映画「白夜行」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
近年の日本映画の中でもひときわ異彩を放つ作品として話題を集めた「白夜行」。綾瀬はるかが主演を務め、原作は人気ミステリー作家・東野圭吾の同名小説だといえば、「ああ、あの作品ね」とピンとくる人も多いのではないだろうか。原作に負けず劣らず、映像作品としての完成度も高く、一度観始めると気づけば闇と悲しみに満ちた世界へずぶずぶと引き込まれてしまうのが本作の怖さでもある。
とはいえ、その重厚な人間ドラマと登場人物の感情の機微に振り回されながらも、どこか目が離せず妙な引力を感じるのだから不思議だ。こんなにも苦くて残酷な愛の形があり得るのかと疑問を抱きながらも、最後まで息を飲んで観入ってしまう。そんな不可思議な吸引力を持つ「白夜行」の見どころ、そして観終わったあとに覚える何とも言えぬ切なさについて、今回は思う存分語っていきたい。
ついポップコーンをかじる手も止まってしまうほど重厚な物語だが、心のどこかで人間の持つ光と闇を再確認する機会にもなる。本作を観終わったとき、あなたはきっと「これはただのラブストーリーなんかじゃない!」と叫びたくなるに違いない。
映画「白夜行」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「白夜行」の感想・レビュー(ネタバレあり)
「白夜行」というタイトルを聞くだけで、夜の闇を象徴するような静けさと、そこに差し込むかすかな光のコントラストが思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。本作はそのイメージを裏切ることなく、むしろそれを最大限に活かして物語を紡いでいると感じる。何せ冒頭から衝撃的な事件が起こり、そこから人生を狂わされる少年と少女の運命が、まさに“白夜”のごとく終わりなく続いていく様が描かれているのだから、観ているこちらとしては嫌でも心臓に負担がかかる。しかも、その負担がちょっとやそっとで終わらないのがミソだ。まるでジェットコースターで急降下してやっと息継ぎできたかと思いきや、今度は真っ逆さまに宙返りさせられるような、息もつかせぬ展開なのである。
ネタバレ込みで語るので、まだ観ていない方は心して読んでいただきたいが、本作の軸となるのは綾瀬はるか演じる唐沢雪穂(からさわゆきほ)と、映画では三浦春馬が演じた桐原亮司(きりはらりょうじ)の数奇な運命だ。幼い頃にお互いの親が絡んだ事件をきっかけに、ある秘密を共有することとなった二人が、その先の人生をどうやって生きていくのか。その結果として様々な犯罪や偽装、嘘を重ねていく様子が、生々しくも冷徹に映し出される。普通の感覚であれば「そんな危ない道に踏み込むのは、ちょっと勘弁願いたいな」となるところを、あの手この手を使って乗り越えていくあたり、まったくもって小悪魔的というか、いやむしろ大悪魔的な魅力を感じてしまうのが悔しいところである。
雪穂は表向きには知的で品行方正な女性として周囲の好感を得ていくが、その裏で亮司の存在は常に陰のように動き、場合によっては犯罪に加担してまで雪穂を守る。一方の雪穂もただ守られるだけでなく、亮司の力を利用しながら社会的ステータスを手に入れていく。ここまで書くと「悪女の物語か?」と思うかもしれない。まあ、言ってしまえば悪女の物語なのだが、それだけで片付けるにはあまりにも二人の関係性が哀しく、そして奇妙な愛で結ばれているように見えるのだ。この作品の観どころは、そんな二人のねじれた共犯関係が、周囲の人間関係を巻き込みながら、どんどん複雑化していく点にあると思う。
そして本作が何より巧みなのは、視聴者に「自分だったらどうする?」と問いかけてくるところだ。もちろん、そう簡単に「自分も同じ行動を取るよ!」とは言い難いが、なぜか彼らが追い込まれていく過程を見ると、「もし同じ境遇に立たされたら、どこかで道を踏み外してしまうかも…」なんて想像を掻き立てられてしまう。犯罪はダメ、絶対!と頭では分かっていても、彼らの生き方を全否定できないような説得力があるのが恐ろしい。まるで「この世に絶対的な善や悪なんてものはない」とでも言わんばかりに、あやふやなグレーゾーンを突きつけてくるのだ。ここが東野圭吾作品の真骨頂かつ、「白夜行」の最大の魅力だと感じる。
ここで注意したいのは、本作を観終わったあとに、妙に胸の奥がざわざわして眠れなくなるかもしれないという点だ。あまりにも業が深く、救いのない現実を突きつけられるので、スカッとしたハッピーエンドを期待している人は肩透かしを食らう可能性大である。しかし、その鬱々とした雰囲気こそが「白夜行」の醍醐味ともいえよう。「夜の闇を歩き続ける」というメタファーを体感した後には、少々重たい読後感(視聴後感?)に襲われるが、その余韻も含めて本作の一部なのだと割り切った方がいいかもしれない。いわば、苦い薬のような映画である。
そして何といっても注目したいのは、綾瀬はるかの演技力だ。普段の彼女のイメージからは想像がつかないほど、秘めたる情念や冷酷さを表現しているのだから驚きだ。『海街diary』や『ホタルノヒカリ』などで見せる朗らかなキャラクターとは真逆とも言える役どころだが、それを違和感なく演じきってしまうのはさすがの一言に尽きる。また、雪穂を取り巻く男性陣との駆け引きや、社会的評価を手に入れるための手段を選ばない姿勢など、彼女がこれまでのイメージを打ち破るようなシーンも数多く、視聴者としてはある種のダークヒロインを見ているような感覚に陥る。ここまでくると、綾瀬はるかは天使なのか悪魔なのか、わからなくなってくるから不思議である。
物語が進むにつれ、雪穂と亮司が隠し続けてきた秘密が少しずつ明るみに出ていく展開には手に汗を握る。刑事や周囲の人々が疑いの目を向け始めると同時に、二人の絆がより強固になっていくようにも見えるが、それがまたもどかしい。どちらかが折れてすべてを告白すれば、もしかしたら別の未来もあったのではないか…と思うのだが、そうはいかないのがこの物語の恐ろしさ。究極の愛なのか、はたまた最悪の共犯による破滅コースなのか、それは観る人の価値観によって変わってくるかもしれない。だが確かなのは、二人が真っ暗闇の夜を抜け出そうとしても、そこにあまり光が差し込まないという点だ。まさにタイトル通り、果てしない白夜に囚われてしまっているのだ。
さらにネタバレを厭わずに言ってしまうと、本作にはいくつかの「実はこれが伏線だったんだよ!」という仕掛けがある。後半に向けて「あれっ、こう繋がるのか!」と驚かされる瞬間が何度も訪れるので、推理小説好きにはたまらない構成だと感じる。映像ならではの演出も巧みで、音楽や照明の使い方が絶妙。特に陰影を強調する照明が多用されており、人物たちの内面に潜む闇を視覚的に際立たせている。明るい場面ですら、どこかに影が落ちているような気がしてならないのだ。
とはいえ、ここまで読んで「重い!暗い!」と敬遠したくなる人もいるかもしれない。確かに重く暗い。しかし、だからこそ心に残る。そしてだからこそ語りたくなる。この作品を観ていると、いつしか自分自身の中にある光と闇、正しさとずるさといった二面性を突きつけられる感覚になるのだ。私自身、観終わった直後は「これはヘビーすぎるな…」と軽く落ち込みそうになったが、気づけばストーリーを頭の中で何度も反芻してしまっていた。なんとも後を引く映画である。
ある意味、この映画は観る人を選ぶといっても過言ではない。ひとたび世界観にハマれば抜け出せなくなるので、ここぞというときに精神的に余裕を持って挑んだほうがいい。それこそ夜に一人で見ると、翌朝まで引きずってしまう可能性が高い。しかし、その忘れがたい体験こそが映画鑑賞の醍醐味ではないだろうか。おそらく「白夜行」を好きになった人は、何度でもこの重苦しい世界観に戻ってきてしまうはずだ。ストックホルム症候群ならぬ“白夜行症候群”というやつかもしれない。
最後に、個人的に強調しておきたいのは、この作品が単なる恋愛映画ではないということだ。ミステリーとサスペンス、そして歪んだ形の愛が融合した独特のジャンルに位置づけられる。だからこそ、「ロマンチックなラブストーリーが観たい!」というテンションで本作に挑むと、クリーンヒットどころかバットも折れそうになる破壊力を秘めている。観終わってからしばらくは「一体、あの二人の関係はなんだったんだ…?」と堂々巡りし続けること請け合いだが、その答えをハッキリと断定できないままなのも「白夜行」の魅力だろう。
ネタバレありでいろいろぶちまけてしまったが、もしまだ観ていない方がここまで読んでしまったのなら、むしろ逆に楽しみが増えたはずだ。真っ白な世界に黒い影が落ちるような、この作品特有の不穏さと心地よいゾクゾク感を、一度は体験してみてほしい。人によっては「こんなの、精神衛生上よろしくない!」と怒り出すかもしれないが、それでもなお強い引力を放つのが「白夜行」の魔力なのである。ラストシーンの余韻に浸りながら、「結局、幸せってなんだろう?」と哲学めいた問いまで湧いてきたら、あなたも立派な“白夜行フリーク”の仲間入りかもしれない。
また、本作には映画オリジナルの演出や脚色も存在するため、原作を読んでから鑑賞すると「ここをこう映像化してきたか!」と新鮮な驚きがあるのもポイントだ。原作はかなり長編かつ複雑な構成で進んでいくが、その要素を映画という限られた尺の中でどう再構成しているのかを見るのは、ファンとしても興味深いだろう。もちろん、ドラマ版とも異なる見せ方があるので、複数の「白夜行」を比較して楽しむのもアリだと思う。
それから、綾瀬はるか演じる雪穂がどのように人生の選択を重ねていくのか、その過程に注目するのも面白い。決して感情を大きく露わにするタイプではない雪穂が、時にちらりと見せる表情の変化が物語の鍵を握っているのだ。ある場面では、彼女が意図的に“弱さ”を演じるような仕草があり、「その手口、もしかして亮司を操るため…?」と勘繰りたくなる。こうした微妙な心理戦に気づくと、二度目の視聴はさらに奥深いものになること請け合いである。
一方で、亮司の側の苦悩も見逃せないポイントだ。やっていることは犯罪まがいでも、彼がそれを選ばざるを得ない追い詰められた事情を知れば、全く同情できないわけでもない。むしろ、「雪穂を守るために必死」という一点においては、ある種の献身的な愛を感じてしまうのが不思議だ。とはいえ、その愛が実を結ぶのかというと、ちっともハッピーな方向には転がってくれないのが本作の性格の悪さでもある。一筋縄ではいかない物語ほど、後を引くという典型的パターンを踏襲しているといえる。
ここで一度整理しておきたいが、「白夜行」は救いようのないテーマを扱いながらも、観る者の心を離さない力を持っている。その力の正体は、実は“人間の本質”に迫る洞察ではないかと思う。人は光の中だけでは生きられないし、闇に包まれているだけでも前に進めない。その中間のどこかで、折り合いをつけて生きるしかないのだが、その折り合いの付け方が狂ってしまうと、とんでもない結末を迎えることになる。そんな当たり前のことを、極限的な状況で鮮明に描いてみせるからこそ、説得力とインパクトが半端ないのだろう。
要するに、「白夜行」は観終わったあと、しばらくは自分の中の価値観が揺さぶられるような不思議な感覚に陥る作品だ。感想を一言でまとめるなら「こんなに美しく残酷な映画があっていいのか!」である。美しさとは、綾瀬はるかをはじめ俳優陣の繊細な演技、そして映像のセンスのこと。残酷さとは、登場人物たちの運命と選択が生み出す血の滲むような悲劇である。まるでガラス細工のように繊細な関係を、ハンマーで容赦なく叩き割っていくような展開に、「ちょっと待って!」と声を上げたくなる。だが、それでも目が離せないのは、きっと我々が人間のダークサイドに潜む欲望や愛に興味を抱かずにはいられない生き物だからなのだろう。
長々と語ってきたが、これほど濃密な感情とストーリーテリングを味わえる作品はそう多くないと思う。だからこそ、「白夜行」は観るたびに新たな発見があり、同じシーンでもそのときの自分の心境や置かれた状況によって感じ方が変わってくる。これこそが名作の証と言っても差し支えないのではないか。もちろん、万人にとっての“名作”ではないかもしれない。あまりにも切ない物語だからこそ、重い作品はちょっと…という人にはハードルが高いかもしれない。しかし、一度飛び越えてしまえば見える景色が大きく広がるタイプの映画だともいえる。
ラストにもう一度だけ強調しておくと、本作は何度でもリピートしたくなるほど軽い作品ではない。むしろ、観れば観るほど気が滅入る危険性すらある。しかしその危険性を承知の上で、なお観たいと思わせる吸引力が「白夜行」にはあるのだ。じわじわとくる恐怖や切なさ、そして何よりも二人の歪んだ愛が放つ妖しい魅力に、一度でも触れてしまえば、あなたも抜け出せなくなるかもしれない。結局のところ、それこそが「白夜行」の魔力なのである。
最後の最後にもう一つだけ付け加えるなら、この映画は一気見もいいが、何度か区切りを入れてじっくり味わうのもおすすめだ。重めの展開を一気に詰め込むと、思わず頭がパンクしそうになるからである。心の準備をしながら鑑賞してこそ得られる深い余韻は、まさに「白夜行」ならではの醍醐味と言えよう。
映画「白夜行」はこんな人にオススメ!
まず第一に、自分の心の深淵を覗き込みたいという猛者には全力でオススメしたい。人間の愛憎や欲望をとことんまで描ききるこの作品は、ある種の自分探し的な視点でも楽しめるからだ。「ああ、私の中にもこんな暗い一面が…」と気づいてしまったとしても、それはもう仕方がない。そういう危うさを認め合うのが、大人の映画鑑賞というものだろう。
また、ただのハッピーエンドに飽き飽きしている人にも是非観てほしい。巷には爽快感や希望に満ちた作品が多いが、それが悪いわけではない。しかし時には、ドロドロとした人間模様にどっぷり浸かることも悪くない。心にしみる苦みが、あなたの感受性をひと回り成長させてくれるかもしれないのだ。
さらに、ミステリー好きやサスペンス好きにとっても本作は外せない一作だ。原作が東野圭吾作品であることは周知の事実だが、映画ならではの演出により、原作とは異なる角度からの楽しみ方も提供してくれる。伏線回収の妙味や、じわじわと追い詰められていく感覚は、まさにサスペンス映画の醍醐味といえるだろう。
最後に、綾瀬はるかの新たな一面を発掘したい人にもおすすめだ。清純派のイメージが強い彼女が、ここまでダークで底知れないキャラクターを演じるというのは、それ自体が大きな見どころとなる。役者の引き出しの豊かさに驚かされること間違いなしである。まさに「白夜行」は、あなたの映画体験の幅を広げる一作となるだろう。
ただし、精神的にきつい作品が苦手な人にはやや敷居が高いかもしれない。気軽に笑えるコメディを求めている方には、正直この映画は向かないだろう。覚悟を持ってのぞめばこその衝撃と感動があるが、リラックス目的なら別の作品を選んだほうが無難かもしれない。とはいえ、あえて自分を追い込むように観ると意外な化学反応を起こすこともあるので、そこはお好みに合わせてどうぞ。
いずれにせよ、「白夜行」は観る人を選ぶ作品だが、ハマる人はとことんハマる。その衝撃と余韻は、一度体験すると忘れられないほどに強烈だ。人生の酸いも甘いも、そして苦いも味わいたいときには、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。
まとめ
「白夜行」は、そのタイトルが示すように終わりなき夜をさまようかのような重厚な人間ドラマである。綾瀬はるかをはじめとした俳優陣の巧みな演技と、ミステリーの名手・東野圭吾の原作が合わさることで、独特の魅力を放っているのが特徴だ。
甘い恋愛ものを期待していると腰を抜かすほどのダークさに驚かされるが、一方で儚くも美しい愛の形がそこにあるのもまた事実。観終わったあと、「あの人たちは本当に幸せだったのか?」と延々と考えさせられるのも、この作品ならではの後引く魔力なのだ。心に深く刻まれる名作を求めているなら、「白夜行」はその期待を裏切らないだろう。ヘビー級の重苦しさと、美しさが共存する不思議な傑作がここにある。
とはいえ、見るタイミングは十分に選んだほうがいいかもしれない。軽い気分のときにさらっと流すには荷が重い。しかし、一度身を沈めれば、暗闇の奥底でかすかに光る人間の本質に触れるような、不思議な体験ができるだろう。そんな強いインパクトを残すのが、この「白夜行」なのである。
最終的には、「観てよかった」と思えるだけの衝撃と満足感が得られるはずだ。あえて苦い薬を飲むような覚悟で鑑賞してみれば、映画の新たな深みに気づくチャンスが訪れるに違いない。