映画「空の青さを知る人よ」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
さて、たまたま「空の青さを知る人よ」のレビューや感想を検索しているあなた、ここは激辛スタイルで語る当方のフィールドだ。心して読んでほしい。タイトルから漂う青春の匂いに、うっかり胸キュンを期待した人も多いだろうが、実際は切なさ増し増しの人間ドラマに仕上がっていて、思わず鼻の奥がツーンとすること請け合いである。何といっても本作は「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「心が叫びたがってるんだ。」で知られる長井龍雪監督が手掛けた作品だ。
そんな期待大のアニメ映画でありながらも、実はツッコミどころも満載。果たしてどんな魅力が詰まっているのか、じっくりとネタバレを交えて語っていこうと思う。なんだかんだ言っても青春アニメは心にグッと響く瞬間があるものだが、この作品にはそれがどっさり詰まっている。一方で「それはどうなの?」と首をかしげる描写もあって、感動と疑問が綱引きしているような印象だ。とはいえ、そこが作品の魅力であり、語り甲斐のあるポイントだと思う。
映画「空の青さを知る人よ」の個人的評価
評価:★★★☆☆
映画「空の青さを知る人よ」の感想・レビュー(ネタバレあり)
正直、最初に「空の青さを知る人よ」というタイトルを耳にしたときは、「また青春と切なさを掛け合わせた涙腺直撃系アニメなのだろうか?」と身構えたのだが、実際に観てみると予想を超えて“青春テイストのファンタジー風味ドラマ”に仕上がっていると感じた。だが、その分「いや、ここでファンタジー入れてくる?」と首を傾げたくなる場面もあり、勢い余ってつっこんでしまうこともしばしばだ。
本作の主人公は、ベースを愛する高校2年生の少女・相生あおい(以下、あおい)である。姉の相生あかね(以下、あかね)は親代わりでもあり、妹の将来を案じながらも自分の夢を押し殺して生きている。いわゆる「姉妹で支え合う家族愛」的展開かと思いきや、ここにあかねの元恋人である藤井しんの(以下、しんの)が2人存在するというややこしい設定が加わる。1人は13年前にあかねの前から姿を消した、いま現在の大人のしんの。もう1人は過去から突然現れた17歳の“若かりししんの”である。若いしんのは劇中で「シンノ」とカタカナ呼びされていて、要は大人のしんのの生き写し的存在――しかも幽霊でも妖精でもなく、いわゆる“時空のねじれ”によって出現した幻想みたいなキャラだ。
こういう「過去と現在が同時に登場する」設定は、ちょっとやりすぎるとSFっぽくなったり、ご都合主義にしか見えなくなったりする可能性が高い。だが本作においては、あおいが憧れる“シンノ”と、あかねの心に傷を残した“大人しんの”を対比させることで、それぞれの未熟さや後悔、そして成長のきっかけを描こうとしている点が新鮮だった。まあ、新鮮というよりは「やりたいことは分かるし面白い」というレベルであり、全編を通して「どこか惜しいな」「もう一歩踏み込めたらめっちゃ泣けたかも」というモヤモヤを感じたのも事実である。
まず、あおいと“シンノ”の関係である。あおいはベーシストとして音楽の道を志しているのだが、姉の夢を奪ってしまった罪悪感も抱えていて、素直に突き進めないジレンマを抱えている。一方の“シンノ”は自由奔放で、若いころのしんのが持っていた情熱をそのまま具現化したような存在。いわばあおいにとっての“理想の音楽人”であり、彼といると夢に向かう原動力を得られるのだ。このあおいと“シンノ”の仲むつまじいやり取りは、青春ならではのキラキラ感に満ちていて、「おいおい、これは姉と元カレ(若い版)を取り合う修羅場になるんじゃないか?」と茶化したくもなるけれど、実際にはあおい自身の心の成長がメインで描かれているため、大きなゴシップ的修羅場にはならない。少し肩透かしでもあるが、ここがまた切ないというか、一種の“透明感”を生み出しているのだ。
つぎに、大人しんのとあかねの関係である。こちらは過去に夢破れたしんのが東京でくすぶり続けていて、あかねは彼を忘れられないまま町に残り、妹を守るように生きている。青春の頃にはきっと「一緒に上京して音楽をやろう」なんて甘酸っぱい約束があったはずなのだが、それは実現されることなく時が過ぎ去った。大人しんのはそんな自分をふがいないと感じながらも、なかなかリスタートできないままでいる。ここへ突然、過去の“シンノ”という分身があおいの前に現れるわけだから、大人しんのとしては複雑な心境も極まれりである。いや、客観的に見れば「青春時代に燃えていたあのころのオレ」を目の前に突きつけられるなんて、精神的ダメージが計り知れない。現実世界でやられたら立ち直るのに何年かかるか分からないレベルだろう。
そんなわけで、本作は「若いころの自分」に出会う男の苦悩や、自分の夢を姉の犠牲で実現しようとしている妹の葛藤、そして姉の抑え込んできた想いと後悔が複雑に絡み合う。そこに何とも言えない“田舎の祭り”的イベントが追い打ちをかけ、終盤は感情の大渋滞が巻き起こる。泣けるシーンもあれば、「え、それでいいの?」とツッコミたくなるシーンもある。激辛目線で言わせてもらえば、終盤のドタバタ展開はやや無理やり感が強く、せっかく積み上げてきた人間関係の深みが一瞬ファンタジー寄りに吹き飛ばされるのが惜しい。ただ、ひとたび「ああ、こういうご都合ファンタジーでみんな救われていいじゃないか」と開き直ると、一気にラストまで涙と笑いで走り抜けられるので、ある意味“優しい世界”といえるかもしれない。
そして、長井監督作品らしく風景描写や間の取り方が秀逸だ。町の空気感や季節の匂いがスクリーン越しに伝わってくるようで、アニメーションだからこそ表現できる細部の美しさが際立っている。特に、あおいがベースを抱えながら町を駆け回るシーンや、祭りの夜の賑わいなどは、シンプルに映像作品として引き込まれる魅力がある。また、キャラクターデザインは田中将賀氏が担当しており、目の表情や仕草の繊細な描き方も見どころだ。一瞬だけ表情に出るキャラクターの戸惑いとか、言いかけてやめる唇の動きなんかを見ていると、胸がギュッとなる。ここは文句なしに素晴らしい。
音楽面でいえば、あおいのベース演奏やしんの(シンノ含む)が歌うシーンはもうちょっと尺をとって派手に見せてもよかったのではないかと思った。青春アニメに音楽要素が組み合わさるとき、演奏シーンが神がかった輝きを放つケースもあるが、本作ではそこまで“音楽そのもの”に焦点は当てていない印象である。むしろ、音楽はあおいやしんのの過去をつなぐ“象徴”として機能していて、その点については納得できる部分も多い。ただ、「もうちょっと音楽シーンで熱く盛り上げてくれたらもっと泣けたのに!」という物足りなさがあるのも事実だ。やはり青春×音楽というテーマなら、燃えるような演奏パートを期待してしまうのがファン心理というものではないだろうか。
ストーリー全体を通してのメッセージは「夢を諦めた大人も、今からやり直せるし、若いころの情熱を取り戻してもいいんだよ」という優しいものだ。一方で、「姉が自分の幸せを犠牲にしてでも妹を守る」という重いテーマも並行して走っているが、結末としては割と軽やかに解消される印象を受けた。個人的には、もう少し姉・あかねと大人しんのの過去のわだかまりを深掘りして、感情を爆発させてもよかったのではないかと思う。あおいが姉に抱く感謝と負い目、そして姉の方も妹に対して抱く複雑な愛情がもう少し生々しく描かれれば、エモさは倍増したのではないだろうか。とはいえ、あまりにドロドロすると見る側が胸焼けを起こすかもしれないので、これはバランスの問題でもある。
個人的にツボだったのは、田舎町のリアルな人間関係や、ご当地キャラ的なユルさが散りばめられているところだ。神社の祭りや観光PRソング的なノリに「あー、地方にはこういう風習あるわー」と親近感が湧く。同時に、「こんな狭いコミュニティで過去の男が2人そろって現れるとか、世界狭すぎでは?」と突っ込みたくなるのもご愛敬。ファンタジー要素に加えて、田舎あるあるを持ち込んだことで作品独自のカラーが際立っている。
激辛ポイントを挙げるとすると、やはりファンタジー部分の扱い方にムラがあること、そして音楽と青春の融合が若干薄味に感じられたことである。しかし、それを補って余りある映像美やキャラクターの表情演出、登場人物それぞれが抱える切実な想いは見ごたえたっぷりだ。「空の青さを知る人よ」のレビューを探している人には、「自分にとって何が大切なのか」を再発見させてくれる作品としておすすめしたい。特に、今まさに夢に向かって突き進もうとしている若者や、かつての夢を諦めて大人になった人が観ると、どこか心を抉られながらもホッと癒されるかもしれない。
終盤、あおいが自分の本当の気持ちをぶちまけるシーンは、まさに作品のクライマックスだ。あかねの人生もあおいの未来も、そしてしんのの過去も、すべてが交錯する中で「自分はどう生きたいのか?」という問いが突きつけられる。ファンタジー展開に助けられている部分は多いが、そのおかげでキャラクターたちが自分の一番大切なものを見つめ直す姿は、やはり胸を打たれる。万人にとって完璧なストーリーとは言いがたいが、心に刺さるシーンは多数あるので、観終わったあとはどこか懐かしいような切ない気持ちを抱くことになるだろう。
結局のところ、「空の青さを知る人よ」は青春真っ盛りのあおいや“かつての青春”を取り戻したい大人しんの、そしてあかねをはじめとする町の人々が織りなす群像劇といえる。そこにピンポイントのファンタジー要素とノスタルジックな田舎の風景がかぶさり、独特な世界観を作り上げている。観客からすれば、「こんな青春してみたかったな」と羨望を抱きつつ、「いや現実にはこんな都合良く若い自分は出てこないだろう」とツッコミたくもなるが、それも含めて大人が観ると“ちょっとした憧れ”をくすぐられる作品ではないだろうか。
総じて、やや惜しい部分はあるものの、映像やキャラクター、そして胸にじんわり染み込むメッセージ性など、見どころは十分にある。人によっては、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら「青春ってなんだっけ?」と振り返るきっかけにもなるだろう。少なくとも、「空の青さを知る人よ」の感想を探している方には一度は体験してほしい世界観だ。激辛評価としては、ややファンタジー要素の扱いに振り回された感があって星3つにとどまるが、それでも「観てよかった」「語りたくなる」と思わせるだけの力を持った作品であることは間違いない。
映画「空の青さを知る人よ」はこんな人にオススメ!
まずは青春アニメ好きには外せない一作である。主人公のあおいや若いころのしんのが繰り広げる“音楽×青春”の組み合わせは、何だかんだ言って心を揺さぶられる。楽器を手にして夢を追いかけている人や、かつて音楽を志していたけど大人になるにつれ諦めてしまった人には、とりわけ刺さるのではないだろうか。さらに、ちょっぴりファンタジー要素も欲しいという人なら、過去の自分が現れるという驚きの設定に「おおっ」とテンションが上がるはずだ。
また、「姉妹関係あるある」に興味がある人にもおすすめである。妹からすると姉は頼もしく、時には鬱陶しく、でも最終的にはやっぱり大好きという複雑な感情がひしひしと伝わってくる。姉の側も「自分の青春を犠牲にして妹を守る」なんて極端な例ではあれど、「家族のために自分の夢をセーブした経験がある」という人は多いのではないだろうか。このあたりのドラマ性は、意外に“自分事”として共感できる材料がそろっているので、単に青春ものが好きというだけでなく「家族やきょうだいとの関係にグッとくる」タイプの人にもおすすめだ。
さらに、長井龍雪監督×岡田麿里脚本のタッグが好きな人、いわゆる「あの花」「ここさけ」でドハマりした人なら、まず外せないだろう。泣きポイントやセリフ回し、ちょっとファンタジーを挟むノスタルジック演出など、おなじみの空気感をしっかり味わえるので、十分満足できるはずである。
まとめ
「空の青さを知る人よ」は、“青春とファンタジーと家族ドラマ”が混ざり合った独特の作品である。過去の自分と向き合う大人しんの、ベースに情熱を注ぐあおい、そして自分を犠牲にして妹を支えようとするあかね――それぞれの思いが祭りの夜に交錯し、想定外の奇跡みたいな出来事が起きる。正直、ファンタジー要素がやや唐突で、「ご都合主義だな」と思う部分も否めないが、そこを受け入れたうえで観ると優しい気持ちになれる。
映像の美しさやキャラの表情の繊細さ、さらにはノスタルジックな田舎の空気感など、心をくすぐるポイントが豊富なのも見逃せない。何より「昔の自分」を思い出して、少し切なくなったり勇気をもらったりできるのが、この作品の醍醐味だろう。青春真っ盛りの人はもちろん、すでに青春を遠い思い出にしてしまった人にも、そっと背中を押してくれるはずだ。