映画「Broken Rage」の感想・レビューをネタバレ込みで紹介!
本作は北野武監督・脚本・主演(ビートたけし名義)による奇妙かつ大胆な実験作である。前半は警察とヤクザに翻弄される殺し屋の姿を骨太のクライムアクションとして描き、後半は同じ物語をコメディタッチでセルフパロディ化するという、とんでもない二部構成になっている。Amazon Prime Videoの世界配信ということで多くの人の目に触れやすい作品だが、正直なところ予想のナナメ上をいく破天荒ぶりに度肝を抜かれた。
前半のシリアスは「これぞ北野映画!」という暴力的空気に満ちているかと思いきや、後半では噴飯もののギャグが連発する。しかも上映時間は約60分ちょっとという短尺で、観る側の戸惑いを誘うことも必至である。いわゆる「破壊的」な仕掛けが満載で、好き嫌いが分かれそうな一本だが、この実験精神こそが北野監督の真骨頂かもしれない。今回はそんな映画「Broken Rage」について、辛口を交えつつとことん語っていく。
映画「Broken Rage」の個人的評価
評価: ★☆☆☆☆
映画「Broken Rage」の感想・レビュー(ネタバレあり)
ここからは映画「Broken Rage」の内容に踏み込みつつ、実際に観て感じたことを遠慮なく書いていく。
前半(シリアスパート)の概要と印象
まず、本作の前半は従来の北野映画っぽい暴力と緊張感が漂うクライムアクションとして始まる。殺し屋の“ねずみ”(ビートたけし)が暗殺の依頼を受け、サクッとターゲットを始末する流れが淡々と進むのだが、そのやり口は実にあっさり。観る側としては「もっとエグい緊迫感とか、あのゾクゾクするような無機質な暴力演出はどこだ?」と期待してしまう。ところが、予想以上にシンプルかつバッサリした場面が積み重なり、拍子抜け気味になってしまうのが正直な感想である。
例えば、ねずみがジムに潜入してターゲット(錦鯉の長谷川雅紀が演じるヤクザの親分)をサウナから上がったタイミングで溺死させるシーンなど、北野映画らしい黒いユーモアが滲むところはある。だが、アクションや暴力シーンに「いつものキレ」が足りない気がした。カメラワークも妙に小刻みで、散漫に見える箇所が多い。「これ、もしかして配信にあわせて編集を詰め込みすぎたせいじゃないか?」と勘ぐってしまうほどテンポが早く、とにかくサクサク進んでしまうのだ。
その後、ねずみはあっさり警察(浅野忠信と大森南朋が刑事役)に捕まってしまう。面通しなどのやりとりをすっ飛ばして「覆面捜査官になったら罪を消してやる」という謎のバーゲンセールが提示され、ねずみは背に腹はかえられないので渋々協力することに。警察と手を組んでヤクザに潜入し、麻薬取引を押さえるという筋書きだ。
もともと「殺し屋の才能」を買われたねずみは、ヤクザのボディーガードにすんなり採用される。中村獅童演じる組長、白竜演じる若頭らの前で、さらなる暴力センスを見せつける場面が差し込まれ、「やっぱり北野映画の定番メンツはいい味出してるな…」と期待は高まる。ところが、劇全体としてはどこか物足りない。緊張感が中途半端で、何より演出に“怖さ”や“哀しさ”を覚える瞬間が少ない。これが前半だけで終了するならそれほど問題はないかもしれない。しかし、本作はここで終わらず「後半で突然ぶっ飛ぶ」という構成が待っている。そう、この作品を語るうえで最大の問題(あるいは魅力?)は後半だ。
後半(コメディパート)の概略と評価
映画の後半は「スピンオフ」と銘打たれ、ほぼ同じストーリーをなぞるセルフパロディに突入する。正直、この転換には度肝を抜かれた。「え? 同じ話をもう一回やるのか?」と思ったら、案の定、前半と同じプロットをコント風に再現していくのだ。しかもテレビのコント番組のような稚拙ともいえる演出がふんだんに盛り込まれ、映画としては異様な様相を呈する。
ドアに頭をぶつけたり転んだりと、お約束のドタバタが繰り返され、セットの道具が壊れたり、キャスト陣がやたらベタなセリフ回しで笑いを取ろうとしたりする。さらには麻薬工場で椅子取りゲームを始めるなど、シュールというより“子供の学芸会”かと思うほどのコメディ空間が出現するのだ。椅子取りゲームの途中で謎のトロフィーを壊し、そのへんにいた中村獅童や白竜が「バカヤロウ!」と怒鳴り合いを始め、たけしと一緒にギャーギャーわめく。視聴者としては「これは本気で笑いを狙っているのか、それともやけくそなのか?」と困惑するのが正直なところである。
従来の北野映画にも笑いと暴力が同居する作品は多々あった。しかし、ここまで開き直ったような「テレビ的コント全開」は初めてではないか。しかも後半のパートが全体の半分近くを占めていて、劇中での物語進行をほぼ放棄している。もちろん、初期からコント番組を作ってきたビートたけしだからできる芸当だともいえるが、映画として観るとかなり苦しい。笑いよりも困惑が先に立ち、言葉は悪いが「手抜き」と捉えてしまう人も少なくないだろう。
実験的構成の狙いとその功罪
北野武監督は、この作品を「動画配信が主流になりつつある時代への挑戦」と語っているようだ。前半がシリアス、後半がコメディ、両パートを並列させることで“映画の作法”をぶっ壊し、新しい表現を模索したかったのかもしれない。確かに、破天荒な挑戦という点ではユニークだ。ただ、その分「映画としての完成度」は相当犠牲になっている。
前半がわずか30分程度で一丁上がりするので、人物描写や演出に深みが足りない。暴力描写も「こんなものか」というあっさり感が否めず、北野映画の真骨頂たる“余白の恐怖”があまり伝わってこない。加えて後半がコント劇に振り切ったせいで、見る側は気分の切り替えが追いつかないままエンドクレジットに到達する。しかも、コントの笑いが刺さるかどうかは、人によって大きく分かれるだろう。「くだらない」と一蹴してしまうか、「これも北野節だ」と楽しむかは紙一重である。
また、本作を語るうえで忘れてはならないのがビートたけし自身の身体的な衰えである。78歳(公開時)ともなれば、しゃべりや動作にどうしてもキレを失う部分は仕方ない。むしろ、そこを逆手に取ってコメディへシフトしたかったのかもしれないが、時折見える“危なっかしさ”にハラハラして笑いよりも不安が勝つ瞬間があったのも事実だ。
「★1」評価の理由
さて、なぜ筆者が映画「Broken Rage」を★1にしたのか? それは大きく分けて三つある。
- 前半のシリアスが物足りない
北野映画らしい緊張感は確かにあるが、短尺ゆえのあっさり編集であまり盛り上がらない。暴力シーンや登場人物のバックグラウンドがほぼ説明されないままに展開し、感情移入もしにくい。 - 後半のコントが笑えない(人を選ぶ)
北野武らしいベタな笑いが好きな人には刺さるかもしれないが、多くの観客にとっては「なにこれ?」と呆気に取られるくらいのシュールさ。笑いの質が非常に古典的であり、テレビの深夜枠コントを彷彿とさせる。これは映画でやる必要があるのか、と思ってしまう。 - 実験要素が先行しすぎて作品として破綻している
監督本人が意図した「映画の破壊」は達成しているかもしれないが、観客としてはただ戸惑うばかり。短尺かつ二部構成という作りに酔いしれたいマニアックな観客もいるかもしれないが、一般的な映画好きがわざわざ時間を割くほどの完成度はないと感じた。
もちろん、これはあくまで個人的な意見だ。北野武の破天荒さこそが好きなファンや、コント的な笑いをこよなく愛する視聴者なら「意外とイケる」という可能性もなくはない。ただ、本記事は「激辛レビュー」である。筆者としては、この作品を素直に高く評価できる部分がほとんど見当たらなかったのだ。
それでも観る価値はある?
「評価:★1」と酷評したが、それでも映画「Broken Rage」に興味をそそられる向きはあるかもしれない。何せ北野武という世界的評価を受けた巨匠が、この年齢にしてなお実験を続けている事実は大いにリスペクトに値する。配信映画という枠組みで「何か新しいことをやってやる!」という野心を感じるし、従来の映画文法におさまらないアプローチを試みたのは確かだ。
後半のコメディは、「芸人ビートたけし」がいかに旧来の日本的バラエティの感覚を引きずっているかをまざまざと見せつけられる意味では面白いかもしれない。視聴者側が「ここまで開き直ったコントなら、いっそ笑わせてもらおう」と腹をくくれば、それなりにクスリとくる場面もある。
しかし「アウトレイジ」のようなクールな暴力描写を求めている人や、「HANA-BI」や「ソナチネ」のような詩情を感じさせる北野映画を期待している人には、ハッキリ言っておすすめできない。いわば「破壊そのものを楽しむ」ことに特化したような作品なのだ。ここをどう解釈し、どう楽しむかは観る人の感性次第といえるだろう。
映画「Broken Rage」はこんな人にオススメ!
映画「Broken Rage」を胸を張っておすすめするのは正直難しいが、それでも強いて挙げるなら以下のようなタイプには刺さるかもしれない。
- 北野武のコント的笑いが大好物な人
いわゆる北野ファンクラブや、「オレたちひょうきん族」的なベタなギャグに懐かしさを覚える人。チープでドタバタな笑いに寛容であれば、後半のパートは意外な楽しみを見いだせる可能性がある。 - 「映画の文法」がぶち壊される瞬間に快感を覚える人
普通なら前半と後半で別ストーリーを展開するが、本作は同じストーリーの焼き直しをコメディという形で乱暴に再構成している。常識や定石を覆す実験映画に興味津々な人なら、後半の破天荒さに何らかの芸術性を感じるかもしれない。 - 配信映画の新しい可能性を探りたい人
そもそも本作はAmazon Prime Videoでの配信を前提に制作されている。短尺ゆえのテンポや、スマホやタブレットでの鑑賞を意識した作りになっている部分もある。「映画館ではなく、配信だからこそ成り立つ作品」ってどんなものだろう? と興味を持つ人には、ある種の実験結果として面白い題材になるかもしれない。 - “たけし映画”を全制覇しなければ気が済まないコレクター気質な人
単純に北野監督作品を全部観たいというファンなら、当然外すわけにはいかない。評価の良し悪しは別として、キャリア終盤(?)の挑戦作として押さえておきたいという意欲があるなら、観ておく価値はあるだろう。
以上のように、ある意味で「好きな人は好き、ダメな人はダメ」という極端な作品である。押し付けがましいおすすめはしないが、興味や好奇心が湧くなら覚悟して観に行ってみてもいいだろう。何かの拍子でツボにはまれば、後半のコントパートで腹筋が崩壊する可能性もゼロではない。
まとめ
映画「Broken Rage」は、北野武監督の破壊衝動と実験精神がむき出しになった作品だ。わずか60分余りの短尺の中で、前半はクライムアクション、後半はセルフパロディのコントに切り替わるため、多くの観客が面食らうのは間違いない。もともと暴力とユーモアを同居させるのが得意な北野監督だが、本作ではついに「後半まるごとコント」へ振り切ってしまった形である。
個人的には前半も後半も中途半端に感じ、心底楽しめるほどのインパクトは得られなかった。それでも、ここまで好き放題に暴れられるのは北野武だからこそ可能ともいえる。実験性や破壊性、そしてコント的笑いが好きな人には意外な収穫があるだろうし、逆に過去の北野映画をこよなく愛する人にとっては衝撃も大きい。
結論として、映画「Broken Rage」は一度観てみないと評価しづらい異形の一本だ。★1と酷評はしたが、観る人の価値観次第で「天才の暴走」か「退屈な駄作」かが激変する怪作でもある。興味本位なら、配信で手軽にのぞいてみるのもアリかもしれない。