルギーだけでも十分に観る価値がある。お祭り騒ぎの中で哀しみが浮かび上がる感じや、異形の姿をまとった者同士が織りなす友情物語といった要素にも胸をくすぐられる。いろいろ文句を言いつつも、“誰にも真似できない作品”としての輝きは確かにあるのだ。
そう考えると、好きになる部分と嫌いになる部分がごっちゃになった結果、最終的に「惜しい!」が勝って評価が伸び悩んだのだと思う。もし自分がこの作品をもっと高く評価するためには、犬王と友魚が結束していくドラマや、犬王が真の姿を取り戻す瞬間のカタルシスを、より丁寧に描いてほしかった。それらが鮮明に積み重なっていれば、クライマックスの悲劇にも大きな説得力が生まれ、エンディングでさらに強い余韻が残ったはずである。
以上が、本作を厳しめの目線で観た感想だ。結論をまとめるなら「魅力は多いのにもう少し踏み込みが足りない」作品である。音楽アニメや時代劇アニメの常識をぶち壊すような気合いを見せながら、物語全体の起伏やキャラクターのドラマを突き詰めきれていないのが悔やまれる。とはいえ、派手なライブシーンや奇抜な映像表現を浴びたい人にはお薦めできるし、アヴちゃんや森山未來のファンなら一見の価値ありだ。星2というのはあくまで個人的な好みや期待値とのギャップであって、これを機に興味を持ったならぜひ劇場や配信でチェックしてみるのも悪くないだろう。何より、ここまで突き抜けた作品がもっと増えてくれれば、アニメ界はさらに面白くなるのではないかと思う。
映画「犬王」はこんな人にオススメ!
ここからは、「こんなタイプの人なら楽しめるかも」という視点で書いてみよう。まず第一に、前衛的なビジュアル表現やミュージカル的な要素に抵抗がない人である。いわゆる王道アニメを好む人からすれば、犬王の奇妙な外見や突拍子もないライブ演出は「ちょっと変わりすぎ」と思うかもしれないが、「むしろ斬新な映像体験こそ大歓迎!」という人にはうってつけだろう。とにかく芸術性の高いシーンが多いので、映像を観るだけでテンションが上がるタイプの人には刺さるはずだ。
次に、アヴちゃんや森山未來のファンであれば、俳優やアーティストとしての側面をアニメの形で楽しめる点が魅力的だ。特にアヴちゃんの歌声が炸裂する場面は、まるでライブ会場にいるかのような錯覚を覚えるほど迫力がある。これまで彼女の音楽に触れたことがない人でも、一度聴けば強烈なインパクトを受けるだろう。そして森山未來の表現力は言わずもがなで、彼が演じる友魚のパフォーマンスにも独特の熱気が宿っている。
また、奇をてらった物語でも「とりあえず面白ければOK!」と受け止められる柔軟さを持っている人にもおすすめだ。時代考証や史実再現を重視するタイプだと、いくつかの設定に違和感を覚えるかもしれないが、「ファンタジーの一種として楽しみたい」「細かいことは気にせず映像と音楽で盛り上がりたい」と思うなら、派手なステージシーンに引き込まれてあっという間に時間が過ぎるだろう。ライブ感を味わいたい人ほどノリやすい作品である。
そしてもうひとつ、好き嫌いはともかく“人と違った感性を体験してみたい”という人にも向いている。世間的に評価が真っ二つに割れそうな映画だからこそ、話題性を求めるなら一度試してみる価値はある。気に入れば友人に熱く語れるし、合わなければ「なかなか珍しいものを観た」と笑い話にできるかもしれない。いずれにせよ、多くの映画とは一線を画すインパクトがあるので、観た後に何らかの感想は必ず湧いてくるはずだ。そんな「心を揺さぶる作品を探している人」にとっては、十分挑戦する価値があるだろう。
まとめ
総じて映画「犬王」は、アヴちゃんの強烈な歌声や湯浅政明監督の個性的な演出を最大限に感じられる作品だが、物語としては評価が分かれる要素が多い。ライブシーンの迫力やキャラクターのビジュアルインパクトは素晴らしいものの、ストーリー面の構成や人物関係の深掘りに物足りなさを感じる人もいるだろう。実際、自分は「もっとドラマに厚みが欲しかった…」と思わざるを得なかった。
それでも、他では体験できないような音楽と映像の融合は見どころ十分であるし、単純にアヴちゃんや森山未來のパフォーマンスを楽しむだけでも損はないはずだ。歴史的要素と現代のライブ演出が混ざり合う奇妙な空間は唯一無二で、心に強い印象を残す。刺激的な作品ゆえに、面白さと惜しさが入り交じる不思議な感覚を味わえるだろう。好きになれる部分があるなら観る価値は大いにあるし、ハマる人には強烈にハマる映画だといえるのではないか。