映画「ディア・ファミリー」公式サイト

映画「ディア・ファミリー」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!

大泉洋が主演を務める「ディア・ファミリー」は、家族の愛情と決断力がまざまざと描かれた作品である。生まれつき心臓に疾患を抱え、いつ命が尽きるかわからない娘を救うため、まるでブレーキの壊れた列車のごとく突っ走る父親の熱意には圧倒されっぱなしだった。「素人が医療機器を作れるわけがない」という周囲の視線を、まるで障害物競走のハードルのように次々と飛び越えていく姿は痛快そのもの。とはいえ、父の大胆な行動の裏側には失敗や挫折も多々あり、観ているこちらもハラハラしっぱなし。

しかし、そこには家族の絆や助け合う人々の存在があり、ただの涙腺崩壊ストーリーでは終わらないのが本作の味わい深いところである。最後には父の情熱が結実し、多くの人の命を支える医療技術へと昇華していく過程に心を揺さぶられる。ここからは、その経緯や物語の深い部分にまで踏み込んでいくので、ネタバレ覚悟で読み進めていただきたい。

映画「ディア・ファミリー」の個人的評価

評価: ★★★★★

映画「ディア・ファミリー」の感想・レビュー(ネタバレあり)

本作品は「家族のためなら人はどこまで突き進めるのか」を痛感させてくれる物語である。大泉洋演じる父・坪井宣政は小さな町工場を営む技術者。医学の知識など微塵もないにもかかわらず、先天性の重い心臓疾患で「余命10年」と宣告された娘を救うため、自ら人工心臓を作ろうと決心する。この一見ぶっ飛んだ行動が物語の大きな柱となっており、「そんなことできるわけがないだろう」という周囲の声をガン無視して突き進む姿に、こちらも否が応でも引き込まれる。

そもそも1970年代当時、人工心臓の研究は国内外問わず、まだまだ実験段階どころか夢物語に近かったらしい。だからこそ彼の「子どもの命を救いたい」という一心だけをエンジンに、綱渡りの連続に挑む熱量には驚かされる。これがまた勢い任せの無謀な冒険かと思いきや、根底には職人としての誇りや、どれだけ無理をしてでも前へ進まなければいけないという切羽詰まった気持ちがあるから説得力をもって伝わってくる。

ただし、「熱血おやじの無双活劇」といった単純なストーリーに留まらないのが興味深い。医師や研究者たちの現実的な視点、国や行政の認可を得るための長い道のりなど、甘い夢だけでは乗り越えられないハードルが容赦なく登場する。予算の問題、開発環境の問題、法的な問題…挙げだしたらキリがない。父が乗り越えなければならない壁はあまりにも大きく、高く、そしていくつも連なっている。「そんなに苦労しても本当に娘を救えるのか?」と何度も疑問が浮かぶが、それでも「止まったら娘を失う」わけだから、父としては立ち止まっていられない。実際には相当なストレスや恐怖があったはずだが、その陰りや苦悩がしっかり描かれることで、彼の無茶な挑戦が単なるご都合主義のファンタジーにならずに済んでいる。

劇中、娘の佳美は「自分は大丈夫だから、父の力でほかの人を助けて」と告げる。ここで物語は大きく転換していくわけだ。人工心臓を完成させるという当初の目標は、悲しいかな間に合わないかもしれない。それでも得た知見や技術をほかの患者に役立ててほしいという、佳美の切実かつ前向きな思いが父を再び動かす。正直、このあたりの展開では涙腺が限界を迎えそうになる。父としては「娘を救う」ことこそゴールだったはずなのに、娘の意思が「自分の命」という一点を超えてもっと広い世界へ向かっているからだ。そこに「親子の愛情」とは別の、さらに大きな使命感が生まれる。

こうして物語は、人工心臓開発の行き詰まりから「IABPバルーンカテーテル」という新たな技術へと焦点が移っていく。宣政が娘のために得たノウハウを転用していく流れは、ただの挫折や諦めではなく、「あきらめないからこそ別の形で人を救う可能性を見つけた」というポジティブなメッセージに満ちている。もちろん、そこにも医療界の制度や医師会の反発など新たな難題が山積しており、いわゆるバラ色の展開とはほど遠い。だが、周囲を動かすのは結局、人の情と覚悟だということを見せつけられるのだ。

とりわけ感動するのは、宣政が挫折しかけたときに助けてくれる人々の存在。はじめは「素人が何を言ってるんだ」という冷ややかな態度だった医師や研究者の中にも、いつしか宣政の人柄や家族の必死さに胸を打たれ、協力を買って出る者が現れる。いわゆる善意のリレーのようなものが劇中で丁寧に描かれ、その積み重ねが最終的にバルーンカテーテルの完成へと繋がっていくわけである。ここで「ひとりの力は小さくても、仲間が増えればとんでもないことができる」という王道かつ力強いメッセージが見えてくる。

そして忘れちゃいけないのが娘・佳美の生き様だ。「いつ心臓が止まってもおかしくない」というプレッシャーのなかでも、彼女はさほど悲壮感を出さない。むしろ父の開発を心から応援する強さすらある。映画の核心に触れるので深くは語らないが、佳美の存在こそが父の行動原理であり、彼女がいるから宣政は命を削ってでも突き進む。そんな娘が抱える葛藤や覚悟が、物語終盤で一気にエモーショナルな波として押し寄せる。誰のために何を成すのか、その答えはこの家族の歩んだ軌跡に詰まっていると感じさせられる。

本作は結末を「娘が完治してめでたしめでたし」とするわけでも、「娘が亡くなって深い悲しみに沈む」とするわけでもない。確かに悲しい出来事は起きるし、奇跡的な回復があるわけでもない。だが、彼女の想いは別の場所へと受け継がれ、多くの人々を救う新たな技術が生まれる。言ってみれば、「家族の物語」が「社会を動かす物語」へと変容する見事な展開である。このエンディングがまた秀逸で、誰かの死を無駄にしないという強いメッセージが、鑑賞後も胸に残り続ける。

キャストについては、大泉洋の存在感が圧倒的だ。コミカルなイメージの強い役者だが、本作では深刻な場面と軽妙な場面の切り替えが巧みで、観る者を飽きさせない。周囲の俳優陣も実力派がそろっており、家族のにぎやかなやり取りから医療関係者との衝突まで、感情の振れ幅が大きいシーンを自然体で演じてくれる。これによって父娘の絆だけでなく、支える人たちとのドラマまでもが生き生きと伝わってくるのがありがたい。

また、1970年代から徐々に時代が移り変わっていく様子も細部まで表現されており、その時代背景を感じる衣装や道具、街並みが作品に厚みを与えている。スマホもネットもない時代に、知識を得るためには足で稼ぐしかない。だからこそ、宣政の行動力はとんでもないパワーとして際立つし、娘の時間が限られているという焦りも一層リアルに映る。

本作は「家族愛」という言葉では収まりきらないドラマを備えている。大切な人を救いたい、その気持ちは奇跡を生み出すに足る力になり得るのだと教えてくれる。加えて、失敗や挫折を無数に味わいながらも、そこから得たものをほかの形で活かそうとする人の強さがひしひしと伝わってくる。これは単なるお涙頂戴の一本ではなく、「自分の信念を最後まで貫いた先に、思いがけない道が開けるかもしれない」という希望を提示してくれる作品だといえよう。

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映画「ディア・ファミリー」はこんな人にオススメ!

まず、「家族や大切な人のために頑張るってどんな気持ちなんだろう?」と自問したことがある人にオススメである。本作は親が子を思う気持ち、子が親を思う気持ち、その両方がリアルかつ力強く描かれているため、観るだけで「人を愛するエネルギー」なるものが体感できるはずだ。たとえ血縁関係ではなくても、大事な相手のために踏ん張った経験がある人なら、登場人物の心情を身にしみるほど理解できるだろう。

「大逆転のカタルシス」を求める人にも向いている。ほぼ素人の町工場の男が医療界という巨大な壁に挑むなんて、端から見たら無謀以外のなにものでもない。しかし、本作はその無謀さを真正面から肯定する。理屈ではどうにもならない夢や希望を追いかけている人なら、「ああ、自分のやっていることにも意味があるかもしれない」と勇気づけられるだろう。そういう刺激をもらいたい方にはぴったりである。

加えて、「泣ける映画」だけが観たいわけではないが、ハートを揺さぶる体験は求めているという人にも合う。確かに切ないシーンや思わず涙がこぼれる場面は多いが、作品全体としては前向きさや活力にあふれているので、観終わったあとに重い気持ちを引きずらない。むしろ「よし、もう少しだけ頑張ってみよう」と思わせてくれるポジティブな後味が残るタイプだ。

最後に、「家族映画はちょっとクサくて苦手…」と思っている方にもぜひチャレンジしてほしい。根本には深い愛情があるが、芝居のテンションや会話のやりとりがあまりにも作り物くさくなることはなく、どちらかというと生々しくリアリティがある。そこに加わるコミカルなやりとりがアクセントになっており、感動物を敬遠している人でもしっかり笑えて、そして泣けるバランスがとれている。そういった意味で、さまざまなタイプの観客が楽しめる懐の深い作品といえるだろう。

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まとめ

「ディア・ファミリー」は、父親の突飛な発想と諦めない情熱によって奇跡が生み出される物語である。家族を救うために始まった行動が、結果的に数多くの人の命を支える医療技術へと発展していく展開には、ただただ驚かされるばかりだ。最初は無鉄砲なチャレンジにしか見えないかもしれないが、その裏には子を思う親の切実な気持ちがあり、周囲の協力や理解を得ながら一歩ずつ前に進んでいく。

悲しい別れや報われない努力もあった中で、最後には「人の命」に対する希望と責任が真っ直ぐに描かれているのが印象的である。大切な人への思いやりや諦めない心が、巡り巡って大きな実を結ぶかもしれない――そんな勇気をもらえるのが本作の最大の魅力だ。観終わったときには、何か新しいことに挑戦してみたくなる、そんな力を与えてくれる作品といえよう。