映画「火垂るの墓」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介！
正直、タイトルからして重苦しい印象を受ける人もいるだろうが、実際観てみると想像以上に心をえぐってくる作品である。と言いつつも、あまりの切なさにもう一度観るには勇気が必要な映画として名高い。ジブリの中でも、どちらかというと「ほのぼのファンタジー」とは対極に位置する存在であり、だからこそ強烈なインパクトを与えてくれる。
本記事では、物語の核心からキャラクターの行動原理までをざっくばらんに語るので、まだ未視聴の方はご注意を。登場人物の悲劇だけでなく、その背後にある社会背景や監督の狙いにも踏み込んでいくので、心して読み進めてほしい。
ちなみに、自分はこの作品を観終わったあと、しばらく砂を噛んでいるような感覚に苛まれた。だが、そんな強い余韻こそが本作の真骨頂ともいえるだろう。笑って観られるシーンはほぼ皆無だが、そのぶん観終わったあとの「生きるって何だろう？」という問いかけが、あなたの人生観を刺激するはずである。
映画「火垂るの墓」の個人的評価
評価： ★★★★☆
映画「火垂るの墓」の感想・レビュー（ネタバレあり）
映画「火垂るの墓」は、第二次世界大戦末期の神戸を舞台に、幼い兄妹の生き抜く苦闘を描いた作品である。冒頭から兄の清太が駅で息を引き取るシーンが登場するが、正直いきなり現実を突きつけられすぎて、観客もスタートダッシュで気持ちが沈む。しかし、そこから回想という形で物語が展開される流れは、「ああ、こうしてこの兄妹の終末に至るのか……」という覚悟を強制的にさせられる演出としてインパクトが大きい。冒頭から容赦ないが、戦争の悲惨さを直接突きつけるジブリの姿勢を感じるところである。
この作品は、アニメーションという手法を通して、あくまで兄妹の日常を淡々と描きつつも、その背景に広がる焼け野原や人々の諦観がリアルに伝わってくるのが恐ろしい。異世界や魔法が登場する他のジブリ作品とは一線を画しており、ある意味「現実のすさまじさ」を痛感させられる。しかも劇場公開当時は、『となりのトトロ』と同時上映だったというから驚きである。観終わったあとの温度差が凄まじいことは想像に難くない。
主人公の清太はまだ十代という若さで、大人に助けを求めようにもプライドが邪魔をするという、実に難儀な性格をしている。それも無理はない。幼い節子を守らねばならない使命感、そして自らもまだ未熟な少年という二つの顔を同時に抱えているからだ。この二面性が、物語の中盤以降、清太を追い詰めていく大きな要因となるのが興味深い。正直、「もうちょっと周囲に頭を下げればいいのに」と思わなくもないが、その頑固さと自己尊厳こそが彼を兄としてギリギリのところで踏みとどまらせているのだろう。
一方の節子は幼児ながら、戦禍の中で生きる辛さをあまり理解していないようでいて、実はしっかりと空気を読んでいる節がある。彼女が「ドロップ」に執着するシーンは有名だが、あの透き通った缶に対する無邪気な愛着は、戦争なんて関係なく子どもにはお菓子が宝物であることを痛感させる。そんな小さな希望がやがて悲しみに変わる様子は、ある意味ホラーよりも怖いかもしれない。
物語を通じて描かれるテーマは明確であり、それは「戦争の悲惨さ」と「家族の絆」、そして「生きる意志のもろさ」である。戦闘シーンこそあまり登場しないが、空襲から始まる兄妹の放浪と、「命を繋ぐ」ための糧がいかに得難いかが、日常描写を通じてどんどん伝わってくる。炊いたお米が手に入らないとか、満足な着替えすらないとか、現代では考えにくい苦難が、当時の日本では当たり前のように横たわっていたのだ。
さらに注目すべきは、清太と節子が置かれている状況に対して、周囲の人々の態度が必ずしも優しいとは限らない点である。親戚のおばさんとの生活が長続きしないのは、戦時下ゆえに皆がギスギスしていたからなのか、それとも清太自身の未熟さなのか。どちらとも言えない微妙な空気感が、あえて白黒はっきりさせない演出によって際立っている。そこに戦争の理不尽さが詰まっているようで、胸が締め付けられる。一面的な「悪役」がいないのも本作の恐ろしさである。
アニメーションとしての見どころも多い。背景美術のリアリティが半端ではなく、焼け焦げた街並みや夕暮れの光の描写などは、正直アニメと侮るなかれと唸ってしまうほどだ。特に、節子と清太が避難所代わりにしている防空壕のシーンでは、薄暗い空間に揺れる灯火が美しくも悲しい。ジブリ作品特有の繊細な色彩表現が、戦争の暗さを一層際立たせており、これがまた感情を抉ってくる。
作画だけでなく、音楽の使い方も秀逸である。静かすぎるくらい控えめなBGMが多用されることで、むしろセリフの重みや物音が際立つ効果を生み出しているのだ。「このタイミングでそんな哀愁漂う音を流すなんて、ずるい！」と思わされる場面もあるが、そこはジブリの戦略勝ちである。何気ない虫の声や風の音が、兄妹の孤独感をいっそう増幅させるのが巧妙だと感じる。
ところで、初見の方にありがちな疑問として、「これ、いったいどこが救いなんだ？」という声が多いと思う。はっきり言って、あからさまにハッピーエンドを求める人には厳しすぎる映画である。そもそも冒頭で清太の最期が描かれている時点で、希望というか光が見えづらいのは明白だ。とはいえ、だからといって観る価値がないわけでは決してない。むしろ、最後まで観終わったあとに感じる虚無感や切なさが、これ以上ないほど強烈なメッセージを放っている。
個人的には、あまりの悲壮感に耐えかねて「せめて虫一匹くらい助かるシーンを！」と心の中で叫んだ記憶があるが、実際それくらい感情移入をしてしまうほど、キャラクターの表情や行動がリアルなのだ。観終わった後、しばらくは日常に戻れない覚悟が必要である。
本作には微妙なユーモア要素がほとんど存在しないが、そこがまた独特である。普通の娯楽映画なら、重いテーマであっても合間にちょっとした笑いを入れて観客の緊張を解す手法があるものだが、「火垂るの墓」に限ってはほぼゼロに等しい。まるで観客を突き放し、「はい、これが現実ですよ？逃げ道なんてありませんよ？」とでも言わんばかりの作りになっている。
こうした徹底したシリアスさが「もう少し肩の力を抜いてほしい」と思う反面、物語の世界観を揺るぎないものにしているとも言える。視聴者が甘い幻想にすがる隙を与えないことで、戦争の恐ろしさを真正面から浴びせるわけだ。これによって得られるカタルシスは限定的かもしれないが、その代わりに心の奥深くに刻まれるものは非常に重く、ある種の洗礼のようでもある。
監督の高畑勲が原作者・野坂昭如の体験をどれほど忠実に映し出そうとしたかは、諸説ある。だが、少なくとも登場人物の行動や運命には、作り物とは思えない生々しさが詰まっている。実際、野坂自身が戦時下で妹を亡くした体験を基に執筆した半自伝的な小説が原作であるだけに、アニメでありながら現実そのものを突きつけられるような感覚は強烈だ。
特に、食べ物の扱いは非常に象徴的だと感じる。節子が好きだったドロップ、わずかに残った食料、そして飢えが進む妹にどう対処するか。これらは兄妹の「生」を支える、いわば命綱であり、それが尽きていく様は観ている者の胃を締め上げる。そこに演出上の誇張はあまりなく、むしろ残酷なほどリアルである。
結末を知っていてもなお、本作をリピート視聴するという猛者もいるらしいが、正直私は一度で十分だと思っている。なんならトトロを連続で観て、中和しないとダメージがデカすぎるほどだ。とはいえ、この「二度は観たくないけど心に残る映画」という位置づけこそが、本作の異彩を放つ魅力ともいえるのではないか。皆がみんな、楽しく笑える作品だけが映画の価値ではない。
むしろ、いろんな感情を抉り出されてこそ映像作品を見る醍醐味だと考える。感動は必ずしも笑顔と涙だけではなく、絶望や悲嘆から得られる気づきもあるのだ。そうした多面的な人間の感情を揺さぶる点で、「火垂るの墓」は歴史に残る名作と言って差し支えないだろう。
本作のもう一つの興味深い側面は、海外での評価である。戦争を題材としたアニメーション作品は世界中に存在するが、「火垂るの墓」はそのなかでも群を抜いてエモーショナルだと言われる。特に、子どもの視点から描かれる戦争の残酷さと、それでも生き抜こうとする力強さは普遍的に共感を呼ぶようだ。日本のローカルな歴史に根ざしつつも、人間の根源的な感情を揺さぶるのだから、そりゃ海外の映画祭でも評価されて当然である。
もっとも、観た人が一様に落ち込む作品なので、娯楽映画を求める海外の視聴者の中には「救いがなさすぎる」と戸惑う声もある様子。とはいえ、その悲惨さこそが戦争の真実を伝える力になっていることは間違いない。むしろそれが、他の作品があまり描かない部分に光を当てる意味にもなっているのだ。
個人的には、「火垂るの墓」は学校の平和教育でこそ使ってみてはどうかと思うほど、説得力のある教材になり得ると感じる。ただ、トラウマになる子どもが出てきそうな点は要注意だろう。なにしろ現実の残酷さを余すところなく描いているため、一部の子どもたちはショックを受けるかもしれない。だが、それこそが作品の真髄であり、当時の日本の状況を想像するうえでは非常に貴重だ。
戦争は悲惨――それ自体は教科書にも書かれている当たり前のことかもしれない。だが、その悲惨を具体的に理解し、二度と繰り返してはならないと思わせる力が、この映画にはある。結局のところ、「火垂るの墓」が訴えかけるのは、戦時下で失われる無数の小さな幸せや命の尊さを、観る人の胸に突き刺すということなのである。
映画「火垂るの墓」はこんな人にオススメ！
まず、一度はジブリ作品を網羅しておきたい人には外せないタイトルである。何しろ「火垂るの墓」は、スタジオジブリのイメージを覆すほどのシリアス路線を突き進む一作なのだ。
普段は『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』のような、ほのぼのテイストを連想する人ほど、そのギャップに驚かされるだろう。また、戦争を題材とした作品に興味がある、あるいは平和学習の一環でリアルな描写に触れたい人にもおすすめだ。実写映画よりもアニメのほうが表現がマイルドかと思いきや、むしろアニメだからこそ伝わる悲痛さがあるので侮れない。特に、子どもの視点で描かれる物語が好きな人には刺さるものがあるだろう。
そして、たまには感情を揺さぶられるような映画を観て、自分自身の価値観をリセットしたいという人にも向いている。日常の悩みがちっぽけに感じるかもしれないし、逆にもっと人生を大切に生きようと思えるかもしれない。もちろん、「笑って過ごしたい休日」に観るとダメージが大きいので、その辺は自己責任である。ちなみに、アニメだからといって子どもに無条件で見せるのは危険かもしれない。トラウマになる可能性も十分あるので、大人がしっかり内容を理解してから一緒に観るかどうかを決めるといいだろう。
まとめ
映画「火垂るの墓」は、ジブリ作品でありながらファンタジー要素を排した異色作として、多くの人々の心に深い爪痕を残してきた。戦争という大きなテーマを、兄妹の視点から冷徹に描き切る手腕は見事である。ただひたすら重苦しい物語ではあるが、そこから得られる人間としての学びや平和への意識は、他のどの作品にも代えがたい価値を持っている。
ユーモアの要素がほとんど皆無という意味では鑑賞ハードルが高めだが、その分だけ観終わったときのインパクトは計り知れない。泣きたいときにも、笑いたいときにも、そうそう気軽には観られないが、一度は触れておくべき歴史的名作だと思う。自分の気持ちに余裕のあるタイミングで、ぜひ挑戦してみてほしい。
