映画「おくりびと」公式サイト

映画「おくりびと」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

本作は2008年に公開され、国内外で数々の映画賞をかっさらったことで一躍有名になった日本映画である。タイトルは聞いたことがあっても、実際に観たことがないという人も多いのではないか。筆者も初めて観る前は「死」を扱う題材ということで、やや重苦しい気分になるのではと身構えていた。ところがフタを開けてみれば、笑いあり涙あり、ついでに「え、そっち行くの?」と驚かされる展開もあって、予想外にエンタメ性の高い作品だったのである。もちろん、そこは日本が世界に誇る感動ドラマだけあって、ストーリーの要所要所でぐっと胸に迫るシーンが用意されているのがニクい。とはいえ、やたらと湿っぽくならず、むしろ死生観を見つめ直すいいきっかけにもなる、そんな不思議な魅力を持っている作品といえるだろう。

本記事では、そんな映画「おくりびと」のあらすじや見どころを容赦なくネタバレ込みで語り尽くしていく予定だ。題材が題材だけに重厚なシーンも多いが、筆者ならではのツッコミも織り交ぜながら、その深いテーマに果敢に斬り込んでいきたいと思う。最後まで読むころには、あなたも「死」を改めて考えると同時に、なぜか心がホッコリするという不思議な体験を味わうかもしれない。これを機に、映画「おくりびと」を鑑賞するかどうか決めてもらえたら幸いである。さあ、準備はいいだろうか。今から棺桶のフタならぬ記事のフタを開けて、作品の深奥へと飛び込んでいこうではないか。

映画「おくりびと」の個人的評価

評価:★★★★☆

映画「おくりびと」の感想・レビュー(ネタバレあり)

ここからは映画「おくりびと」の内容を思い切りネタバレしていくので、未鑑賞の方は要注意である。もっとも、結末を先に知ってもなお楽しめるのが本作の面白いところでもあるので、思い切って読むのもアリかもしれない。何しろテーマが「死と向き合う」という結構ヘビー級のものだけに、それだけで尻込みしている人もいるのではないだろうか。

物語の要所要所で泣きそうになること請け合いなので、ハンカチはどうぞお忘れなく。

● 物語のざっくりしたあらすじ

主人公の小林大悟はチェロ奏者としてオーケストラに所属していたが、突然の解散によって職を失ってしまう。生きるために仕方なく実家のある山形に戻るものの、地元で見つけた求人情報に「旅のお手伝い」という、なんだかロマンチックなフレーズを見つけ、これだ!と意気揚々と応募する。しかし実際には「納棺師」の仕事であり、亡くなった人の最期の身支度を整えるという、いわば死と隣り合わせの職種だったのだ。

大悟は当初「死体に触るなんて絶対ムリ」とばかりに尻込みするものの、社長の佐々木の度胸とおだて(という名の高額給料)に押される形で、あれよあれよと正式に雇用されることになる。ここから大悟は、これまで考えたこともなかった死の世界に徐々に足を踏み入れていくわけだが、そこには不思議なほどの厳かさと温かさ、そして笑いすら潜んでいる。小さな町の人々との触れ合いの中で、大悟自身の中に眠っていた心の傷や、家族との確執なども浮かび上がり、一筋縄ではいかないドラマが展開していく。

● 死と向き合う仕事のリアリティ

納棺師という仕事は、実際の日本社会においてもあまり目立たない存在である。しかし、本作はその仕事をピックアップすることで、「人が亡くなった後の手続きをする人々は、いったいどんな思いで働いているのか?」という素朴な疑問に迫っている。いざ劇中で納棺の儀式を目の当たりにすると、亡くなった人を丁寧に清め、遺族の前で最後のお別れをする際の厳粛さが実に印象的である。

同時に、これがドラマとして成立するためには、大悟が最初は死体に対して恐怖心しか持っていなかったことが大きなポイントだ。最初のうちはおそるおそる遺体に触れ、慣れない化粧や着替えに四苦八苦する大悟の姿はコミカルだが、同時にわたしたち観客も「もし自分が同じ状況に置かれたら?」と考えずにはいられない。結局死というのは、誰もが自分の身近な存在であるにもかかわらず、普段はできるだけ考えたくないテーマなのだ。本作ではそのアンビバレントな感覚を、コミカルな描写と厳粛な描写を行ったり来たりすることで、絶妙に表現しているのが見事である。

● 主人公・大悟の成長と家族の絆

大悟は、亡くなった母の存在や、幼少期に家を出ていった父への複雑な感情を抱えている。さらに、彼の妻である美香にも、当初は「納棺師なんてまっぴら!」と猛反対される始末だ。そりゃあそうだ、夫がある日突然、「遺体を扱う仕事やるわ」なんて言い出したら、誰だってビビるだろう。しかも大悟がそのことを妻に隠していたこともあり、夫婦関係に亀裂が入りそうになる。

だが、物語が進むにつれて、大悟は納棺師という仕事を通じて「死」を見つめるだけでなく、「生きる意味」や「家族を愛することの尊さ」にも気づいていく。大悟が納棺する場面では、故人の人生が垣間見えるようなエピソードがいくつも登場し、観客の涙腺を刺激してくる。筆者などは涙腺が緩すぎて、もはや観終わった後にスポーツドリンクが必要になるレベルであった。大悟の成長と同時に、彼に対する周囲の理解も深まっていき、最終的には妻の美香まで納棺師としての彼を認め始める流れには、こそばゆい感動がある。

● 社長・佐々木の存在感

納棺師の社長である佐々木は、ある意味で本作の「影の主役」と言ってもいい存在だろう。大悟に対して「ちょっと手伝ってくれ」と強引に仕事を押しつけるかと思いきや、その裏には大悟の不安を察してそっとフォローする優しさがある。さらに、社長本人の価値観や人生観が、納棺という仕事を続けてきたからこそ形作られたものだというのが、セリフの端々から伝わってくる。

佐々木は基本的に穏やかだが、適度に毒のあるジョークも飛ばす。それがまた面白い。大悟がビビりまくる様子を見ては面白おかしくからかい、時には会社の一番大事な道具を雑に扱ってみせたりする。普通に考えれば許されない行為のようにも見えるが、これが実に絶妙な緊張感の緩和剤になっているのだ。まるで墓地の中での肝試しみたいに、ホラーのはずが「いや、なんか笑えるぞ」という不思議な気分にさせられる。

● クライマックスの父との再会

本作の大きな感動ポイントは、大悟が幼い頃に自分と母を捨てた父と再会するシーンにある。しかもその再会は父が亡くなった後、つまり大悟が納棺する立場として対峙することになるのだ。この状況だけで、涙腺が緩まないはずがない。大悟は父に対して怒りと恨みを抱いていた一方で、どこかで父を求める気持ちも失ってはいなかった。そんな複雑な心境が、亡き父との最期の対面で一気に噴き出すのである。

このシーンでは、納棺師の仕事とは何かということが強く浮き彫りになる。つまり遺体を美しく整えるだけでなく、その人が生きていた証を家族にもう一度思い出させる重要な役割を担っているのだ。大悟が父の体に触れることで、幼少期に感じていた父のぬくもりがよみがえる場面は、心を静かに揺さぶられる。実の父の納棺を自ら行うという特殊な状況は、ドラマとしてはかなり作り込まれたものだが、それが嘘っぽくならないのは、ここまでの積み重ねがしっかりしているからこそだ。

● なぜ評価は★★★★☆なのか

本作は紛れもなく名作の部類に入ると断言していい。そのうえ筆者が実際に映画館やDVDで何度も観返していることからも、リピート価値の高さは折り紙付きだ。ではなぜ星5つ満点ではなく、★★★★☆なのか? それはあえて激辛要素を加えるなら、やはり「後半、あまりにも涙を誘いすぎるのでは?」という点である。感動のツボを正確に突いてくるのは素晴らしいが、シーンによっては若干の「狙いすぎ感」を感じることもある。

また、納棺シーンの美化がやや過剰ではないかという声もある。現実にはもっとドライな面や、汚れ仕事も多いのではないか。それを考えると、あまりに美しい儀式ばかりが描かれている印象は否めない。しかし、それも映画としてのエンタメ性を高めるための演出と考えれば問題ないだろう。結果的に、多くの観客が死と向き合うきっかけを得られたのだから、大成功といえるのではないか。

総じて、本作は涙なしには語れないヒューマンドラマでありながらも、時折笑いを織り交ぜ、主人公の成長物語としても見応え十分な一本である。大げさに言えば、「死」を通じて「生」を見つめ直させてくれる作品なのだ。そこに多少のご都合主義的な演出があろうと、筆者としては十二分に許容範囲内である。そういうわけで、激辛風に文句を言いつつも、結局は高評価をつけるしかないというジレンマに陥っている次第である。

映画「おくりびと」はこんな人にオススメ!

映画「おくりびと」は、単に泣ける感動作を求めている人におすすめなのは言うまでもないが、それ以外にも幅広い層に刺さる可能性がある。まずは「最近ちょっと自分の人生や生き方に迷いがある」という人だ。死という究極のテーマを正面から取り扱いながらも、観終わった後には不思議と「明日からもう少し頑張ろうかな」という気持ちになれるから不思議だ。

また「家族って何だろう?」と悩む人には特にオススメだ。劇中で描かれる家族のあり方は一枚岩ではなく、むしろ崩れかけているようにも見える。しかし、それがかえって現実的であり、共感を呼ぶのだ。大悟と妻、美香のすれ違いや、父親への複雑な思いなどが丁寧に描かれることで、自分自身の家族関係を振り返るきっかけにもなるだろう。

さらに、ブラックジョークやユーモアを交えた映画が好きな人にも向いている。題材は重いが、意外にも笑いどころが散りばめられていて、深刻になりすぎない工夫がある。また、普段はホラーやアクションばかり観ている人にも、まったく違うテイストとして挑戦してみる価値がある。なにせ死をテーマにしている点はホラーにも通じるかもしれないが、そのアプローチは真逆であり、むしろ心を温めてくれるから面白い。人生の岐路に立っている人、癒やしを求めている人、さらには「実は納棺師という仕事に興味がある」という物好き(失礼)な人まで、幅広くおすすめしたい作品である。とくに日本的な情緒や風習に興味を持つ海外の方にもウケが良く、世界的に高く評価された理由が観ればわかるはずだ。

まとめ

映画「おくりびと」は、死を正面から描きながらも、希望やユーモア、そして家族の絆を鮮やかに浮かび上がらせる稀有な作品である。主人公の大悟が納棺師として奮闘する過程は、単に職業映画として面白いだけではなく、観る者に「自分は大切な人とどう向き合っているだろうか?」という問いを投げかけてくる。さらには日常の中で当たり前と思っている存在こそが、実はかけがえのないものなのだと気づかせてくれるのだ。

激辛映画評論として、あえて辛口ポイントを挙げるなら、確かにクライマックスでの泣かせにかかる演出は露骨かもしれない。が、その涙を誘う力が本作の魅力を倍増させていることも事実である。大悟の父との再会シーンでは、誰しもが胸の奥底にある「赦しの気持ち」に触れて、自分まで涙腺が破壊されること請け合いだ。映画を鑑賞後には、人生や家族、そして自分自身の歩みをもう一度見つめ直すきっかけになるだろう。重厚なテーマを扱いつつも、どこか優しく温かい空気に包まれた本作は、まだ観ていない人にぜひオススメしたい名作である。