映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

東京・八丈島の海域を舞台に、黒ずくめの組織との激しい攻防が繰り広げられるという前情報を耳にしたとき、正直「本当にそこまでスケールが大きくなるのか?」と思っていた。ところが蓋を開けてみれば、潜水艦まで登場してしまう波乱の展開に加え、灰原哀が目立つ形で物語を背負うという、ファン垂涎の一本であった。とりわけ黒の組織オールスターズが総出撃する部分は、かつての劇場版シリーズを追い続けてきた自分としては、期待と不安が一気に込み上げる体験だったといえる。

アクションはもちろんのこと、灰原の内面描写、ベルモットの巧妙な策略といったサスペンス要素ががっつり詰まっていて、単なるお祭り映画では終わらない重厚な流れが心を揺さぶる。誰が味方で、誰が敵なのか? いや、味方の中にも敵はいるのか? そんな推理マインドをくすぐりながら、ときには思わず吹き出すようなやりとりまで散りばめられているのだから油断ならない。私としては、まさに「コナン映画、まだまだ攻めるなあ!」という感慨が強かった一作だ。

ここから先は、もう少し作品の核心に踏み込んだ話をしていくが、これから観る人は覚悟してほしい。ネタバレ要素と共に感想を綴っていくため、未視聴の方はぜひ鑑賞後に読み返していただきたい。ただ、予備知識があっても楽しめる作品なので、心してくれればこっちも遠慮はしない。クライマックスに用意された大波の如き仕掛けに呑まれるか、はたまた余裕で乗りこなすかはアナタ次第だ。

映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」の個人的評価

評価: ★★★★☆

映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」の感想・レビュー(ネタバレあり)

今回の劇場版は、灰原哀が中心に立ち回る展開だと聞いて、胸が高まらないファンはいないだろう。長らくコナンたちと行動を共にしてきた灰原だが、ここまで大々的に彼女の思いを描いた映画はかなり久しぶりである。しかも舞台は八丈島近海に設立された先端技術の結晶「パシフィック・ブイ」。世界中の防犯カメラを一括管理できるというシステムを通じて、黒の組織が何やら企んでいるらしいのだから、ただのスリルに留まらず、国際的スケールまで展開が広がる。

物語の冒頭から組織のメンバーが暗躍し、ジン、ウォッカはもちろんのこと、バーボンこと安室透、CIA潜入捜査官キール(水無怜奈)らも一堂に会する。「これもう最終決戦なんじゃないのか?」と疑いたくなるほど豪華な顔ぶれであり、一触即発の匂いが観客席まで漂ってくる。さらに今回は潜水艦が活躍する。そう、海洋施設を巡る攻防だけにとどまらず、水中戦がとにかく盛り上がるわけだ。

灰原哀の大きな存在感

本作では灰原哀の存在感が群を抜いている。黒の組織に所属していた過去がある彼女だが、今回は海の上どころか海の下にまで追い詰められる大ピンチに陥る。しかも、開発された“老若認証システム”によって灰原こそがシェリーだと判別される危険性が浮上してしまう。その瞬間、灰原と同じように胸の鼓動が高鳴る観客も多かったのではないか。かくいう自分も、やはり「ここでついに灰原の身元がバレるのか?」というヒヤヒヤ感から始まり、どうやって切り抜けるのか固唾を飲んで見守った。

そして見どころは、灰原が組織に捕らえられてからの流れだ。ウォッカによって連れ去られる様子には、これまで暗示されてきた数々のトラウマが垣間見える。彼女はかつて姉を組織に殺され、自分自身も薬で身体を縮められたという悲劇を抱えてきた。今回、その傷が再びえぐられ、逃れるのか覚悟を決めるのかの分岐点に立たされるわけである。

ベルモットの複雑な立ち位置

黒の組織といえば、ジンの冷酷さが目につくが、本作でさらに存在感を放ったのはベルモットだ。彼女は一応組織の仲間ではあるが、コナンを「シルバー・ブレッド」と呼んで不可解なほど助けることがある。今回も灰原を抹殺するかと思いきや、微妙に手を抜いたり、システムを改竄して「老若認証は欠陥品」だと組織に思い込ませるという“火消し”に近い動きを見せる。その真意は一切不明だが、灰原もコナンも、彼女のおかげで自分の身分を組織に確定される最悪の事態を免れたのは事実。裏切り者どころか二重三重に策を講じているのか、それともコナンの命を借りにしているのか――謎が深まる一方である。

安室透と赤井秀一の意外な連携

謎の多いベルモットに対して、今回一際目立つのは公安警察・安室透(バーボン)とFBI捜査官・赤井秀一の連携プレーだ。シリーズを追うファンならご存じのように、この二人は因縁がありながらも、ときに協力し合う危うい関係。今回は施設を破壊しようと放たれる魚雷を逸らす手段を模索し、コナンを仲介役にした遠隔連携が何とも熱い。互いにコードネームで呼び合いながら、さりげなくリスクを減らしていく様がカッコよく、しかも手際が良すぎて「凄腕同士が組むとここまで最強になるのか」と唸ったものだ。

海中で交わるコナンと灰原の息

終盤、何と言っても衝撃的だったのは、コナンが水中で危機に陥った場面。灰原が自分の命すら顧みない勢いで海へと向かい、口移しでコナンに空気を与えるシーンには、思わず息を呑んだ。正直、人工呼吸とはいえど、灰原がそこまでするかという驚きが大きい。彼女がそこまで追い込まれるほど、組織に囚われる恐怖が大きいのか、あるいはコナンに対する特別な感情がそうさせたのか。その答えを曖昧なままにするのがまた憎いところだ。だが灰原の心の声がちらっと本音を映し出したとき、観客としては「やっぱりか」と思わず納得してしまった。

そして、意識を取り戻したコナンが再び彼女を助け出す展開が熱い。その後の“唇を返す”シーンは、絵面的にも衝撃だが、灰原の揺れ動く気持ちが一挙に伝わるクライマックスでもある。この二人が結局どんな関係に行き着くのか、シリーズの先を見据えながらいろいろと想像を掻き立てられた。

ピンガの無残な最期

今回登場した新キャラクターである組織の一員・ピンガは、潜水艦を拠点に暗躍する実力者だった。が、どうやらジンの地位を狙う余計な野心を匂わせたがためか、最後は自爆に巻き込まれてあっけなく退場する。コナンの正体を工藤新一だと突き止めかけるという一大事を起こしながら、結局それを組織に伝える前に最期を迎えてしまうのだ。ジンが自分にとって不都合なメンバーをまとめて排除したのか、単なる事故なのかは明かされないが、黒の組織が身内にも非情であることを再度痛感させられたシーンである。

総評

全体を通して、黒の組織と灰原哀をがっつり絡めた結果、大いに緊張感が増し、さらにロマンチックな側面まで炸裂したように思う。海洋施設と潜水艦が出てくる特殊な環境下での戦いは迫力があり、サスペンス、アクション、そしてキャラ同士の掛け合いをまるっと詰め込んだ密度の濃い作品だった。劇場版は毎回「こんなに盛り上がって大丈夫か?」というアクションを仕込んでくるが、今回はそこにダークな要素と甘酸っぱいやりとりが混ざったことで、かなり新鮮な味わいに仕上がっている。この仕上がりなら、初期のサスペンス系劇場版が好きな方も十分楽しめるはずだし、近年の派手なアクションに慣れている人でも納得の迫力だろう。

特に灰原好きにはたまらない内容で、彼女の過去や内面をここまで真正面から照らし出した映画はそう多くない。今後のシリーズ本編でこのエピソードがどう絡んでくるのか、あるいは映画だけの特別な物語として扱われるのかは定かではないが、いずれにせよファンにとっては必見のエピソードになったのは間違いない。ついでにベルモットの行動理由や、謎めいたボス「あのお方」の真相も匂わされており、「まだまだシリーズは終わらないぞ」と製作陣の気概がひしひしと伝わってくる。個人的には「もう最終回でもいいんじゃないか?」と思うぐらい盛り上がったが、その先を思えば今後の展開もさらに楽しみだ。

映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」はこんな人にオススメ!

まず、灰原哀が好きな方は問答無用で観るべきだ。テレビシリーズや原作で彼女を推してきたなら、この映画ほど熱量高めに描かれる機会はなかなかない。暗い過去を背負いつつも、仲間たちへの深い情と強い意志を持ち合わせる灰原の魅力が大いに発揮されているので、その表情やセリフの一つひとつに胸を打たれるはずである。

次に、黒の組織との本格対決が見たい人にもピッタリだ。今回はジン、ウォッカ、ベルモット、ラムなど、手強い面々が続々と登場し、それぞれが複雑な思惑を抱えながら行動する。ミステリー要素も濃厚でありながら、潜水艦や大規模な海洋施設などのメカニック好きにもたまらない映像が詰まっている。息をもつかせぬ緊迫感とスリルを味わいたいなら、この物語は格好の獲物だろう。

そして、普段はそこまで「名探偵コナン」に詳しくない人でも、迫力のアクションを求めているなら十分に楽しめる。潜水艦と水中シーンが絡むことで、いつものアクションとは異なる新鮮なバトルを体験できるし、キャラクター同士の連携や心理戦も見どころの一つだ。もちろんシリーズを追っていればより深く味わえるが、劇場版特有の“お祭り感”はしっかりあるため、とりあえず気軽にアニメ映画として楽しみたい人にもおすすめである。

最後に、ラブストーリー的なドキドキも欲しい人には打ってつけだ。普段は新一と蘭の描写に注目しがちな作品だが、今回は灰原とコナンの関係性が大きくフィーチャーされる。水中救出シーンやその後の展開には、シリーズのファンでなくとも「なるほど、こういう組み合わせもアリか」と思わせる魅力がある。ちょっと甘酸っぱい雰囲気を味わいたい方にも、この劇場版は十分に刺さるだろう。

まとめ

劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」は、灰原哀をメイン級に据えた大胆なストーリーが見どころである。

従来のコナン映画といえば派手なアクションが売り物だが、そこに潜水艦や海洋施設といった特異な舞台設定を持ち込み、サスペンスとしての緊張感をさらに高めているのが興味深い。黒の組織が揃い踏みで現れ、その裏側に潜むベルモットの意図や、灰原の秘めた思いがどのように交錯していくのか、目が離せない流れだ。

終盤で繰り広げられる水中の攻防や人工呼吸の衝撃的なシーンは、劇場でこそ味わってほしい迫力がある。まるで最終決戦さながらの展開だが、その一方でシリーズのさらなる広がりを感じさせる要素も少なくない。組織のボスを巡る謎、ベルモットの言動に秘められた暗示、そして灰原とコナンの関係性の先に何が待っているのか――一作ですべてが決着するわけではないが、今の段階で深く掘り下げられたことに満足度はかなり高い。

もし観ようか迷っているなら、早めに劇場へ足を運び、あの緊迫の海に飛び込むことを推奨する。