映画「機動戦士ガンダムF91」公式サイト

映画「機動戦士ガンダムF91」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

宇宙世紀の物語もここまで来たかと唸らされる本作は、富野由悠季監督が再びメガホンを握ったガンダムシリーズの長編映画である。公開当時は、TVシリーズの総集編ではない完全オリジナル作品としてファンの期待を一身に背負った。壮大な設定やド派手なモビルスーツ戦に加えて、人間ドラマも意外なほど盛り込まれているのだが、90分程度という上映時間で本当に全部回収できたのかという不安もよぎるところだ。シリーズファンにとっては、クロスボーン・バンガードやニュータイプの扱いがどうなっているのか、気になる点が多いのも事実である。

そんな本作の見どころやツッコミどころを掘り下げていきたい。長年のガンダムファンはもちろん、新たにガンダム沼に足を踏み入れようとしている人も、この「機動戦士ガンダムF91 」レビューを読めば、おおよその雰囲気がつかめるだろう。今こそ、宇宙世紀の奥深い世界観と、監督が描こうとした“新たなガンダム像”を味わってみる時である。

映画「機動戦士ガンダムF91」の個人的評価

評価: ★★★☆☆

映画「機動戦士ガンダムF91」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作「機動戦士ガンダムF91」は、西暦ではなく“宇宙世紀0123年”を舞台にしている。ここまで聞くだけで「なんだか難しそう…」と思うかもしれないが、そこはガンダムのお約束だと思ってほしい。物語はコロニーで平穏な日々を送っていた少年・シーブック・アノーが、突如として姿を現したクロスボーン・バンガードの侵攻に巻き込まれ、いつのまにか新型ガンダムF91のパイロットになってしまうという筋立てだ。カッコいいロボットがドンパチするだけでなく、戦争の悲哀や家族のドラマがしっかりと織り込まれている点は、やはりガンダム作品ならではといえる。

まず、個人的に気になったのは「設定量の多さ」と「上映時間の短さ」のアンバランスである。本来ならばテレビシリーズで何十話もかけて語られるであろう物語を、90分ほどにギュギュッと詰め込んでいるため、情報量がマシマシになっている。冒頭から敵組織であるクロスボーン・バンガードの大規模襲撃シーンがあり、ここで一気に観客を引き込む迫力はあるのだが、いかんせん登場キャラクターの紹介をじっくりやる暇がない。シーブックやセシリー(ベラ・ロナ)の心情描写もテンポよく進む反面、「もうちょっとここを深掘りして!」と思う場面が次々に通り過ぎてしまうのだ。いわば大盛りカレーの上にさらにトッピングを山盛りにしたかのような感じで、腹いっぱいになる前に味をゆっくり噛みしめる余裕がない。ガンダム好きとしては「それくらい詰め込んでくれたほうが燃えるぜ!」という声もあるだろうが、やはり初見の方には敷居が高いかもしれない。

もっとも、ガンダムシリーズらしい“戦争の悲惨さ”や“人間ドラマ”は随所に散りばめられている。例えば、シーブックの母親であるモニカ・アノーの研究者としての姿勢や、セシリーが実はクロスボーン・バンガードを率いるロナ家の一員だったという血筋の宿命など、テーマそのものはしっかりしている。特に、モビルスーツ同士の激闘の裏で、人の生死や人間関係があっけなく崩れていく描写には、本作のシリアスな側面が垣間見える。ヒーローロボットものとしてのカタルシスと、ガンダム特有の重厚感が混在している点に、本作の味わいがあるといえるだろう。

続いて、肝心のモビルスーツ描写。映画「機動戦士ガンダムF91」というタイトルを冠するだけあって、やはりF91のデザインと活躍シーンは見どころ満載である。特に、機体が発揮する“バイオコンピューター”や“MEPE(光の残像)”などの新システムは、当時の視聴者にとっても斬新だったに違いない。MS(モビルスーツ)が高速戦闘を繰り広げる際、残像がブワッと広がる演出は映像的にもインパクト大である。しかし、このあたりも「詳しい技術説明は劇中でどこまでされていたっけ?」というくらいサラッと済まされるので、正直、初見にはハードルが高い。逆に言えば、ガンダムに精通していれば「おお、これがウワサの残像システムか!」とニヤリとできる要素なので、ファン向けのサービス精神ともいえる。

また、本作で登場する敵側MSである「ラフレシア」は、見た目も名前もかなりクセが強い。その巨大な花のようなフォルムで広範囲攻撃を繰り出す様子は、もはやホラー映画の怪物のようである。ここまでやるならぜひテレビシリーズ並みに出番を用意してくれ、と言いたくなるが、これもまた映画の尺の短さゆえか、登場してすぐ大暴れして退場してしまう印象が強い。そういう意味で、“もうちょっと盛り上がりに時間をかけてほしかった”シーンは少なからず存在する。まるで遊園地のジェットコースターに乗ったら、急降下がいきなり終わってしまったような感じだ。激しいアクションが好きな人にはたまらないかもしれないが、ドラマパートを求める人には物足りなさもあるだろう。

しかし、そのスピード感が「機動戦士ガンダムF91」の最大の魅力でもある。あっという間に進んでいくシナリオ展開と、多彩なメカニックは、ある意味ガンダム初心者が“勢い”で楽しむにはもってこいかもしれない。細かい設定を拾いきれなくても、ビジュアル的な派手さと大きな物語のうねりを感じるだけで、「おお、なんだかすごい世界が展開してる!」とワクワクできる部分はある。真面目なテーマとスピード感がせめぎ合う結果として、ちょっと“消化不良感”が漂うのもまた事実だが、そこを“トマトソースたっぷりパスタ”のように豪快に味わうのが、この作品の楽しみ方だと思う。

さらに、キャラクター同士のやりとりにも注目したい。シーブックとセシリーの関係は、ガンダムシリーズおなじみの“少年と少女が戦争を通じて成長する”という王道パターンだが、互いの立場や家族背景の葛藤など、見応えのあるドラマが詰まっている。特にセシリーがベラ・ロナとして新しい運命を背負う決意をするあたりは、駆け足ながらも感情を動かされる場面だろう。だが、ここでも「もう少し時間をかけてセシリーの内面を描いてほしかった!」という声が出るのは仕方がない。恋愛にせよ家族との確執にせよ、90分では限界があるのだ。

一方で、シリーズファンにとっては、この映画で提示された宇宙世紀の新たな状況や、連邦政府の腐敗ぶりが後の作品へどうつながっていくのかも興味深いポイントである。後にコミック作品「機動戦士クロスボーン・ガンダム」へ受け継がれていく世界観の種まきが、本作の裏テーマともいえる。だが、映画単体で完結しているかというと、やはり「うーん」と首をかしげざるを得ない部分もある。もともと「ガンダムF91」は、当初テレビシリーズとして構想されていたという話が有名であり、尺不足感はそこから来ているのではないかと推測できる。そういう“もし”を想像してしまうところも、本作の魅力であり、もどかしさでもある。

作画や音楽面については、90年代初頭のアニメ映画としては十分にハイレベルだと感じる。モビルスーツの描写やコロニー内の生活風景など、細かいディテールもしっかりと描かれている。音楽は当時のガンダムシリーズを支えた名匠・門倉聡氏らが担当しており、“ガンダムらしい重厚感”と“新たな時代感”を両立させている印象だ。タイトルロゴからしてスタイリッシュかつ新生ガンダムを意識したデザインになっており、観る側のテンションを上げてくれる。特にF91のテーマ曲が流れながらシーブックが出撃するシーンは、「これぞガンダム映画の醍醐味!」と思わせてくれる熱い場面だ。

つまりだ。「機動戦士ガンダムF91」は“新しいガンダムの幕開け”を宣言しながらも、“詰め込みすぎて消化不良”という、なんとももどかしい印象を残す作品である。良くいえばテンポが良く、悪くいえば説明不足。キャラクターのドラマもあっさりめだが、逆にそれが観終わった後に「もっとこの世界を知りたい!」と思わせるフックになっているともいえる。まるでメインディッシュが一品しかない高級レストランで食事した気分で、味は確かに濃厚で美味しいのに、もう少し量が欲しいという欲求が止まらない感じだ。

そうは言っても、ガンダム作品の中でもF91は独特の立ち位置を占めており、宇宙世紀の歴史を語る上では外せないピースの一つだ。とにかくガンダムF91のデザインが好きだったり、クロスボーン・バンガードのビジュアルに惚れ込んだりしているならば、絶対に観て損はしない。むしろ、その中途半端さを愛でるのもガンダムファンの醍醐味ではないかと思う。もし本作を観て「物足りない!」と思ったら、関連コミックや資料集に手を出すのもアリだ。宇宙世紀はとにかく奥が深い世界なので、一度ハマると抜け出せなくなること必至である。

以上、激辛といいつつ愛情たっぷりの「機動戦士ガンダムF91」のレビューであった。総括すると、評価としては★★★☆☆(星3つ)。悪くはないが、もう少し時間をかけて料理してほしかった、というのが正直な感想である。だが、何度も言うように本作には他のガンダム作品にはないスピード感とコンパクトさがある。それを良しとするか、物足りないと感じるかは、視聴者次第だろう。ガンダム初心者にも意外と入りやすい部分はあるので、興味があるなら一度手を伸ばしてみてはいかがだろうか。

映画「機動戦士ガンダムF91」はこんな人にオススメ!

映画「機動戦士ガンダムF91」をオススメしたいのは、とにかく“スピード感重視”でエンタメを楽しみたい人だ。長い尺のアニメシリーズを追うのはちょっと根気がないけれど、モビルスーツ同士の豪快な戦闘シーンを迫力ある映像で観たいという方にはピッタリである。さらに「ガンダムシリーズは気になるけれど、どこから観ればいいかわからない!」という初心者にも、案外おすすめできる。理由は、設定が全然わからなくても、勢いで乗り切れるシーンが多いからだ。細かい背景を知らずとも、F91のカッコよさや“謎の強敵が攻めてくるヤバさ”は直感的に伝わってくるはずである。

逆に、ガンダムシリーズを網羅しているヘビーユーザーにも観てほしいポイントがある。それは、映画単体としてだけではなく、宇宙世紀がその後どのように展開していくのかを考える“きっかけ”としてF91が重要だからだ。クロスボーン・バンガードという新勢力が登場し、連邦政府の影がますます薄くなっていく未来が垣間見えるため、「そもそも地球連邦の限界って何だ?」とか「ニュータイプ論はどう進化するのか?」といったテーマを改めて考える場にもなり得る。しかも映画は90分程度なので、「ちょっと空いた時間にガンダムの世界を復習したい!」と思うときには手軽である。

結論として、ガンダムシリーズに少しでも興味がある人、映像のクオリティ重視で短時間でサクッと楽しみたい人、新たな角度で宇宙世紀を見直したいファン、そんな方々に「機動戦士ガンダムF91」はドンピシャで刺さるだろう。スピード感と情報量の暴力を一緒に味わいたいなら、ぜひお試しを。

まとめ

本記事では「機動戦士ガンダムF91」の感想・レビューを、激辛ではあるが愛のある視点で語ってきた。全体的に詰め込みすぎな印象は否めず、キャラクターや世界観の深掘りがやや物足りない部分もある。しかし、その分だけ90分という限られた尺でテンポよくストーリーが進み、バトルシーンの迫力は十二分に堪能できる。初心者にとっては設定の多さがハードルに感じるかもしれないが、勢いで楽しめる要素も多く、むしろこれを入り口に宇宙世紀の奥深さにハマる可能性もある。

ガンダムというシリーズの多様な面を味わう上で、F91は外せない存在である。ぜひ気軽な気持ちで視聴し、物足りなさや疑問が湧いてきたら、その先にあるコミックや資料を漁ってみるのも手だ。そうやって、よりディープなガンダムの世界へ踏み込んでみるのも一興ではないだろうか。